ユーロ首脳合意 ドイツの譲歩は前進だ

朝日新聞 2012年07月01日

EU首脳会議 統合強化のステップに

欧州連合(EU)とユーロ圏の首脳会議が、再燃していた債務危機に対して新たな金融・財政政策を打ち出した。

ドイツやフランスをはじめとする加盟国が、深刻な意見対立を乗り越えて合意に達した意義は大きい。これを契機に、欧州統合の求心力を取り戻し、危機の完全収束に努めてほしい。

合意は市場の予想を超える内容だった。経営危機に陥った銀行への資本注入について、欧州の救済基金が、その国の政府を経由せず、直接行えるようにする。金利の割高な国債の買い入れにも柔軟に対応する。

これによってスペインの銀行への資本注入の際、政府債務の肥大化が避けられる。南欧諸国の国債金利の上昇にも歯止めがかけられそうだ。

ギリシャを震源とする債務危機に対し、EUは国際通貨基金(IMF)や日本と連携して様々な支援策を取ってきた。それでもユーロ圏の解体論がくすぶり続けている。

ユーロは99年に導入され、ドルに対抗する主要通貨に育っている。しかし通貨統合を欧州の財政・政治統合につなげるための根本的な方策が取られることはなかった。危機発生以来、スペインやイタリア、ギリシャなど、南欧諸国の経済は疲弊の一途をたどっている。

今回、ユーロ圏の統一した銀行監督機関を整備することで合意したのは前進だ。支援の負担増を懸念するドイツのメルケル首相が要求していたものだ。ユーロ圏経済の信頼性に対する金融市場の疑念を解消することに役立つだろう。

ただ、これも目の前の危機回避策であって、中長期的な課題が解決されたとは言い難い。

欧州経済の活性化や構造改革は急務だ。日本円で約12兆円に及ぶインフラ整備計画を効果的に使って、フランスのオランド大統領らが唱える成長と雇用に結びつけねばならない。

長期的な課題は明らかだ。各国の国債を共同債に統一する。各国の財政運営にEUも関わっていく。銀行監督だけでなく、預金保護や銀行救済も一本化する銀行同盟を作る。

EU首脳会議のファンロンパイ常任議長らが提案したビジョンの実現に向けた工程表を早急に練り上げてほしい。

半世紀余りの統合の歴史は危機の連続だった。それを克服する努力の中で欧州は、将来への悲観論をはねのけ、一つずつハードルを越えてきた。

今回の合意で気を緩めてはならない。統合強化に向けて欧州は前進を続けてもらいたい。

毎日新聞 2012年07月01日

ユーロ首脳合意 ドイツの譲歩は前進だ

ユーロ危機対策を議論する欧州の会議が市場を失望させるのはいつものことだ。28、29日の欧州連合(EU)首脳会議も、重要課題は先送りし、「域内経済の成長支援」あたりでお茶を濁すことになるのだろうと思われていた。

ところが予想は良い方向に間違い、世界各国の市場が沸いた。ユーロ圏の首脳が、より深い統合へと踏み出す意思をかつてなく鮮明に示したからだ。

まず、スペイン危機の焦点となった金融機関対策で重要な前進があった。国ごとに行われている銀行監督を欧州中央銀行(ECB)に一元化し、経営難に陥った金融機関の救済をEUの基金(欧州安定メカニズム<ESM>など)が直接行えるようにする、というものだ。

最近合意されたスペイン支援も含め従来の仕組みでは、基金のお金が政府経由で投入されるため、支援するほど国の借金を増やし、国債価格の下落(利回りの上昇)要因となっていた。一方で銀行はその国債を大量に保有しており、価格下落で不良債権が一段と膨らみ、経営が圧迫されるという悪循環を招いていた。

銀行に投入した資金が返済不能になればユーロ加盟各国の国民負担となる。このためドイツが反対していたが、銀行監督を一元化し、まず経営難に陥らないよう監視の目を光らせる体制を築く条件で合意に至った。国の主権を一段と「欧州」に委ねる統合の深化であり、評価したい。

首脳会議はまた、ESMやその前身の基金を活用し、債務危機に陥りかけた国の国債を買い支えることでも合意した。従来の支援が緊縮財政など条件を巡る交渉で時間を取られていたのに対し、国債購入は臨機応変に行える利点がある。

首脳会議の成果に市場は驚き、スペインやイタリア、アイルランドの国債が急騰(利回りは急落)、ユーロ相場や各国の株式市場も大幅に上昇した。

イタリア、スペイン両首脳の強い要求にドイツのメルケル首相が異例の譲歩をした形だ。ドイツ国内では首相への風当たりが強まっているようだが、正しい譲歩だったことを市場の反応が何よりも物語っている。

ギリシャの救済計画見直しからユーロ共同債など一段の財政統合まで、難題はまだ多い。さらに国家主権を委譲することに対して各国内で反発が強まるかもしれない。

しかしわずか2週間ほど前まで、「ユーロ崩壊」が目前の可能性として語られていたのである。ユーロ危機は克服可能だという希望が生まれたことは大きな収穫だ。これを自信に変え、残る課題の解決に新たなスタートを切ってもらいたい。

