プルサーマル 課題視野に安全第一で

朝日新聞 2009年11月06日

プルサーマル 運転は厳しい目のもとで

国内初のプルサーマルが、いよいよ動き出した。

原発の使用済み燃料から得られるプルトニウムをウランと混ぜてMOXという燃料をつくり、これを普通の原発で燃やして発電する方法である。

九州電力が、佐賀県の玄海原発でMOX燃料を取りつけた3号機の原子炉を起動させた。順調なら12月初めに営業運転に入る。来年は、四国電力の伊方原発や中部電力の浜岡原発でも始まる予定だ。

当初の計画から10年も遅れてのスタートである。英国の核燃料企業によるMOX燃料のデータ改ざんや東京電力の原発トラブル隠し、JCO臨界事故など不祥事や事故で原子力への不信感が強まり、各原発の地元の理解がなかなか得られなかった。

プルサーマルが60年代に始まった海外では、これまで深刻なトラブルは起こっていない。とはいえ、日本は初心者だ。どんな小さなトラブルの芽も見過ごさぬよう、電力会社は安全管理を強めなくてはならない。

プルサーマルの始動に立ち会う鳩山政権は、これまでの原子力安全行政を見直すなかで、原発に対する監視の目を強め、運転の透明性を高める工夫をしてほしい。そうでないと、原発への信頼感は定着しないだろう。

一方、プルサーマルの背景には、プルトニウムの在庫を減らさないといけない事情がある。

プルトニウムは兵器にも使えるため、在庫が増えれば核武装の意図を疑われかねない。核拡散やテロの心配も無視できない。MOX燃料にして消費すれば、その不安を小さくできる。

いま、日本のプルトニウムは、再処理の委託先の英仏に24トンあるほか、国内にも4トン余りある。プルサーマルでこれらの在庫を燃やしていくことは、「余分なプルトニウムをもたない」という日本の国際公約に沿う。

電力業界は、15年度までに全国16~18基の原発にプルサーマルを広げる計画だ。実現すれば、年間6トン前後のプルトニウムを消費できるという。

ただ、今回のプルサーマル始動は、プルトニウム利用の第一歩ととらえるべきではない。

国内で商業再処理を進めて新たなプルトニウムを手にし、「利用」の本命である高速増殖炉を動かす――。こうした本格的な核燃料サイクル政策の是非は、プルサーマルによる在庫の「消費」とは切り離して考えるべきだ。

使用済み燃料からプルトニウムを取り出して再び使うのか。それとも原発燃料の使用は1回にとどめ、プルトニウムを取り出さずに処分するのか。

鳩山政権が引き続き原子力をエネルギー供給の柱の一つと考えるのなら、この問題で国民の合意点を見いだす努力をしなくてはなるまい。

毎日新聞 2009年11月06日

プルサーマル 課題視野に安全第一で

「利点」と「問題点」をはかりにかけると、現時点では圧倒的に問題点が多い。日本が原子力政策の柱としてきた「核燃料サイクル」には、課題が山積している。

その政策の一端を担う「プルサーマル」が、九州電力の玄海原子力発電所3号機で始動した。使用済み核燃料から取り出したプルトニウムをウランと混ぜた「MOX燃料」を、通常の原発で燃やす。当初の予定から10年遅れた国の計画の第1号だ。

海外で実施されているとはいえ、これまでとは異なる燃料を燃やすだけに、まずは安全性に十分注意して進めてほしい。その上で、日本の原子力政策の課題を改めて検討するきっかけにもすべきではないか。

核燃料サイクルの「本命」は、使用済み核燃料を再処理し、取り出したプルトニウムを「高速増殖炉」で燃やすことだ。高い効率で資源が再利用でき、資源の少ない日本に好都合といわれてきた。

ところが、サイクルの両輪を成す高速増殖炉と再処理工場は、度重なるトラブルで、どちらも先行きが不透明なままだ。

高速増殖炉の原型炉「もんじゅ」は、95年に冷却剤のナトリウム漏れ事故を起こして以来、停止している。改造工事の後もトラブルが続き、再開は大幅に遅れている。青森県六ケ所村の使用済み核燃料再処理工場でも、次々と問題が生じ、完成予定が延期され続けている。

プルサーマルは核燃料サイクルの「脇役」だった。「もんじゅ」のトラブルで重要性が増したが、資源の再利用の効果は小さい。しかも、緊急時に出力を抑える制御棒の効きが通常の燃料より悪いとも言われ、より慎重な安全対策が求められる。

こうした状況の中で、コストをかけて実施されるプルサーマルには、既存のプルトニウムを消費する意味合いがある。日本は国内外で再処理した核分裂性プルトニウムを約28トン保有している。核兵器の材料ともなるだけに減らす必要があるからだ。

今後、プルサーマルは各原発で導入が予定されている。しかし、一つの原発でトラブルが起きれば、全国に影響が及ぶ恐れがある。そうした状況で再処理を始めると、さらにプルトニウムが蓄積していくことにもなりかねない。再処理の後に残る高レベル放射性廃棄物の最終処分場の選定も、難航するのは必至だ。

