防衛白書 中国軍の活動に警戒を怠るな

毎日新聞 2012年08月01日

防衛白書 懸念される中国軍動向

12年版の防衛白書は、中国の動向について、共産党と軍の関係変化や外交政策への軍の影響力増大に対する懸念をにじませ、今後の状況を日本の「危機管理上の課題」として注視する姿勢を打ち出した。

白書は、中国の国防費増加や軍事力近代化、南・東シナ海などでの活動活発化を踏まえ、「軍事や安全保障に関する透明性の不足とあいまって、わが国を含む地域・国際社会にとっての懸念事項」と、一昨年、昨年の白書と同様の認識を示した。

注目されるのが軍事の透明性に関する記述だ。武器保有や国防予算の詳細などを明らかにしていないとの従来の表現に加え、「共産党指導部と人民解放軍との関係が複雑化しているとの見方や、対外政策決定における軍の影響力が変化しているとの見方」があると述べた。人民解放軍に対する中国共産党の統制力弱体化の可能性を指摘したものだ。

米政府も同様の懸念を強めている。昨年1月、ゲーツ米国防長官(当時)は来日した際、「過去数年間、中国軍部と文民指導者の間に意思疎通があまりないことがわかってきた」と語った。来日直前の中国訪問時、中国軍が次世代ステルス戦闘機の試験飛行を行い、胡錦濤国家主席らがこれを知らされていなかったとされる問題に関連した発言だった。

白書は、軍人の動向について「安全保障上の課題に関して、人民解放軍が態度を表明する場面が近年増加しているとの指摘がある」とした。一部の強硬派将官がメディアでナショナリズムをあおる「非平和的手段の活用」を主張したり、尖閣諸島への軍事施設建設を求めたりしたことなどを指しているのだろう。

中国共産党は今秋、胡総書記から習近平氏への権力移行が行われる。それに伴って最高軍事機関である党中央軍事委員会も大幅に世代交代する。党政治局、軍事委の「イス」をめぐる派閥争いは激しさを増しており、保守派の薄熙来・前重慶市党委員会書記の失脚もこうした権力闘争の一環と見られている。

秋に向けて権力の行方は混とんとしており、習次期指導部の軍事戦略は流動的だ。軍の政治的影響力が拡大し、対外政策決定で大きな力をふるうような事態は、アジア太平洋地域の安定にとって大きな懸念である。今後の中国の対外戦略を見極めるため、軍の動向を注視する必要がある。

そのためにも日中の防衛当局による対話、交流促進が重要だ。10年の尖閣諸島沖衝突事件後、停滞していた交流はほぼ事件前の水準に回復した。不測の事態に備えた中国軍当局と海上自衛隊の「海上連絡メカニズム」構築を急ぐとともに、相互理解の増進に一層、力を入れるべきだ。

読売新聞 2012年08月01日

防衛白書 中国軍の活動に警戒を怠るな

中国軍の急速な近代化と活動の活発化に対し、自衛隊は警戒・監視活動を着実に強化することが肝要である。

2012年版防衛白書は中国の軍事動向について、昨年に続き、アジア地域と国際社会の「懸念事項」と明記し、「慎重に分析していく必要がある」と指摘した。当然の認識である。

中国の国防費は過去5年間で2倍以上、24年間で30倍に急増した。日本の1・6倍超に達し、今後、この差は拡大することが確実だ。50年頃には「米国の対等なライバルになる」との見方もある。

空母の試験航行、ステルス性を持つ次世代戦闘機の開発に加え、海軍艦船による太平洋進出の常態化や偵察用無人機の飛行訓練なども軽視できない。

白書は、安全保障問題に関する軍幹部の発言の増加などを踏まえ「共産党指導部との関係が複雑化している」と分析し、「危機管理上の課題」として、中国軍の影響力増大に警戒感を示した。

中国の軍事力や意思決定プロセスについては、かねて透明性の欠如が指摘されている。引き続き注視することが欠かせない。

海上・航空自衛隊は近年、南西諸島防衛を重視しているが、中国軍の動きが激しいため、哨戒機などのやり繰りが厳しいという。

「アジア重視」を鮮明にした米軍との「動的防衛協力」を強化するとともに、海空自の部隊配置や装備を充実させることが急務だ。防衛費の10年連続の減少にも、歯止めをかけるべきである。

一方で、ここ数年停滞している日中防衛交流を再活性化し、海上事故発生時の部隊間の緊急連絡体制を構築するなど、双方の信頼醸成を図ることが重要だ。

北朝鮮について、白書は、4月の弾道ミサイル発射の失敗を受けて「今後も同様の発射を行う可能性が高い」と指摘した。

日本は、米韓両国との軍事情報の共有を拡大し、共同演習を通じて抑止力を高めねばならない。韓国の国内事情で延期されている軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の締結を急ぐ必要がある。

疑問なのは、白書が1994年以来、北朝鮮の軍事動向に関する評価を「東アジア全域の安全保障にとって重大な不安定要因」とし、一切変更していないことだ。

この間、2回の核実験や長距離弾道ミサイル発射などが行われ、日本の安全保障環境は格段に厳しくなっている。北朝鮮情勢の変化を適切に反映した評価の表現を工夫しなければなるまい。

産経新聞 2012年08月02日

防衛白書 尖閣の危機に守り固めよ

平成24年版防衛白書の特徴は、中国海軍の太平洋進出について初めて「常態化している」との表現で一層の懸念を示すとともに、中国共産党の指導部交代期を踏まえて党と人民解放軍の関係にも分析を加え、日本の「危機管理上の課題」と位置づけたことだ。

特に、対外政策決定や安全保障上の課題で「軍が態度表明する場面が増加している」とした指摘は重要だ。白書が発表された先月31日にも国防省報道官が尖閣諸島の「中国の主権」を強調し、「軍としての職責を果たす」と日本を強く牽制(けんせい)した。

わが国固有の領土である尖閣諸島付近で、中国の漁業監視船が繰り返し領海侵犯するなど、尖閣は極めて危うい状況にある。野田佳彦政権がこうした危機感に立ち、必要な防衛力や防衛態勢を整える決意が問われている。

白書がここ数年の中国軍の動向などの分析から「軍事に関する意思決定や行動に懸念」を抱いているのは当然だ。対外政策決定への軍の影響力が今後も強まるとすれば、日本の守りはより重大な危機にさらされよう。

中国側は白書の指摘に強く反発しているが、党と軍の関係や政策決定のプロセスが不透明な現実に周辺諸国の懸念が集中していることを中国は省みるべきだ。

白書は中国の国防費が2012年度も前年比で約11%増え、過去24年間で約30倍の規模に達しているとした。にもかかわらず、日本政府は防衛費を10年連続で削減してきた。危機認識が決定的に足りない。財政事情などにとらわれて国家の安全確保を怠ってきたとしか言いようがない。

一昨年に改定した「防衛計画の大綱」で動的防衛力という考え方を打ち出したものの、現状ではスローガンにすぎないといえる。

これを裏付ける警戒監視活動の強化や突発的な事態に即応する装備の充実は不十分だ。輸送機や哨戒機などは耐用年数を延ばしてやりくりしているのが実情だ。

大綱で掲げた南西諸島防衛の強化も遅々として進んでいない。政府が地元説得に本腰を入れるなど、着実かつ速やかに取り組むことが欠かせない。そうしなければ、日米同盟の抑止力に不可欠な米軍普天間飛行場の移設問題の二の舞いになりかねない。

白書の懸念に、首相は具体的な行動で対応する必要がある。

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