虚偽報告書処分 身内への甘さが招く検察不信

朝日新聞 2012年06月29日

検事の処分 国民の不信がふくらむ

この説明と処分に、果たしてどれだけの国民が納得するだろうか。検察は過ちを犯したと言わざるを得ない。

小沢一郎氏の元秘書を取り調べた検事が、実際にはなかったやり取りを捜査報告書に記載した問題で、最高検は文書偽造などの罪での起訴を見送った。

「約4カ月前の調べのときと思い違いをした」という弁明をうそとは言い切れない――との理由だ。ただし、不適正で軽率な行為だったとして検事は減給処分を受け、辞職した。

報告書の内容は小沢氏公判で明らかになり、東京地裁は「記憶の混同との説明はにわかに信用できない」と判断している。

作成の日付は聴取したその日で、元秘書との問答が生々しく書かれている。本当に弁明どおりだとしたら、そんな取り違えをする人物に長い間、検事としての権限を委ねてきたという別の問題が生じる。

起訴して刑事責任を問うことがすべてではないにしても、故意かミスかという事実の認定にこれほどの重大な疑念が残る。いきおい、それを前提になされた当時の上司に対する処分も、再発防止策も、説得力を欠く。取り組んできた検察改革にも大きな疑問符がつく。

この報告書は、小沢氏を強制起訴するかどうかを議論した検察審査会に出された。起訴議決を支える証拠はほかにもあったとはいえ、「その結論を導き出すよう仕組んだのではないか」と疑いの目が向けられた。

裁判にせよ検察審査会での審議にせよ、適切に集められた証拠類が、適切に示されてはじめて、適切な判断ができる。当たり前のことを再び確認しなければならないとは、情けない。

ことは一人の検事、あるいは一部の上司に責任を押しつけて済む話ではない。検察当局は昨年1月の時点で事態を把握したのに、公表することなく、「後で問題になったら対応すればいい」との姿勢をとった。

大阪地検での証拠改ざん事件を受けて、検察が危機に直面していた時期だ。荒立てず小さくおさめようという意識が、全体を覆ってはいなかったか。そのことが、今回の結論にも影を落としているように見える。

重ねた判断ミスは、国民と検察の間にあった溝を埋めるどころか、むしろ広げ、深める方向に作用するといえよう。

政界をはじめ、外部からの不当な介入をはねのけるには、検察という組織に対する国民の信頼と支持が欠かせない。そのよって立つ基盤を、検察自らが掘り崩している。

毎日新聞 2012年06月28日

虚偽記載処分 検察改革はまだ途上

小沢一郎・民主党元代表の政治資金規正法違反事件に絡み、東京地検特捜部作成の捜査報告書に虚偽の記載がされていた問題で、関係者の刑事処分と懲戒処分が公表された。

虚偽有印公文書作成容疑などで告発されていた作成者の田代政弘検事、作成を指示していた佐久間達哉・元特捜部長らについて、検察当局は不起訴処分とした。

一連の経緯を振り返ってみたい。検察審査会は10年4月、陸山会事件で地検が不起訴とした元代表について「起訴相当」とする最初の議決をした。それを受け、元秘書で衆院議員、石川知裕被告に対する田代検事による再聴取が翌月、行われた。その後、田代検事が、元代表の事件関与を認めた石川被告とのやりとりについて実際にはない文言を記載した報告書を作り、2度目の審査会に提出した。そして、議決を経て元代表は強制起訴されたのである。

元代表側は検察が審査会を誘導したと公判で強く批判した。また、元代表に無罪を言い渡した4月の東京地裁判決は、事実に反する内容の報告書が作られたと認定し、経緯の調査を検察に求めていた。

27日に検察が公表した調査結果では、確かに報告書に不正確な記載はあったが、他の取り調べ時などで同趣旨のやりとりはあったと結論づけた。従って、田代検事が思い違いをしていた可能性は否定できず、故意性の認定は難しいというものだ。

事件処理を巡り、小川敏夫前法相が検察の捜査姿勢に疑念を持ち、指揮権の発動を計画したことを明らかにした。「公益の代表者」である検察が身内に甘い処分をすることが許されないのは言うまでもない。

一方で、捜査や公訴提起が「法と証拠」に基づくのは刑事裁判のルールだ。検察審査会への申し立てがあれば、今回の処分の是非について市民目線でチェックを受ける。検察はこれまで以上に分かりやすい説明を心がけねばならない。

調査では、検事と上司の意思疎通が不十分だったことなどを指摘し、審査会の目を曇らせないための具体策も盛り込んだ。

また、人事上の処分として、田代検事を減給6月とした。当時の検事正や佐久間元部長ら上司4人の監督責任も問うたのは当然だ。

大阪地検特捜部の証拠改ざん事件以後、検察に対する国民の目は厳しい。捜査や公訴提起はもちろん、再審裁判への対応など、検察権の行使は、個人の「基本的人権」と真っ正面からぶつかり得る。それだけに、個々の職員の自覚はもちろん、組織として落ち着いた適切な対応を取る体制が求められる。検察改革の原点を改めてかみしめてもらいたい。

