オスプレイ 米国にモノ言わぬ首相

朝日新聞 2012年07月24日

オスプレイ配備 強行は米にも不利益

米政府にも、ことの深刻さをよく考えてもらいたい。

沖縄県の普天間飛行場に配備される予定の米海兵隊の新型輸送機MV22オスプレイ12機が、山口県の米軍岩国基地に陸揚げされた。

国内ではオスプレイの安全性への懸念がますます強まっているが、日米両政府は普天間配備と本土での飛行訓練の計画は変えていない。

だが、それは日米同盟の根幹に影響しかねないリスクをはらんでいる。米政府はそこを十分に理解すべきだ。

両政府は、米軍が4、6月のモロッコと米フロリダでの事故調査を8月にまとめ、日本側がその安全性を確認するまでは、国内では一切の飛行をしないことで合意している。

森本防衛相は、調査に納得がいかなければ、米側に押し返すという。日本の閣僚として当然の態度だが、不可解なのは、それでも10月の運用開始は動かさないとしていることだ。

これでは、検証が形ばかりだと告白しているようなものではないか。こんな姿勢だと、どんな結果が出ようと国民の納得は得られまい。

米軍による過去の事故調査では、調査委に空軍司令部が圧力をかけたことも伝えられる。こうした事例もふくめた洗いざらいの調査は不可欠だ。それには相応の時間がかかる。

沖縄県民らが反発しているのは、オスプレイの安全性に疑問があるからだけではない。

「世界一危険な飛行場」と米高官が認めた普天間の移設が、一向に進まないこと。1990年代に米側からオスプレイ配備の方針を伝えられていたのに、政府がなかなか公表しなかったこと。こうした不信が積もりに積もったあげくのことなのだ。

日本政府は、問題がこじれれば、すでに決まっている海兵隊の一部グアム移転や嘉手納基地以南の米軍施設の返還などにも影響しかねないという。

しかし、市街地に囲まれた普天間で、万一の事故がおこればどうなるか。

仲井真弘多(ひろかず)沖縄県知事が、すべての米軍基地の「即時閉鎖撤去」というように、日米同盟の土台が不安定になるのは間違いない。

「アジア回帰」を進める米国の戦略にとっても、大きなマイナスだ。

クリントン国務長官は「オスプレイの沖縄配備は、米軍による日本防衛や災害救援の能力を高める」という。だが、それ以前に安全保障の基盤が揺らいでは、元も子もない。

毎日新聞 2012年07月21日

オスプレイ 米国にモノ言わぬ首相

米海兵隊の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ12機が23日に米軍岩国基地(山口県岩国市)に搬入される。政府が山口県と岩国市に通知した。米軍は10月に沖縄の米軍普天間飛行場に本格配備する計画で、野田政権はこれを容認する姿勢だ。

オスプレイは開発段階から事故が相次ぎ、4月にモロッコ、6月には米フロリダ州で墜落事故が起きた。沖縄や山口、訓練空域下の各県で安全性への懸念が広がっている。

仲井真弘多沖縄県知事は「断然拒否」と述べ、県内で事故が起きれば「全基地即時閉鎖という動きになる」と語った。普天間を抱える宜野湾市長ら沖縄の首長が相次いで配備中止を政府に申し入れ、全国知事会も安全が確認されないままの国内配備に反対する緊急決議を採択した。

普天間飛行場は住宅密集地にある「世界一危険な基地」(ラムズフェルド元米国防長官)だ。フェンスを隔てて小学校が隣接し、04年には近くの沖縄国際大学に同飛行場所属の輸送ヘリが墜落、炎上した。オスプレイの事故におびえながら暮らさなければならない周辺住民の不安、苦しみは察するに余りある。

野田佳彦首相は「配備は米政府の方針であり、(日本から)どうしろこうしろと言う話ではない」と語った。日米安保条約上は事前協議の対象ではないと言いたいのだろう。しかし、危険性への懸念を事前協議のテーマかどうかで処理する感覚を疑う。危険性を理由に移設することになっている、その普天間にオスプレイを配備しようというのも、これを容認する首相発言も、沖縄の実情を無視した対応で、無神経過ぎる。

