国会は職務放棄をするつもりなのか。
衆参両院が、原子力規制委員会の委員長と委員4人の人事案について政府から提示を受ける合同代表者会議の開催を見送った。
田中俊一・高度情報科学技術研究機構顧問を委員長に充てる人事案を読売新聞や日本経済新聞が事前に報じたことに対し、自民党などが「国会提示前に報道されたのは問題だ」と反発したためだ。
国会の役割は、候補者の能力を吟味し、人事案の可否を判断することだ。それと何ら関係のない事前報道を問題視し、同意手続きに入らないのは筋違いである。
国会の同意が遅れれば、政府は人事を発令できず、9月上旬に予定している規制委の発足がずれ込む恐れもある。原子力発電所の再稼働に向けて、原発の安全性を審査する規制委の速やかな始動は最優先の課題ではないか。
規制委は、民主、自民、公明3党の法案修正協議で設置が決まった。円滑な発足に協力すべき立場の自民党が人事にブレーキをかけるのはどうしたことか。政府を支える民主党まで自民党に同調したことも理解に苦しむ。
奇怪千万なのは、衆参の議院運営委員会が政府に事前報道の経緯を調査するよう求めていることだ。リークが疑われるからだ、というが、取材活動を制約することは許されることではない。
問題の根源は、国会同意人事のルールを定めた2007年の衆参の議運委員長合意にある。野党の民主党の主張で、事前に報道されれば、「原則、当該者の提示は受け付けない」と明記した。
さすがに、今回の規制委人事については、衆参の議運委員長が事前に例外扱いとすることで合意していた。専門知識を持ち、原発事故にも対応できる適格者は多くない。報道で人事が白紙撤回される事態を避けるためだ。
こうした経緯からも、人事案の審議を急ぐとともに、不合理な規則を撤廃すべきである。
政府は、人事案を来週以降、国会に示す予定で、中身は変更しないという。
国会は、日本銀行総裁などの人事の同意前に候補者の所信を聴取している。なぜ規制委を対象外とするのか、首をかしげる。
原子力安全行政の立て直しを担う規制委の公共性や重要性を考えれば、与野党は、委員長や委員候補の見解を聴き、資質に問題がないか、ただす必要があろう。
それこそ、同意の採決前に国会が果たすべき責務である。
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