読売新聞 2012年06月28日

虚偽報告書処分 身内への甘さが招く検察不信

検察が身内に対して厳正な捜査をしたとは到底言い難い。

民主党の小沢一郎元代表が政治資金規正法違反に問われた陸山会事件で最高検は、事実と異なる捜査報告書を作成した元東京地検特捜部検事を不起訴とした。

法務省は併せて、この検事を減給、上司だった元特捜部長らを戒告の懲戒処分とした。処分を受けて、検事は辞職した。

報告書の重要性を考えれば、検察の対応は問題だ。減給にとどめた処分も甘いのではないか。

報告書は、特捜部が小沢氏の秘書だった石川知裕衆院議員を再聴取した内容をまとめたものだ。

捜査段階で小沢氏の関与を認めた理由について、石川議員が語ったかのような記載があった。報告書はその後、検察審査会に送付され、小沢氏の強制起訴を決めた議決の判断根拠の一つとなった。

ところが、再聴取では、報告書にあるような発言はなかった。

最高検は、虚偽有印公文書作成容疑などで告発された元特捜検事の行為について、「意図的なものではなかった」と結論づけた。元特捜検事が「過去の取り調べのやりとりと記憶が混同した」と説明したことを根拠にしている。

だが、報告書は一問一答形式で詳細に書かれており、釈明に説得力を欠くのは明らかである。

そもそも、検察審査会制度は、一般市民から選ばれた審査員が検察の提出証拠や資料に基づき、不起訴の是非を審査するものだ。その判断材料を(ゆが)めたのは、看過できない行為と言える。

この問題では、小川敏夫前法相が退任記者会見で、検事総長に積極捜査を促す指揮権の発動を検討していたことを明かした。

指揮権は、検察の暴走に歯止めをかけるため、検察庁法で法相に与えられた権限だ。国の安全保障にかかわる重大事件などでの発動が想定されている。

安易な発動は司法への政治介入を招きかねず、過去に発動された例は1度しかない。今回のケースが発動を検討するほどの事件だったかどうかは疑問が残る。

ただ、法相に捜査が消極的だと見られたことについて、検察は猛省しなければならない。

最高検は、検察審の議決を受けた後の再度の取り調べでは、録音・録画を実施するなどの再発防止策を公表した。

検察不信の払拭には、公益の代表者として適正な捜査に徹する意識を検事一人ひとりに徹底させることが何より重要だ。

産経新聞 2012年06月29日

虚偽報告書処分 自ら律し社会悪に対峙を

身内に甘いと受け取られても仕方がないのではないか。検察当局は猛省のうえで、信頼の回復に全力を尽くさなくてはならない。

陸山会事件の捜査をめぐり、元東京地検特捜部の検事が虚偽の捜査報告書を作成し、虚偽有印公文書作成罪で告発された問題で、最高検は検事を嫌疑不十分で不起訴処分とした。この検事は減給の懲戒処分となり、辞職した。

検事が民主党元代表、小沢一郎被告の元秘書、石川知裕衆院議員を聴取して作成した虚偽の捜査報告書は、2度目の検察審査会に提出され、小沢被告の強制起訴議決の判断材料となった。

だが、小沢被告を無罪とした東京地裁の判決は、検察による虚偽報告書の作成や取り調べ手法を厳しく批判したうえで、小沢被告が政治資金収支報告書の簿外処理について元秘書から報告を受け、了承していたことを認定した。

無実の人を罪に陥れた大阪地検特捜部による郵便不正事件での証拠改竄(かいざん)と、同列に論じることは避けるべきだろう。

それでも、起訴権限という強力な権力を持つ検察は、身内に厳しくあるべきだった。

不起訴処分は今後、検察審査会の場でその適否を審理される可能性が高い。その際、検察には、すべての証拠、資料を遺漏なく提出することが求められる。

検事に対する減給100分の20(6カ月)という懲戒処分は軽すぎたのではないか。

組織的関与を否定したうえで、上司4人を監督責任を怠ったとして戒告や訓告、厳重注意とした処分は適正だったのか。

郵便不正事件や、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件の不可解な処理で、検察は国民の厳しい視線にさらされている。不信の払拭に向けて、厳正すぎるほどの姿勢をみせるときではなかったのか。

政治不信に加え検察不信まで膨らんでは、社会の安定はおぼつかない。検察は強く正しい組織として再生しなくてはならない。

最高検は昨年9月、「検察の理念」を策定した。そこには、検察官、検察職員の一人一人に向けて「常に公正誠実に、熱意を持って職務に取り組まなければならない」とうたわれている。

まず組織が、その範を垂れるべきだろう。自らを律し、敢然と社会悪に対峙(たいじ)することだ。

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