露首相国後訪問 交渉の「再活性化」に逆行する

毎日新聞 2012年07月05日

露首相国後訪問 2島決着狙う戦略か

ロシアのメドベージェフ首相が3日、北方領土の国後島を訪問した。大統領だった10年11月に旧ソ連・ロシアの国家元首として初めて訪れて以来、2回目の訪問である。

5月にプーチン大統領の下で首相となったメドベージェフ氏は国家元首ではない。エリツィン政権時代の93年にも当時のチェルノムイルジン首相が択捉島を訪問した。だがメドベージェフ氏は前大統領であり、大統領時代の国後島訪問が「冷戦終結後最悪」と言われるまでに日露関係を悪化させた。その後、両国は関係修復に動き、6月の首脳会談で領土交渉の「再活性化」で合意したばかりだ。日本外務省が駐日ロシア大使を呼んで抗議したのは当然である。

プーチン氏は大統領就任前、「引き分け」という言葉を使って領土問題の決着に意欲を見せた。日本を含むアジア太平洋諸国との関係強化を優先課題に挙げてもいる。その中で期待を裏切るメドベージェフ首相の訪問が強行された真意を測りかねるというのが日本国民の思いだろう。

だが今回の訪問は決して首相のスタンドプレーではなく、プーチン大統領のシグナルも込められているとみるべきだ。ロシアは北方四島について「第二次世界大戦の結果、ロシアの領土になった」との立場だ。今回も「国内視察」の一環と主張している。プーチン氏は「平和条約締結後に歯舞群島、色丹島を日本に引き渡す」とした56年日ソ共同宣言の有効性を認めているが、これら2島への日本の「主権」については明言を避けている。残る国後島、択捉島については引き渡しに応じる姿勢さえ見せていない。これまでの発言から「2島は日本に引き渡す用意があるが、主権は引き続きロシアにある」というのがプーチン流「引き分け」の狙う決着とも読み取れる。

ただ北方四島は日本固有の領土だという日本の立場はロシア側も承知しており、ラブロフ外相も今月末に外相会談を行い「協議する用意がある」と確認している。訪問に抗議して交渉の窓を閉ざすべきではない。

プーチン氏のアジア重視は、大国としての地位を固めると同時に、アジアの活力を取り込みロシア極東を発展させる国家戦略に根ざす。9月にウラジオストクで開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議をその起爆剤としたい考えだ。新設の極東発展相ら3閣僚も同伴したメドベージェフ氏の北方領土訪問には「極東重視」という国内向けメッセージの側面もある。だが座視していては今後も閣僚らの北方四島訪問は続き、ロシアの実効支配はますます強まる。日本が流れを変えるには首相のリーダーシップによる明確な対露戦略の構築が求められる。

読売新聞 2012年07月05日

露首相国後訪問 交渉の「再活性化」に逆行する

ロシア新政権の対日姿勢は、決して好転していない。

それを前提に、政府は対露外交を練り直すべきである。

ロシアのメドベージェフ首相が、北方領土の国後島を訪れた。極東地域の視察の一環というが、「我々の古来の土地だ。一寸たりとも渡さない」と語っている。領土返還を求める日本を牽制(けんせい)するのが狙いだろう。

先月、野田首相とプーチン大統領が会談し、領土交渉の「再活性化」で一致したのは、一体何だったのか。日露が新たな関係を構築しようという矢先に、ロシアがいきなり日本の主張を一蹴する行為に及んだことは看過できない。

玄葉外相は、「日露の前向きな雰囲気作りに水を差す」と不快感を示した。政府がロシアに抗議したのは当然だが、訪問を察知しながら止められなかった点に、対露外交の弱体ぶりが表れている。

メドベージェフ氏の国後島訪問は大統領時代の2010年11月に続いて2度目だ。当時の菅政権は、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件を巡る対応で揺れていた。今回も民主党分裂の時期と重なった。

日本の政権の混乱にロシアがつけ込んでいるようにも見える。このままでは、インフラ整備や軍備増強で北方領土の「ロシア化」が進み、領土返還は遠のこう。

政権を立て直し、日米同盟を基軸とした外交体制の強化を図っていくことが重要である。

プーチン政権は、5月に極東発展省を新設するなど、極東地域の開発に一段と力を入れ始めた。

ウラジオストクで9月に開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を、アジア太平洋の国々からの投資を呼び込む好機と位置づけている。

