原子力規制委 旧弊脱し安全性の改革を

読売新聞 2012年07月21日

原子力規制委 与野党で同意人事を弄ぶな

国会は職務放棄をするつもりなのか。

衆参両院が、原子力規制委員会の委員長と委員4人の人事案について政府から提示を受ける合同代表者会議の開催を見送った。

田中俊一・高度情報科学技術研究機構顧問を委員長に充てる人事案を読売新聞や日本経済新聞が事前に報じたことに対し、自民党などが「国会提示前に報道されたのは問題だ」と反発したためだ。

国会の役割は、候補者の能力を吟味し、人事案の可否を判断することだ。それと何ら関係のない事前報道を問題視し、同意手続きに入らないのは筋違いである。

国会の同意が遅れれば、政府は人事を発令できず、9月上旬に予定している規制委の発足がずれ込む恐れもある。原子力発電所の再稼働に向けて、原発の安全性を審査する規制委の速やかな始動は最優先の課題ではないか。

規制委は、民主、自民、公明3党の法案修正協議で設置が決まった。円滑な発足に協力すべき立場の自民党が人事にブレーキをかけるのはどうしたことか。政府を支える民主党まで自民党に同調したことも理解に苦しむ。

奇怪千万なのは、衆参の議院運営委員会が政府に事前報道の経緯を調査するよう求めていることだ。リークが疑われるからだ、というが、取材活動を制約することは許されることではない。

問題の根源は、国会同意人事のルールを定めた2007年の衆参の議運委員長合意にある。野党の民主党の主張で、事前に報道されれば、「原則、当該者の提示は受け付けない」と明記した。

さすがに、今回の規制委人事については、衆参の議運委員長が事前に例外扱いとすることで合意していた。専門知識を持ち、原発事故にも対応できる適格者は多くない。報道で人事が白紙撤回される事態を避けるためだ。

こうした経緯からも、人事案の審議を急ぐとともに、不合理な規則を撤廃すべきである。

政府は、人事案を来週以降、国会に示す予定で、中身は変更しないという。

国会は、日本銀行総裁などの人事の同意前に候補者の所信を聴取している。なぜ規制委を対象外とするのか、首をかしげる。

原子力安全行政の立て直しを担う規制委の公共性や重要性を考えれば、与野党は、委員長や委員候補の見解を聴き、資質に問題がないか、ただす必要があろう。

それこそ、同意の採決前に国会が果たすべき責務である。

産経新聞 2012年07月21日

原子力規制委 旧弊脱し安全性の改革を

原子力の安全規制を新たに担う原子力規制委員会の人事案が固まった。初代委員長には放射線物理を専門とする田中俊一氏を充てたほか、4人の委員には地震学者の島崎邦彦氏も含まれる。

まずは良識的なバランス感覚を期待できる人選と評価したい。

原子力規制委は、高い独立性と強い権限を有する機関である。国のエネルギー安全保障と深く関わる原子力発電の将来を決定し得る存在だ。担う責務も極めて重い。

東京電力福島第1原子力発電所の事故後、原子力安全委員会が機能停止状態に陥っていることもあり、その業務を新しい形で引き継ぐ原子力規制委には、なすべき仕事が山のように待っている。

再稼働を控えた四国電力伊方原子力発電所についても安全検証を急がなければならない。運転期間の見直しをはじめとする原発の新たな安全基準の作成は、さらに一大事の任務である。

炉心溶融に至った福島事故を受けて日本が行う原発の規制改革を国際社会が注視している。規制委の諸判断は、新規導入を計画中の途上国や現在、原子力発電をしている世界の30カ国・地域に対しても大きな影響を及ぼす。その現実を忘れてはならない。日本一国にとどまらず、世界のエネルギー情勢を視野に収めた安全規制の戦略が必要だ。

また、原子力発電に対する国民の信頼は揺らいでいる。それを取り戻すには、規制委によるしっかりとした改革と国民への丁寧な説明が不可欠だ。

規制委への注文は他にもある。従来、書類主義だった安全規制を改め、現場を重視した規制に切り替えるべきだ。原子力発電に対する国の責任は大きいが、事業者による安全性向上への主体的な取り組みが行いやすい環境を整えることも重要だ。

規制委は9月から環境省の外局として発足する。その事務局となる原子力規制庁の体制整備も急がれる。高度の専門知識を持つ職員を育成し、確保しなければ安全規制は絵に描いた餅となる。

エネルギー資源に乏しい日本にとって電力の安定供給につながる原子力発電の意義は大きい。しかし、日本は地震多発国でもある。原発の安全性と信頼性をいかに高めていくべきか。新規制委に、その英知が求められている。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1109/