ヒッグス粒子 宇宙の謎解き新段階に

朝日新聞 2012年07月06日

ヒッグス粒子 宇宙の謎をともに開く

その存在がなければ、宇宙は今のような姿にならなかっただろうし、むろん、私たちも存在しなかったはずだ。

物に重さを与える役割から、「神の粒子」とも呼ばれるヒッグス粒子である。

1960年代にその存在が予言された。ほかの素粒子は次々に見つかってきたのに、手がかりをつかませなかった。それがついに、私たちの目の前に姿を現したようだ。

追いつめたのは、日本をふくむ約40カ国数千人の科学者からなる、かつてない規模の国際チームである。実験装置はスイス・ジュネーブ郊外、欧州合同原子核研究機関(CERN)の1周27キロの巨大加速器LHCだ。

宇宙の成り立ちにもかかわる標準理論には素粒子が17種類登場し、ヒッグス粒子が確認されればひととおり見つかったことになる。最終的な確認にはなお実験が必要というが、歴史的な成果といっていい。

とはいえ、宇宙の起源にせまる、世紀を超えた科学者たちの挑戦の物語は、実はまだ始まったばかり、かもしれない。

この宇宙にある物質やエネルギーのうち、水素をはじめとするおなじみの物質は4%ほどでしかない。こんな驚くべき事実が今世紀に入って明らかになった。残りの4分の3は暗黒エネルギー、4分の1が暗黒物質と呼ばれ、正体がわからない。その探求に、世界の科学者たちがしのぎを削っている。

東大のカブリ数物連携宇宙研究機構もその一つで、ハワイのすばる望遠鏡を使った「すみれ計画」にはLHCのように海外から研究者が加わり、暗黒の謎をひらく期待がかかる。

どうやって宇宙はできたか。大きな問いを追う基礎研究の大切さを考えたい。

小柴昌俊博士がいうように、ノーベル賞を受けたニュートリノの研究は「100年たっても役に立たない」かもしれない。

だが、科学が明らかにした事実は、私たちの宇宙観や生命観を築き、知的好奇心を大いに満たしてくれる。

そして基礎的な研究は、アインシュタインの相対論なくしてカーナビの全地球測位システム(GPS)が正しい位置を計算できないように、思いがけない形で技術の飛躍に貢献する。

研究を進めるうえでかぎを握るのは財源だ。とりわけ、加速器建設は巨費を要する。各国が財政難のいまは容易でない。

研究を進めるには納税者の理解が欠かせない。そのためにも、最先端の成果を説明することもまた研究者の務めである。

毎日新聞 2012年07月06日

ヒッグス粒子 宇宙の謎解き新段階に

半世紀前から物理学者が探し求めていた素粒子が姿を現した。万物に質量を与えたと考えられるヒッグス粒子だ。

まだ、「ヒッグス粒子発見」が確定したわけではないが、確度は高い。たとえ、探していたヒッグス粒子でなかったとしても、新しい粒子が発見されたことは確実だ。

いずれにしても、宇宙の謎解きが進むことは間違いない。さらなる実験と分析の積み重ねに期待したい。

ヒッグス粒子は、素粒子物理学の「標準理論」を構成する素粒子の中で、最後に残った未発見の「大物」だ。137億年前に宇宙が誕生した直後に空間を満たし、その作用でさまざまな素粒子が質量を持つようになったと考えられている。

直接観測することはできず、欧州合同原子核研究所(CERN)に設置された大型加速器で、間接的な検出をめざしてきた。日本が参加する検出器と欧米を中心とした検出器が積み重ねたデータが、今回の発見につながった。

これがヒッグス粒子なら、標準理論が完成し、質量の起源が解明される。宇宙の始まりの様子を知ることにもつながる。ヒッグス粒子でなかった場合は、標準理論を超えるような素粒子である可能性が高く、これも興味深い。

実はヒッグス粒子が発見されても宇宙を完全に解明できるわけではない。最近の観測で宇宙の9割以上を占めることが明らかになった未知の暗黒物質や暗黒エネルギーは、標準理論では解明できないからだ。

今回発見された新素粒子が何であっても、標準理論を超える新理論や暗黒物質の解明につながる鍵が潜んでいる。CERNの所長がコメントしたように、「長い旅の始まり」といっていいだろう。

未知の素粒子探しは、今や国際協力なくしては実現できない。その中で、今回の発見には、理論と実験の両面で日本人が大きく貢献した。

ヒッグス粒子の存在を提案したのは英国のヒッグス博士だが、その背景にある考えは、08年にノーベル賞を受賞した南部陽一郎博士の「自発的対称性の破れ」だ。検出器の心臓部にある超電導磁石や、衝突した素粒子が飛び散った後の軌跡を調べる装置も、日本が開発した。110人の日本人研究者も参加している。大きな役割を担ったことを誇りにしたい。

素粒子探しは純粋な基礎科学であり、すぐに何かの役に立つことはない。各国の財政状況が厳しい今、こうした研究への投資には賛否両論があるだろう。それでも、人間の知的好奇心に答える意義は大きい。今回の発見が、それを再認識するきっかけにもなってほしい。

読売新聞 2012年07月07日

ヒッグス粒子 未知の探求へ新たな一歩だ

世界の物理学者たちが40年以上も探し続けてきた「ヒッグス粒子」とみられる新粒子が、ついに見つかった。

スイス・ジュネーブ郊外の欧州合同原子核研究機関(CERN)が発表した。歴史に残る偉業と言えよう。

宇宙誕生の直後、この粒子が万物に重さ(質量)を与えた、と物理学の「標準理論」では考えられている。重さの源だけに、「神の粒子」とも呼ばれている。

宇宙はどのように誕生したか。物質はどんな仕組みで生成され、星や銀河ができ、生命が登場したのか。人類の根源を辿(たど)る壮大な旅の一つの到達点だろう。

標準理論によれば、すべての物質は、それ以上分割できない17種類の極微の素粒子で構成されている。まず電子が1897年に見つかり、2000年までに、ヒッグス粒子を除いて、計16種類の存在が確認されていた。

137億年前の宇宙創生から現在まで、宇宙の歩みを説明する理論を裏付ける最後の部品が、これでそろったことになる。

この発見は、CERNにある全周27キロ・メートルの円形加速器で成し遂げられた。建設費5500億円の巨大施設だ。真空に保ったパイプの中に、微粒子の陽子を光速に近いスピードで飛ばし、陽子同士を衝突させることができる。

これを1100兆回繰り返して衝撃で飛び出した破片を詳細に分析し、新粒子を99・99998%の確率で見つけたという。

東京大など16の大学・研究機関から日本人110人が参加し、分析などに活躍した。ヒッグス粒子の存在予言も、ノーベル物理学賞受賞者の南部陽一郎・米シカゴ大名誉教授の理論が基になった。

日本の貢献が誇らしい。

これからも探求は続く。実験を重ねれば新粒子の詳しい性質が分かる。そこから新たな理論が生まれるかもしれない。そう物理学者たちは期待している。

今の理論ではまだ、宇宙にある物質、宇宙を支えるエネルギーの4%しか説明できないからだ。さらなる発見へ、日本の研究者も挑戦してほしい。

昨年の東日本大震災と原子力発電所の事故以降、国内で科学技術に不信や不安を抱く人が増えている。文部科学省の調査では「人間は科学技術をコントロールできない」と考える人が10人中4人もいる。震災前の倍になった。

ヒッグス粒子の究明のような取り組みが、科学への夢を取り戻すきっかけになればいい。

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