修正協議への提言/社会保障 危機克服に向け合意を

朝日新聞 2012年06月23日

小沢氏の造反 大義なき権力闘争だ

民主党の小沢一郎元代表がみずからのグループを率い、来週の消費増税関連法案の衆院採決で反対票を投じる構えだ。

すでに約50人が離党届に署名し、小沢氏とともに集団離党して新党結成をめざすという。

それならそれで仕方がない。

だが、小沢氏が「私どもの大義の旗は国民の生活が第一だ」と、造反を政策論で正当化するのは納得できない。私たちには、今回の行動は「大義なき権力闘争」にしか見えない。

政権交代した09年総選挙で、民主党が掲げた「国民の生活が第一」の旗印は色あせた。

「予算組み替えなどで16.8兆円の新たな財源を生み出す」という公約が実現不能なことは、この3年の挫折で明白だ。

自分が首相なら実行できる、と言いたいかもしれない。ならば具体的に説明してほしい。

消費増税なしに持続可能な社会保障をどう築くのか。どうすれば16.8兆円もの巨額の新規財源が生み出せるのか。

小沢氏は「選挙になれば反増税と脱原発を掲げて戦える」と側近議員に語ったという。

だが、反増税はともかく、脱原発や原子力政策のあり方について、本人の口からまとまった主張は聞いたことがない。

結局、反増税も脱原発も、小沢氏にとっては実行すべき政策論というより、次の総選挙で一定の「数」を確保し、キャスチングボートを握るための道具ということではないのか。

あきれたのは、離党届に署名した衆院議員たちが、それを小沢氏に預けたことだ。

最後まで自分で判断し行動する姿勢を放棄し、「親分」に身の処し方を委ねるかのようだ。小沢氏に世話になっているのが事実でも、民主主義国の国会議員のふるまいとは思えない。

この3年、小沢氏の公約実行に向けた努力は見えない代わり、時の政権の足を引っ張る権力闘争ばかりが目についた。

震災の痛手が生々しい昨年6月、小沢氏は、菅内閣に対する不信任案に一時賛成しようとした。春には、グループの議員たちに野田内閣の政務三役や党役職の辞表を次々と出させた。

その小沢氏がいま「公約こそ大義」と叫ぶのは、驚きを通り越してこっけいですらある。

離党者が54人以上なら与党は過半数を割り、野党と組めば内閣不信任案が可決される。自民党はますます野田首相の足元を見るだろう。

首相の置かれた状況は厳しいが、妥協は不可能だし、すべきでもない。たじろぐことなく採決に臨むしかない。

毎日新聞 2012年06月21日

民主修正合意了承 造反なら離党覚悟で

消費増税関連法案の3党修正合意をめぐり民主党は党内の了承手続きを終えた。法案の衆院本会議での採決は国会会期末の21日からずれこむ見通しとなり、同党は参院での審議や残る懸案の解決に向けて会期の79日間延長を野党に提案した。

党内では小沢一郎元代表に近い議員を中心に大量造反が見込まれ、対立は収束していない。採決をいたずらに引き延ばすようでは、政党間の信義にもかかわる。造反議員の処分方針も含め、野田佳彦首相は毅然(きぜん)とした対処を貫くべきだ。

修正合意をめぐり民主党は前原誠司政調会長に一任することで審査を打ち切り、政府・民主三役会議で了承した。

社会保障の看板政策を棚上げしての大幅譲歩だけに不満の噴出はやむを得ないが、事前に首相らに修正協議が一任されていなかったため、またも手続き論で党内が混乱している。お粗末と言わざるを得ない。

採決がずれこむ見通しとなった背景にあるとみられるのが、党内反対派の動向だ。修正合意には自公両党が賛成しているため、かなりの議員が造反しても衆院本会議の可決自体は揺るがない情勢だ。

ただ、衆院で造反が50人を大きく上回り党分裂に波及すると野田政権は今後の国会運営で衆参両院ともに少数勢力となりかねず、展開次第では内閣不信任決議案の可決も現実味を帯びてくる。政権にとって大きな打撃となることは間違いあるまい。

だからといって融和に配慮するあまり、あてもなく採決に手をこまねいているようでは、合意実現への疑心が自公両党に急速に広がろう。すでに関連法案は衆院で十分に審議されている。国会で修正案について一定の質疑を行ったうえで、早期に採決に踏み切るべきだ。

