玄葉外相訪露 「無策」ではつけ込まれる

朝日新聞 2012年07月31日

北方領土 利益見すえて交渉せよ

領土問題をめぐる立場の隔たりは大きいが、解決は互いに豊かな利益をもたらす。そのことをロシア側に納得させ、打開への道を見いだしたい。

日ロ外相会談がロシアの保養地ソチであり、北方領土問題で首脳間をふくめて協議を続けることで合意した。

5月の大統領復帰前から日本との関係改善に意欲を見せてきたプーチン氏も玄葉光一郎外相と会談し、「互いに受け入れ可能な領土問題の解決をめざす」との持論をあらためて語った。

だが、今月初めのメドベージェフ首相の国後島訪問について、ラブロフ外相は「日本の抗議は受け入れられない」とし、政府要人の北方領土訪問を続ける考えを示した。「第2次世界大戦の結果、ロシア領になった」という強硬な主張も変わっていない。

空港や産業施設を整備するなど、北方領土の実効支配を強める政策もロシア側は着々と進めている。日ロ関係の改善でプーチン氏がねらうのも領土問題の解決ではなく、ロシア極東やシベリアの開発に必要な資金や技術を引き入れることだ――。そうした警戒が日本側に絶えないのも、当然といえよう。

一方で、注視すべき動きもある。ロシアは4年前に中国との国境交渉を決着させた。昨年はノルウェーとの係争海域を画定し、今月半ばにはウクライナと海峡の国境問題も解決した。

いずれもロシアは、相手国との関係や資源開発での協力など経済的な実利を重視し、領土や権益の面で譲歩もしている。

北方領土問題には、第2次世界大戦終結に際しての旧連合国の思惑や、冷戦の影響が複雑にからみ、解決をさらに困難にしている。

それでも、利益があれば領土面で一定の譲歩にも応じるプーチン氏の外交の性格を、注意深くみていく必要がある。その真意も、結局は交渉を通じてつかんでいくほかない。

中国の経済的・軍事的な強大化が象徴するように、アジア太平洋をめぐる国際情勢は急速に変化している。南シナ海での領土や海洋権益をめぐる争いや北朝鮮の核開発は、ロシアが求めるこの地域との経済関係の強化にも重大な障害となる。

航行の安全もふくめ、さまざまな分野で日ロが共同歩調をとれば、互いに大きな利益を引き出せる。9月に極東ウラジオストクで予定される次の日ロ首脳会談は、そのことを協議する最初の重要な機会である。

本格交渉のスタートとすべく、万全の準備で臨むべきだ。

毎日新聞 2012年07月31日

日本の政治 いつまで内向きなのか

秋田犬とシベリア猫のプレゼント交換のほかは残念ながら目に見える成果はなかった、と言っては言い過ぎだろうか。黒海沿岸の保養地ソチを先週末訪れた玄葉光一郎外相はロシアのラブロフ外相、プーチン大統領とそれぞれ会談した。外相会談では北方領土交渉の継続を申し合わせたが、浮き彫りになったのは双方の立場の深い溝だった。

その象徴が「法と正義」という言葉を巡る解釈である。

これは93年に日露首脳が署名し、領土交渉の基盤となっている東京宣言に盛り込まれたキーワードだ。日本側は「両国間で合意のうえ作成された諸文書」などを踏まえ「法と正義」を根拠に北方四島の返還を求めているが、ラブロフ外相は「第二次大戦の結果が国連憲章の中で定められている。ロシア国民にとってそれこそが法と正義の原則の表れだ」という理屈で反論した。

また、メドベージェフ首相が今月初めに国後島を訪問したことに遺憾の意を伝えた玄葉外相に対して、ラブロフ外相は要人の北方四島訪問を続ける考えを示すなど、主張はまったくの平行線だった。

ロシアの言い分は、戦争の結果としての領土の最終処理は平和条約で行うものだ、とする日本側の立場と相いれない。要人の北方領土訪問を続けて日本側を挑発するような姿勢も、今回の外相会談で確認した「相互信頼と静かな環境」の下での交渉という合意に矛盾する。言葉と行動に大きな隔たりがあるのが、日露関係の現実なのである。

ロシア側の強硬姿勢をなじるのは簡単だ。だが、日本の近年の政治混迷が、ロシアに付け入られるスキを見せてきたことも事実だろう。首相が毎年のように代わり、一貫した外交方針を持てない政権を相手に、先方が真剣な外交交渉に応じると考えるのは甘すぎないか。

要は、政争に明け暮れているうちに国家の統一した意思と戦略が見えなくなっているのだ。

今に始まったことではないとはいえ、重要な国際会議を日本の首脳が欠席したり、日程を短縮したりするケースが目立つ。最近も、20年夏季五輪の東京招致を閣議了解していながら、アピールの機会だった野田佳彦首相のロンドン五輪開会式出席は、国会最優先を理由にあっさり見送られた。これは一つのエピソードにすぎないが、政権全体、政党、国会のすべてに、世界とかかわろうという意識が希薄な証左でもある。

