一体改革の意味と課題 子や孫に借金回さない

毎日新聞 2012年07月02日

一体改革の意味と課題 子や孫に借金回さない

税と社会保障の一体改革は民主党から大量の造反者を出しながら衆院を通過した。これから参院を舞台に審議が始まる。改めて一体改革の意味と課題を考えたい。

増税ばかり注目されるが、一体改革はこれから本番を迎える少子・超高齢社会に備えて社会保障を強化する第一歩である。課題が山ほどある中で、消費増税5%の多くは赤字の穴埋めに回され、社会保障の拡充に使えるのは1%分に過ぎない。そのため増税先行のイメージを持たれるかもしれないが、これまで毎年10兆円もの借金で社会保障の穴を埋めてきたことを忘れてはならない。冷静に見れば一体改革は「増税先行」などではなく、「借金先行」の異常事態をようやく解消する道筋をつけるというのが本当のところだ。

民主党が政権を取って3年、以前にも増して借金は増え続けている。この20年間は低成長とデフレにあえいでおり、成長戦略が容易に見いだせないのは他の先進国も同様だ。このままでは膨大な借金を子どもたちの世代に回すことになる。ただでさえ少子化で次世代の人口は減り続け、さらに若年者を労働市場からも締め出していたのでは、社会は破綻する。小さな一歩とはいえ社会保障の重点を現役世代に向け、少子化や子育て政策に本格的に乗り出す意味は小さくない。

幼稚園と保育所の一体化を目指した「総合こども園」は子ども・子育て新システムの中核的政策だった。自民党の反対で現行の「認定こども園」の拡充にとどまり、企業の参入も認められないことになった。だが、自公政権時代の06年に始まった認定こども園はなかなか数が増えない。原因は市町村の財源不足と「二重行政」の弊害である。幼稚園を所管する文部科学省と保育所を所管する厚生労働省の両省から認可も監査も受けなければならず、給食の材料までどちらの予算で購入したのかを細かく分類しなければならないというのだ。3党合意では許可や指導監督を一元化し、煩雑な会計や事務の簡素化を図ることにした。

また、保育所の新規参入を増やすため指定制を導入する予定だったが、これも野党の反対で現在の認可制を継続することになった。保育の質が下がるとして企業の参入に批判的な意見も根強いが、夜間や休日の保育や延長保育など柔軟な運営をしているのは公営より民営、民営の中でも企業が経営する保育所に多いといわれる。社会福祉法人は原則非課税だが、同法人経営の特別養護老人ホームは1施設平均3億800万円の内部留保がある。社会福祉法人の既得権益を守るだけでは保育所不足は解消されまい。

地域の特性に合わせた小規模保育、事業所内保育、家庭的保育などの事業は当初案通りに認められ、企業やNPOも参入できることになる。待機児童が多い都市部では工夫を凝らした多様な保育サービスの展開が必要だ。最近、超近代的な都心のオフィスビルの中に保育所が開設されるようになった。都市の風景が変わることで働く人や企業経営者の意識も変わることを期待しよう。

年金改革には気になる点がある。低所得者に月6000円を加算する政府案が撤回され、保険料の納付実績に応じて福祉的給付金が支給されることになった。

一方で低所得者には消費増税の負担軽減策として簡素な給付をすることにもなっている。これは野党側が再三にわたって政権を批判してきた「バラマキ」ではないのか。年金制度の持続可能性を高めるために、支給開始年齢の引き上げや高所得者の減額などがこれから議論されなければならないというのに、こんなことで大丈夫だろうか。

年金は被用者の定年後の安心のために作られた制度だ。長年保険料を払って年金受給権を得られるのが基本であり、生活保護を中心とした生活困窮者対策とは根本的に異なる。思いつきの人気取りに走るのではなく、理念から年金をもう一度整理しないといけない。生活保護や働いているのに貧しい非正規労働者問題との役割分担を明確にして、年金の安定と信頼回復に努めてほしい。

一体改革は概して国民に不人気だが、必要性を理解している人も多いはずだ。批判の中には、民主党への不信が相当含まれているのではないか。マニフェストにない消費増税の断行だけでなく、マニフェストの看板だった最低保障年金も相変わらず財源が示せないでいることに幻滅を感じる人も多いだろう。野党側が「国民会議」という助け舟を出して棚上げさせたというのが実情で、民主党の政権担当能力のなさばかり印象づけられた感が強い。

ただ、「ねじれ国会」で足を引っ張り合い何も進まなかったことを思えば、一体改革の意味を認めないわけにはいかない。参院での論戦、さらに1年という期間を区切った「国民会議」でどこまで根本的な論議ができるかわからないが、医療や介護を含め社会保障改革はこれからが正念場だ。与野党が攻守入れ替わっては相手との違いを強調し、揚げ足を取り合っている余裕はもうない。

読売新聞 2012年07月06日

公務員退職給付 官民格差の解消を前提とせよ

官民の格差をいかに解消するか――。政府の有識者会議が公務員の退職金や年金のあり方について改革案をまとめた。

社会保障と税の一体改革の一環として、会社員の厚生年金と公務員の共済年金を2015年10月に統合する被用者年金一元化法案が衆院を通過し、今国会で成立する見通しだ。

有識者会議は、この年金統合を前提に、公務員の退職金と年金を合わせて「退職給付」ととらえ、これを総合的に民間に合わせる方針を示した。妥当と言えよう。

人事院の昨年の調査によると、国家公務員の退職金と「職域加算」と呼ばれる共済年金の上乗せ支給の合計は2950万円で、従業員50人以上の民間企業の平均的退職給付(退職金と企業年金の合計)を403万円上回っている。

提言はまず、この分を引き下げるよう求めた。リーマン・ショック以降、民間の退職給付は落ち込んでいる。公務員の退職給付もこれに合わせて、大幅にカットすることはやむを得まい。あまり段階を踏まずに実施すべきだろう。

厚生・共済年金の統合で、公務員優遇の象徴とされた月額約2万円の職域加算は廃止される。公務員の老後資金をどう形成するかが議論の焦点となった。

有識者会議は、公務員の退職給付を「一時払い」と「年金払い」の2本立てとし、その合計を民間水準に合わせるよう提言した。

民間では一時金と企業年金を組み合わせた退職給付が主流だ。形態も民間に合わせた方が、今後、官民格差を調整しやすい。このため、「年金払い」部分を元に“公務員版企業年金”を新設する。

退職給付をすべて一時金で支給する場合と公費負担は変わらず、公務員版企業年金に特別の税金が投入されるわけではない。

ただし、国民から、「形を変えた公務員優遇」といった見方をされないよう、政府には、新年金についての十分な説明と設計上の配慮が求められる。現行の職域加算よりも受取額を小さく設計することは、一策であろう。

被用者年金一元化法案が成立すれば、共済年金ができる前の恩給制度との関係で続いてきた「追加費用」という税金投入も削減される。この結果、退職した元公務員のうち約86万人の受給者は、年金額が最大で10%減る。

一連の措置は公務員には厳しい内容だが、深刻な財政や民間の苦しい状況を考えれば、やむを得ないだろう。官民格差は、迅速に解消することが重要である。

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