ギリシャの決断 メルケル首相は応えよ

朝日新聞 2012年06月19日

ギリシャ選挙 民意をユーロ安定へ

深刻な経済危機に陥っているギリシャのやり直し総選挙は、財政緊縮とユーロ残留を掲げた中道の旧2大政党が合わせて過半数を占めた。

緊縮策の白紙撤回を主張する急進左翼進歩連合が勝利すれば、欧州連合(EU)からの支援が止まって、ギリシャがユーロから離脱したり、スペインなどの財政危機を一段と悪化させたりする懸念があった。

そんな最悪の事態はとりあえず避けられた。欧州はこれを転機に、ユーロ安定へ全力を傾けなければならない。

ギリシャでは不況が加速し、失業率は22%にのぼる。緊縮策に無条件に賛成する人はほとんどいない。だが、ユーロから離脱したからといって、展望があるわけではない。国外への資金流出が拡大し、極度のインフレに見舞われる可能性が高い。

今回の選挙結果は、苦渋の選択の中で「ユーロに残りたい」という有権者の思いがかろうじてまさったといえる。

EU諸国はこんなギリシャの苦衷にも目を向けてほしい。勝利した緊縮派はEUとの約束を一部見直したい考えだ。3月に決まったギリシャ2次支援は厳しい緊縮策に加え、楽観的な景気回復が前提となっている。

これが本当に現実的か、問題点を洗い出すべきだ。緊縮一辺倒ではギリシャの展望は開けない。必要なら財政再建の日程を見直し、債務減免の拡大もタブー視してはならない。

折しもフランスのオランド大統領は成長重視の姿勢を打ち出している。欧州全体が内実ある成長戦略をどう具体化するか。

バラマキやバブル依存に流れないためには、ドイツが唱える労働市場などの構造改革も必要だ。これらと適度な経済刺激策を組み合わせる新機軸が求められている。

ユーロの足元はかつてないほど脆弱(ぜいじゃく)だ。ギリシャで始まった国外への資金流出はスペインにも伝染した。

各国が資金を出し合う欧州安定メカニズム(ESM)など、安全網の拡充が最優先の課題である。それぞれの国の信用不安が欧州全体を揺さぶる悪循環を止めるには、ユーロ圏全体で資金調達する「共同債」が有力な武器となる。

銀行の監督や規制、破綻(はたん)処理の態勢を欧州レベルで統合する作業も早く進める必要がある。銀行システムと政府の財政不安を切り離す意志を行動で示さなければならない。

欧州の首脳たちの問題解決能力に対する疑問符が残る限り、危機の連鎖は止まらない。

毎日新聞 2012年06月24日

リオプラス20 緑の経済へと進めよう

ブラジル・リオデジャネイロで開かれていた国連持続可能な開発会議(リオプラス20)が閉幕した。

今後10年の経済・社会・環境のあり方を議論しようと、世界191カ国・地域から約4万5400人が参加した史上最大の国連会議だったが、先進国と途上国との妥協の末に採択された成果文書「我々が望む未来」は具体的な目標や施策に欠け、かけがえのない地球を将来の世代に伝える明確な道筋は描けなかった。

会議の最大のテーマは、環境を保全しながら豊かさを実現するグリーン(緑の)経済への移行だった。

先進国側はグリーン経済の推進を掲げ、途上国も一定の責任を負うべきだと主張したが、途上国側は開発の邪魔になるなどと反発。結局、グリーン経済の重要性は文書に盛り込まれたが、実行は各国の判断に任された。地球環境保全などに向けた新たな数値目標の策定も合意されたが、項目の具体化は先送りされた。

ちょうど20年前、同じリオで開かれた「地球サミット」では、環境保全や貧困解消を掲げる行動計画「アジェンダ21」が採択され、気候変動枠組み条約と生物多様性条約の署名開始という成果をあげた。東西冷戦の終結で、地球環境問題が世界共通の課題と認識されたのだ。

20年後のリオでは、先進国の経済状況の悪化が影を落とした。新たな資金援助を求める途上国に先進国は応じることができず、オバマ米大統領や英独両国の首相、日本の野田佳彦首相らは出席すらしなかった。

