働く人の賃金が生活保護の水準を下回る「逆転現象」が、なかなか解消されない。
最低賃金の今年度の引き上げ目安額は、全国平均で7円にとどまった。この通りになると、時給は平均744円になる。
逆転現象が起きていた11都道府県については、引き上げ額の目安に幅を持たせた。今後、都道府県ごとに最低賃金を決めるが、目安に沿って最大限引き上げても、北海道と宮城県では逆転したままだ。
目安額は、厚生労働省の審議会で労使が徹夜で議論したものの、大震災が影響して低水準となった昨年度の実績額と同じ。景気に明るさが見えていただけに、残念だ。
かつて最低賃金は、おもに主婦パートや学生アルバイトが対象とみられていた。今はそれに近い水準で生計を立てている人も多い。逆転解消は不可欠だ。
気になるのは、生活保護への風当たりが強まっていることである。自民党は保護費の水準を10%引き下げる政策を掲げる。
厚労省は5年に1度の消費実態調査の結果を受け、保護費の見直し作業に入っている。
今年中には報告書がとりまとめられるが、デフレ傾向を反映して保護費が引き下げられる可能性が高い。
その動きに連動し、最低賃金を抑えようという考え方では、デフレを加速させかねない。賃金が低迷すれば、人々は低価格志向を強め、それが人件費をさらに押し下げる圧力になる。
賃金が安く、雇用が不安定なワーキングプアが増えれば、結局、生活保護費はふくらむ。
こんな悪循環から脱出するためにも、最低賃金は引き上げていきたい。
ただ、低い賃金で働く人が多い中小・零細企業ばかりにコストを負わせるのは酷だろう。社会全体で取り組むべきだ。
経済構造を変えて、まともな賃金を払えるような付加価値の高い雇用をつくる。そこへ労働者を移していくために、職業訓練の機会を用意し、その間の生活を保障する。
雇用の拡大が見込まれる医療や介護の分野では、きちんと生活できる賃金が払えるよう、税や保険料の投入を増やすことも迫られよう。
非正社員と正社員の待遇格差も是正する。そのために、正社員が既得権を手放すことになるかもしれない。
いずれにせよ、国民全体で負担を分かち合わなければならない。私たち一人ひとりにかかわる問題として、最低賃金をとらえ直そう。
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