原発と活断層 安全性確認は迅速かつ厳正に

朝日新聞 2012年07月19日

原発と活断層 ずさん過ぎる危険評価

原発は津波の想定だけでなく、活断層の危険性評価もずさんだったと言わざるをえない。

最近の再評価によって、原発の下にある断層が「動く断層」、つまり活断層である疑いが次々に出ている。

原発の重要施設は活断層の上にはつくれない。だが、日本原電・敦賀原発、北陸電力・志賀原発、関西電力・大飯原発、美浜原発などで疑いが出てきた。

きっかけは昨年4月、福島県南部での地震だ。電力会社や国が「動かない」といってきた断層がほかの断層と一緒に動き、大きな揺れにつながった。各地で断層を調べ直したところ、活断層の疑いが続出してきた。

背景には過去のずさんな審査がある。敦賀原発では、4月に改めて現地調査に行った原子力安全・保安院の専門家会議が、直下の断層と近くの浦底断層が一緒に動く可能性を認めた。

今月17日の専門家会議では、志賀原発の真下の断層について、「典型的な活断層。よく審査を通った」との声さえでた。

安全行政の甘さがまた浮き彫りになった形だが、電力会社にも問題があった。専門家が活断層の可能性を指摘しても、否定を繰り返し、十分に資料や情報を公開してこなかった。

福島原発事故に関する国会事故調査委員会は、津波の新知識が出ても、規制導入で安全に疑問符がつくことを避けるため、政府、電力会社とも規制改善に否定的だったと批判した。

活断層についても、「積極対応すれば運転が危うくなる」との姿勢があったのではないか。日本は地震列島である。「大したことは起きないだろう」という、根拠の薄い楽観主義に陥ってはならない。

活断層かどうかの調査には、数カ月かかる見込みだ。政府は8月末をめどに、将来の原発依存比率を決める方針だが、活断層の徹底調査の結果を待たずに比率を定めても、絵に描いたモチではないか。

まずは活断層のチェックを厳格に進め、危ない原発はただちに廃炉にすべきだろう。廃炉にしても、地震で使用済み核燃料を冷やすプールが壊れる恐れもある。プールから出して耐震性の高い乾式容器に移すなどの安全管理策も欠かせない。

大飯原発の敷地の下の断層調査もこれからだが、3、4号機の再稼働が決まり、3号機はすでにフル稼働している。

安全性に胸を張った野田首相だが、活断層である可能性を否定し切れないままの運転で本当に大丈夫なのか。きちんと国民に説明すべきである。

毎日新聞 2012年07月20日

活断層のリスク 全原発で洗い直しを

「他の専門家に見せたらあぜんとするのではないか」。経済産業省の原子力安全・保安院の専門家会合でこんな声が出た。あぜんとするのは一般市民も同じだ。

北陸電力志賀原発1号機の直下に活断層が通っている疑いが濃厚になった。この断層が動けば、原発施設が破壊されかねない。活断層の上に原発を造ることはあまりにリスクが大きく、許されない。

保安院は再調査を指示したが、当然だ。きちんと調べ、はっきりすれば廃炉にしなくてはならない。

それにしても、いったいなぜ、そんな重要なリスクを放置してきたのか。北陸電力は87年の設置許可申請で問題の断層が活断層であることを否定した。規制当局も追認した。06年に改定された新耐震指針への適合を調べるバックチェックでも問題になっていない。

こうした「見落とし」の背景に、ずさんな調査や審査がなかったか。国会事故調査委員会が指摘したような、電力会社と規制当局のもたれあいによる意図的な「活断層隠し」がなかったか。検証する必要がある。

保安院は今回、関西電力大飯原発の敷地内を走る「破砕帯」の再調査も指示した。破砕帯は断層面で岩石が砕けた跡で、活断層である可能性もある。存在はわかっていたが、関電や政府は問題なしと判断し、再稼働を決定した。専門家会合でも活断層に否定的な見方があった。

しかし、今回、示された資料だけでは全体像がわからないという。明確な判断がつかないまま原発を稼働している現状は容認できない。一刻も早く現地調査を行うべきだ。

関電の姿勢にも疑問がある。前回の会合への資料提出を求められていたのに間に合わなかった。管理がずさんで、対応に誠意がない。大飯原発再稼働への影響を考えたと疑われても仕方ない。

そもそも、疑問の声がある以上、現地調査は再稼働前に行うべきだった。今回、規制当局が再調査を指示した以上、再稼働の判断自体も一から見直すのが筋ではないか。夏の電力消費や節電の状況に応じ、改めて活断層などのリスクとのバランスを考えるべきだ。

保安院は、東日本大震災の影響を考慮し、敷地内に活断層が走る可能性の高い日本原電の敦賀原発などにも追加調査を指示している。全国の原発で徹底した調査を進める必要がある。

それにしても、今ごろになっての再調査はあまりに判断が遅い。日本列島は巨大地震を起こすプレートに囲まれているだけでなく、至るところに活断層がある。今後のエネルギー政策を選択していく上でも、地震国日本のリスクを改めて考えたい。

読売新聞 2012年07月20日

原発と活断層 安全性確認は迅速かつ厳正に

原子力発電所の安全対策に手抜かりがあってはならない。

経済産業省の原子力安全・保安院が、志賀原子力発電所(石川県)とその周辺で活断層の有無を再調査するよう、北陸電力に指示した。

保安院による志賀原発の設置許可(1988年)の再点検で、1号機の直下に、活断層の存在を疑わせる地層データがあることが判明したためだ。

専門家の意見聴取会では、「典型的な活断層」などの指摘が相次いだ。徹底的な調査が必要だ。

規制当局は、北陸電力の調査結果を、安全性を最優先に、迅速かつ厳正に評価すべきである。

データを見る限り、地層には縦方向の割れ目があり、その両側が上下にはっきりとズレている。北陸電力は活断層ではなく、「地層の傷」と見ているが、支持する専門家は少ない。

活断層は将来、再び活動する恐れのある断層だ。原子炉の直下で動けば、炉心が傾いたり、横転したりする可能性がある。運転中なら、重大事故につながる。

巨大ダムや高架橋などが直下の活断層の活動で破壊・倒壊した事例は、過去に多数ある。

そもそも、政府は、原発の設置許可を審査する際、活断層の真上に原子炉などの重要施設を造ることを認めていない。

調査で活断層の存在が確認されれば、志賀1号機は廃炉を迫られるだろう。安全性の要件を満たせない以上、当然の措置である。

東京電力福島第一原発の事故は巨大津波の可能性が過小評価されたことが大きな要因だった。同じ失敗を繰り返してはならない。

それにしても、今になって基本的な問題点が指摘されたことには驚くばかりだ。電力会社の調査不足に加え、政府の審査の信頼性にも疑問符を付けざるを得ない。

保安院は、関西電力にも大飯原発での再調査を指示した。活断層があるとの指摘が一部にあるためだ。専門家の多くは否定的で「念のため」の措置という。

他の原発は大丈夫なのか、保安院は早急に、原発立地の審査結果を総点検する必要がある。

電力の安定供給には、原発が欠かせない。しかし、再稼働に入った大飯原発のほかは、福島第一原発の事故を受け、定期検査で長期間、止まったままだ。

安全に万全を期すことが、再稼働のかぎとなる。活断層についても調査結果を速やかに公表し、分かりやすく説明することが、地域の理解を得るうえで大切だ。

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