だが、経済活動に伴う生物資源の利用や温室効果ガスの排出は地球の許容量を超える。一方で世界人口は70億人を超え、貧富の差は拡大した。だからこそグリーン経済への移行が必要だ。国連環境計画は世界の国内総生産(GDP)の2%を毎年、再生可能エネルギーや省エネなどに上手に投資すれば、世界経済はグリーンに移行でき、雇用創出や途上国の貧困対策につながると分析する。

玄葉光一郎外相は環境・防災分野で今後3年間に計60億ドル(約4800億円)の政府開発援助(ODA)を拠出すると表明したが、東日本大震災と福島第1原発事故で自然の猛威とエネルギー多消費型社会の危うさを知った日本は、グリーン経済への移行で世界の先導役となるべきだ。成功例を積み上げることで、途上国の理解にもつなげたい。

中国やインド、ブラジルなど新興国が経済発展を遂げ、南北の構図も変わった。各国は、地球環境の保全と途上国の発展の両立を目指す新たな枠組みも探ってほしい。温暖化でも生態系の破壊でも、その影響は国境を越え、一つしかない地球という惑星に降りかかってくるのだから。

読売新聞 2012年06月24日

リオ+20 環境を守る責任は新興国にも

地球環境問題に国際社会が一致協力して対処することの難しさを際立たせる結果となった。

ブラジルのリオデジャネイロで開かれていた「国連持続可能な開発会議」(リオ+20)は、環境保全と経済成長を両立させる重要性を確認した文書を採択して閉幕した。

1992年の国連環境開発会議(地球サミット)から20年が経過したのを受け、約190か国・地域の首脳や政府関係者らが今後10年間の環境保護策を協議した。

だが、成果は極めて乏しかったと言うしかない。

最大の焦点だった「グリーン経済」に移行する世界共通の工程表策定はできず、各国の自主的取り組みに委ねることになった。

石油など化石燃料への依存度を減らし、環境関連産業を育成しながら低炭素社会へと転換していく「グリーン経済」の構築は、世界全体の課題と言えよう。

会議では、日本など先進国が「全ての国が移行を目指すべきだ」と主張し、途上国は「経済成長の足かせになる」と反発した。先進国と途上国が対立する構図は結局、変わらなかった。

地球サミットを機に、気候変動枠組み条約などが締結され、各国は「共通だが差異ある責任」を原則に対策を進めてきた。

環境破壊を招いたのは、先進国の経済活動であり、環境保護について、先進国は途上国より重い責任を持つという考え方だ。

それを具体化したのが、気候変動枠組み条約に基づく京都議定書だ。先進国だけが温室効果ガスの排出削減義務を負っている。

しかし、状況は大きく変わった。急速な経済発展を遂げた中国、インドなど新興国の排出量が増え続け、中国は米国を抜いて世界一の排出国となった。

それにもかかわらず、中国の温家宝首相は今回の会議でも、自国を「大きな途上国」と位置付け、先進国が責任を果たすべきだとの姿勢を崩さなかった。

地球環境を守るためには、中国など新興国も応分の責任を負わねばならないのは明らかだ。

会議では、国連環境計画(UNEP)の強化で合意した。だが、各国の利害調整に追われる国連機関の拡充よりも、必要なのは新興国、途上国に積極的な取り組みを促す先進国の働きかけだ。

玄葉外相は、3年間で60億ドル(約4770億円)の途上国支援を表明した。日本が率先して、省エネルギーなどの技術支援を進めることも大切である。

産経新聞 2012年06月25日

「リオ+20」 地球救う責任は新興国に

ブラジルのリオデジャネイロで開かれていた「国連持続可能な開発会議」(リオ+20)は、3日間の日程を終え、成果文書「われわれの望む未来」を採択して22日、閉幕した。

これから10年間の世界の在り方を示したビジョンは、持続可能な開発や、環境と成長を両立させるグリーン経済の実現などをうたっている。これは全世界が目指すべき理想であろう。

しかし、その実現にあたって先進国のみが多くの負担を引き受けるという、従来の手法は限界に達したのではないだろうか。

中国やブラジルなどの新興5カ国(BRICS)が経済力をつけた現在、地球環境問題への取り組みは、新たな枠組みを必要とする時期を迎えていると考えたい。

今回のリオ+20は、1992年にリオデジャネイロで開催された「国連環境開発会議」から20年となることを踏まえたフォローアップ会議である。

今から振り返ると、別名を「地球サミット」とする国連環境開発会議が開催された20年前は、東西の冷戦構造に終止符が打たれ、代わりに南北問題が顕在化し始めた時代だった。

