エジプト大統領選で、イスラム主義組織「ムスリム同胞団」が擁立したモルシ氏が当選した。
中東・北アフリカ地域の大国エジプトの国民が「アラブの春」を経て、初めて自由選挙で大統領を選んだことは、歴史的な重みを持つ。
だが、エジプトの民主化が成就するかどうかは依然、不透明だ。イスラム主義と民主主義に親和性がないだけではない。暫定統治にあたる軍最高評議会が、実権を手放そうとしていないからだ。
モルシ氏が、軍との対立を回避し、どこまで民主化を進められるかについては、不安も大きい。
モルシ氏の得票率は約52%で、対立候補のシャフィク元首相とは僅差の勝利だった。ムバラク前政権崩壊後のイスラム主義台頭の潮流は、大統領選でも変わらなかったが、国民の半数近くはなお同胞団への不安を持っている。
当選後、モルシ氏は「すべてのエジプト人のための大統領になる」と宣言して、世俗派に配慮する姿勢を強調した。「軍に敬意を持っている」とも述べた。
「イスラム主義か、世俗主義か」という二極化を克服したい、という意向の表明だろう。
だが、実現は茨の道である。
何より、大統領権限が軍最高評議会によって大きく制限されている。支えてくれる基盤も弱い。
軍最高評議会は、同胞団系が最大勢力を占めた人民議会を解散した。暫定憲法に相当する憲法宣言の改正を発表し、立法権や憲法起草委員の任命権を握った。憲法制定過程に介入できる内容だ。
実質的に民政移行を大幅に遅らせる動きである。
ただ、新憲法制定の難航の一因は、イスラム主義勢力が、議会による起草委員会メンバーの円滑な選定に失敗したことがある。
新憲法の早期制定に向け、イスラム主義勢力と軍が歩み寄ることができるかどうかが、今後の民主化の進展を左右しよう。
エジプトの経済状況は深刻だ。昨年の政変による混乱は、主要産業である観光を直撃し、外国からの投資が冷え込んだ。外貨準備高も急減した。軍政は、支援を受けるため、国際通貨基金(IMF)と協議を続けている。
治安を回復し、国際的な支援を受け、経済を立て直すためにも、大統領と軍の協力は不可欠だ。
長期独裁政権が崩壊したアラブ諸国で、イスラム主義勢力の台頭が著しい。はたして民主化は進むのか。モルシ政権の今後は、地域の将来を占う重要な試金石だ。
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