民主党内の反対派からは「党内手続きに瑕疵(かし)がある」として、造反しても処分すべきでないとの声が出ているという。何とも虫のいい議論である。首相が政権を懸け、党の了承を得た法案に造反するなら、離党の覚悟を固めるべきだ。

消費増税方針は確かにさきの衆院選での民主党の主張に反している。だが菅、野田内閣の下で進められてきた合意形成を無視し、手続き論で造反を正当化するような論法は到底、理解できない。政策よりも党内抗争が結局、目当てではないか。

20日開かれた両院議員懇談会で首相は改めて「ノーサイド」の党内融和を説き結束を呼びかけたが、反対派の同調が難しいことは織りこみずみであろう。ならば造反に断固たる態度でのぞみ、不毛な内紛にピリオドを打つことが政権与党が果たすべき責任である。

読売新聞 2012年06月22日

小沢氏造反明言 民主は厳正処分を事前に示せ 

政策がバラバラで、重要な方針がなかなか決まらない。民主党がこうした混迷から脱するためにも、造反には厳しい姿勢で臨む必要がある。

民主、自民、公明3党は幹事長会談で、社会保障・税一体改革関連法案を衆院で速やかに採決し、今国会中に成立させることを確認した。

法案の衆院通過は、来週の26日になると見られる。

採決における焦点は、民主党内の造反の動きである。小沢一郎元代表は法案に反対する意向を改めて示し、採決が済めば、「最善の道を選びたい」と述べた。新党結成を検討する考えも表明した。

野田政権が最重要課題と位置付ける法案に反対するのであれば、離党するのが筋であろう。

小沢氏に同調した民主党議員らが、採決時に反対または棄権・欠席する可能性がある。仮に造反議員が多数離党した場合、与党が衆院でも過半数を割り込む事態さえ予想される。

こうした事情から、輿石幹事長は造反があっても、「党をまとめていきたい」と、党分裂の回避を目指す意向を示した。

だが、造反議員への処分を甘くすることは、民主党が内包する深刻な路線対立を一時的に糊塗(こと)するだけではないか。

民主党は、内閣不信任決議案や予算案の採決時の造反に対し、厳しい処分を避けてきた。その結果、規律が緩み、党執行部の求心力も低下したことは否めない。

党執行部は、造反すれば除名や離党勧告という重い処分を行うことを事前に明示し、採決に臨むべきだ。それが造反を思いとどまらせる上で一定の効果を持とう。

一方、小沢氏は法案に反対する理由として、「大増税だけが先行するやり方は国民への背信行為」と語った。さらに、統治機構を変え、無駄を徹底的に省けば財源が生まれると、政権公約(マニフェスト)の主張を繰り返した。

だが、予算組み替えなどで最終的に16・8兆円もの財源を捻出できる、としたマニフェストの根幹部分はすでに破綻している。それをどう説明するのか。

鳩山、菅、野田の3代の内閣は、マニフェストの主要政策が実現不可能であることを事実上認め、現実路線にかじを切ってきた。政権交代後に積み重ねてきた政策論議を一切無視するような、身勝手な理屈は説得力を持たない。

消費増税に反対し、社会保障制度や財政の破綻を招くことこそ、国民を裏切る行為である。

産経新聞 2012年06月22日

小沢元代表 増税反対なら離党が筋だ

民主党の小沢一郎元代表が消費税増税を柱とする社会保障・税一体改革関連法案の採決で反対する考えを表明した。

従来の党内手続きや「決められない政治」を打破しようという民主、自民、公明3党の関連法案の今国会成立の合意を否定するもので、遺憾というほかない。

小沢氏は消費税増税を批判する一方、政権交代の原点としてマニフェスト(政権公約)堅持を強調してきた。

だが、党幹事長などを務めた小沢氏も内容に責任を負うマニフェストは、無駄削減で16・8兆円の財源を生み出すと主張したが、その破綻は明白だ。

野田佳彦首相は昨年の党代表選で増税に言及し、首相に選出後は一体改革の大綱や関連法案の決定で党内手続きを重ねてきた。

小沢氏らは議論が途中で打ち切られたと反発するが、今回の造反は増税を政争の具にする政局至上主義のようにみえる。首相が政治生命を懸ける最重要法案に反対する以上、離党が筋だろう。