先進国と途上国にとって地球規模での課題であった「環境」と「貧困」の問題解決に向け、世界が手を携えて第一歩を踏み出した舞台が地球サミットだった。

持続可能な開発を志向する「環境と開発に関するリオデジャネイロ宣言」とその行動計画「アジェンダ21」が採択された。「気候変動枠組み条約」と「生物多様性条約」の署名が開始されたのも地球サミットにおいてであった。

二酸化炭素の排出量削減を先進国に義務づけた「京都議定書」が誕生したのも、この大きな流れの中でのことである。

日本や欧州諸国などは、真摯(しんし)な取り組みを続け、20年の歳月が経過した。だが、地球環境問題に改善はみられない。大気中の二酸化炭素濃度は増え続け、生物多様性の減少も止まらない。

大多数の途上国は貧困を脱していない。欧州債務危機などで先進国の経済力にも影がさしている。先進7カ国(G7)の首脳の大半は今回、出席できなかった。

今後の10年はBRICS諸国の貢献に期待したい。新たな枠組みの構築こそが持続可能なグリーン経済発展の活力源だ。

毎日新聞 2012年06月21日

G20首脳会議 欧州よ、さあどうする

むなしさが強く残るG20(主要20カ国・地域)首脳会議だった。世界経済の9割を占める国々のそうそうたるリーダーが結集しながら、結局、欧州の一国が今後どこまで決断するかを見守るしかないのだ。

リーマン・ショック後の世界経済を何とか恐慌から救おうと、先進国が新興国と連帯し、脚光を浴びたのがG20だった。一斉に景気刺激策を打ち出したことで、世界経済は恐慌の回避のみならず、早期の回復を見ることができた。それが今、再び深いふちに転落しかかっている。

最大の要因は、言うまでもなく2年半に及ぶ欧州債務危機だ。欧州が初期の対応を誤り、政策の小出し・先送りを繰り返した結果、ギリシャに始まった危機はスペインにまで波及してしまった。これ以上の長期化と混乱は、他の先進国や新興国まで深刻な不況の道連れにするだろう。

欧州が何を急ぐべきか、優先課題のメニューはほぼ明らかになっている。問題はメルケル独政権が首を縦に振るか否かだ。

もちろん、G20など国際社会がユーロ圏諸国に働きかけてきたことは無駄ではなかったはずだ。今回の首脳宣言が、ユーロ圏の銀行の規制・監督や破綻処理、預金保険制度などを統合する「銀行同盟」構想に言及したのは顕著な前進だろう。

しかし、そうした構想の「具体化を検討しようという意思を(G20として)支持する」というのは、あまりにも腰が引けている。「検討」ではなく「実現」が急がれるのであり、月末の欧州連合(EU)首脳会議は、実施時期を含めインパクトのある計画を示さねばならない。

さらに、銀行同盟の決定だけでは不十分だ。ギリシャの財政再建を実現可能なものにするための支援策見直し、そして財政危機国の借り入れ費用を下げる債務の相互保証(ユーロ共同債など)を少なくともセットで合意することが求められる。

複数の国々が共通の新しい通貨を作り、世界経済に大きな影響を与える存在になった以上、その通貨の安定を維持する責任がすべてのユーロ加盟国にある。その主導役を担うのは、欧州統合の歴史的経緯や経済力から、ドイツをおいて他にない。

次のEU首脳会議は、欧州の統合史上、極めて重要な節目となるだろう。ロスカボスのG20は実はむなしくなかった、メルケル独首相に十分、メッセージは届いていた。そう思う日が来るよう望みたい。

一方、欧州の出来事を傍観するだけでは済まされない国がある。日本だ。市場の関心が日本の巨額な債務に移る可能性は常にある。財政健全化に向け、ついに日本も行動した−−。一刻も早い発信が必要だ。

読売新聞 2012年06月22日

TPP交渉 出遅れ日本は参加表明を急げ

日本は、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加でカナダ、メキシコに先を越された。遅れを取り戻すための知恵を絞るべきである。