読売新聞 2012年07月01日

欧州首脳会議 今度こそ負の連鎖を断ち切れ

欧州の財政・金融危機の封じ込めへ、ユーロ圏が新たな対策を打ち出したのは一歩前進だ。

欧州は今度こそ、迅速に行動し、「負の連鎖」を断ち切らねばならない。

欧州連合(EU)のユーロ圏首脳会議は、域内の金融安定網である欧州安定メカニズム(ESM)が、経営不振に陥ったスペインなどの銀行に対し、資本を直接注入する危機対策で合意した。

域内の銀行監督制度を年内に一元化させるほか、信用不安がくすぶるスペイン、イタリアなどの国債をユーロ圏全体で買い支える方向でも一致した。

これを受けて、欧米などの株式市場で株価が上昇し、通貨ユーロが買い戻された。スペインなどの国債利回りも低下した。市場が事前予想を上回る合意内容をひとまず評価したことを示す。

欧州危機は、震源地のギリシャから、不動産バブル崩壊で銀行経営が悪化したユーロ圏4位の経済大国であるスペインにも飛び火し、スペイン政府がEUに金融支援を求める事態に発展した。

日米など主要20か国・地域(G20)に促され、ユーロ圏はスペインの銀行を資本増強する支援方針を決めた。だが、ESMからいったん政府に融資したうえで銀行に資本注入する方式だと、政府債務が増えてしまうことが難点だ。

これでは財政悪化が止まらず、信用不安が拡大する悪循環が加速しかねない。

銀行を直接支援する今回の合意は、金融と財政の危機の連動を食い止める妥当な措置と言える。

ドイツは各国政府が債務返済に責任を負うべきだとし、銀行への直接支援に反対だったが、土壇場で軟化した意義は大きい。

財政再建を徹底するだけでは景気悪化を招く。首脳会議が、インフラ整備などの1200億ユーロ(12兆円)の経済成長促進策を盛り込んだ「成長・雇用協定」で合意したことも評価できる。

しかし、通貨は共通なのに財政と金融行政は各国でばらばらという根本的な問題は残る。危機収束への課題はまだ山積している。

銀行の資本増強や国債購入などの具体的な方法は不透明だ。財政統合の柱となる「ユーロ共通債」構想にドイツが依然反対し、フランスなどとの隔たりは大きい。

金融行政の一本化についても、預金保険制度や銀行の破綻処理にまで踏み込む必要がある。

欧州が財政・金融統合を深化させていく詳細な「行程表」を作成し、実現することが問われる。

産経新聞 2012年07月01日

EU首脳会議 財政統合へ具体化を急げ

ユーロ危機収束の道筋を示せるのか、世界が注目した欧州連合(EU)首脳会議が閉幕した。

首脳らは1200億ユーロ(約12兆円)規模の景気刺激策を含む成長・雇用協定を採択し、ユーロ圏銀行の監督一元化の枠組みの年内具体化で合意した。経済統合深化に踏み出す決意も示した。これらは危機回避への覚悟が伝わる内容と評価できる。

ギリシャ債務危機の再燃がスペインの銀行経営を直撃し、信用不安の拡大を招いた。ユーロを揺るがす危機の連鎖を断ち切る最低条件とされた「成長戦略」「銀行同盟」「財政統合」の3つで一定の回答を出したといえよう。

とりわけ市場が好感したのは、銀行を救済するための金融安定網からの資本注入は「政府経由」とされていた案を、直接銀行へ注入できるように変更したことだ。

従来案では、スペインの銀行支援にEUが資金を出す先は同国政府に限られ、「結局財政は悪化する」とみられたのである。

ところが直接支援に抵抗していたドイツが譲歩し、市場は驚きをもって受け止め、ユーロ高と株価上昇につながった。このように首脳会議では、財政規律一辺倒だったドイツの歩み寄りが目立った。危機をこれ以上深刻化させぬとの意思の表れであり歓迎したい。

ただ、ユーロ危機の本質は同一通貨を発行し、金融政策を一本化しながら、財政政策や金融行政は各国個別に行っていることだ。ここにメスを入れない限り、今回の成果も目前の危機をやり過ごす時間稼ぎで終わる。市場も合意事項の負の部分に着目するだろう。

例えば、ユーロ共同債導入への具体的プロセスは明示できなかった。銀行同盟を構成する「監督」「破綻処理の枠組み」「預金保護」のうち、「監督」以外は事実上の先送りだ。ユーロを揺さぶる材料には事欠かない。

銀行同盟や、財政統合の核となる「財政同盟」へとさらに踏み込むとともに、これらと表裏一体となるユーロ共同債導入へ向けて合意を広げるべきだ。

合意を評価した20カ国・地域(G20)も警戒を緩めてはならない。ギリシャ再選挙前後に日米欧の中央銀行は厳戒態勢をとった。日銀はじめ、必要なときに量的緩和などで市場に大量な資金供給を実施するなど混乱阻止をためらうことは許されない。

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