党分裂を避けるため、輿石東幹事長ら執行部には、小沢氏らが造反した場合でも厳しい処分を行わない考えがあるようだ。

だが、再び党内融和を名目に厳しい処分を見送ったからといって党内対立の構図は変わらない。スピード感をもって政策を展開できなければ、決められない政治からも抜け出せない。

自民党の谷垣禎一総裁からは「頭がたくさんある」と統治能力を批判されてきた。小沢氏らの造反に首相や執行部が厳しく対処できるか。重要政策の方向性を定められない党の構造的問題を打破するチャンスともいえる。

小沢氏は「選択肢はいくつかある。最善の道を選びたい」と離党や新党結成も示唆しており、同調者が増えれば民主党の衆院過半数割れも予想される。首相の大きなダメージとなる一方、新たな政界再編につながる可能性がある。

会期延長について、自民、公明両党は8月のお盆休み前までの50日間程度を主張していたが、民主党は79日間の大幅延長を主張して野党の反対を押し切った。

自公両党は、関連法案成立後の衆院・解散総選挙を首相に迫るつもりだったが、9月8日まで延長されたことで解散は遠のいたとの見方もあり、戦略の立て直しが必要となろう。

朝日新聞 2012年06月19日

小沢元代表 矛盾だらけの増税反対

消費増税関連法案をめぐり、民主党の小沢一郎元代表が野田政権への批判を強めている。

消費税の引き上げは「国民に対する冒涜(ぼうとく)、背信行為だ」と厳しく批判し、会期末の21日に予定される衆院採決で反対票を投じることを明言している。

それが信念だというなら、仕方がない。

だが、過去の自身の言動や党内論議の経緯からみて、その言い分は矛盾だらけで説得力を欠くといわざるをえない。

たとえば以下の疑問に、どう答えるのか。

第一に、社会保障と税の一体改革路線は党内の論戦を何度もくぐって決着した、れっきとした党の決定であることだ。

政権交代を果たした09年の総選挙で、民主党は「消費増税はしない」と国民に約束した。それは小沢氏の言う通りだ。

しかし、自身も立候補した翌10年の党代表選を、よもや忘れたわけではあるまい。

小沢氏は「消費増税はムダを省いた後」と主張したが、「消費税を含む税制改革と社会保障改革にセットで取り組む」と訴えた菅首相に敗れた。

菅首相は参院選でも消費増税を訴えた。選挙には敗れたが、一体改革の路線は野田首相に引き継がれた。

党内で主張をぶつけ合うのは当然だが、議論を尽くした結論に小沢氏が他の議員を率いて反対するなら党を出るのが筋だ。

第二に、「増税の前にやるべきことがある」と小沢氏はいう。では、「やるべき」政策とは何なのかを具体的に語らないのはどうしてなのか。

09年総選挙の政権公約の最大の柱は「予算の組み替えなどで16.8兆円の新規財源を生み出す」というものだった。

政権交代から約3年、この公約の破綻(はたん)は明らかだ。だからこその一体改革ではないのか。

政権交代前、「政権さえとれば財源はなんぼでも出てくる」と、党代表として公約づくりを引っ張ったのは小沢氏だった。

第三に、小沢氏自身、過去に何度も消費増税の必要性を唱えてきたのはどうなったのか。

一例をあげれば、細川政権の94年、小沢氏の主導で突然、発表された7%の「国民福祉税」構想がある。

この時は、連立与党内の論議はまったく経ておらず、国民はもちろん与党の幹部たちも「寝耳に水」だった。あれは間違いだったということか。

小沢氏に同調しようと考える議員たちは、いま一度、こうした経緯を冷静に振り返ってはどうだろう。

毎日新聞 2012年06月16日

民自公修正合意 「決める政治」を評価する

2大政党の党首が主導し、政治は崖っぷちで踏みとどまった。税と社会保障の一体改革関連法案の修正協議で民主、自民、公明3党が合意した。焦点の社会保障分野は民主党が公約した最低保障年金制度創設などの棚上げで歩み寄った。

民主党政権の発足以来、初めてとすら言える「決める政治」の一歩であり、歴史に恥じぬ合意として率直に評価したい。だが、民主党内の対立は分裂含みで激しさを増しており、今国会成立というゴールまではなお、不安要因を抱えている。

