原子力規制委 最重視すべきは委員の能力だ

朝日新聞 2012年08月03日

原子力規制委 候補にもっと聞きたい

原発への安全行政をどう刷新するか。かぎを握るのが新しくできる原子力規制委員会だ。

その委員長候補である田中俊一・前原子力委員長代理が、衆参両院で所信を語った。

関西電力・大飯原発の再稼働に適用された暫定的な安全基準は不十分だとした。原発の運転期限では原則40年とする規制委設置法の規定に基づき、厳格にチェックする考えを示した。

田中氏の基本姿勢を理解する機会とはなったが、もっと知りたいことがある。他の4人の委員候補にいたっては見解を聞く場も設けられていない。

規制委は、原発の安全問題について政治の介入を許さない強い権限をもつ。その分、国民の広い信頼が欠かせない。委員の人事に国会の同意が必要とされるのも、そのためだ。

人事は来週にも採決される見通しだが、国会はもう少し所信聴取の時間をとってはどうか。

たとえば、安全基準づくりや安全点検などで、海外の専門家の意見や評価をとりいれる意向はあるのか。その場合、どういう手順で反映させるのか。

田中氏は国際基準を上回る規制も積極的に採用すべきだと語っている。それだけに、具体的な所見を聞きたい。

田中氏は原発へのテロ対策について、これまで真剣味に欠けていたとの認識も示した。国際基準から相当遅れているうえ、警察や自衛隊との役割分担など政治的な要素も絡む。規制委を軸にどう対応していく構えなのか。テロ対策は、再稼働の条件とはならないのか。

委員候補には、地震の専門家がいる。活断層の評価は専門家の間でも意見が分かれることが少なくない。どのように原発への影響を判断し、国民の納得をえる考えなのか。

国会議員は、国民の代表としてもっと質問してほしい。

脱原発派の議員からは「再稼働や40年廃炉への意思が明確ではない」などの批判があり、人事案の差し替えを求める動きもある。その前に、5人の考えをただしてはどうだろう。

もちろん、信頼を失った原子力安全・保安院が、惰性のように原発の安全審査を続ける現状は早急に解消すべきである。規制委が発足しなければ、脱原発依存の方向に踏み出すこともできない。

短期間に追加で集中審議するなど、規制委の始動を大幅に遅らせることなく所信を聴く方法はあるはずだ。

国会日程が先にありきのような急ぎ足の承認は、国民の理解には大きなマイナスである。

読売新聞 2012年08月02日

原子力規制委 最重視すべきは委員の能力だ

原子力発電所の安全規制を担う原子力規制委員会の委員人事が、大詰めを迎えている。

与野党は、国会同意にあたり、候補者の能力や適性を最重視し、速やかに結論を出さねばならない。

衆参両院の議院運営委員会は、政府が委員長候補として提示した放射線防護の専門家で、福島県内の除染活動に携わってきた田中俊一氏から所信を聴取した。

田中氏は東京電力福島第一原発事故について、「原子力に関わってきた人間として、どんなに反省してもしきれる問題ではない」と述べ、再発防止に全力を挙げる考えを強調した。規制行政には謙虚な姿勢で取り組む必要がある。

原発の再稼働に関しては、政府が定めた安全基準が「技術的な点で精査が不十分だった可能性がある」として、専門的な観点から改めて検証する意向を示した。

原発の周辺住民の不安感を軽減することにもつながる、と考えているのだろう。

原子力は、安全向上への不断の取り組みが最重要である。規制委は9月の発足後、これまでの規制の抜本的な改善にも着手しなければなるまい。

所信聴取では、田中氏が過去に政府の原子力委員会の委員長代理など、原子力を推進する組織で主導的な立場にいたことが問われた。いわゆる「原子力ムラ」の一員ではないか、との指摘も出た。

だが、規制委の職責は、原子力政策を検討することではない。

原発で重大な事故が起きれば、規制委が対策の最前線に立つ。委員長が、単独で対処措置を決定しなければならない場合もある。

電力会社や関係機関などとの接点がなく、現場の実態も知らない人物では務まるはずがない。

規制委員会設置法に明記されている通り、委員長として必要な人格の高潔さや専門的知識、経験、識見の有無で判断すべきだ。

他の委員候補は、原子炉や地震学、放射線医学の専門家、原子力問題に詳しい元外交官と多彩な顔ぶれとなっている。

規制委が、放射線の安全基準や耐震基準の見直し、国際的な核テロ対策など幅広い業務を所管することを踏まえ、政府は委員の専門分野を考慮したのだろう。

平時の安全確保から重大事故への対処まで、すべてを規制委が単独でこなすわけではない。規制委と首相官邸や関係府省との密接な連携が欠かせない。

今回の人事案も総合的な観点から是非を判断すべきだ。

産経新聞 2012年08月03日

原子力規制委 田中氏でどこが悪いのか

原発の安全性を確認した上で、その再稼働を進めるためにも原子力規制委員会の速やかな発足が不可欠だ。

野田佳彦政権は規制委の委員長候補として前原子力委員会委員長代理の田中俊一氏を提示し、国会で同意が得られれば確定する段階にある。

田中氏は1日、国会の聴取で安全規制に関する所信を表明した。だが、脱原発を掲げる民主党議員の一部が人事案を出し直すよう政府に求めるなど、早期決定は楽観できない情勢だ。

安価で安定した電力の確保は国の責任である。そのためにも大多数の原発が停止したままの不自然な状態からの脱却が肝要だ。野田首相は、民主党内の意見分裂で規制委の発足を遅らせるような事態を招いてはならない。

田中氏の所信は、原子力安全文化の再構築を厳正に目指す内容といえる。原発再稼働の判断基準については「技術的な点で精査が不十分だった可能性がある」とし、規制委で慎重に確認し、評価する必要性を打ち出した。

また、原発の寿命に関しては、「40年を超えた原発は厳格にチェックし、要件を満たさなければ運転させない姿勢で臨むべきだ」とも述べている。

この所信のどこがいけない、と言うのだろうか。難色を示す意見は、田中氏が日本原子力研究所副理事長などを務めていた経歴をあげつらうことに終始している。

「原子力ムラ」の一員という烙印(らくいん)を押す態度は公正を欠き、民主主義にも反するものだろう。

原子力規制委員長は、平時の安全規制だけでなく、非常時の事故収束にも重い責任を持って対応する職掌だ。原子力について現場で通用する技量と知見を身につけている人でなければ務まらない。

高い独立性と強い権限を法律で付与された原子力規制委は、後ろ向きな「規制のための規制」を行う機関ではない。安全を強化しつつ、国家の要請に応えるための規制に身を挺(てい)することができる委員で構成されるべきである。

所信聴取で田中氏は「日本のために身を投げ出すべきではないかと思い、就任を決意した」と語った。実力と決意で氏に勝る適任者はいないのではないか。

今冬の電力不足を回避するためにも、機能停止中の原子力安全委員会に代わる規制委の9月発足を確実に実現してもらいたい。

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