前原誠司民主党政調会長は「首相も官房長官も沖縄、山口の民意を軽く考えているのではないか」と批判し、配備延期を求めた。「万一のことがあれば日米同盟関係を大きく傷つける」という主張だ。与党内に同様の声が広がっている。

日米両政府は、モロッコ、フロリダ両事故に対する米側調査と、日本独自の検証が終了するまで岩国での試験飛行を行わないと決めた。

しかし、両政府はあくまで「普天間への10月配備」は変えないという。これでは調査・検証結果に関係なく「10月配備ありき」である。何のための調査・検証なのか。機体に問題なしとの結論を前提に調査・検証を行うのでは、と思われても仕方ない。

米国内では住民の反対で空軍がオスプレイ訓練の延期・見直しを決めたとの指摘もある。普天間への配備を強行すれば、政府と沖縄の関係は一層ぎくしゃくし、基地の運営、普天間問題の行方にも影響しかねない。野田首相が配備延期を政治決断し、米側と協議するしかない。

読売新聞 2012年07月25日

オスプレイ搬入 日米は同盟悪化避ける努力を

日米両政府は、同盟関係の悪化を回避する努力を重ねるべきだ。

米軍の新型輸送機MV22オスプレイが岩国基地に陸揚げされた。一部で反対活動が行われたが、大きな混乱はなかった。

日米両政府は、今年発生した2件の事故報告書が公表され、安全性が確認されるまで、オスプレイを日本で飛行させないことで合意している。搬入にまで反対するのは、明らかに過剰反応だろう。

山口県で行った読売新聞の世論調査でも、岩国基地への一時駐機に「安全性が確認されれば賛成」との回答が54%に上っている。

MV22の事故率は海兵隊の全航空機の平均以下なのに、オスプレイだけが危険であるかのような主張は現実離れしている。

そもそも、事故が絶対に起きない航空機はあり得ない。安全性については、感情的にならず、冷静に議論する必要がある。

肝心なのは、日米同盟の重要性を踏まえ、オスプレイの安全性を十二分に確認するとともに、10月の沖縄・普天間飛行場への配備を予定通り実現することだ。

飛行性能に優れたオスプレイの配備は、在日米軍の抑止力を高めることも忘れてはなるまい。

26日には日米合同委員会が開かれ、オスプレイの飛行訓練に関する安全対策を協議する。政府は月内にも、防衛、国土交通両省の専門家や民間有識者らによる調査チームを訪米させ、4月のモロッコの事故報告書の説明を受ける。

森本防衛相も8月上旬に米国を訪問して、パネッタ国防長官と会談し、オスプレイに試乗する。

一連の協議を通じて、事故原因を検証するとともに、再発防止策の徹底や、より安全な飛行ルートの設定を求めることが大切だ。

来日したカーター米国防副長官は記者会見で、安全性の確認を最優先させる考えを強調した。

その言葉通り、米政府には、事故に関する情報提供に積極的に協力し、オスプレイの安全対策を強化してもらいたい。

疑問なのは、民主党の前原政調会長が「沖縄、山口の民意を軽く考えすぎている」などと語り、オスプレイの配備延期を公然と求めていることだ。

前原氏は、外交・安全保障通の与党幹部として、本来、配備先の自治体などに協力を求めるべき立場にある。政府・与党の足並みが乱れていては、地元の理解を広げることは到底できない。

日本側から日米同盟を揺るがすことがあってはならない。

産経新聞 2012年07月27日

オスプレイ 首相が配備の意義を語れ

米国が沖縄に配備予定の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの安全性に関する日米合同委員会で初の協議が開かれた。

日本側は米軍普天間飛行場や各地の飛行訓練を含む運用について、できるだけ住宅地を避けて海上ルートを飛行するなどの配慮を求め、米側も緊密な協議を約束した。

日米合同委は在日米軍基地の運用や事故の取り扱いなど、日米地位協定に関する問題を政府間で話し合う常設機関だ。過去に米軍の低空飛行訓練について実務的合意をまとめたこともある。オスプレイに関しても、具体的な安全確保策などで成果を出してほしい。