野田佳彦首相は党内のかたくなな反対勢力と決別し、ひるまず衆院での採決にのぞむべきだ。より広範な国民理解を実現するため、参院での審議などを通じ与野党は制度設計の議論を続けねばならない。

民主、自民両党とも複雑な内部事情を抱えつつ合意にたどりついたのは、日本が抱える財政危機の深刻さの裏返しだ。国と地方の債務残高が1000兆円規模に達する中で、増加する社会保障費への対応を迫られるという異常な状態だ。「決められない政治」からの脱却を目指し、混乱を回避することで既存政党が最低限の責任を果たしたといえよう。

一方で、多くの課題を先送りしての決着であることも事実だ。さきの衆院選公約で民主党が掲げた最低保障年金の創設や後期高齢者医療制度の廃止は財政の状況や見通しを踏まえて有識者会議で議論し結論を得るとされ、棚上げされた。新たな年金制度の実施に必要な財源や、現行医療制度を廃止した後の枠組みで民主党は説得力あるプランを示せなかった。大幅譲歩はやむを得まい。

自民党は年金、医療で現行制度を基本とする「社会保障制度改革基本法案」の受け入れを求め、民主党に公約撤回を迫った。決裂も一時は危ぶまれたが、谷垣禎一自民党総裁は対案の修正で矛を収めた。

野田内閣の足元をみて民主党をカサにかかって攻め立てただけに、自民党内にも不満が残る決着の仕方かもしれない。だが、年金、医療制度の不信や今日の危機的な財政状況を招いた責任の多くは自民党にあることを忘れてはならない。民主党の分裂や揺さぶりに血道をあげるばかりでは、逆に国民の反発を生んだに違いない。

課題を残したのは、消費税率を2段階で10%まで引き上げる税制改革の制度設計も同様である。低所得者対策として、臨時に現金を出す簡素な給付措置では合意した。最も効果的な対策である軽減税率の導入は検討対象とされたが、実質的な結論は先送りされた。

各種世論調査で消費増税への理解がなお浸透していない事実を軽視してはならない。公明党は今回の協議で8%からの軽減税率の導入を主張した。参院の法案審議などの場面を通じ、国民理解をより広げるためにも議論の継続を求めたい。

当面の焦点となるのは、民主党の党内手続きである。3党が賛成すれば衆院通過は動かぬ情勢とはいえ、首相が衆院採決に向け、どれだけ多数を掌握できるかが問われる。

一方で、理解しがたいのは政府・与党が大綱で決めたはずの方針に公然と反旗を翻し、反対運動を展開している小沢一郎民主党元代表らの動きだ。修正協議での大幅譲歩を念頭に「自殺行為」「国民に対するぼうとく、背信行為」と批判するが、本質はあくなき権力闘争である。

東日本大震災で被災地の復旧を迫られるさなかに民主党内の亀裂をさらした昨年6月の内閣不信任決議騒動と同様、小沢元代表を軸とする内紛は負の要因以外の何物でもない。もはや、同じ政党に水と油の勢力が居続けることは限界を来している。

首相が会期末となる21日までに採決に踏みきることは当然だ。加えて、造反議員に対しては除名を含め断固たる処分でのぞむべきだ。

首相は近く谷垣総裁との党首会談を行うとみられる。衆院での法案採決はもちろん、自民党が要求する早期の衆院解散と一体改革法案の処理をどう絡め、法案成立に必要な会期延長の幅をどうするかなどはなお、見通せていない。

衆院議員の任期満了まで1年余となり、総選挙は次第に迫っている。社会保障の将来像は新設される会議に委ねられた。だが各党が責任ある案を練り、合意の前に国民の審判を仰ぐのもひとつの方法だろう。

その意味でも、違憲状態が放置されている衆院「1票の格差」を是正する最低限の措置を与野党は一日も早く講じる責任がある。せっかく歩み始めた「決める政治」を壊してはならない。

