電力株主総会 消費者本位への転換に

朝日新聞 2012年06月28日

東電国有化 まず企業風土を改めよ

東京電力の実質国有化が、株主総会で正式に決まった。下河辺和彦会長、広瀬直己社長のもと、新体制による経営がスタートする。

しかし、柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働などを前提に、収支改善を目指す事業計画には無理がある。早晩、抜本的な見直しが避けられない。

こうしたなかで、新生東電に求められるのは、原発事故の賠償を誠実に行うこと。そして、電力改革を先取りした事業再構築を進めることである。そのためには、企業風土の改革が不可欠だ。

新しい東電はカンパニー制に移行し、火力発電や送配電を分社化する。東電に余力がないため、新規事業者やファンドとの共同運営をしやすくする。

発送電の分離をはじめとする今後の電力改革を考えれば、望ましい体制だ。国費を入れる以上、効率化はもちろん、経費など部門ごとの情報公開も徹底しなければならない。

なにより経営陣に自覚してほしいのは、国民が「東電は本当に変わるのか?」と刺すような目で見ていることだ。

賠償交渉の遅れ、料金値上げでの不十分な説明、責任転嫁に終始する事故調査報告書――。事故から1年3カ月、東電の企業体質にはほとんど変化が見られない。

民間の事故検証委員会も、事故に至る伏線として、独占に甘えた業界体質や縦割りの業務体制、トラブルを隠蔽(いんぺい)しがちな企業風土を指摘している。

社員一人ひとりや個々の現場に、変化の芽がないわけではない。自己防衛に走る旧経営陣のもとでは身動きが取れなかったといえる。トップの姿勢、とりわけ東電内部から昇格した広瀬社長の責任は重い。

新設される経営改革本部は、原子力損害賠償機構からの出向者と東電社員が半々、約30人の混成チームだ。志ある中堅や若手、外部の人材を登用し、改革の先頭に立たせてほしい。

国は、東電にとって飛び抜けた大株主であり、巨額の資金提供者となる。一方で、原発を推進してきた当事者として共同責任も負う立場にある。

賠償や除染などにかかる費用を考えれば、国が支援したお金を東電に長期にわたって返済させていく今の枠組みは虚構にすぎない。東電の温存は電力市場の活性化も阻害する。

国は事故の後始末で国民負担が避けられない現実を直視し、東電処理の新たな枠組みづくりと電力改革に腰を据えて取り組まなければならない。

毎日新聞 2012年06月28日

電力株主総会 消費者本位への転換に

東京電力など電力大手9社が、一斉に株主総会を開いた。実質国有化される東電や大飯原発を再稼働する関西電力などには、「脱原発」や「経営の透明化」を求める株主提案が出され、長時間にわたって激しい議論が交わされた。

各社への株主提案は、いずれも受け入れられなかった。しかし、提案の背景には、電力大手に対する国民の不信感がある。各社は株主の声を謙虚に受け止め、経営改革に取り組む必要がある。

東電の総会には、筆頭株主の東京都から猪瀬直樹副知事が出席し、一方的な値上げ要請を批判した上で、一層の合理化を要求した。都は「経営の透明性確保」「設備投資に競争原理の導入」なども提案した。

東電は、福島第1原発の事故に伴う損害賠償への対応や電気料金の値上げなどをめぐって、「官僚的」「独善的」との批判を浴びてきた。都の提案は、そうした国民の声を代弁するものといえるだろう。

しかし、金融機関などの主要株主が経営側を支持したため、提案はいずれも否決された。

一方で、公的資金による1兆円の資本注入や経営陣の刷新は承認された。国民の負担で、再建に取り組むからには、地域独占にあぐらをかいた経営は許されない。

迅速で正確な情報発信などで経営の透明性を高めたり、競争によって電気料金の抑制に努めたりすることは当然の責務だ。否決されたとはいえ、都の提案の精神を尊重し、消費者の利益に最大限配慮する経営を実現すべきだろう。

