大飯再稼働決定 脱原発の流れ止めるな

朝日新聞 2012年06月17日

大飯再稼働 原発仕分けを忘れるな

関西電力大飯原発3、4号機の再稼働が決まった。

野田政権は脱原発依存への道筋を示さないまま、暫定的な安全基準で再稼働に踏み切った。多くの国民が納得しないのは当然である。こんな手法は二度と許されない。

原発に絶対の安全はない。事故が起きたときの被害は甚大である。原発はできるだけ早くゼロにすべきだ。ただ、短期的には電力不足で日々の暮らしや経済活動に過大な負担がかかりかねない。どう取り組むか。

私たちが昨年来、求めてきたのは全原発の「仕分け」だ。

福島事故の教訓をしっかり反映させた新たな安全基準と個々の立地に基づき、危険性の高い炉や避難が難しい原発から閉めていく。そのうえで第三者の目で必要性を精査し、当面動かさざるをえない最小限の原発を示し、国民の理解を得る。

こうした作業の要となるべきなのが、8月にも発足する原子力規制委員会とその事務局となる原子力規制庁だ。

これまでの原子力安全委員会や原子力安全・保安院は、地震や津波の専門家から活断層の存在や過去の津波被害などについて新たな知見が示されても、規制の強化に反映しないなど、原発推進機関と化していた。

新しい組織が抜本的に生まれ変われるのか。規制委5人の人選は極めて重要だ。委員の中立性を保つため、原子力事業者からの寄付情報の公開も徹底しなければならない。

規制庁は約1千人規模となるが、当初は大半が保安院や安全委、文部科学省など従来の原子力関連組織からの移籍組だ。

統合される原子力安全基盤機構(JNES)を含めて、いずれも電力会社や原子炉メーカーに、人や情報の面で依存する部分が大きかった。

器を変えても、なかで仕事をする職員の意識が変わらなければ、独立性が高まった分、「原子力ムラ」がかえって強化されかねない。

規制庁は、5年後から全職員に出身官庁への復帰を認めないことにした。この間に職員の意識改革を徹底し、独自採用を含めて人材の確保・育成を進める必要がある。

政権内には、新組織が発足すれば、残る原発も従来のストレステストの延長線上で再稼働が決まっていくとの期待がある。

だが、規制委や規制庁がまず取り組むべきは厳格な安全基準の策定だ。それに基づいて、すべての原発を評価し直し、閉じる原発を決めていく。再稼働はそれからだ。

毎日新聞 2012年06月17日

大飯再稼働決定 脱原発の流れ止めるな

野田佳彦首相は関係3閣僚と会合を開き、関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働を正式決定した。会合前に野田首相と会談した西川一誠・同県知事は「主な電力消費地である関西の生活と産業の安定に資するため、同意する」と伝えたという。東京電力福島第1原発事故後、定期検査で停止した原発の再稼働は初めてで、国内の原発稼働ゼロ状態は終わることになる。

だが、多くの国民は、その決断に不安と不信を抱いているはずだ。

福島の事故を教訓に、政府は脱原発依存を掲げた。ところが、事故から1年3カ月が過ぎても、これからのエネルギー政策をどう進め、その中で原発をどう位置づけるのか、明確なビジョンを示していない。過酷事故対策も先送りしたままだ。

夏の電力需要のピークを見据えた8日の記者会見で、野田首相は「日常生活への悪影響をできるだけ避ける。原発を止めたままでは日本社会は立ち行かない」と言い切り、「夏場限定の再稼働では国民の生活は守れない」と強調した。

政府のエネルギー・環境会議は、8月をめどに新たなエネルギー戦略を策定する。決定前に、原子力政策や地球温暖化対策の見直しを含めた選択肢を提示し、国民的議論をすることになっている。選択肢の提示を前に、首相が原発推進ともとれる発言をすることは、国民的議論をないがしろにするものだ。新たな戦略が脱原発の流れを止めることがあってはならない。脱原発政策がきちんと示されてこそ、エネルギー産業なども戦略的な対応が可能となる。

野田首相は、原発を再稼働しても「実質的に安全は確保されている」としたが、私たちはこれを「安全神話への逆戻り」と指摘してきた。

政府は4月に、再稼働の安全基準をまとめた。福島第1原発事故後の緊急対策と安全評価(ストレステスト)の1次評価が基で、「福島を襲ったような地震や津波」に限った対策が中心だ。しかも、事故時の対応拠点となる免震棟建設など時間がかかる対策には猶予を与えている。