読売新聞 2012年06月20日

民主党法案審査 政策決定過程が未熟すぎる

党執行部は懸命に説得するが、異論が噴出し、収拾できない。時間が無為に過ぎていく――。この不毛な光景を何度、見せられたことか。

社会保障・税一体改革関連法案の民主、自民、公明3党修正合意について、民主党の了承手続きは最後まで難航した。

「最低保障年金制度の創設という政権公約(マニフェスト)の根幹を変えては、選挙に勝てない」「社会保障政策は自民党に譲歩し過ぎだ」。民主党政策調査会の合同会議では、増税反対・慎重派から、こんな意見が相次いだ。

自ら選んだ野田首相が「政治生命」を懸けている一体改革の足を引っ張ること自体、政党人として筋が通らない。野党体質を引きずっていると言うほかない。

民主党は、自らの政権維持能力が試されていることを自覚し、早期に修正案を了承すべきだ。

問題の根源は、議論を延々と続けるだけで、物事を決めようとしない民主党の政治文化にある。

野田政権は昨年9月、「政調部門会議→政調役員会」という法案審査手続きを確認した。重要法案については、政調会の審査に加えて、「政府・民主三役会議」の場で最終決定される。

だが、政調会が鳩山政権で廃止され、菅政権で復活し、野田政権では権限が強まるなど、代表交代のたびに政策決定制度が変わり、根付かなかったことが、党内論議の迷走に拍車をかけている。

自民、公明両党は今回、3党協議前に幹部に対応を一任した。合意内容の了承も終えている。

長年の与党経験を踏まえ、党内に異論があっても、決定的な対立を招く前に矛を収める「大人の知恵」を身につけているからだ。

これに対し、民主党の場合、重要案件については、当選1回議員も含む全員参加の議論で決着させるのが通例である。

本人たちは、オープンで活発な議論をしているつもりかも知れないが、その中身は乏しい。

衆参ねじれ国会の下、与党の主張をすべて通すべきだと考える方がおかしい。むしろ、与党には、野党の意見を取り入れ、政治を前に進める責任がある。それを実行する意思と能力も求められる。

丁寧に党内手続きを踏んで決めた消費税率引き上げに、小沢一郎元代表のグループが公然と反対している姿は、党の地方組織からも批判されている。

政権党には、政策決定の的確さとともに、スピードも要求されていることを自覚すべきだ。

産経新聞 2012年06月21日

民主党 「決める政治」さらに前に

社会保障と税の一体改革をめぐる民主、自民、公明3党の修正合意について、民主党は20日の政府・民主三役会議でようやく正式に了承した。

3党合意には、社会保障の安定財源確保などの重要課題に与野党が協力して取り組むという意義がある。政府・民主党は合意を確実に実現する責務があることを銘記すべきだ。

19日夜の政策調査会合同会議で、前原誠司政調会長が「私に法案を一任してもらう」と議論を打ち切ったことに増税反対派は反発しているが、延々と続く平行線の議論に区切りをつけたのは妥当な判断といえるだろう。

民主党は今国会を9月8日まで79日間延長する方針も野党に伝えた。だが今後、反対派の大量造反など流動的要素は少なくない。

野田佳彦首相は法案成立に指導力を発揮し、「決める政治」をさらに前に進めてもらいたい。

18、19の両日開かれた政調合同会議でも、反対派は最低保障年金の創設や後期高齢者医療制度廃止など、マニフェスト(政権公約)の主張が3党合意で棚上げされることに反発した。さらに「時間をかけて修正内容を検証すべきだ」と強調した。

これでは法案の採決引き延ばしを狙っているだけだと受け取られてもやむをえないだろう。

野田首相が20日夕の両院議員懇談会で、「一定の時期に結論を出し、みんなで乗り越えていく政党をつくりたい」と述べたのも、政権政党として当然のことだ。

政権交代直後の平成21年暮れ、当時幹事長だった小沢一郎元代表は鳩山由紀夫政権に、マニフェストの目玉だったガソリン税の暫定税率廃止を断念させた。これも、十分な議論を経ずに民主党が公約を変更した代表例だ。増税反対派は忘れたのだろうか。

