スペイン危機 銀行崩壊を阻止せよ

朝日新聞 2012年06月10日

スペイン危機 銀行崩壊を阻止せよ

欧州危機が、ユーロ域内第4の大国スペインに広がった。

焦点は、不動産バブルの崩壊に伴う銀行の不良債権問題である。自己資本が足りなくなった大手銀行に政府が資本注入しようにも、財政危機で資金の調達がままならない。

独仏をはじめとするユーロ圏の首脳たちは、スペイン政府を介さずに問題銀行へ資本注入できる体制を一刻も早く整えねばならない。

今のスペインをかつての日本と比べると、銀行の状態はバブル崩壊が金融危機に転じた97年ごろに近い。だが、不動産の値下がり余地が大きく、財政に余裕がない点ではより深刻だ。

国際通貨基金(IMF)はスペインの銀行を安定させるには少なくとも400億ユーロ(約4兆円)は必要と見積もった。格付け会社フィッチ・レーティングスはスペイン国債の格付けを3段階引き下げた。

このままでは政府と銀行が共倒れし、第3の大国イタリアにも波及しかねない。何とかスペインの銀行システム崩壊を封じ込めなければならない。

欧州連合(EU)は、危機に陥った国を支援する欧州金融安定化基金(EFSF)の資金を銀行に直接、注入できるようにする制度改革のほか、銀行の監督や破綻(はたん)処理を域内全体で担う新体制の構築に乗り出した。

7月に発足する新しい安全網である欧州安定メカニズム(ESM)も拡充すべきだ。スペインは地方財政も破綻しつつあり、EUが財政支援を迫られる可能性が高いからだ。ESMは総額5千億ユーロを5年で積み立てる計画だが、増額し、日程も前倒しする必要がある。

国債市場の動揺を鎮め、欧州全体の資金調達を安定化させるため、ユーロ圏共同債の実現にも踏み出す時だ。

ところが、ドイツは負担をつけ回しされる懸念から、これらに一貫して抵抗してきた。メルケル首相は大局に立って譲歩すべきだ。

18、19日にはメキシコで主要20カ国・地域(G20)首脳会議が開かれる。欧州危機を抑え込むため、IMFに4300億ドル(約34兆円)の融資枠を新設することで合意する見込みだ。

しかし、欧州が責任ある危機対応を見せなければ、新興国は支援をためらう恐れもある。豊かな欧州を救うことに国民が反発する懸念があるからだ。

昨年のカンヌG20はギリシャの国民投票騒動で台無しになった。世界との協調がうまくいくか。欧州の首脳たちの行動にかかっている。

毎日新聞 2012年06月13日

スペインも救済 二の矢、三の矢を急げ

ギリシャ、アイルランド、ポルトガルに続き、ついにスペインも欧州諸国の支援を仰ぐことになった。他国の介入を嫌い救済の必要性を否定してきたスペインが、ようやく国内銀行の経営安定化に本腰を入れることになれば歓迎だ。

しかし、欧州に突きつけられた課題の一つが一歩解決に近づいたに過ぎない。ユーロ圏諸国は大きな二の矢、三の矢を急ぐ必要がある。

最大1000億ユーロ(約10兆円)というスペイン支援の大枠発表にもかかわらず、市場の歓迎ムードが数時間しか持続しなかったことは象徴的だ。スペイン国債は逆に売られて利回りが急上昇し、各国の株式市場も相場が下落に転じた。

投資家の不安が瞬く間にイタリアへと及んだのは特に重視すべきだろう。同国の国債利回りは6%を超え、1月末以来の高水準となった。

スペインへの支援には、工夫の跡も見られる。銀行部門に資金使途を限定し、追加の財政緊縮など厳しい条件を付けないことで支援を受けやすくした。だが、国の機関を経由する貸し出しであり、スペインの借金は増える。民間投資家が不利な扱いとなる技術的な不安も残り、スペイン国債は売られやすい環境にある。

