民主党の小沢一郎元代表ら衆参国会議員計50人が離党届を提出したことで、野田佳彦政権はダメージを受けた。だが、衆院離党者は38人にとどまり、民主党は過半数割れにならなかった。小沢氏の一連の行動に対し、国民が冷ややかに見ているからだ。
野田首相は早急に政権与党の態勢を立て直し、社会保障・税一体改革関連法案の早期成立に努めなければならない。
民主、自民、公明による3党合意は、日本の危機を深めている重要課題に与野党が協力して取り組む政策連合だ。
≪8割が新党に期待せず≫
首相はこの枠組みを生かし、喫緊の諸懸案の解決を目指すべきだ。「決められない政治」を前に動かし、具体的な実績を上げていってほしい。
今回の小沢氏の動きを見れば、過去に旧新生党や旧自由党など新党を作っては壊してきたことがよみがえる。「またか」というのが率直な印象だろう。
小沢氏とその集団の今後には不透明な部分もあるが、新たな政界再編成の主導権を握っているとは言い難い。
むしろ、自民党時代から続いてきた、自らの権力を守ることを最優先させる「小沢政治」は、今回の離党劇で完全に終焉(しゅうえん)を迎えたのではないか。
小沢氏は2日夕の記者会見で「もはや野田首相の下での民主党は、政権交代を成し遂げた民主党ではない」と野田政権と真っ向から対決する姿勢を示した。
だが、産経新聞社とFNNの合同世論調査では小沢氏による新党への期待は11%にとどまり、「期待しない」が87%に上った。
とくに小沢氏の造反行動について「国民生活を第一に考えた」と思っている人は2割にすぎず、7割以上がそう受け止めていない点に注目したい。
小沢氏は3党合意を経て、最低保障年金創設などマニフェスト(政権公約)の目玉が後退したと批判し、「民主党は嘘つきと言われる」と首相の増税方針を厳しく批判した。
だが、問われなければならないのは、小沢氏も責任を持つマニフェストで、無駄の削減で16・8兆円の財源を生み出すとうたいながら実現できなかったことだ。
その十分な説明もしないままに、小沢氏は改めて最低保障年金や後期高齢者医療廃止など莫大(ばくだい)な費用を要し、実現が困難な政策を掲げようとしている。
小沢氏は消費税増税に加え、原発問題も新党で取り上げる考えを示した。小沢氏の支持議員らは野田政権による大飯原発3、4号機の再稼働決定を批判し、小沢氏もそうした議員を評価している。
しかし、「反原発」を叫ぶだけでは無責任だ。電力危機や産業空洞化への対処なども合わせ政策を構築するのでなければ、国民の生活を守ることにはならない。
≪「政治の分岐点」にせよ≫
小沢氏は選挙対策などの面で民主党を政権交代に導いた功労者と位置づけられてきた。大量当選した新人議員の多くが小沢氏を支持し、党内で100人を超えるグループを形成してきた。
それでも衆院本会議での造反から1週間、態度を決めきれず、2日の離党者は50人にとどまった。当初、離党届に名を連ねた議員のうち2人が離党を否定するなど結束のほころびも目立っている。
小沢氏は政治資金規正法違反事件で強制起訴され、1審で無罪判決を受けたものの控訴審を控えている。
「反増税」で一致する他の政党との連携なども模索するのだろうが、刑事裁判を抱えながらの活動がどのような影響を受けるのかは不透明だ。
民主党からの大量離党、党分裂は、小沢氏らの新党の動向にとどまらず、政界に新たな再編の動きをもたらす可能性を示した。
首相は2日の党役員会で、大量離党の事態について「日本政治の分岐点になる」と語った。政治の信頼回復への真の分岐点とするには、主要政策をめぐり異なる政党が新たな枠組みを目指す動きを、さらに加速すべきである。
すでに動き出した3党による政策連合を一歩として、こうした再編の実現を期待したい。政策本位の連合を通じて国民に多くの選択肢を示し、国民の信を問うことこそが国政の閉塞(へいそく)感打破にもつながるのではないか。
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