国際的な原発の安全原則では、想定を超えて起こった事故の拡大防止策や住民の安全確保など「深層防護」が必要とされているが、現状では満たされていない。安全対策に生かすべき政府や国会の事故調査委員会の検証作業もまだ終わっていない。だからこそ野田首相も、安全基準は暫定的なものだと認めている。

政府は、原子力安全委員会や経済産業省原子力安全・保安院を統合した新組織の「原子力規制委員会」を9月までに発足させ、規制委が新しい安全基準をまとめる。施行は来夏ごろとみられる。大飯以外の再稼働手続きは新基準に従うべきで、滋賀県や京都府などが求めているように、大飯3、4号機の稼働も夏の電力需給逼迫(ひっぱく)期に限定するのが筋だ。

保安院は原発周辺の断層の再評価を電力会社に指示している。大震災の余震で、動かないはずの断層が福島で動いたからだ。大飯原発の直下にも破砕帯(断層)がある。保安院は否定するが、危険性を指摘する専門家もいる。原発周辺の断層評価の見直しも規制委の課題だ。

福井県には大飯3、4号機を含め関電の原発が11基、日本原電の原発が2基と計13基の商業用原発と、高速増殖原型炉「もんじゅ」が立地している。日本でも有数の原発密集地だ。脱原発依存が進めば地域経済に大きな影響が出る。西川知事は夏の電力不足を逆手にとり、首相から踏み込んだ発言を引き出した。しかし、原発事故が起きれば、影響は県境を超え、日本全体に及ぶことを私たちは身をもって知った。これからは、電力の供給地と消費地が手を携え、脱原発と地域の振興に取り組む方策を探していく必要があるだろう。

大飯3、4号機が再稼働したとしても、関電管内を中心に、電力需給が厳しい状況は続く。節電・省エネ対策は緩めるべきではない。電力不足が言われたことで国民の意識も高まり、企業もさまざまな対策に乗り出した今こそ、社会の変革を加速させるチャンスだ。

毎日新聞が6月2~3日に実施した全国世論調査では、大飯3、4号機の再稼働を「急ぐ必要はない」と答えた人が71%に達した。「夏までに原発が稼働せず、家庭や職場で電気の使用が制限された場合、あなたは我慢できますか」との問いには、77%が「できる」と答え、「できない」の19%を大幅に上回っていた。

節電実績に応じて電力会社が対価を支払うネガワット取引や電力会社間の融通拡大などは、原発の有無とは別に促進すべきだ。電力不足の解消に加え、発電設備の無駄も減らせる。夏の電力消費を抑えるようなライフスタイルの見直しも考えたい。

節電の夏をまた体験し、乗り越えることで、私たちは、少しずつ脱原発社会に近づくことができる。

読売新聞 2012年06月17日

大飯再稼働決定 着実な発電開始に万全を期せ

政府が、関西電力大飯原子力発電所3、4号機の再稼働を決めた。

野田首相は16日の関係閣僚会合で、「再稼働することを政府の最終判断とする。原子力行政の信頼回復に向け、さらに取り組みを進めていく」と述べた。

電力危機を回避するため、首相が責任を持って再稼働を決断したことを高く評価したい。

政府は、福島第一原発事故の教訓を反映した判断基準を1年以上かけてまとめ、その基準に沿って大飯原発の安全性を確認した。地元の福井県と、おおい町の同意も得られた上での決定だ。

肝心なのはこれからである。大飯原発の2基がフル稼働するまで約6週間かかる見込みという。通常の定期検査より運転停止の期間が長かったため、念入りに整備する必要がある。

再稼働を電力需要がピークとなる猛暑に間に合わせたいが、「()いては事を仕損じる」ことになっては大変だ。関電は慎重に作業を進め、発電再開に万全を期してもらいたい。

むろん、安全確保が最重要である。日程優先では焦りがミスを誘いかねない。稼働時期が遅れる事態も想定し、当面は電力不足への対策を続けるべきだ。

関電管内では7月2日から15%の節電が予定される。企業の間で自家発電の増強や操業時間変更などの対策が練られている。努力に水を差さぬよう、大飯原発の運転がしっかり安定するまで、節電目標の引き下げは避けるべきだ。

大飯原発2基が順調に稼働したとしても、関西の電力需給は綱渡りが続く。頼みの火力発電所は、これまで酷使した影響で故障のリスクが高まっている。停電への警戒を怠ってはならない。

今夏の電力不足を何とか乗り切った後も、課題は残る。

ほとんどの原発が停止したままでは、火力発電の燃料費は全国で年3兆円も余計にかかる。東京電力以外も、電力料金の値上げは避けられまい。景気悪化と産業空洞化を加速させる恐れがある。