主要20か国・地域(G20)首脳会議に合わせ、TPP交渉を主導する米国が、カナダとメキシコの交渉参加受け入れを発表した。

野田首相は昨年11月、交渉参加に向けて関係国との協議に入ると表明した。日本に刺激された両国も交渉参加の方針で追随したが、日本だけが置き去りにされた。

両国は9月ごろにも交渉のテーブルに着く見通しだ。2か国を加えた11か国のTPP交渉は、年末から年明けに妥結へのヤマ場を迎える可能性が高い。

このままでは、日本抜きで、アジア太平洋地域の貿易と投資のルールや関税撤廃の大枠が決まりかねない。深刻な事態である。

11月の大統領選で再選を目指すオバマ米大統領は、TPPで米国の輸出拡大を狙っている。

米国はカナダ、メキシコと北米自由貿易協定(NAFTA)を結んでおり、関係は緊密だが、カナダ、メキシコが事前協議で農業分野などの一層の市場開放方針を示したことを評価したのだろう。

これに対し、日本は、政府・民主党内の意見集約が滞り、正式な参加表明すらできていない。

野田政権が、社会保障・税一体改革関連法案の今国会での成立を最優先したのは理解できるが、TPPへの対応が遅すぎる。

一体改革法案の衆院通過の見通しがついた今、TPPへの取り組みを急ぐべきだ。正式参加表明に向け、野田首相は指導力を発揮してほしい。

9月には、ロシアでアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開催される。日本が年内に交渉参加できるかどうか、9月が重要な節目となろう。

少子高齢化が進み、国内需要が縮小している中、自由貿易の推進でアジアの活力を取り込むことは日本の成長に不可欠である。

日本企業が海外に次々と移転する産業空洞化を、TPP参加によって食い止めねばならない。

農業分野の一層の市場開放に備え、政府は農業の国際競争力を強化する改革も急ぐ必要がある。

カギを握る米国は、日本との事前協議で、自動車、保険、牛肉分野の市場開放や規制緩和などに強い関心を示してきた。

だが、事前協議で詳細を詰めるのは得策ではない。自動車などはTPPと切り離す選択肢も含め、日米が妥協点を探るべきだ。

産経新聞 2012年06月22日

ユーロ危機 財政同盟への道踏み出せ

欧州連合(EU)は欧州債務危機の抜本的解決に踏み出すことができるのか。

メキシコで閉幕した20カ国・地域(G20)首脳会議は首脳宣言に「ユーロ圏各国があらゆる措置を講じる」と明記し、危機の解決を強く促した。欧州はこれに応えなければならない。

そのカギとなるEU首脳会議の開幕は28日に迫っている。結果次第では、世界経済を混乱に陥れ、ユーロという通貨そのものの行方を左右しかねない。

欧州がこれまでに取った危機対策は対ギリシャ、対スペインという対症療法だ。無論、当面の混乱回避には必要な措置だが、市場は今やユーロ問題の本質的な解決を求めている。スペイン国債の利回りが上昇し、不安定なユーロ相場が続くのは、このためだ。

最大の焦点は、ユーロ圏の金融政策は統一されながら、財政政策は各国に任せているという矛盾をどう解消するかである。具体的には、EUが加盟国の財政状況を監視し是正権限を持つ「財政同盟」への道筋を示すことだ。

財政同盟は、危機回避の有効策とされる「ユーロ共同債」の導入とも表裏一体だ。銀行救済などの資金を調達するためにユーロ圏諸国の連帯責任で共同債を発行する場合、ドイツのような財政規律の厳しい経済大国が規律の緩い国のリスクを背負うことになる。

ユーロの安定・存続を図る上でドイツの責任は重い。それでも、結果としてドイツがユーロ圏全体のリスクの大半を引き受ける公算が大きい以上、各国の規律順守を担保する仕組みは必要だ。その柱が財政同盟なのである。

財政同盟は政治統合に向けた長年の懸案だった。ただ、これは加盟国が財政主権の一部をEUに移譲するものだ。社会保障費や軍事費の是正勧告まで認めるのかとの問題もある。各国の強い抵抗が必至で議論は本格化していない。

