日露首脳会談 領土で「法と正義」を貫け

朝日新聞 2012年06月21日

日本とロシア 極東で、互いを生かせ

とりあえず「始め」の合図はかかった。これを領土問題の打開や、極東での日本とロシアの協力の深化に向けて、建設的で息の長い協議へと進めていかなければならない。

プーチン氏がロシア大統領に復帰して初めての両国の首脳会談があり、停滞していた領土交渉を再び活性化させることで、野田佳彦首相と合意した。

昨年3月に東日本大震災が起きると、首相だったプーチン氏は液化天然ガス(LNG)の緊急供給などの支援策を打ち出した。今年3月にも「引き分け」などの柔道用語を使い、互いに受け入れ可能な領土問題の解決をめざす考えを示している。

国後(くなしり)島を訪れて日ロ関係を激しく緊張させた前任者のメドベージェフ氏とは対照的だ。

重要課題の極東・シベリアの開発で、資本や技術をとり入れたい。強大化する中国の周辺への影響力を、日本との連携を深めて抑制したい。そんな思惑から対日関係の修正に動くプーチン氏が大統領に戻り、懸案を話しあう環境がようやく整ったということだろう。

ただし、プーチン氏の「引き分け」が何を意味するかは明らかでない。日ソ共同宣言に基づく歯舞(はぼまい)、色丹(しこたん)の2島引き渡しを基本とする決着なのか。国後、択捉(えとろふ)2島の帰属問題にまで踏み込む用意があるのか。見方は日本側でもさまざまだ。

じっくりと話し合い、真意をつかむほかない。そのうえで入念な対応策をたて、四島の帰属問題を決着して平和条約を結ぶという、日本側の目標を実現してゆくべきである。

領土問題のほかにも話し合うことは山積みだ。まずアジア・太平洋地域、とくに極東の安定と繁栄のために協力を強めることが大切だ。中国を地域の安定要因としていかに取り込むか、北朝鮮の非核化をどう実現するかが重要な課題になる。

脱原発を進めるためにも、エネルギー協力は役立つ。

現在、両国は極東の液化天然ガスがらみの協力が中心だが、ロシアが提案する天然ガス・パイプラインや送電網の構築を考えてもよい。

だが、領土問題を抱えることがロシアからの供給に不安を呼ぶ。全面的な協力には領土問題の解決が欠かせぬことを、プーチン氏は理解するべきだ。

日本の首相のロシア公式訪問は、03年に当時の小泉純一郎首相がしてから9年も間があいている。不安定な国内政治による短命政権が、首脳外交を貧弱にしている。政権を超えた長期的な対ロ戦略の構築が必要だ。

毎日新聞 2012年06月20日

日露首脳会談 「始め」の声はかかったが

停滞する日露関係を前向きな軌道に乗せるスタート台にはなったかもしれない。野田佳彦首相とロシアのプーチン大統領の初会談は北方領土に関する交渉の再活性化とともに、経済協力や安全保障、とりわけ海洋における協力強化で一致した。この流れを大事にしたい。

北方領土については、野田首相がプーチン大統領の3月の発言にひっかけて「始め」の号令をかけようと語りかけ、外交当局に実務的な話し合いをさせることを確認した。民主党政権になってからの日露関係はメドベージェフ前大統領が国後島を訪問するなどロシアの強硬姿勢が目立ち、日本側も鳩山由紀夫元首相、菅直人前首相と外交戦略不在の政権が続いたことで停滞・冷却化が進んでいただけに、交渉の土俵整備はとりあえず歓迎できよう。

だが、これまでの首脳会談を振り返れば前途は厳しい。

今回の首脳会談で野田首相は「これまでの諸合意、諸文書、法と正義の原則」が交渉の前提という考えを示したが、プーチン大統領が4年前にメドベージェフ氏に大統領職をいったん交代する前の一連の日露首脳会談でも、日本の首相は「諸合意、諸文書」に基づく解決を強調し、交渉の活発化や精力的交渉を外交当局に指示することで一致したとされてきた。実際にはそうならなかったのは現実が示す通りだ。

つまり交渉再活性化という野田・プーチン合意は、かつてのプーチン時代の焼き直しにすぎない。プーチン氏の大統領復帰で領土問題が好転するのでは、という楽観論に立てない理由もそこにある。

だからといって、過度に悲観的になるべきでもないだろう。経済的軍事的に台頭する中国への対抗などもあって、ロシアは日本との関係強化に高い関心を示している。シベリア極東開発で日本の市場や技術に大きな期待を寄せていることは、今回の首脳会談でのプーチン発言からもうかがえた。ここ数年で日本やロシアを取り巻く戦略環境は大きく変化している。それを踏まえ安全保障や経済で日露関係を深化させていく中から、領土問題を前進させる柔軟なアプローチを見いだせるかもしれない。

そのためには、与野党を超えたオールジャパンの知恵を結集することがあってもいい。野田首相がプーチン氏と太いパイプを持つ森喜朗元首相を特使として派遣することを検討していると伝えられたが、官邸主導で明確な戦略に基づくものなら実行に移してみてはどうか。ただし、先のイラン訪問で二元外交を展開した鳩山元首相のような振る舞いを北方領土問題で許してはならないのは言うまでもない。

産経新聞 2012年06月20日

日露首脳会談 領土で「法と正義」を貫け

野田佳彦首相とプーチン・ロシア大統領の初顔合わせ会談で、プーチン氏は北方領土問題を「話し合っていく用意はある」とし、領土交渉を「再活性化」させる方向で一致した。

これまでロシアは、メドベージェフ大統領が国家元首として初めて「国内視察」を名目として2010年、国後島への訪問を強行したように、領土問題を無視し続けてきた。

それだけにプーチン氏の意欲は評価したいが、今回の発言は交渉の土俵に乗る可能性を示したに過ぎまい。日本は、氏が大統領に復帰したら状況は好転するといった過大な期待を戒め、その出方を冷徹な目で見守るべきだ。

その点で野田首相が会談で「過去の諸合意や文書、法と正義の原則に照らし実質的な協議を始めたい」と求めたのは当然である。

「法と正義」は、1993年に当時の細川護煕首相とエリツィン大統領が署名した「東京宣言」に刻まれたキーワードだ。北方四島の帰属を「歴史的・法的事実に立脚」し「法と正義の原則」を基礎に解決するとうたった。

北方四島が日魯通好条約(1855年)以降、日本固有の領土であり続けたことに加えて、ソ連による不法占拠は日本の終戦時のどさくさに紛れて略奪した結果であることをロシア側に確認させる狙いがある。

プーチン氏自身も大統領復帰直前の会見で、2島返還で北方領土問題に幕引きを図る意向に変わりがないことを示唆した。ロシアのメディアや識者らの間では、この問題を軽視する風潮が広がっていることも無視できない。

プーチン氏は5月の組閣で極東発展担当相を新設した。9月にウラジオストクで初開催するアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議ではアジア重視をアピールする狙いだ。そのために日本政府も協力姿勢を取ってきた。

にもかかわらず、5月、北方領土の択捉島の港湾整備事業に韓国企業が加わると報じられた。事実ならロシアの実効支配強化につながりかねず、日本外務省は強い遺憾の意を表した。

こうした信義にもとるような行為が続くようでは、関係改善も領土交渉も望めない。

プーチン氏は、まずは「法と正義の原則」に基づく日露関係の構築に努めなければならない。

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