温室効果ガス削減を視野に、鳩山政権は原子力の利用に積極的な姿勢を見せている。しかし、核燃サイクルを維持している国は限られ、米国でもオバマ政権が凍結している。核不拡散に向けた核燃料の扱いなど世界的情勢をみつつ、日本も柔軟に検討していく必要があるだろう。

読売新聞 2009年11月07日

プルサーマル 安全を心がけ軌道に乗せよ

ウラン資源を有効活用する核燃料サイクルがようやく一歩を踏み出す。安全を確認しながら着実に推進すべきだ。

佐賀県の九州電力玄海原子力発電所3号機で、使用済み燃料を再処理したプルトニウムとウランの混合酸化物(MOX)を燃料に使う「プルサーマル」の試運転が始まった。

問題がなければ、12月2日に国内初の営業運転に入る。

プルサーマルは、核燃料サイクルの柱となる高速増殖炉の実用化に向け、技術の確立などの観点から極めて重要だ。

核拡散を防ぐため、余剰なプルトニウムを保持しないという、安全保障面からも欠かせない政策といえよう。

鳩山内閣が掲げる温室効果ガス排出の大幅削減を実現するためにも、原発の活用は重要だ。政府は積極的に支援する必要がある。

プルサーマルは当初、1999年に関西電力と東京電力が先陣を切る予定だった。

しかし、関電が燃料の加工を発注した英国企業で検査データの改ざんが発覚、東電でも定期点検記録の改ざんがわかり、いずれも計画は一時的に頓挫した。実現は10年遅れ、九電が先頭に押し出された形となった。

当初は、10年度までに国内の原発16~18基で実施する計画だった。ところが、国の許可や地元の了解を得た原発が半数程度にとどまったことで、電気事業連合会は今年6月、計画達成を15年度まで最長5年間延期すると発表した。

高速増殖炉計画は、原型炉の「もんじゅ」が95年のナトリウム漏れ事故の後、14年間運転停止を余儀なくされている。

実用化は2050年ごろの見通しで、それまでの間は、プルサーマルが計画を担うことになる。

反原発派は依然、プルサーマルの安全性を疑問視している。しかし、普通の原発でもウランの一部がプルトニウムなどに変化し、プルサーマルと似た現象が起きているのが実態である。

海外では60年代から実施され、大きなトラブルもなく運転されている。電力各社はこうした点を丁寧に国民に説明すべきである。

九電に続き四国、中部、関西の3電力が10年度中にプルサーマルを予定している。電源開発が青森県に建設中の大間原発では、全燃料にMOXを用いる「フルMOX」運転を14年に開始する計画だ。

事故や不具合で信頼を失わないよう、電力各社は慎重な運転を心がけて欲しい。

産経新聞 2009年11月07日

プルサーマル 運転通じ安全情報発信を

九州電力の玄海原子力発電所3号機(佐賀県玄海町)で、国内初のプルサーマルが始動した。

使用済み核燃料から取り出したプルトニウムをウランに加えた混合酸化物(MOX)燃料を、普通の原子炉で発電用に利用することがプルサーマルである。

目的はウラン燃料のリサイクルだ。エネルギー小国の日本にとって、プルサーマルによる原子力資源活用の意味は大きい。それと並んで、核兵器の原料ともなるプルトニウムの保有量を減らしていくという意義もある。

ともに、日本の原子力発電を安定的に継続させていくうえで、きわめて重要な課題である。

にもかかわらず、プルサーマルに対しては、一部に否定的な声がある。その理由はプルトニウムを使うことへの忌避感に根ざしているようだ。だが、冷静に現実を見詰めることが必要だろう。プルサーマルには西欧諸国での実績がある。ベルギーやドイツでは1960年代から実施されているが、大きなトラブルの例はない。

また、普通の発電用原子炉の内部では、ウランから生じたプルトニウムが核分裂を起こしていることも知っておくべきだ。発熱量の半分以上がプルトニウムによってまかなわれていることもある。

今回の玄海3号機に装荷されたMOX燃料は、使用する燃料全体の10%以下にすぎない。

安全上の重大疑念を探すのが難しいプルサーマルだが、日本での実施には大幅な遅れが出ている。約10年前に外国のMOX燃料製造会社などによる不正が発覚し、地元の信用を失ったためである。

本来なら来年度中に16~18基の原発で実施されるはずだった。だが、遅れの回復は難しく、電気事業連合会は今年6月、目標達成時期を5年先に延ばした。

こうした渋滞傾向の中で先頭に立ったのが九州電力である。地元・玄海町の人々の理解に対しても敬意を表したい。

プルサーマルについては、発電コストが割高になるという指摘がある。しかし、原子力発電の増強に向かう世界動向の中で、将来のウラン資源の逼迫(ひっぱく)は不可避であろう。その状況に備えるためにも核燃料サイクルは必要だ。

九州電力に続く、四国、中部、関西の各電力のプルサーマル実施にも期待したい。問題がないことを運転を通じて実証し、安全情報を発信してもらいたい。

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