日露関係だけではない。揺れる日米関係や困難さを増す日中、日韓関係も、絶え間ない内向きの権力闘争からは、前向きに切り開く力も知恵も生まれてはこない。

読売新聞 2012年07月30日

日露外相会談 戦略を持って交渉を継続せよ

ロシア南部の保養地ソチで行われた玄葉外相とラブロフ露外相との会談は、北方領土問題について、次官級、外相、首脳のレベルでそれぞれ交渉していく方針で一致した。

日本とロシアが領土問題を前進させる環境は、まだ整っていない。様々な協議を通じて首脳間の信頼関係を構築することが先決だ。

外相会談で、玄葉氏はメドベージェフ首相が今月初旬、北方領土の国後島を視察したことに改めて遺憾の意を示した。双方が国民感情に配慮しながら協議する必要があると述べたのも当然だろう。

ラブロフ氏は「落ち着いた雰囲気で感情的にならずに」議論を続けるとしながらも、露要人の領土訪問は今後も続くと述べた。

だが、これは極めて問題だ。

ロシア側が、日本政府の意向を無視し、自国の論理だけで北方領土の実効支配を強めることは容認できない。

日本の抗議の意思がどこまでロシア側に伝わっているのか疑問である。日本の政権基盤が不安定で、ロシア側から足元を見られているのかもしれない。

玄葉氏は領土問題で「両国間の諸合意、諸文書、法と正義の原則に基づき解決したい」と強調した。ただ、日露間では「法と正義の原則」など、基本的な考え方が異なっている。それをどう克服するか、打開策を探る必要がある。

玄葉氏はプーチン大統領とも会談した。プーチン氏は日露間の経済発展の現状を高く評価し、「何ができるか、何をすべきかを考えないといけない」と述べ、日露の協力拡大に期待を表明した。

実際、日露間の経済関係は深まっている。サハリンの石油・天然ガス開発プロジェクトや自動車分野などで、日本企業の進出が目立つ。2011年の貿易額は過去最高の約307億ドルとなった。

日露関係の強化は、双方にメリットがある。経済だけではなく、北朝鮮の核問題や、経済・軍事力を高める中国に対処するためにも、重要性を増すだろう。

プーチン氏は玄葉氏に「相互に受け入れ可能な解決策を探るべく、交渉を継続したい」との意向を示した。真意は不明だが、領土問題解決に意欲を見せている。

日本政府は、アジア太平洋地域を重視するプーチン政権に、どう向き合い、領土問題解決への糸口を見いだすか。対露戦略を練り直さなければならない。

プーチン氏と親交のある森元首相を特派するなど、“オールジャパン”で対応すべきだ。

産経新聞 2012年07月30日

玄葉外相訪露 「無策」ではつけ込まれる

玄葉光一郎外相はロシアでラブロフ外相、プーチン大統領と会談したが、北方領土問題で具体的進展はなかった。

メドベージェフ首相の国後島再訪強行への抗議も、ラブロフ外相に一蹴され、今後も要人訪問を「控えることはない」とはねつけられた。何のための訪露か、分からない結果となった。極めて遺憾だ。

国後島再訪を思いとどまらせる対抗策を見いだせなかったことが問題なのだ。野田佳彦政権はプーチン氏の大統領復帰により領土問題が進展するという幻想を排した上で、対露戦略の根本的練り直しと外交カードの再構築に全力を投じるべきだ。

国後再訪は、6月にメキシコで行われた野田首相とプーチン大統領の初の首脳会談のわずか半月後だった。このことも踏まえ、「外相訪露を見合わせるべきだ」という意見は野党からもあった。

にもかかわらず、野田政権は2010年のメドベージェフ氏の国後初訪問時のような駐露大使の呼び戻しもしなかった。無力さをさらけ出しただけではないか。

さらに見逃せないのは、ラブロフ氏が会談後の会見で、第二次世界大戦時の自国の犠牲や国連憲章などを引き合いにロシア流の「法と正義」を唱え、北方領土支配の正当化を図ったことだ。

だが、ソ連が有効な日ソ中立条約を破って対日参戦し、日本のポツダム宣言受諾後に北方四島を不法占拠したことは揺るぎない事実だ。歴史をねじ曲げた詭弁(きべん)に日本側は断固抗議すべきだった。

北方領土問題の「法と正義の原則」は、1993年に当時の細川護煕首相とエリツィン大統領が署名した「東京宣言」にある。「歴史的・法的事実に立脚」し、「諸文書及び法と正義の原則」を基礎に北方四島の帰属問題を解決するとうたった。プーチン政権はこの原則を誠実に実行すべきだ。

日露外相は首脳、外相、次官級の3レベルで領土問題を継続的に協議していくことで一致した。だが、これもロシアに真摯(しんし)な姿勢が欠け、日本に具体的戦略がなければ進展は望めない。

プーチン氏は9月に極東ウラジオストクで開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)で野田首相との再会談に期待を示したが、会談イコール成果と考えがちな日本外交を正す意味でも、首相出席見合わせを真剣に検討すべきだ。

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