日露首脳会談でもプーチン大統領は、野田首相に対し、「日露の潜在力に比べれば貿易額はまだまだ低い」として、日本企業の投資増大を望む意向を示した。

そう考えるのであれば、メドベージェフ氏の北方領土訪問のような挑発的な行動は、ロシアにとってもマイナスであり、自制すべきだっただろう。

液化天然ガス(LNG)などエネルギー分野での日露協力を拡大することは双方に利益となる。

経済力や軍事力を背景に急速に存在感を高める中国と向き合うためにも、日露の連携は重要だ。

両国間のトゲになっている北方領土問題をどう解決するか。

近く玄葉外相が訪露する。焦る必要はない。腹を据えて事態の打開に取り組まねばならない。

産経新聞 2012年07月08日

「再活性化」問題 首相はAPEC見送りを

6月中旬の日露首脳会談で、両首脳が一致したとされる北方領土交渉の「再活性化」という言葉について、藤村修官房長官が「使われてはいなかった」と訂正した。

長官は「実態と食い違っていることは全くない」と強調したが、会談直後にロシアのメドベージェフ首相が2度目の国後島の訪問を強行したことをみれば、会談成果の意図的な誇張と非難されても弁明はできまい。

首脳会談などの外交交渉に一定の秘密は必要だが、使われなかった言葉を「使った」と発表することは、日本外交への信頼を失墜させる深刻な問題だ。過去の政府発表にも疑義を抱かせる。ロシア側が領土交渉に前向きとの「幻想」を振りまき、国益も損なった。

民主党政権の外交姿勢にも問題が多い。政府は、メドベージェフ氏による北方領土再訪の観測が出た6月下旬以来、「日本の立場と相いれない」などとする懸念をロシア側には再三、伝えてきたとしている。しかし、現実には翻意させることはできなかった。見通しの甘さと無力をさらけ出した。

再訪後も、メドベージェフ氏は「ロシア固有の領土であり、一寸たりとも譲りはしない」「日本の反応などどうでもよい」などと挑発的発言を繰り返している。プーチン大統領の意向も背景にあるとみるべきだ。

終戦時の混乱に乗じて、ソ連が北方領土を「不法占拠」したのは歴史的事実だ。ところが民主党政権は、この「不法占拠」という言葉をあえて封印しているように見える。これでは、北方四島の返還など、到底かなわない。

ロシアの度重なる暴挙には断固たる対応が必要だ。2010年11月に、当時は大統領だったメドベージェフ氏が初めて国後島に足を踏み入れた際は、駐露大使を呼び戻した。なぜ、こうした措置を取ろうとしないのか。

9月にはウラジオストクでアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開かれ、野田佳彦首相が出席する予定だ。これに先立って、玄葉光一郎外相が訪露することで調整が進んでいる。

自民党の石破茂前政調会長は、いずれについても再検討するよう求めた。政府はこうした助言を踏まえ、対抗措置として首相のAPEC首脳会議への参加と外相訪露を見送るべきだ。座視すれば将来に大きな禍根を残す。

産経新聞 2012年07月04日

露首相国後訪問 ようこそ日本領土に再び

ロシアのメドベージェフ首相が国後島入りした。2010年11月に続く2度目の北方領土訪問である。

首相は択捉島を訪れるとの情報もあった。悪天候のため急遽(きゅうきょ)、国後に変更されたもようだが、今回は閣僚も引き連れている。日本固有の領土である北方四島の不法占拠を固定化する暴挙であり、断じて許すことはできない。

前回、メドベージェフ氏は大統領だったが、「双頭体制」を組むプーチン首相(当時)の意向に忠実に従っていたとの見方が大勢だ。大統領に復帰したプーチン氏が6年の任期を見据え、自らの決断で首相を派遣して日本側に揺さぶりをかけたといえる。

2日には、近年で最大規模となるロシア海軍のミサイル駆逐艦など26隻の艦隊が宗谷海峡を通過したことが確認された。サハリン近海では演習も行った。首相の北方領土訪問に合わせたのか。

プーチン氏は6月中旬、野田佳彦首相とメキシコで行った就任後初の首脳会談で、領土問題の議論を再び活性化することで一致した。わずか半月後の首相の国後訪問は、ロシアの姿勢が口先だけと受け取られよう。

役割を分担して硬軟両様のメッセージを発し、日本側の足並みの乱れを誘うプーチン氏ならではの双頭体制の手法が明らかになったともいえる。

プーチン氏は、信頼に基礎を置いた日露関係を構築する意欲など、まったくないのか。野田政権には、対露外交のあり方の再考を強く求めたい。

日本外務省は、9月にロシアが初のホストを務める極東ウラジオストクでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の成功に向け、自国開催時のノウハウを提供するなど前向きな姿勢を示してきた。こうした協力も堂々と踏みにじられた以上、日本としては従来の姿勢を凍結すべきだ。

前回のメドベージェフ氏の国後島訪問時のように駐露大使を日本に呼び戻したり、APEC首脳会議には岡田克也副総理を派遣したりするなど、抗議の意思を明確に示す行動が必要だ。

臆面もなく恫喝(どうかつ)という手段を使うロシアに、憤りとともに次の言葉を贈りたい。

ようこそ、日本固有の領土に再び。領土返還への国民の決意を改めて固めさせてくれた。

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