野田佳彦首相が関西電力の大飯原発3、4号機の再稼働を正式に決めた。東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発事故で、国内の全原発が停止した異常事態にようやく終止符が打たれる。
安価で安定的な電力供給は、国民生活と日本経済を支える基盤であり、首相の判断は当然だ。時間がかかりすぎたのは残念だが、まずは電力供給の正常化に向けた一歩と歓迎したい。
ただ、今回の再稼働によっても関西圏の電力不足は解消されない。にもかかわらず、大飯に続いて運転再開できる原発が見当たらないのは問題だ。原発利用はエネルギーの安全保障や電力料金にも影響する。政府は安全性を早期に確立し、他の原発の再稼働につなげなければならない。
≪大停電の恐れは消えず≫
福井県の西川一誠知事が野田首相に再稼働の容認を伝え、関係閣僚で運転再開を最終的に決めた。閣僚会合で、野田首相は「原子力に関する安全性を確保し、さらに高める努力を不断に追求する」と安全対策の強化を表明した。
関電はただちに再稼働の準備に入ったが、停止が長期にわたったため2基とも営業運転に移るのは順調にいって7月下旬だという。梅雨明けには電力需要のピークが始まる。できるだけ早く、フル稼働してほしい。
安定的な電力供給には、発電設備の故障などに備えて、最低でも3%の予備率が必要とされる。大飯原発が営業運転を始めても、関電の電力供給の余裕度を示す予備率は現状のマイナスから「ゼロ程度」に戻るだけだ。
到底安心できる水準ではなく、予想外の大規模停電に陥る恐れもある。一時的に電力供給を停止する「計画停電」の準備は、予定通りに進めたい。
政府は大飯がフル稼働しても、関電管内の節電目標を現在の15%から5~10%への緩和にとどめる方針だ。だが、こうした節電が続くと地元の経済活動の停滞を招くことを忘れてはならない。
また電力不足は、急激な円高に伴う企業の採算悪化に追い打ちをかけている。産業空洞化が加速して、雇用の場を失わせることにもつながる。
原発の停止は、電力料金値上げの動きにも直結してくる。すでに火力発電向け液化天然ガス(LNG)などの燃料費は上昇し、今年度だけで3兆円以上の国富が海外に流出する見込みだ。東電は電力料金の引き上げを申請中だが、原発停止が長引けば、他社でも料金値上げは避けられまい。
こうした事態を回避するためにも他の原発の再稼働が課題だが、そのための作業はほとんど進んでいない。
四国電力の伊方原発3号機だけは原子力安全・保安院が3月にストレステスト(耐性検査)の1次評価を妥当と判断したが、それでも原子力安全委員会が作業を中断して宙に浮いている。
≪継続的な運転が不可欠≫
野田首相が表明した原発の安全体制の確立のためにも、原子力規制行政を一元化する「原子力規制委員会」の発足が重要だ。
設置法案は衆院を通過したばかりだが、規制委を早期に立ち上げ、新たな安全基準づくりを急いでほしい。それが信頼回復にもつながる。
枝野幸男経済産業相は16日の会見で、大飯以外の原発再稼働の判断は規制委の発足後になるとの見通しを示した。果たして、そんな余裕があるのだろうか。
国のエネルギー政策に協力し、原発と共存してきた立地自治体の不信が強まった要因は、民主党政権で原発政策が迷走したことが大きい。とくに電源立地の福井県に再稼働を求める一方で、「脱原発依存」発言を繰り返してきた枝野経産相の姿勢は問題だ。
政策の迷走は、大阪市など電力消費地と電源立地自治体との間の亀裂も生んだ。関西広域連合には「夏季限定の再稼働」を求める声もあるが、安定的な電力を確保するためには、大飯の継続的な稼働は不可欠だ。関西圏の理解を求める取り組みも、政府が責任を持たねばならない。
政府は原発を含めた国のエネルギー政策の見直しを進めている。平成42年の原発比率を大震災前の約3割から引き下げる方針だが、国の活力も左右する問題だけに一時的なムードに流されることなく、冷静に議論したい。
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