関電の総会には、筆頭株主である大阪市から橋下徹市長が出席した。同市は「速やかに全原発を廃止する」との項目を定款に盛り込むよう提案した。否決されたが、原発再稼働をめぐる質問が相次ぎ、総会は過去最長の5時間半あまりに及んだ。

他の電力各社の総会でも「脱原発」を求める株主提案が出された。こうした提案は、福島第1原発の事故以降、国民の間で原発の安全性に対する不安や、原発を運営する電力大手への不信が募っていることの反映といえる。

原子力政策に対する政府の方針が定まらないこともあって、そうした不安や不信は一段と高まっているようだ。各社とも、安全性の確保なくして原発再稼働は認められないことを改めて肝に銘じる必要がある。

政府は現在、電力大手による地域独占に風穴を開けるための電力制度改革の検討を進めている。電力会社の改革は急務といえる。各社は今回の総会で投げかけられた株主の問題提起を、消費者本位の経営に転換する契機として生かすべきだ。

読売新聞 2012年06月28日

電力株主総会 批判を糧に信頼回復に努めよ

原発を有する9電力会社の株主総会が開かれ、株主から経営改革を求める声が相次いだ。

東京電力の福島第一原子力発電所事故を受け、電力会社への風当たりは強い。

猛暑が近いのに、関西電力の大飯原発以外は再稼働のメドが立たず、電力供給に不安がある。

電力各社はこうした現状に対する株主の批判を真摯(しんし)に受け止め、経営改革に生かすべきだ。

東電の株主総会は約4500人が出席し、昨年並みの5時間半というロングラン総会となった。

取締役選任など会社の議案は可決され、退任する勝俣恒久会長の後任に原子力損害賠償支援機構の下河辺和彦・前運営委員長が就くなどの新体制が決まった。

1兆円の公的資金による財務強化に必要な定款変更も了承され、実質国有化へ道筋がついた。

新生・東電は経営再建を図る総合特別事業計画を着実に実行し、廃炉と損害賠償、電力安定供給の責務を果たさねばならない。企業体質の抜本的な改善を図ることが求められよう。

東電は損害賠償の手続きで分厚い請求書類を送りつけ、被害者を困惑させた。「値上げは権利」という西沢俊夫社長の昨年末の発言も強い反発を招いた。家庭向けの料金値上げは、実施できる見通しがまだ立っていない。

「独占企業のおごり」と言われても仕方のない無神経な対応を、繰り返さないことが大事だ。

東電の総会では、大株主の東京都が「顧客サービス第一を使命とする」との規定を定款に盛り込むよう提案した。関電では筆頭株主の大阪市が、徹底した情報開示などを求める株主提案を行った。

これらの提案はいずれも否決されたが、電力各社は利用者軽視や閉鎖的な経営への批判を、重く受け止めるべきだろう。

「脱原発」を求める株主提案が相次いだ。中でも大阪市が関電に「速やかに全ての原発を廃止する」よう提案したのは問題だ。総会で橋下徹市長は、原発ゼロを想定した経営への転換も求めた。

電力の大消費地である大阪市が率先して「脱原発」を主張するのは、無責任ではないか。

エネルギーの安定供給を図る上で、原発は基幹となる電源だ。関電を含む全ての「脱原発」提案が否決されたのは当然である。

着実な原発再稼働に向けて最も重要なのは、安全確保と信頼回復だ。電力各社は、原発の安全管理と適切な情報開示の徹底に努めなければならない。

産経新聞 2012年06月28日

電力株主総会 「原発廃止」否決は当然だ

東京電力や関西電力など電力9社の株主総会が開かれ、「脱原発」を求める一部株主からの提案はそろって否決された。安定的な電力供給を果たすには原発が不可欠との判断を下したものだ。一時的なムードに流されなかった株主の冷静な姿勢を評価したい。

今年の電力株主総会は東京都や大阪市などの自治体が大株主として経営改革を迫る議案を提案して注目された。

だが、自治体と電力会社に求められているのは、安定株主と地域経済の担い手という共存共栄の関係だ。いたずらに対立するのではなく、地域の発展などで建設的な議論を進めてほしい。

