アフガン和平 タリバーンを引き込め

朝日新聞 2012年07月07日

アフガン和平 タリバーンを引き込め

アフガニスタンの自立と復興支援を話しあう国際会合が、東京で開かれる。会合での合意をもとに、反政府武装勢力タリバーンとの政治対話を、早く再開させる必要がある。

外国の戦闘部隊は2014年末までに撤退し、その後の治安の責任はアフガンの国軍と警察に委ねられる。この年には大統領選挙があり、カルザイ氏の後継者による政権が生まれる。

この過渡期にアフガンの政治が乱れ、治安がさらに悪くなれば、過去10年の国際社会の支援は水泡に帰しかねない。

和平と安定を確実なものにするための土台を、今のうちに固めておく必要がある。

治安面で米欧の関係国は、戦闘部隊が撤退した後も10年ほどは、国軍や警察の訓練や人件費の支援を続ける考えだ。

東京会合のテーマとなる自立や復興面でも、国際社会は、貧困軽減や経済発展のため、20年代半ばまでの長期的な支援に取り組む姿勢を確かめ合う。

米同時多発テロ事件後の米軍などの侵攻によってタリバーン政権が崩壊して11年。この間の国際支援によって学校に通う子どもは大幅に増え、国民の多くが病気の治療を受けられるようになった。日本も過去10年に4千億円以上を投じて、教育や医療、農業支援のほか空港建設や首都圏整備を手がけてきた。

この間、カルザイ政権の行政の非効率は常に問題になった。

援助の効果を上げるには、汚職の追放や人材育成を進め、NGOの力をいかして、アフガンの人たちに「平和の配当」を実感してもらう必要がある。

ただ、肝心のタリバーンとの政治交渉は後退している。カルザイ政権との協議は昨年9月、自爆テロによる高官殺害を機に途切れた。タリバーンと米国との対話も今年3月に止まった。

タリバーンの政権時代にも穏健派はいた。対話を再び始め、彼らを引き込む努力をあきらめてはならない。国民的な和解がなければ、紛争解決への出口は見えてこない。

変化の兆しはある。先に京都で開かれた会議にタリバーン幹部が出席、外国軍の撤退を条件に対話再開への意欲を示した。カルザイ大統領も来日前の会見で、選挙を通じた国政参加をタリバーン側に求めた。米国や国連、関係国は最大限の努力を払うべきだ。

日本はこれまでアジアの平和構築に貢献し、アフガンでも元タリバーン兵の社会復帰に取り組んでいる。アフガンの人たちの信頼は高い。政府は、和平の仲介にもっとかかわるべきだ。

毎日新聞 2012年07月08日

アフガン支援 責任もって関与続けよ

戦乱と貧困から抜け出し、テロの温床とならない国づくりを−−。世界各国や国際機関が集まって、アフガニスタン支援を話し合う会議がきょう東京で開かれる。日本がホスト役を務める大事な外交舞台だ。長い道のりだが、国際社会とアフガン政府・国民の協力で、自立への歩みを確かなものとしていきたい。

カギを握るのは治安と開発だ。北大西洋条約機構(NATO)は5月に米シカゴで開いた首脳会議で、アフガンに展開する国際治安支援部隊(ISAF)を14年末までに撤収させると確認した。それを受けた今回の東京会議は、15年から24年までを「変革の10年」と位置づけ、持続可能な開発の道筋をつけることを目指している。シカゴと東京、二つの会議はアフガン情勢の大きな節目となるものであり、治安部隊撤収後のアフガンを国際社会がしっかりと支える覚悟が今、問われている。

アフガンでは、教育、保健、医療など人間らしい暮らしに必要な社会インフラの整備が大きく立ち遅れている。1人当たり国民所得・識字率・平均寿命を基準に算出した「人間開発指数」(HDI)も対象182カ国中181位(09年)と、世界で最も貧しい国の一つである。

その背景には、外国の軍軍介入による悲劇が繰り返されてきた歴史がある。79年に軍事侵攻した旧ソ連が89年に撤収したあと、アフガンでは内戦続きで国土が荒廃し、国際社会はしばらくアフガンへの関心を失っていた。大国の思惑に振り回されてきたアフガンを、治安部隊が引き揚げたあと再び「忘れられた国」にすることがあってはならない。

東京会議では、治安部隊撤収後のアフガンが将来、経済的に自立した国になるための長期的な経済・開発戦略と、国際社会からの財政拠出が焦点になる。世界がアフガン支援に継続して関与する意思を確認することで、アフガンを見捨てない姿勢を明確に打ち出すべきである。

ただし、開発支援は国際社会とアフガンの共同作業だ。アフガン側も腐敗や汚職と決別し、統治能力を向上させる努力が必要だろう。支援が末端の地方まで行き渡らないとの声もあり、これまで国際社会が積み上げてきた支援がどのような成果を上げてきたかの検証も欠かせない。それが責任をもった関与というものだ。

