新検事総長 後戻りさせぬ覚悟を

朝日新聞 2012年07月22日

新検事総長 後戻りさせぬ覚悟を

検察のトップが交代した。

不祥事を受けてゼロからの出直しを迫られるなか、その先頭に立ってきた笠間治雄検事総長が退き、後任に東京高検検事長の小津博司氏が就いた。

検察改革の旗を改めて高く掲げ、再生への足取りを確かなものにしなければならない。

笠間氏は、証拠改ざん事件などの責任をとって辞職した大林宏氏を引き継ぎ、2010年12月に総長になった。以来、改革の道筋をつけることに追われた1年7カ月だった。

取り調べの様子を録画する範囲を広げる。特捜事件のチェック体制を見直し、独自捜査優先の考えから抜け出す。苦情を受けつける監察指導部を設ける。検察運営に外部識者の声をとりいれる。部下による上司の評価制度を導入する――。うちだした対策は多岐にわたる。

第一線に強い抵抗がある録画や特捜改革がそれなりに進んだのは、その特捜部勤務が長く、現場一筋の検察官人生を送った笠間氏が音頭をとったからこそといえる。折にふれ口にしていた「人間が100人いれば100通りの正義がある」という言葉も、独善に陥りやすい検察組織への戒めとなっただろう。

だが、どの取り組みも緒についたばかりだ。

東京地検の検事が事実と異なる捜査報告書を作成していた問題では、その対応や処分の手ぬるさが、社会の批判を浴びた。

供述頼みの捜査・公判からの脱却をうたう一方で、いざ法廷の検察官に目を転じれば、相変わらず調書によりかかり、調書どおりの判決を得ようという立証活動から抜け出せていない。

染みついた体質は、一朝一夕に変わるものではない。

小津新総長は笠間氏とは対照的に、法務事務次官などを歴任し、もっぱら法務行政で手腕を発揮してきた。改ざん事件が発覚したころの危機感や緊張感がうすれ、揺り戻しが懸念される時期に、かじ取り役を担う。

よりどころとすべきは、昨年秋に制定された「検察の理念」だ。検察官に対し、権限の行使が真に国民の利益にかなうものになっているか、常に問い直すことを求めている。

いまはふつうの人々が刑事裁判に参加し、検察官の捜査や公判での振る舞いをチェックする時代である。内向きの論理や説明はもはや通用しない。

国民の厳しいまなざしを自覚し、国民をおそれ、国民に理解される活動を重ねる。信頼を取り戻す道はほかにない。後戻りはもちろん、足踏みも許されない。トップの覚悟が問われる。

毎日新聞 2012年07月23日

新検事総長 組織の常識破る覚悟を

小津博司検事総長が20日付で就任した。前任の笠間治雄氏は、大阪地検特捜部の証拠改ざん事件で検察組織が大揺れの中、一昨年12月に就いた。法相が諮問した外部の第三者機関の提言を受け、検察改革は昨年から本格化した。

笠間前総長は、特捜部の組織や役割の見直し、監察指導部新設による不適正行為のチェック、偏った人事配置の改善に取り組んできた。検察職員の守るべき倫理を定めた「検察の理念」をとりまとめ、取り調べの録音・録画の試行拡大にも努めた。

一定の効果を上げたものもあるだろうが、検察に対する見方はいまだ厳しいのが現実だ。

民主党代表だった小沢一郎氏の資金管理団体「陸山会」をめぐる事件では、検察官による虚偽の捜査報告書作成が明らかになり、検察審査会の誘導も疑われた。最高検は先月、そういった意図を否定する捜査と調査結果を公表したが、身内に甘いとの批判は絶えない。

底流には、大きな影響力を持つ検察の権限行使に対する長年の不信感があるのではないか。

事件処理や公判の遂行に当たり、独善に陥ってはいないか。一人一人の検察官が謙虚さを失わない組織作りに新総長はまず取り組むべきだ。

また、既に敷かれた改革のレールの上を走るだけでなく、検察批判を真摯(しんし)に受け止め、時には従来方針を大胆に見直す胆力も求めたい。

その一つとして、証拠開示のあり方の運用見直しを挙げたい。

昨年来、福井の女子中学生殺人事件や大阪の放火殺人事件、さらに東京電力の女性社員殺人事件で、裁判所が相次ぎ再審開始を決定した。確定判決の有罪認定に大きな疑問符がついた。なのに、いずれの裁判でも共通したのは、検察官が重要証拠の開示に抵抗したことだ。

もともと証拠は検察の私有物ではないはずだ。被告に有利な証拠を出し渋るのは正義にももとる。

04年の刑事訴訟法改正で、裁判員裁判など公判前整理手続きが行われる裁判では、証拠開示の範囲が大幅に広がった。しかし、再審請求審も含め、それ以外の裁判では、検察官の判断が大きく左右する。少なくとも重大事件で被告が否認しているケースや、再審請求審では、全面開示が筋ではないか。新総長がリーダーシップをとり検察内で早急に議論を進め、証拠開示について明確な姿勢を打ち出すべきだ。

再審決定が出た事件で検察が異議申し立てをして、裁判での決着を長引かす姿勢も疑問だ。従来の検察の常識が世間から見れば非常識に映ることもある。新総長はそう認識し、新たな改革を進めてもらいたい。

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