関電の総会では「全原発廃止」を株主提案した大阪市の橋下徹市長自らが出席し、「新たなエネルギー供給体制を目指してほしい」と訴えた。大阪市は原発廃止までの時期限定の運転や国からの天下り受け入れ禁止も求めた。

これに対し、関電は「今後、相当の原発が稼働しないと継続的な経営は難しい」と回答した。大飯原発3、4号機が順調に再稼働しても、今夏の関西圏の電力不足は解消されない。

電力会社に対し家庭や企業への安定した電力供給を促すべき自治体首長が「原発ゼロ」を求めることは妥当だろうか。原発は国のエネルギー政策の根幹を占め、国の繁栄と安全に直結する。一自治体の判断だけでは解決しない問題だからだ。株主の多くが提案の否決に回ったのは当然だった。

東電の総会では、国から1兆円の資本注入を受けて実質国有化されることが正式に承認された。国有化を柱とする東電の総合特別事業計画では、経営基盤を安定化させるため、停止中の柏崎刈羽原発を来年度に一部再稼働させることも盛り込まれている。新たに筆頭株主となる政府は、再稼働を主導する重大な責任がある。

建設的な提言もあった。筆頭株主の東京都を代表し、猪瀬直樹副知事は「顧客第一」を定款に掲げるよう求めた。提案は否決されたが、公的資金が投入される以上、顧客志向や経営の透明性向上は当然だ。資産売却など一段のリストラにも取り組まねばならない。

全原発の停止で電力会社の経営は火力燃料費負担で圧迫されている。経営基盤の確立は安定した電力供給の要だ。そのためにも原発の再稼働は欠かせない。

朝日新聞 2012年06月26日

電力株主総会 自治体の提案を生かせ

原発をもつ9電力会社の株主総会が27日に開かれる。

注目は、株を保有する自治体が議案を出した関西電力と東京電力だ。関電の筆頭株主である大阪市の橋下徹市長ら自治体の首脳が総会に出席し、提案の内容を説明する。

大消費地の代表が直接、電力会社の経営にものをいう貴重な機会だ。機械的な議事進行ではなく、主張をぶつけ合う緊張感のあるやりとりを期待する。

関電には大阪、神戸、京都の3市がいずれも脱原発を提案している。

大阪市は「可及的速やかな全原発の廃止」、京都、神戸両市は「原発に依存しない持続可能な電力供給体制」という表現で定款の変更を迫る。

関電は株主に送った招集通知で「日本のエネルギー自給率は4%であり、化石燃料への過度の依存はリスクがある」と反対姿勢を示している。

株式の3割を占める金融機関も、原発を動かさなければ赤字が続き、配当減は避けられないため、反対する見通しだ。

しかし、3市で400万人をこす有権者の代表からの提案は重い。

原発に依存しない社会へ向けて、経営の転換を求める強い世論があると受けとめるべきだ。電源の多様化は中長期的な経営体質の強化につながり、株主利益にもつながる。

さらに3市は、経営の透明性確保や役員報酬の個別開示を共同提案したほか、発送電分離を求める議案もある。いずれも利用者の視点に立った主張だ。

議案の採否にかかわらず、関電には提案や総会での意見を経営に生かす責任がある。

反対する機関投資家も、社会が注視していることを強く意識してほしい。

東電の総会には、東京都の猪瀬直樹副知事が出席する。

猪瀬氏は東電の値上げをめぐってファミリー企業の問題を指摘したり、都として中部電力に電力供給を求めたりと、「脱東電」をはかってきた。

顧客サービスを使命とする経営理念を総則に盛り込むことなど4議案を提案し、他の株主にも賛同を呼びかけている。

議案自体は否決される公算が大きいが、今総会で東電を国有化し、内部から改革を進めたい国としては、「敵」にしたくない存在でもある。

福島第一原発の事故以降、電力各社の安全対策や需給見通しに各地で疑問の声があがった。株主総会を、電力会社が生まれ変わるきっかけにしなければならない。

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