二つのことがかつてなく鮮明になった。第一は、ギリシャのユーロ離脱という観測が消えない以上、ドミノ式離脱のリスクにさらされ続けるということ。もう一つは、ユーロ諸国が支援を重ねても、これまでの手法では、その国が健康体に戻る展望がひらけないということ、である。小出しの対策で時間を稼ぐ従来の戦術は、もう通用しない。

17日にはギリシャで議会の再選挙が行われる。たとえ緊縮財政反対派が政権を取っても、欧州が通貨ユーロの維持と、世界経済大混乱の回避を望むなら、ギリシャを救済し続ける必要がある。

一国だけユーロから切り離せば済む単純な話ではない。一つ前例を作ると、政治家がいくら「今回限り」を強調しても、“万一”に備え自己防衛に動くのが投資家や預金者だ。そもそも危機がスペインやイタリアに飛び火した経緯を思い返してみよう。国際支援の後もギリシャの財政状況が改善せず、民間の国債保有者に損失を負担させたことが引き金となった。「ギリシャは例外」のはずだったが、市場は信じなかった。

危機の長期化による世界経済への影響は深刻さを増している。選挙結果がどうであれ、ギリシャのユーロ離脱を防ぐことだ。そして財政や銀行行政の統合に向けた青写真と政治の意思を明確に示す。極めて困難であるのは間違いないが、そうしないことによる代償は大きすぎる。

読売新聞 2012年06月13日

スペイン支援 欧州危機の連鎖を食い止めよ

ユーロ圏第4位の経済規模であるスペインが、不動産バブル崩壊後の経済不振で、金融支援を仰ぐ事態に発展した。

2009年に欧州債務危機が表面化してから、ギリシャ、アイルランド、ポルトガルに次いで4か国目である。

スペイン危機が拡大すれば、欧米や日本など世界の株式市場は一段と混乱し、ユーロ安・円高にも歯止めがかからなくなる。世界経済に深刻な打撃を与えよう。

欧州は対応が後手に回り、危機を繰り返してきた。今度こそ、危機を早急に封じ込めるべきだ。

ユーロを導入している17か国は巨額の不良債権を抱えたスペインの銀行に最大1000億ユーロ(約10兆円)を支援する。欧州金融安定基金(EFSF)などの資金で銀行の資本を増強し、信用不安の収束を目指す方針である。

経営危機に陥った大手銀行バンキアは公的資金注入をスペイン政府に要請したが、財政が火の車の政府には救済する余裕はない。

その他の問題銀行を含め、政府による自力救済は難しいとユーロ圏が判断し、「予防的措置」として支援を決めたのは妥当だ。

17日には、欧州危機の震源地・ギリシャで再選挙が行われる。財政緊縮に反対する左派が新政権入りすれば、ギリシャのユーロ離脱も現実になりかねない。そうなると大混乱は必至だろう。

ギリシャの再選挙前に、ユーロ圏は結束してスペイン問題に対処する方針を打ち出し、市場の動揺を防ぐことを狙ったようだ。

だが、先行きは不透明だ。

ユーロ圏による支援の大枠が決まったとは言え、支援方法や金額は未定である。具体策を急ぎ、迅速に実行すべきだ。金融機関の再編にも取り組んでもらいたい。

バブル崩壊の後遺症に苦しむスペインは、今年、来年とマイナス成長に低迷する見込みだ。不況の長期化に伴って、銀行の不良債権額がさらに膨らむだろう。ユーロ圏が想定する支援規模で十分かどうかは予断できない。

スペインへの支援は銀行部門に限定されるため、ギリシャのように、ユーロ圏から追加的な財政再建策は要求されない見通しだ。

ただし、経済再生には財政再建と経済成長の両立が欠かせない。スペインにとっては難題だ。

欧州問題は、来週メキシコで開かれる主要20か国・地域(G20)首脳会議の最大の焦点となる。独仏両国などに対し、危機収束の実行力と結束を求める圧力が強まることは避けられまい。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1070/