ロンドン五輪 多様な世界知る機会に

朝日新聞 2012年07月28日

五輪の力 曲折をこえ、輝き放つ

女子と男子のサッカー白星スタートで、日本代表に弾みがついたロンドン五輪。この夏は、近代スポーツを生んだ国への里帰りだ。かつてアマチュアリズムを掲げた五輪は、億万長者のプロも出る祭典に姿を変えた。

スポーツと報酬を切り離したアマチュアリズムの思想は、19世紀後半に英国で作られた。

上流階級が、体力に優れる労働者階級に負けるのを嫌がり、独占的にスポーツを楽しむためにつくった差別的な思想が原点にある。「職工、労働者、日雇い労働者」は除外された。

生活の糧をスポーツで得る人間をプロとみなし、排除する考えは、五輪にも組み込まれた。

第2次大戦後、おもに共産圏でスポーツの力を国威発揚に使った。国に手厚く保護され、メダルを量産した。

時代にそぐわなくなったアマチュア規定は、1970年代に五輪憲章から消えた。

階級差別は昔の話になったが、今は経済力の格差がある。

メダル集めの上位には、国策で選手強化に取り組むことができる国が目立つ。最先端の用具を使い、医科学の粋を集めた練習メニューで鍛える。五輪切符をつかむために、世界を転戦する。日本も国主導で、金メダル数世界5位以上をめざす。

開催国の英国をふくめ、メダルが有望な種目に強化費がかたよる傾向がある。弱小の競技団体は自助努力を求められる。勝ち組と負け組を分ける、新たな差別が生まれている。

そうした矛盾を抱えつつも、五輪の輝きは、世界の人々の目を引きつけてやまない。

国際オリンピック委員会(IOC)はテレビ放送権料やスポンサーから集める巨額の協賛金の一部を元手に、途上国のスポーツ支援に取り組んでいる。貧困や混乱が続く国から参加できるのは、そうした取り組みの恩恵も大きい。

内戦が激化するシリアや「アラブの春」をくぐりぬけたチュニジア、リビア、エジプトからも選手団がつくられた。IOCに加盟する約200の国と地域がロンドンに集う。

自己の限界に挑む姿に、私たちは心を打たれる。メダル争いがすべてではない。

五輪は肥大化し、商業主義に依存するようになった。多くの曲折があったし、課題は残る。

くらしや経済が国境を越える時代になぜ、国ごとの熱狂かとためらいを覚える人もいるだろう。だが、古めかしい遺恨や領土問題で熱くなるより、よほどよい。アスリートたちの躍動に喝采を送ろう。

毎日新聞 2012年07月27日

ロンドン五輪 多様な世界知る機会に

ロンドン五輪が27日(日本時間28日)、開幕する。204の国・地域の約1万人が17日間、力や技、美を競い合う。自国選手の勝敗に関心が集まるのは当然ながら、4年に1度の五輪はスポーツを通して多様な世界を知る絶好の機会でもある。

今大会からボクシングに女子が加わり、史上初めて全競技で女子種目が実施される。また、女子スポーツを制限してきたイスラム教国家サウジアラビアなどが今回女性選手の派遣を表明したことで、初めてすべての国・地域の女子選手が参加する歴史的な大会となった。

日本はバスケットとハンドボールを除く24競技に293選手(女子156人、男子137人)が参加する。女子の人数が男子を上回るのは04年アテネ大会以来2度目。女子サッカーや女子レスリングに象徴されるように国際大会における近年の女子選手の活躍を反映した構成だ。

昨年成立したスポーツ基本法はスポーツ推進を「国の責務」と明記している。文部科学省は今年度、五輪メダル有望種目を直接支援する事業に約32億円を投入するなど手厚い支援態勢をとる。五輪は今や国を挙げての総力戦の舞台となった。

人口の約3割を白人以外の人種・民族が占めるロンドンは招致活動段階から「多様性」をキーワードの一つに掲げてきた。人種・民族、身体能力・障害、性別などを問わず、誰もが平等に参加できる大会を目指している。五輪に参加するのは日本のようなスポーツ先進国だけではない。男子マラソンにはパスポートを持たない南スーダンの難民選手が参加する。内戦状態にあるシリアからも10人が出場する。それぞれの選手が暮らす国の状況に目を凝らせば、一様ではない世界の実相が浮かび上がってくる。日本選手の活躍に一喜一憂するだけではもったいない。

ロンドン五輪は初の本格的ネット中継が行われる大会だ。NHKはパソコンやスマートフォン向けに、テレビ中継されない競技を中心に延べ1000時間の無料配信を予定している。インターネット環境が劇的に変化したことが背景にある。端末さえあれば自宅にいなくても、いつでも、どこでもアクセスできる。新しい観戦の方法だ。なじみのない競技を目にすることで新たなスポーツの選択肢が増えるかもしれない。

ロンドン五輪ではテロ対策として地対空ミサイルを住宅街の6カ所に配備するほか軍艦や戦闘機も待機する。「9・11」同時多発テロ以降、五輪は厳戒警備が定着した。「平和の祭典」をうたいながら武力の支援なしには開催できない現実。五輪は利害が複雑に絡み合った国際政治についても考える契機だ。

読売新聞 2012年07月28日

ロンドン五輪 数多くの感動を味わいたい

ロンドン五輪が開幕した。世界のアスリートたちは、どのようなドラマを見せてくれるのか。4年に1度のスポーツの祭典を堪能したい。

今回の夏季五輪には、204の国・地域が参加する。そのすべてから女子選手が出場する初の五輪だ。全競技で女子種目が実施される初めての大会でもある。

ロンドンで五輪が開催されるのは、1908年、48年に続き3度目となる。

今回、英国政府が神経をとがらせているのは、テロ対策だ。選手村は、高圧電流が流れる高さ約5メートルのフェンスに取り囲まれている。ロンドン市街には地対空ミサイルも配備されている。

8月12日の大会終了まで、万全の警備体制を敷いてほしい。

欧州は金融危機の中にある。英国も例外ではなく、超緊縮財政下での「倹約五輪」となった。日本円にして約1兆1300億円とされる大会経費は、中国の国威発揚の場となった前回北京五輪の4分の1とも言われる。

メーンスタジアムの建設には、産業廃棄物などが原料のコンクリートを利用した。選手村は大会終了後、民間の集合住宅として生まれ変わる予定だ。

経費抑制、環境への配慮、施設の有効活用――。これらがロンドン五輪らしさを示している。

日本にとっては、五輪に初めて参加した1912年のストックホルム大会から、ちょうど100年の節目を迎えた。

今回、出場する日本選手は293人。選手団の目標は、国別の金メダル数で5位以内になることだ。北京五輪での金メダルは9個で、8位だった。5位になるには15個以上が目安となるだろう。

政府は近年、メダル有望種目に的を絞って、強化費を重点配分する事業に力を入れている。政府主導の強化策が奏功するかどうかも問われる五輪と言える。

大会序盤の競泳や柔道、体操などで好成績を挙げれば、日本選手団全体が勢いに乗る。

特に、競泳平泳ぎの北島康介選手は、100メートルと200メートルで五輪3連覇の偉業に挑む。五輪史に名を刻む泳ぎを期待したい。

男女サッカーの白星発進で、国内は早くも沸き立っている。日本選手の活躍は、応援する私たちを元気づけてくれる。

感動を呼ぶシーンが多いほど、五輪への関心も高まるだろう。2020年東京五輪の招致活動を盛り上げていくうえでも、追い風となるに違いない。

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