しかし、先が見えないユーロの混迷は猶予を許さない。少なくとも、首脳会議で財政同盟の議論開始を宣言する必要はあろう。

銀行監督などを一元化する「銀行同盟」や、オランド仏大統領が主張する成長と雇用を促進する戦略も重要だ。特に成長戦略では、緊縮財政派中心の連立政権が誕生したギリシャへの配慮の意味もあり、成長分野への資金供給手法など具体策を示さねばなるまい。

毎日新聞 2012年06月19日

ギリシャの決断 メルケル首相は応えよ

世界が固唾(かたず)をのんで見守る中、ギリシャ議会の再選挙が行われ、財政緊縮策を容認する中道右派・新民主主義党が第1党となった。ライバルで緊縮反対の急進左派連合が1位に躍進していたら、ギリシャのユーロ圏離脱、金融市場の大混乱など、制御不能な事態に陥ることが心配されていた。ひとまず胸をなで下ろさずにはいられない。

しかし、これでギリシャの問題やユーロ圏の危機が解消するわけではない。むしろ、切迫感の薄れから、ドイツをはじめとするユーロ圏諸国が抜本策に向けた努力の手を緩める恐れがある。主要20カ国・地域(G20)の首脳会議に集まったユーロ圏外のリーダーらは、ユーロ諸国、とりわけドイツに、早期の抜本策決断を、より強く迫らねばならない。

新民主主義党が順調に新政権をスタートできたとしても、ギリシャの政治状況は安定から程遠い。前回選挙で第2党に躍進した急進左派連合は、さらに議席数を増やした。得票率では、緊縮策反対派の合計が容認派の旧2大政党を超えている。生活や健康まで脅かし始めた緊縮策への国民の不満や反感は限界に近い。今、緊縮策を容認している議員が何かをきっかけに、こぞって拒否に転じる可能性も排除できない。

経済力に対して借金の残高が大きすぎるギリシャの財政再建は、2次支援や今の財政緊縮計画をもってしても、市場では絶望視されている。財政赤字削減目標の達成時期を数年程度延ばしたところで片づく問題ではない。貸手となっているユーロ圏諸国が大幅な債権放棄に応じるなど、大胆な方策に転換するしかないだろう。ボールは支援国、特にドイツのメルケル首相の側にある。

危機の火の手はスペインに広がり、イタリアに迫っている。もはや時間稼ぎは危険な賭けだ。

何度も主張してきたが、この危機の克服には、ユーロ共同債導入や銀行同盟など、統合の深化を急ぐしかない。ユーロ加盟国が互いに“連帯保証人”となることを宣言することで安心が広がり、結果的に本格的な肩代わりの必要もなくなると期待できる。制度の乱用に対する歯止めをかけるのが、もちろん前提ではある。

だがメルケル独政権は強く反対している。国民の根強い反発があるからだ。とはいえ、それは欧州統合やユーロの歴史的背景、意義、さらにそれを失った場合の損失について、政治家が国民への丁寧な説明を長年怠ってきた結果ではないか。

国論を二分したとはいえ、ギリシャはなんとかユーロ加盟国として改革を続ける決断をした。今度はメルケル首相ら他のユーロ諸国の指導者が応える番である。

読売新聞 2012年06月21日

G20首脳宣言 欧州包囲網が迅速な行動促す

欧州財政・金融危機の封じ込めへ、日米や中国など新興国が欧州に対し迅速な行動を強く促した意義は大きい。

メキシコで開かれた主要20か国・地域(G20)首脳会議は、「ユーロ圏があらゆる必要な措置を取る」とする首脳宣言を採択した。世界経済のリスクと不確実性の高まりも指摘した。

ギリシャ議会の再選挙の結果、ギリシャのユーロ圏離脱と株式・為替市場の大混乱という、最悪の事態はひとまず回避された。

しかし、先行きはまだ不透明だ。スペインの金融不安が広がり、危機収束にはほど遠い。欧州の混乱が世界経済の足を引っ張り、景気減速をもたらしている。

G20では、欧州の対応の遅れに苛立(いらだ)つオバマ米大統領が圧力をかけた。野田首相も「一刻の猶予も許されない」と迫り、欧州包囲網が形成されたと言える。

これに対し、独仏両国など欧州側は、ユーロ圏で国ごとに異なる銀行の監督や破綻処理を統一する「銀行同盟」の行程表と、財政統合の検討を表明した。

通貨が統一された一方で、財政と金融行政がばらばらなことがユーロの構造的な問題だ。小出しの危機対策を繰り返しても、出口が見えない原因でもある。

ただ、「銀行同盟」を巡っては新たな財政負担を警戒するドイツがなお慎重だ。財政統合のカギとなるユーロ圏全体で資金調達する「ユーロ共通債」の発行についてもドイツが抵抗している。

