発達障害者判決 厳罰より社会支援を

朝日新聞 2012年08月04日

求刑超え判決 障害への偏見が過ぎる

姉を殺した42歳の男性被告の裁判員裁判で、大阪地裁は被告を発達障害の一つアスペルガー症候群と認定し、懲役20年の判決を言い渡した。

アスペルガー症候群は脳の機能障害が原因と考えられ、相手の気持ちをくみ取るのが苦手で、対人関係に支障をかかえやすい。

懲役16年とした検察側の求刑を上回り、有期刑の上限である量刑を選択した。

その理由について河原俊也裁判長は次のように述べた。

社会に被告の障害に対応できる受け皿が何ら用意されておらず、再犯のおそれが強い。許される限り長期間刑務所に収容して反省を深めさせ、それが社会秩序の維持にもつながる――。

母親らが同居を断っており、家族の支援が得られない。ならば刑務所に閉じ込めておこうといわんばかりの判断である。

この障害だからといって反社会的な行動に必ずしも結びつくわけではなく、すぐにも再犯に走るような発想は差別を助長するものだ。偏見が過ぎる判決としかいいようがない。

判決によると、被告は小学5年ごろから不登校になり、自宅に引きこもっていた。自立を促した姉に恨みをつのらせ、昨年7月に包丁で刺殺した。

本人も家族も発達障害には気づかず、検察側の精神鑑定でわかった。公判で弁護側は責任能力を争わず、障害の影響を考慮して執行猶予を求めた。

「受け皿がない」という判決の指摘も大いに疑問だ。

発達障害をめぐっては2005年に支援法が施行され、各都道府県に支援センターが開設された。本人や家族を支える拠点として、情報提供や相談にあたる態勢が整ってきた。

矯正施設から出所した障害者や高齢者の社会復帰を助け、再犯を防ぐための地域生活定着支援センターもできている。

そうした実情も見据えて、裁判員の市民や裁判官が「受け皿がない」としたのだろうか。弁護側も社会での更生が可能との立証を尽くしたとは言い難い。

裁判員の判断は重いが、前提を誤った判決は控訴審で是正してもらいたい。

アスペルガー症候群のほか、学習障害、注意欠陥多動性障害など発達障害の多くは知的な遅れがなく、障害があることがわかりにくい。一人ひとりで症状も異なり、療育プログラムづくりも簡単ではない。

その現状を踏まえ、罪を犯した障害者の更生をどう進めるのか。じっくりと考えるきっかけにしたい。

毎日新聞 2012年08月01日

発達障害者判決 厳罰より社会支援を

姉を殺害したとして起訴された42歳の男の裁判員裁判で大阪地裁は、被告を広汎(こうはん)性発達障害の一つ、アスペルガー症候群と認定したうえで、殺人罪の有期刑の上限となる懲役20年を言い渡した。検察側の懲役16年の求刑が軽いと判断したものだ。

判決は、家族が同居を断っており、「社会に障害に対応できる受け皿が何ら用意されておらず、その見込みもない」との理由で「許される限り長期間刑務所に収容し、内省を深めさせる必要がある」と述べた。家族の支援が望めないならば刑務所に入れという結論で「それが社会秩序の維持にも資する」とも指摘した。

被告は不登校から引きこもりとなった。それを姉のせいだと思い込み、恨みを募らせての犯行に、アスペルガー症候群が影響したと判決は認めた。一方で、最終的に被告の意思で犯行に踏み切ったとして、障害の影響を考慮すべきだという弁護側主張を退け、計画的で残酷な犯行であり刑事責任は重大と判断した。

発達障害者の社会支援は05年の法施行以降、各都道府県に支援センターが設置された。福祉サービスを受けて地域で暮らしている発達障害者は大勢いる。罪を犯した障害者についても地域生活定着支援センターが全都道府県に設置されている。

長崎県雲仙市の社会福祉法人は罪を犯した発達障害者・知的障害者を受け入れ、社会復帰の訓練が検察庁や裁判所から評価されている。そのため懲役刑ではなく、その更生保護施設での処遇を求める求刑や判決が出ている。判決の「受け皿が何ら用意されておらず、その見込みもない」というのは間違っていないか。

また、国内の刑務所には発達障害の特性に合った矯正プログラムがほとんどない。アスペルガー症候群の特徴として、相手の感情や周囲の空気を読み取るのが苦手で、自ら深く反省する気持ちがあってもそれを表現することがうまくできないことが指摘される。刑務所に長期間収容するだけでは内省を深めることが期待できず、むしろ再犯リスクが高まり、社会の秩序維持にとってもマイナスだ。受刑することの意味を真に理解し内省を深めるためには、障害の特性に合ったコミュニケーションや心理的アプローチが必要だ。

「発達障害は伝統的な子育てで予防できる」と指摘した家庭教育支援条例案を議員提出する動きが5月に大阪市議会であった。内容に根拠がなく偏見を助長するとの抗議を受け撤回したものの、障害への誤解も後を絶たない。

地域の施設で立ち直りを図ることが結果的に社会の安全につながる。ケアが再発防止に有効という意識が不可欠だ。

ぴぴ - 2012/11/05 20:26
”発達障害・厳罰より社会支援を”
心からそう願う、母親です。
子供達の将来が心配でなりません。
42才男性が、障害を負いながらも、
あるがままの姿を受け入れられたり尊重される経験を、
生きている間に味わって欲しい。
どなたかが、彼の心と向き合ってあげて欲しい。
根気づよく、忍耐を持って、チームで取り組んであげて欲しい。
そうすれば、行ってしまった事の重さを理解して悔いる機会もあるでしょう。
悔い、思いを巡らせ、涙を流すチャンスを与えてあげて欲しい・・・。
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