金利不正操作 裏切りの全容解明せよ

朝日新聞 2012年07月15日

金利不正操作 「見えざる手」を汚す罪

世界の金融センター、ロンドンのシティーを舞台に、名うての大銀行が様々な金利の基準となる「LIBOR(ライボー)」(ロンドン銀行間取引金利)を不正に操作していた事実が表面化した。

世界中の金融取引がゆがめられていたことになる。透明性の確保へ、仕組みの抜本的な見直しが不可欠だ。

LIBORは銀行同士でお金を融通する際の金利。英国銀行協会が主要銀行から申告させた数字を基に算出している。その申告がウソだった。

英国の名門バークレイズは金融当局に罰金を科され、経営トップが引責辞任した。05年から不正に手を染めていた。英国の他の銀行や米国、ドイツ、スイスなどの大銀行にも疑惑が広がっている。

そもそもLIBORは、申告された金利のうち上下それぞれの数値を除いて平均値をとる。1行だけで操作しようとしても数字は動かせない。業界ぐるみだった疑いが濃厚なのだ。英国の政府や中央銀行の関与まで疑われている。

LIBORはプロ同士の目安だったが、デリバティブ(金融派生商品)の拡大で、基準となるLIBORを操作すれば、もうけられるようになった。

さらに、リーマン・ショック後、経営の健全性を示すため、低い金利でお金が借りられることを装う必要があったことも不正への誘因になった。

シティーは政府による規制や課税が緩い。広範な業界自治が認められ、マネーを吸い寄せてきた。それを支えているのは、アダム・スミスが「見えざる手」に例えた自由競争に基づく市場メカニズムへの信認である。その中心が腐っていた。

欧米では金融界への批判が沸騰している。住宅ローン金利で損をしたのではないかといった怒りに加え、金融危機で税金が使われた後も行動が一向に改まらないことへの反発がある。リーマン・ショックが金融の貪欲(どんよく)さゆえの自滅だったなら、今回は傲慢(ごうまん)さゆえの堕落だろう。

世界の金融当局は協力して、不正の実態を解明しなければならない。LIBORの算定方法を改めたり、他の基準金利と併用したりすることも必要だ。

英国政府は金融立国という自国の利害を優先し、シティーを放任し過ぎた。欧州連合(EU)が進める規制や金融課税の強化にも一貫して後ろ向きだ。

ユーロ圏や米国が危機を教訓に規制を強化すれば、それだけシティーに資金が集まる。そんな打算は捨て、信頼回復に向けた規制強化を先導すべきだ。

毎日新聞 2012年07月15日

金利不正操作 裏切りの全容解明せよ

金融界への不信を増幅させる事件がいつまで続くのだろう。

このほど明るみに出たのは、国際的に最も重要とされる金利の大規模な不正操作だ。長期にわたり業界ぐるみの不正が続いていた可能性があるばかりか、政府や中央銀行までもが関与の疑いをかけられている。当局に不都合な事実も含め、とにかく全容を解明する必要がある。

不正の舞台となったのは、ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)と呼ばれる短期金利だ。金融機関同士が資金を貸し借りする際にかかる金利の平均値だが、企業への貸し出しや住宅ローンから金融派生商品(デリバティブ)まで、世界で総額800兆ドル(約6.3京円)相当の契約に影響するともいわれる。公的性格が極めて強いにもかかわらず、自らの利益のため繰り返し操作していたとすれば、許し難い裏切りだ。

操作が可能だったのは、金利が限られた金融機関の自己申告で決まるためである。LIBORの場合、最大18の指定金融機関が日々、自らの借り入れにかかる金利の推計を英銀行協会に報告する。そのうち上から四つと下から四つの金利を除く残りを平均し決まる仕組みだ。

指定された金融機関はグローバルに活動する有力機関であり、正直に、紳士的に行動するという信用の上に成り立っていた。だが、こうした金融機関は、LIBORのわずかな変動でも大きくもうけられるデリバティブ取引を手がけており、関係者がうまく結託すれば取引上有利になる金利を設定できる余地があった。

英金融大手バークレイズが2億9000万ポンド(約360億円)の罰金支払いで米英の金融監督当局と同意しトップが辞任したが、これまでに判明した記録などから、単独の不正とは考えにくい。

問題が極めて深刻なのは、カルテルまがいの利益追求に加え、英政府やイングランド銀行(中央銀行)まで、直接、間接にかかわった疑いがかけられていることである。

金利操作はいつ始まったのか。当局の問題意識はどうだったのか。誰が不当な利益を得て、誰がどれくらい損をしたのか。明らかにしなければならない問題は山ほどある。

LIBORの設定には日本の大手金融機関も参加している。また、東京版のTIBORをめぐっては、金融庁が昨年末、米欧の金融機関を不正操作で処分したほか、今年に入り欧州の当局も調査をしている。日本も大いに関係する問題だ。

今後は、バークレイズ以外への罰金や大規模な訴訟も予想される。その影響で金融市場が動揺するようなことがあってはならない。その意味でも国際協力が欠かせない。

産経新聞 2012年07月15日

金利不正操作 世界基準覆う「闇」解明を

世界の金融取引の基準金利であるロンドン銀行間取引金利(LIBOR)をめぐっての不正操作問題が底なしの様相を見せている。

英大手銀バークレイズがLIBORのベースになる金利を意図的に操作していたことが発覚し、トップの辞任に発展した。さらに、英中央銀行副総裁の関与が取り沙汰される一方、疑惑はドイツやスイス、米国まで拡大しつつある。

欧米では住宅ローンはじめ個人向け融資、企業向け融資、金融商品取引などの金利を「LIBORに一定の率を上乗せ」という具合に決めることが多く、その残高は数百兆ドルに上るともいわれる。

いわば金融取引の「物差し」の決定過程に潜んでいた闇が姿を見せ、金融の世界を覆いつつあるのだ。各国の監督当局は、厳しい姿勢で徹底的な事実解明と再発防止に取り組まねばならない。

LIBORは、有力銀行がロンドン市場で他行と直接お金を貸し借りする際の金利を英銀行協会に申告、それを元に同協会が定めている。当然、銀行が正直に申告しているという「信頼関係」で成り立っている。

ところがバークレイズは、2008年のリーマン・ショック後、他行より高い金利を申告すると、経営が悪化し資金調達難に陥っているとみられるため、実際より低い金利を申し出ていた。他行のトレーダーと結託し、実態と違う金利を申告した疑いもある。

こうした銀行の思惑や利益目的でLIBORを歪(ゆが)める行為が、日常的に行われていた可能性もある。そうなると、単なる再発防止では収まらず、透明性が高く、不正の余地を許さぬ新たな物差しが必要になるかもしれない。

日本でのLIBOR適用商品は限られており、代わって全国銀行協会が日本版LIBORに当たる東京銀行間取引(TIBOR)を公表している。不正操作は明らかになっていないものの、TIBORを舞台に、外資系証券が複数の邦銀に金利操作を働きかけて金融庁に処分された例はある。

全銀協、金融庁は不正操作がなかったか改めて調査するとともに、不正行為への厳しい措置も含めたルールづくりを急ぐべきだ。大手証券が関与したインサイダー取引が次々に発覚、市場への不信感が募る日本で、これ以上信用を失墜させる事態は許されない。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1101/