各国間の溝を埋めるのは容易でないが、首脳宣言が銀行同盟などの方針を支持したことを欧州は重く受け止め、経済統合の深化を図るべきだ。来週の欧州連合(EU)首脳会議では独仏が主導し、具体的な道筋を示す必要がある。

併せて、巨額の不良債権を抱えたスペインの銀行救済を急がねばならない。ギリシャ新政権とユーロ圏の連携も不可欠だ。

G20は、行き過ぎた緊縮財政だけでは景気が回復せず、金融不安を招くとの認識も共有した。

首脳宣言が、「力強く持続可能で均衡の取れた成長はG20の最優先課題」と明記し、財政健全化を最重視する路線を軌道修正した点は評価できる。

中国などが拠出額を表明し、国際通貨基金(IMF)の緊急融資枠が約4560億ドル(約36兆円)に拡大したことも前進だ。

欧州危機の早期収束には、市場は依然として懐疑的である。欧州の一層の自助努力とともに、G20の結束強化が問われよう。

産経新聞 2012年06月21日

TPP交渉 置き去りの危機自覚せよ

野田佳彦首相は、アジア太平洋地域における自由貿易の枠組みづくりから取り残されても構わないと考えているのか。

20カ国・地域(G20)首脳会議に出席したメキシコとカナダが環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉への参加を表明した。一方の日本は、首相が現地でオバマ米大統領と交渉参加への事前協議で協力を確認しただけだ。動きの鈍さ、危機感の乏しさが際立つ。

もともとメキシコとカナダがTPPに前向きになったのは、日本の交渉参加の動きに刺激されたからだ。それが逆転し、日本は両国の後塵(こうじん)を拝す形になった。

野田首相が交渉参加表明の機会を逃したのは、4月の日米首脳会談、5月の主要国(G8)首脳会議に続き、実に3回目だ。

4月の日米会談前に首相は「議論が煮詰まって判断する」と話していた。その後も状況は変わらず議論を進める動きもない。税と社会保障の一体改革に力を注ぐあまり、TPPは脇に置かれているとみられても仕方あるまい。

今回、G20首脳宣言は「世界経済の強固で持続可能な均衡ある成長」を最優先事項と位置づけ「開かれた貿易や市場拡大、保護主義抑止」を強調した。欧州危機を世界経済危機に拡大させないとの決意表明だ。日本にとってはTPPに参加することで、アジア太平洋地域の潜在的な成長力を取り込むことを意味している。

TPPには同地域の中国による経済支配を阻む目的もある。この視点に立つと、日本がTPPに慎重姿勢を取る一方、中国、韓国と3カ国自由貿易協定(FTA)の年内交渉開始で合意しているのはいかにも危うい。3カ国交渉が先行すると、TPPを警戒し、くさびを打ち込みたい中国の術中にはまることにもなりかねない。

メキシコとカナダの参加表明で、9月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせて交渉が本格化する可能性が出てきた。日本の参加表明がなおも遅れれば、ルール策定で日本の主張が入る余地はなくなる。ぎりぎりのところまで来ているのだ。

野田首相は首脳会議2日目の協議に参加せず、帰国した。一体改革論議が大詰めを迎えているからだ。この判断にやむを得ぬ面はあるにせよ、国内政局に目を奪われている間も世界は動いている。その現実を忘れてはならない。

読売新聞 2012年06月19日

ギリシャ再選挙 ユーロ離脱は避けられたが

ギリシャ議会の再選挙で、財政緊縮策の継続を主張した政党が支持を広げ、ユーロ圏離脱という最悪のシナリオは回避される方向になった。

ギリシャの混乱を収束し、欧州危機を封じ込める一歩としなければならない。

再選挙の結果、中道右派の新民主主義党が第1党になり、同じく緊縮路線で第3党となった中道左派の全ギリシャ社会主義運動と合わせて、獲得議席は過半数に達した。緊縮財政に反対する急進左派連合は第2党にとどまった。

