集団的自衛権 行使容認へ憲法解釈を見直せ

朝日新聞 2012年07月19日

集団的自衛権 あやうい首相の発言

同盟関係にある国が攻撃されたら、それを自国に対する攻撃とみなし、実力で阻止する。これが国連憲章で認められた集団的自衛権だ。

どの国にもある権利だが、日本には憲法9条があるから行使しない。政府はこういう立場をとってきた。

野田首相が、こうした政府の憲法解釈の見直しに前向きな姿勢を示している。集団的自衛権を全面的に認めようとしているのか、その目的は何なのか。真意は明らかではない。

だが、憲法9条のもと必要最小限の自衛権しか行使しないというのが戦後日本の防衛政策の基軸であり、世界中で軍事行動を展開する米軍と一線を画する役割を果たしてきた。

こうした立場を、ゆるがせにすべきではない。

きっかけは、野田政権の有識者会議「フロンティア分科会」が提言の中で憲法解釈の見直しを明記したことだ。

これを受けて、首相は国会答弁で「提言も踏まえながら、政府内での議論も詰めていきたい」と語った。

一方、自民党も前後して、集団的自衛権の行使を認める「国家安全保障基本法案」の概要をまとめた。党のかねての主張に沿ったものだ。

もともと首相自身、野党時代は「この問題をクリアしない限り、自衛隊を海外に出す話など本来はしてはいけない」と自著で主張していた。

ただ、首相になってからは持論を抑えてきた。国内世論や周辺国の反発を招くという判断からだろう。

その姿勢が変わったのは、なぜか。

社会保障と税の一体改革法案が衆院を通り、次の課題に取り組む余裕ができたのかもしれない。離党者が相次ぐなど政権基盤が揺らぐ中で、自民党との連携をさらに深めようという狙いもあるのだろう。

だとしたら、あまりにも軽いと言わざるをえない。

この問題だけではなく、このところ対米防衛協力で野田政権の前のめりの姿勢が目立つ。

昨年末には武器輸出三原則を緩めた。4月末の日米首脳会談では、グアムや北マリアナ諸島で日米共同訓練をしたり、政府の途上国援助(ODA)を使ってフィリピンなどに巡視船を供与したりすることを決めた。

この間、国会でこれらの問題が十分に議論されたとはとても言い難い。

米軍とのなし崩し的な一体化の行き着く先が今回の発言なら、あまりにも危うい。

読売新聞 2012年07月16日

集団的自衛権 行使容認へ憲法解釈を見直せ

日本は集団的自衛権を保有しているが、行使はできない――。この奇妙で、問題の多い政府の憲法解釈を見直すべきだという考え方は今や、多くの有識者の共通認識である。

政治の責任で、早期に実現を図らなければならない。

政府の国家戦略会議のフロンティア分科会が、「安全保障協力ネットワークを形成する」ため、集団的自衛権に関する憲法解釈の見直しを検討するよう提言した。

集団的自衛権は、同盟国などが攻撃された際、主権国家が武力で反撃する権利で、国連憲章も認めている。今回の提言が、やや低調だった憲法解釈の見直し論議を活性化させたことを評価したい。

提言に素早く反応したのが野田首相だ。国会答弁で、「政府内の議論も詰めたい」「集団的自衛権の一部を必要最小限度の自衛権に含むというのは、一つの考えだ」と語り、集団的自衛権の行使容認に前向きな姿勢を示した。

首相は、「行使容認」が持論だが、昨年9月の就任後は「現段階で解釈変更は考えていない」と繰り返していた。首相が持論の“封印”を解いた意義は大きい。

日本海で自衛隊艦船の近くにいる米軍艦船が攻撃された場合、自衛隊が黙って見過ごすようでは、日米同盟は崩壊してしまう。

集団的自衛権の行使を可能にして、それに基づく日米共同演習を重ねれば、防衛協力が進展し、同盟の実効性は着実に高まる。

北東アジアの安全保障環境が一段と厳しくなる中、この問題をいつまでも先送りすることは、日本の国益を大きく損ねよう。

2008年6月には、米艦防護など4類型の集団的自衛権に関する政府の有識者懇談会が憲法解釈の変更を提言した。防衛大綱改定に関する自公政権と民主党政権の有識者会議も、09年8月と10年8月に同様の提言を行っている。

野田首相が政治決断するための機は熟したとも言えよう。

ただし、首相判断だけでの解釈変更では、首相が交代すれば再び解釈変更が可能となるなど混乱を招きかねない。

関連法を制定し、集団的自衛権が行使可能なことを法的に担保することが、より望ましい。

自民党は今月上旬、そうした内容の「安全保障基本法案」の概要を決定している。

政府・民主党は、自民党などと連携し、この法案も参考にしながら、憲法解釈変更をより確実にするための立法作業にも取り組んでもらいたい。

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