日本は02年以降、30億ドル以上のアフガン支援を実施しており、米国に次ぐ2番目の援助国だ。軍事ではなく資金やノウハウで民生支援を続ける日本に対し、アフガンからの信頼と期待は大きい。今回のような会議を主催することも、日本の国際貢献として意義がある。引き続きアフガン支援に力を入れるべきだ。

読売新聞 2012年07月11日

アフガン支援 復興には統治の改善が急務だ

国際社会は、アフガニスタンへの支援を継続するという明確なメッセージを発した。再び国際テロの温床とならぬよう復興を着実に進めたい。

アフガン復興を話し合う支援国会議が東京で開かれ、約80か国・国際機関が参加した。今年から2015年までの4年間に、計160億ドル(約1兆2800億円)超の支援を行うとした「東京宣言」を採択したのが成果である。

現地の治安を支えてきた国際治安支援部隊(ISAF)の戦闘部隊は、治安権限をアフガン政府に移行して、14年末までに撤収する。それが政府の弱体化と旧支配勢力タリバンの復権を招くことになってはならない。

ISAF撤収後も国際社会がアフガン政府を支えるという決意を示したことは、アフガン安定化に大きな意味を持とう。

日本政府は16年までの5年間に最大30億ドル(約2400億円)を拠出する。インフラ(社会基盤)整備や農業支援など開発分野に22億ドル、警察官の給与など治安分野に8億ドルをあてる。

09年に鳩山政権が約束した「今後おおむね5年間で最大50億ドル」の支援のうち、未拠出分を16年まで延長して実施する形だ。

支援国の財政事情は、どこも厳しい。その中で、アフガン支援を続けていくには、各国の国民からの理解が欠かせない。

日本は、米国に次ぐ主要支援国として、アフガン復興に大きな責任を担っている。巨額の拠出が有効に生かされているかどうか、使途を厳正に検証すべきである。

東京宣言には、国際社会の支援とアフガン政府の政治改革の進捗(しんちょく)状況を2年ごとに閣僚級会合で点検する仕組みが盛り込まれた。

支援国側が、アフガン政府に改めて自立を促し、一層の統治の改善を求めたのは当然だ。

宣言には、アフガン政府が、腐敗防止や独立した司法の確立、予算の適正な執行など行政能力向上に取り組むことも明記された。

支援国会議でカルザイ大統領は、「法の支配や腐敗対策を強めていく」と約束した。問題はそれが実行できるかどうかだ。大統領は14年には任期を終えて退く。アフガン政府は汚職体質の改善に、中長期的に取り組むべきだ。

アフガン政府は、ISAF撤退に向けて、治安状況の改善へ努力を倍加させねばならない。南部の部族社会に根を張るタリバンを軍事的に鎮圧するのは極めて難しい。タリバン穏健派との和解を模索する対話も必要である。

産経新聞 2012年07月10日

アフガン復興会議 活きる支援か徹底検証を

東京で開かれたアフガニスタン復興国際会議は2015年までに総額160億ドル(約1兆3千億円)超の支援を柱とする「東京宣言」を採択して閉幕した。

テロ組織の増殖を二度と許さず「アフガンを見捨てない」との意思を国際社会が明確にしたことを、まず歓迎したい。

01年の米中枢同時テロは、アフガンのイスラム原理主義勢力タリバンが匿(かくま)った国際テロ組織アルカーイダによって起こされた。それを機に米欧が展開した掃討作戦は14年末の国際治安支援部隊(ISAF)からアフガン政府への治安権限移譲で新たな段階に入る。

アルカーイダはビンラーディンら指導部の殺害で弱体化したものの、首都カブールでもなおテロが絶えず、日本大使館もその標的になっている。同国がテロの温床に回帰しないように政府の自立と民主化を助けることは、国際社会の安全保障上の責務といえる。

同時に、アフガンは南アジアと中東を結ぶ戦略的要衝にあり、1兆ドル相当の地下資源も眠る。中国は銅鉱山開発を進め、中露主導の「上海協力機構」も同国を準加盟国に格上げした。

これに対し、米国はアフガンを「北大西洋条約機構(NATO)非加盟の主要同盟国」に指定、支援継続の強い意思を示した。そうした観点からも、自由や民主主義などの価値を共有する国家へ発展するよう促すことは重要だ。

野田佳彦首相に注文したいのは民主党政権が海上自衛隊のインド洋給油支援を一方的に停止した代わりに、50億ドルもの巨額支援を誓約してきた成果を改めて総括し、国民に説明することだ。

日本は米国に次ぐ第2のアフガン支援国となり、今回も5年間で30億ドルの拠出を表明した。だが、これまで「費用対効果」の検証と評価がきちんと行われてきたとはいい難い。国民の血税を浪費するような支援は願い下げだ。

2年ごとに閣僚級会合を開き、進展状況を検証することも決まった。14年の初会合に向け、日本は検証内容の策定にもかかわる。

アフガン支援の一部は汚職の闇に消えているという。実りある支援を実現するためにも、使途と効果を透明化するルール作りが求められている。

自立した発展を促し、日本による支援の意義を明確にする上でもそれが不可欠だ。

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