急進左派連合が勝利したなら、緊縮策の放棄によって欧州連合(EU)の支援が滞るのは確実だった。それでユーロ圏離脱が現実となれば、日本経済など世界経済に大打撃となったに違いない。

ギリシャ国民が土壇場で賢明な判断を下したことは歓迎できる。日米など先進7か国(G7)財務相が、ギリシャに対し、緊縮財政の約束を順守しユーロ圏に残留することが「すべての利益になる」との声明を出したのは当然だ。

しかし、先行きは依然、不透明だ。東京とアジア市場の株価上昇やユーロの買い戻しが限定的だったのも、ギリシャ経済再生に対する市場の不信感を示す。

課題は山積している。新民主主義党はまず連立協議を行い、財政健全化を目指す安定政権を早期に樹立する必要がある。

選挙戦で新民主主義党は、国民の財政緊縮策への反発に配慮し、EUと支援条件見直しの再交渉を行うと訴え、財政再建の達成目標時期の先送りを公約してきた。

ただしドイツを中心にEU内には、ギリシャに緊縮財政と構造改革の断行を求める圧力が強い。

財政規律の強化だけでは、国民の反発を招くばかりで展望は見いだせまい。ギリシャ経済はマイナス成長が続く。銀行預金の引き出しが急増していることも金融不安を増幅する。

財政再建と経済成長を両立させるため、ギリシャとEUは打開策を探ってもらいたい。欧州投資銀行などの枠組みを利用した活性化策も検討に値しよう。

欧州では、バブル崩壊後の経済低迷で銀行経営が悪化したスペインの金融不安も深刻化しつつある。ここでも対応が後手に回ると危機が拡大する悪循環に陥る。

メキシコでの主要20か国・地域(G20)首脳会議に続き、月末にはEU首脳会議が開かれる。独仏両国が主導して、欧州危機への包括的な処方箋を打ち出すことを国際社会も市場も催促している。

産経新聞 2012年06月19日

ギリシャ再選挙 ユーロ強化へのはずみに

欧州債務危機の一つの山場だったギリシャの再選挙で、緊縮財政派2党が過半数を獲得し、反緊縮派が主導権を取ることはほぼなくなった。国民はユーロ残留の意思を表明した。

最悪のシナリオが回避されたことは歓迎したい。次はギリシャが緊縮策をいかに継続し実行するかだ。欧州連合(EU)も緊縮の手綱は緩めぬにせよ、ギリシャをはじめ域内の成長と雇用を促す戦略の策定を急ぐ必要がある。

先進7カ国(G7)の財務相は歓迎声明を発表し、市場も好感した。逆の結果なら、ギリシャのユーロ離脱観測が強まりユーロ安は加速したろう。大手銀行の経営危機から信用不安懸念が高まるスペインを直撃し、世界経済が混乱に陥りかねないところだった。

無論、これで問題が解消するわけではない。カギはやはりスペインだ。ユーロ圏諸国は最大1千億ユーロの資金支援を表明したが、その支援がスペイン政府を通じて行われる点が不安視されている。

この仕組みだと、銀行再建が不調に終われば、財政は悪化する。スペインの景気見通しが厳しいだけに、ギリシャ再選挙というハードルを越えても、世界経済危機の構図は変わらない。

したがって今後も、日米欧、中国、インドなど20カ国・地域(G20)が、市場安定と世界経済危機阻止の先頭に立たなければならない状況は続く。メキシコ・ロスカボスのG20首脳会議では、この決意を確認し、市場に強い意志を発信することが求められる。

再選挙前、市場が動揺すれば欧州中央銀行(ECB)、日銀など日米欧の中央銀行が協調して市場に資金供給するとみられていた。ECBと日銀が直前に金融政策を変更しなかったのは、その備えとされただけに、必要な場合には、大胆な資金供給をためらってはならない。

ただ、これら国際協調も対症療法にすぎない。減速する世界経済を浮揚させるため、各国は国内景気対策に取り組む必要がある。

EUは、銀行監督・支援や預金保護を一本化する「銀行同盟」や加盟国の財政を統御し是正する権限を握る「財政同盟」の具体化にも動くべきだ。各国の財政規律意識の差、財政力格差という危機の根本を直視し、解決の道筋を見いだす。ギリシャ再選挙を乗り切ったことをその弾みにすべきだ。

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