併せて、何よりも野田佳彦首相に求められるのは、日本の平和と安全にとってオスプレイ配備がなぜ必要かをもっと明快に国民に説明し、理解を求めることだ。

オスプレイは現行のCH46ヘリと比べて速度や行動半径、積載量などを格段に向上させ、米海兵隊の能力や日米同盟の抑止力の実効性を大きく高める。日本を取り巻く安全保障環境が悪化する中で、日本自身のためにもその配備は欠かせない。

米政府もオスプレイ導入が「日本防衛のための同盟の責務遂行に極めて重要」としている。日米合同委では、米側は地元の懸念を理解し、「米兵士の安全と同様に日本国民の安全に留意して緊密に連携したい」と約束した。

注目すべきは、第1陣の12機が米軍岩国基地に搬入されたことを受けて、中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報が「配備の目的は尖閣諸島防衛にある」とする記事を大きく掲載したことだ。

中国は漁業監視船など政府公船による領海侵犯を繰り返し、尖閣諸島や周辺海域の権益奪取の意図を明確にしている。オスプレイ配備で日米の抑止力が強化されることを認める反応ともいえよう。

国内の反対論には最初から「危険なもの」と決めつけた「オスプレイ恐怖症」や、安全保障上の意義や必要性に聞く耳を持たない姿勢もみられる。政府がこうした流れに安易に迎合するようでは、国民の生命や安全は守れない。

防衛省はオスプレイの墜落事故を検証する「分析評価チーム」を設置し、米政府の調査報告を独自に評価する態勢を整えた。首相を先頭に安全性を確保しつつ、10月に予定される運用を着実なものにすることが極めて重要だ。

産経新聞 2012年07月24日

オスプレイ搬入 安全性示し説得に全力を

米政府が沖縄に配備予定の垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ24機のうち半数の12機が、配備前の一時駐機のため、米軍岩国基地(山口県岩国市)に搬入された。

民間輸送船からの陸揚げに際し反対派の妨害による混乱などはなく、円滑な搬入に努めた関係者の努力を評価したい。

だが、4月のモロッコ、6月の米フロリダでの墜落事故で、配備計画への反対を強めた沖縄や山口県、岩国市などは、搬入を受けて一段と態度を硬化させている。

森本敏防衛相は「いかにして飛行の安全性を確認し、皆さんに説明するか、努力する」と語った。政府として安全性を追求し、オスプレイ配備が日本の安全保障にとっていかに重要かの説明と説得を積み重ねていくしかない。

森本氏は、2件の事故の調査結果を確認するまでは一切の飛行を行わないという日米間の合意について、「米国がきちんと守ってくれると思う」と述べた。

先週末に来日したカーター米国防副長官も、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)で10月からオスプレイを本格運用する予定について「スケジュールではなく安全性が重要」と語り、日本側への情報提供に努める考えを示した。

政府は専門家チームを今週末に米国に派遣する。日本としても独自に安全性を判断し、地元住民の不安を払拭する努力は重要だ。

在日米大使館は搬入を受けた声明で、「日本防衛のために極めて重要」と配備の意義を強調した。北朝鮮の核・ミサイル開発や中国の海洋進出で日本の安全が脅かされる中で、米海兵隊の装備・能力の向上が日米同盟の抑止力を高めることを忘れてはならない。

民主党政権は普天間移設問題を迷走させた。オスプレイ配備計画を頓挫させて、再び同盟を危機に陥らせることは許されない。

反対派はことさらオスプレイの危険性を強調するが、老朽化した現行の大型ヘリCH46の使用が困難な点も考えるべきだろう。

看過できないのは、自民党が「地元の理解を得ないまま強行するやり方は納得できない」などと搬入を批判していることだ。

党内には、米国の配備方針について「われわれが政権を持っていた当時の話で、民主党に責任を押しつけるつもりはない」との意見もある。日米同盟の堅持に努める責任ある対応を示してほしい。

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