財源不足にどう対応するかなど現実的な判断を迫られたとき、果たして政権政党として適切な判断を下せるかどうか。民主党に問われ続けてきた課題といえる。

20日とみられていた首相と自民党の谷垣禎一総裁らとの党首会談は開かれていない。修正案の提出遅れから首相が表明した21日までの衆院採決も見送られる。

輿石東幹事長ら執行部が緩慢な取り組みを続けているためだが、これでは赤字国債発行に必要な特例公債法案の成立などにも、めどをつけようがない。

朝日新聞 2012年06月16日

修正協議で3党合意 政治を進める転機に

多大な痛みを伴うが、避けられない改革だ。

社会保障と税の一体改革をめぐる修正協議で、民主、自民、公明の3党が合意した。

多くの政策課題が積み残しになった。民主党内の手続きも予断を許さない。それでも、この合意が「決められない政治」を脱する契機となることを願う。

高齢化の進展に伴い、年金や医療、介護の費用が膨らむ。

低賃金の非正社員や、頼れる身寄りもなく子育てをする人が増えて、支援を求めている。

財源が要る。それを借金に頼り、子や孫の世代に払わせるのは、あまりにも不誠実だ。

なぜ「決められない政治」に陥ったのか。それは、政治家が厳しい現実と向き合うことから逃げてきたことが大きい。

経済が右肩上がりで伸び、税収が自動的に増えた時代はとうに終わった。

だが、選挙で選ばれる政治家は有権者に負担を求めるのが苦手だ。財源のあてもなく、あれもこれもやると公約するから実現できない。だれかが苦い現実を説くと、必ず甘い幻想を振りまく反対勢力が現れ、前へ進むことができない。

「ねじれ国会」のもと、その弊害は目を覆うばかりだ。

それだけに、国民に苦い「増税」を含む改革に合意した意味は大きい。

それは、政権交代がもたらした計算外の「成果」かもしれない。ばら色の公約を掲げて政権についた民主党だが、財源を見いだせず多くの公約をかなえられなかった。

自民党に続き、民主党も政権運営の厳しさを学んだ2年9カ月だった。

合意は、両党の隔たりが実は小さいことも教えている。

独自色を出そうにも、財政の制約のなかでは、現実にとりうる選択肢は限られる。だから修正協議の主な争点は、法案そのものではなく、新年金制度など民主党の公約の扱いだった。

2大政党が一致点を探り、実現していく例は増えるだろう。

ただ、それには一長一短がある。政治が動くのはいいが、今度はその方向が問われる。

たとえば自民党は、3年で15兆円を道路網の整備などにあてる国土強靱(きょうじん)化法案を提出している。時代の変化を見据えず、公共事業頼みに逆戻りするような主張をどう扱うのか。民主党も問われることになる。

それでも、争うばかりの政治は卒業しなければならない。

民主党執行部が、反対派にひるまず一体改革に党内の了承を取り付ける。それが出発点だ。

毎日新聞 2012年06月14日

大詰め修正協議 党首会談で決着を図れ

税と社会保障の一体改革関連法案の3党修正協議が大詰めを迎えている。民主党が社会保障分野で大幅譲歩したことで自民、公明両党との合意に手が届きそうな状況だ。

最低保障年金制度の創設など民主党が公約に掲げた政策の扱いが焦点だが、3党にまとめる意志があれば越せぬハードルではない。野田佳彦首相、谷垣禎一自民党総裁が主導し決着を図る時である。

難航必至とされた社会保障分野の修正協議だが、当面の課題についてほぼ合意をみた。民主党は同党が主張する後期高齢者医療制度の廃止を事実上棚上げすることで歩み寄った。廃止後の説得力あるビジョンを描けていなかっただけに、妥当な判断だろう。

子育て支援で民主党は幼稚園と保育所の機能を併せ持つ「総合こども園」を創設する方針を撤回した。現行の「認定こども園」の拡充や文部科学、厚生労働両省の補助金の一本化で調整しているが、子育てに多様な事業体の参入を促す改革の根幹まで後退させてはならない。

最も難しいのは年金の将来ビジョンだ。民主党は最低保障年金制度を棚上げし新たな会議で議論する点までは譲歩した。これに対し、自民党は同党の「社会保障制度改革基本法案」の受け入れを求めている。

同法案は年金や後期高齢者医療も現行制度の維持を基本にしており、民主党に公約の事実上の撤回を迫ることになる。自民党には民主党内の亀裂を拡大させる思惑もあるようだが、丸のみに固執するようでは政争優先のそしりを免れない。首相が指示したように、自民案修正による共同提案で接点を探るべきだ。