大飯以外の原発も安全を確認したうえで再稼働し、全国的な電力不足を解消することが急務だ。

しかし、原子力規制組織の発足が遅れ、大飯に続く再稼働手続きは事実上、ストップしている。

原子力規制委員会の設置法案は近く成立する見通しだが、委員の人選などに手間取れば時間を空費する。政府は速やかに規制委を発足させ、再稼働の審査体制を軌道に乗せることが求められる。

産経新聞 2012年06月17日

大飯原発再稼働 安定供給で国民生活守れ 電力正常化の努力なお必要

野田佳彦首相が関西電力の大飯原発3、4号機の再稼働を正式に決めた。東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発事故で、国内の全原発が停止した異常事態にようやく終止符が打たれる。

安価で安定的な電力供給は、国民生活と日本経済を支える基盤であり、首相の判断は当然だ。時間がかかりすぎたのは残念だが、まずは電力供給の正常化に向けた一歩と歓迎したい。

ただ、今回の再稼働によっても関西圏の電力不足は解消されない。にもかかわらず、大飯に続いて運転再開できる原発が見当たらないのは問題だ。原発利用はエネルギーの安全保障や電力料金にも影響する。政府は安全性を早期に確立し、他の原発の再稼働につなげなければならない。

≪大停電の恐れは消えず≫

福井県の西川一誠知事が野田首相に再稼働の容認を伝え、関係閣僚で運転再開を最終的に決めた。閣僚会合で、野田首相は「原子力に関する安全性を確保し、さらに高める努力を不断に追求する」と安全対策の強化を表明した。

関電はただちに再稼働の準備に入ったが、停止が長期にわたったため2基とも営業運転に移るのは順調にいって7月下旬だという。梅雨明けには電力需要のピークが始まる。できるだけ早く、フル稼働してほしい。

安定的な電力供給には、発電設備の故障などに備えて、最低でも3%の予備率が必要とされる。大飯原発が営業運転を始めても、関電の電力供給の余裕度を示す予備率は現状のマイナスから「ゼロ程度」に戻るだけだ。

到底安心できる水準ではなく、予想外の大規模停電に陥る恐れもある。一時的に電力供給を停止する「計画停電」の準備は、予定通りに進めたい。

政府は大飯がフル稼働しても、関電管内の節電目標を現在の15%から5~10%への緩和にとどめる方針だ。だが、こうした節電が続くと地元の経済活動の停滞を招くことを忘れてはならない。

また電力不足は、急激な円高に伴う企業の採算悪化に追い打ちをかけている。産業空洞化が加速して、雇用の場を失わせることにもつながる。

原発の停止は、電力料金値上げの動きにも直結してくる。すでに火力発電向け液化天然ガス(LNG)などの燃料費は上昇し、今年度だけで3兆円以上の国富が海外に流出する見込みだ。東電は電力料金の引き上げを申請中だが、原発停止が長引けば、他社でも料金値上げは避けられまい。

こうした事態を回避するためにも他の原発の再稼働が課題だが、そのための作業はほとんど進んでいない。

四国電力の伊方原発3号機だけは原子力安全・保安院が3月にストレステスト(耐性検査)の1次評価を妥当と判断したが、それでも原子力安全委員会が作業を中断して宙に浮いている。

≪継続的な運転が不可欠≫

野田首相が表明した原発の安全体制の確立のためにも、原子力規制行政を一元化する「原子力規制委員会」の発足が重要だ。

設置法案は衆院を通過したばかりだが、規制委を早期に立ち上げ、新たな安全基準づくりを急いでほしい。それが信頼回復にもつながる。

枝野幸男経済産業相は16日の会見で、大飯以外の原発再稼働の判断は規制委の発足後になるとの見通しを示した。果たして、そんな余裕があるのだろうか。

国のエネルギー政策に協力し、原発と共存してきた立地自治体の不信が強まった要因は、民主党政権で原発政策が迷走したことが大きい。とくに電源立地の福井県に再稼働を求める一方で、「脱原発依存」発言を繰り返してきた枝野経産相の姿勢は問題だ。

政策の迷走は、大阪市など電力消費地と電源立地自治体との間の亀裂も生んだ。関西広域連合には「夏季限定の再稼働」を求める声もあるが、安定的な電力を確保するためには、大飯の継続的な稼働は不可欠だ。関西圏の理解を求める取り組みも、政府が責任を持たねばならない。

政府は原発を含めた国のエネルギー政策の見直しを進めている。平成42年の原発比率を大震災前の約3割から引き下げる方針だが、国の活力も左右する問題だけに一時的なムードに流されることなく、冷静に議論したい。

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