外交・安保公約 日米同盟堅持の構想示せ

毎日新聞 2009年08月23日

衆院選 日米と民主党 「対等」の中身を語れ

「日米同盟」を外交の基軸とする日本の政治が外交・安全保障で米国の意に沿わない内容を主張するのはタブーだった。かつて非自民・細川政権下で発足した「防衛問題懇談会」の報告書は、「日米安保」の前に東アジア地域の「多角的安保」や国連重視の姿勢を記述した。これが日米同盟軽視と映り、東アジア戦略と日米関係再構築の作業を進める米政府に「日米安保再定義」の必要性を認識させる要因の一つとなった。

民主党も衆院選マニフェストで日米同盟を「日本外交の基盤」と位置付ける。対米関係重視の考えは自民党と変わりない。が、同時に「緊密で対等な日米同盟関係」を掲げる。「米国とともに歩むことが日本の国益になる」というある外交官の説明は、自民党政権の「対米追従」を合理化する論理だった。民主党の方向は明らかに異なる。

問題は「対等な関係とは何か」である。民主党マニフェストは、主体的な外交戦略を構築し、米国と役割分担して日本の責任を積極的に果たす--とうたう。しかし、その中身に触れていない。これが、民主党の対米スタンスが不明に映る理由である。

マニフェストに盛られた日米地位協定の改定、米軍再編や在日米軍基地のあり方の見直しは、それ自体は当然かつ重要な政策であるとしても、対等な関係づくりの全容ではない。

日米の軍事力の歴然とした落差を前提とした「対等な関係」は、三つの要素から成る。

第一は、気候変動をはじめとする環境問題や貧困・感染症対策など地球規模の課題での日米協力強化である。日本の技術力は大きな武器となる。また、核廃絶や軍備管理など国際的な平和問題の取り組みに対する日本の積極的貢献も重要となる。軍事大国・米国に対する日本の影響力が問われるテーマである。

第二は、東アジアの新たな秩序構築に向けた日本の役割と、この分野での日米連携強化の方向を明確にすることだ。対中国、対北朝鮮政策が軸になる。日本の能動的姿勢がカギを握る。

そして第三は、自衛隊の活用を含めた国連活動への積極的参加など平和構築の取り組みと、日本の防衛に関する日米協力である。「核の傘」を軸とする「拡大抑止」の是非や集団的自衛権行使が重要な論点となる。

軍事面だけで「対等」の中身を語ることはできないが、第三の要素を抜きにして日米関係を説明できないのも事実だ。

民主党中心政権が現実味を増している衆院選である。鳩山由紀夫代表には対米関係の体系的ビジョンを示してもらいたい。

読売新聞 2009年08月26日

アジア外交 膨張する中国とどう向き合う

衆院選では、各党ともアジア外交を重視する姿勢を打ち出している。だが、有権者が知りたいのは、公約実現に向けた道筋や、目の前にある懸案への具体的な処方(せん)である。

民主党は政権公約で、「東アジア共同体」の構築を目指すとしている。自民党は、アジア全体の経済成長を日本の成長につなげる政策を柱に据える。公明党もアジア地域の経済統合推進を掲げる。

東アジアは政治体制の異なる多様な国々から成る。経済連携を先行させるのは現実的な選択だろう。インド、豪州を含む16か国による「東アジア経済連携協定」の検討も近く始まる予定だ。

だが、課題は多い。日本と豪州の自由貿易協定(FTA)交渉は、農業分野の貿易自由化が障害となって全く進んでいない。インド、韓国との交渉も停滞気味だ。

民主党が、日米FTAに関する政権公約の表現を農業団体の反発を受けて修正したように、国内農政と貿易自由化をどう調和させるかは難しい問題だ。

共同体や経済連携を公約に掲げるのなら、こうした具体的課題にどう取り組むかも語るべきだ。

中でも肝心なのが対中関係だ。経済、軍事両面で大国化する中国とどう向き合うか。各党とも対中関係の強化を掲げているが、具体性に乏しい。

経済関係を緊密化していくのは当然としても、模造品の横行やDVDの違法コピーなど知的財産権の侵害をどうやって防ぐか。

多くの食材を中国に依存している中で、「食の安全」を担保することも大事だ。中国製冷凍ギョーザによる中毒事件も、依然、解明が進んでいない。

ほかにも、東シナ海のガス田共同開発に向けた条約交渉、レアメタル(希少金属)の安定供給確保など、懸案は山積している。

中国軍の増強も、この地域にとって大きな懸念材料だ。

国防費は21年連続で2ケタの伸びを示し、海軍の活動範囲は太平洋やインド洋まで拡大している。空母建造への意欲も隠さない。

単に国防や海上輸送路の確保が目的なのか。その意図を含めて、軍事面の透明性を高めるよう、中国に対して粘り強く働きかける必要がある。

対中関係以外にも、北朝鮮の核・ミサイルの脅威にどう備えるかなど論点は数多くある。投票日まで残り少ないが、議論を掘り下げてもらいたい。

産経新聞 2009年08月21日

外交・安保公約 日米同盟堅持の構想示せ

米国のルース新駐日大使が東京に着任した。衆院選のさなかに異例ともいえる早さで任地入りしたのは、選挙戦をじっくりと観察して次期政権下の日米関係の展開に備えるつもりだろう。

日米同盟をいかに強化し発展させるかは、外交・安保政策で最も重要な柱となる争点だ。それなのに、政権を担うかもしれない民主党の公約は矛盾と不透明さが目立ち、21世紀の国の針路を国民に明らかにしているとは言い難い。同盟を危うくしたり日米関係を迷走させたりしないように、具体的構想を示す必要がある。

問題は、海上自衛隊のインド洋補給支援活動や沖縄米軍基地再編をめぐって、自民、民主両党が正面から対立していることだ。自民党は補給支援を「アフガニスタン復興支援とともに、国際社会によるテロとの戦いの両輪」と位置づけて継続を明示した。米軍再編も日米の合意に基づいて「着実な実施」を掲げている。

これに対し、民主党は補給支援を「来年1月終了、撤退」と明言しながら、これに代わる活動や具体的な貢献の説明はない。沖縄米軍基地についても、「海外移転が望ましく、最低でも県外移設を期待」(鳩山由紀夫代表)という。これだけでも、日米両国が3年がかりの苦労の末にまとめた再編計画(2006年5月)を白紙に戻す事態となりかねない。

さらに心配なのは、民主党と連立を予定する社民党は、「グアム移転協定廃棄」や「辺野古基地建設反対」を掲げ、在日米軍駐留経費負担特別協定廃止などを公約している。横須賀への原子力空母配備にも反対だ。「反米・反同盟」ともみえる社民党公約と、「緊密で対等な日米同盟関係をつくる」と訴える民主党の公約には、それぞれ矛盾が多い。

インド洋での補給支援、日米地位協定、米軍再編の3点セットはオバマ政権の対日政策担当者らも重視してきた問題で、同盟の根幹にもかかわる。民主党は国民にきちんと説明するよう求めたい。外交・安保に関しては、党派を超えた共通の基盤が必要なのだ。

一方、自民党は集団的自衛権行使に踏み込む姿勢をみせた。官邸の機能強化をめざす国家安全保障会議設置なども掲げたことは評価したい。ただ、政治決断を下せばすでに実現できていたものもある。投票日までにさらに明確な態度をみせてもらいたい。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/11/