消費増税の焦点である低所得者対策では8%への税率引き上げの際、臨時に現金を出す簡素な給付措置を実施することで大筋合意した。だが、公明党が主張しているように8%段階から軽減税率の導入に踏み切るのが最も効果的だ。与党内からも導入を求める声が出ている。3党合意で道筋をつけるべきだ。

21日の国会会期末が近づいている。同日までの衆院採決に向けて自民、公明両党は15日を3党が修正協議で合意する期限としている。首相は18、19日にメキシコで開かれる主要20カ国・地域(G20)首脳会議への出席を控えており、日程上、決着を迫られていることは事実だ。

民主党内でここにきて増税そのものへの反対論が根強いことは理解に苦しむ。一定の党内手続きは必要だが、修正協議が決着すれば衆院で採決に進むことは当然だ。首相と谷垣氏が最終場面で会談し、2大政党の党首の責任で「決められる政治」を証明しなければならない。

読売新聞 2012年06月19日

一体改革法案 民自公合意を採決につなげよ

民主、自民、公明3党が合意した社会保障・税一体改革関連法案の修正案を巡り、民主党内の了承手続きが始まった。衆院採決に向け、意見集約を急ぎたい。

修正案は、社会保障と税制に関して専門知識を有する実務者らがひざ詰めの議論でまとめた。

地に足のついた現実的な内容である。民主党執行部は、増税反対派をきちんと説得し、関連法案採決時の造反を最小限に抑え込む必要があろう。

子育て支援策は、政府・民主党が待機児童解消策の目玉として掲げていた「総合こども園」の創設を取り下げ、自公政権でスタートした現行の「認定こども園」を拡充する形でまとまった。

総額で年間1兆円を投じる子育て支援策を前に進めていくためには妥当な判断と言える。大事なのは、高齢者向けに偏っている社会保障財源を全世代型にバランス良く配分し直すことだ。その認識を3党が共有した意義は大きい。

現行の年金制度の手直しでは、民主党と公明党が、所得の低い受給者に対する年金加算を主張し、自民党は生活保護で対応すべきだとして対立していた。

この点は、年金加入実績に連動させる「福祉的な給付金」という名目で、低所得者に現金を支給することで折り合った。給付規模は政府案の年金加算で見込む約6000億円の範囲内にとどめる。

年金加算と生活保護の中間的な妥協策ではあるが、困窮した高齢者への新たな支援手法として、一定の期待が持てる。

このほかに、被用者年金の一元化、最低加入期間の短縮など、自公政権からの懸案だった現行制度の改善が、相当実現する。

一方、税制分野では、消費税率引き上げで影響の大きい低所得者への対策として、食料品などの税率を抑える「軽減税率」の導入検討を明記した点は評価できる。

軽減税率は、分かりやすく効果的な低所得者対策だ。税率を8%とする、最初の引き上げ段階から導入することも視野に入れ、議論を深めてもらいたい。

ただ、軽減税率などの導入に先立って低所得者に現金を支給する方向で、3党が一致したことは疑問だ。ばらまきは禁物である。

基礎年金の国庫負担割合を2分の1に引き上げたことに伴う“つなぎ財源”を「交付国債」で賄うとの政府方針は撤回された。交付国債は赤字国債ではない、などと、厳しい財政状況を糊塗(こと)する手法は通用しない。撤回は当然だ。

産経新聞 2012年06月19日

民主党と消費税 「造反」許さぬ姿勢みせよ

民主、自民、公明3党が消費税増税関連法案の修正合意をまとめたのに対し、民主党内で法案採決の先送りという無責任な考え方が出ている。

会期末の21日までの衆院採決は野田佳彦首相が重ねて明言してきたもので、3党合意の前提にもなっていた。ところが、民主党の増税反対派議員らは、18日に開いた党内の了承手続きの会合などで修正合意を批判し、採決すれば造反も辞さない構えを強めている。

輿石東幹事長が会期内の採決を明言していないことも情勢を不透明にしている。党の分裂回避のため、採決を延期しようという考えも見え隠れしている。

採決引き延ばしで3党合意を瓦解(がかい)させることは許されない。「不退転の決意」で臨む首相は、造反者は除名処分とする姿勢を鮮明にしたうえで、粛々と法案を採決すべきだ。

小沢一郎元代表ら反対派は「増税の前にやるべきことがある」と主張し、政権交代当時の「国民生活が第一」というスローガンを今も唱えている。

18日の党会合では、年金改革案の柱である最低保障年金の創設や後期高齢者医療制度の廃止をめぐる議論を「社会保障制度改革国民会議」に棚上げしたことに対し、「修正合意は自民党案の丸のみだ」などと批判が相次いだ。

根底にあるのは、民主党マニフェスト(政権公約)を変えたくないとの考え方だ。しかし、そのマニフェストはムダ削減などで16・8兆円の財源を生み出せるとし、ばらまき政策を並べたあげく、必要な財源を捻出できなかった。

それについての十分な反省や説明もないまま、莫大(ばくだい)な費用を要する最低保障年金など、実現困難な政策を引き続き掲げようというのは有権者を愚弄していないか。ばらまき政策を撤回して国民に謝罪することこそ必要だ。

輿石幹事長は18日、首相も出席する両院議員懇談会を20日に開く考えを示した。丁寧に党内論議を行う姿勢を強調したものだが、これで21日までの衆院採決に間に合うのか。

首相は「幹事長や執行部に全幅の信頼を置いている」と語った。しかし、「足元がしっかりしていないと合意は実行できない」などとして執行部が採決より党内融和を優先させる対応をとるなら、任せたままにはしておけまい。

朝日新聞 2012年06月16日

修正協議で3党合意 一体改革は道半ばだ

社会保障をめぐる修正協議では、民主党が掲げてきた「最低保障年金の創設」と「後期高齢者医療制度の廃止」を棚上げしたうえで、子育て支援などで一定の合意を得た。

それ自体は、賢明な選択だ。もともと新年金や高齢者医療の見直しは、消費増税と直結する一体改革とは別の問題である。自民党が提案した国民会議で議論するのが望ましい。

しかし、一体改革での合意には、問題が山積している。

まずは現役世代への支援の柱となる子育ての分野だ。

消費税収から7千億円の財源が確保される意義は大きい。

民主党が、看板とした「総合こども園」の創設をあきらめ、自公政権下に始まった「認定こども園」の拡充で対応するとしたことも評価する。

看板にこだわるより、厚生労働省と文部科学省の二重行政を解消し、幼保一体化の施設を広げて待機児童を減らす実をとる方が国民のためになる。

心配なのは、自民党に家族をことさら重視したり、既存の事業者に配慮したりする姿勢が目立つことだ。

たとえば、「0歳児への親が寄り添う育児」との主張は、雇用が不安定な親が増える中で、ないものねだりにすぎない。

株式会社などの新規参入を警戒することも、都市部で小規模な保育所を増やすといった多様な対策の手を縛りかねない。

より問題なのは税制分野だ。消費増税に伴う低所得者対策が先送りされただけではない。

政府の法案に盛り込んでいる相続税と所得税の強化策が削除され、今後の論議にゆだねられることになった。これも自民党の主張である。

法案は、相続税で遺産額から差し引ける控除を縮小しつつ最高税率を50%から55%へ引き上げる。所得税では、課税所得が5千万円を超える人に限って税率を40%から45%へ引き上げる――という内容だ。

社会保障負担を分かち合うために国民に広く消費増税を求めるからには、資産や所得が豊かな人への課税を強化し、再分配を強めることが不可欠だ。相続税と所得税の強化策をお蔵入りさせることは許されない。

修正協議では、自民党の主張ばかりが目についたが、家庭に依存する子育て政策の転換を訴え、富裕層への課税強化を主張する公明党には、今後の詰めで存在感を示してほしい。

社会保障を国債に頼る構造を改め、現役世代を支援し、所得再配分を強める。一体改革の理念を忘れてはならない。

毎日新聞 2012年06月10日

修正協議への提言/消費税 軽減税率の導入に動け

消費税率引き上げを柱とする税と社会保障の一体改革に関する与野党修正協議に際して、軽減税率の導入を求めたい。

政府は目先の財源確保を急ぐあまり軽減税率の検討に後ろ向きだ。だが、急速な少子高齢化が進むなか、適正な社会保障水準を維持し財政赤字を管理しようとすれば、20%前後への消費税率の引き上げを展望せざるを得ないとの見方が強い。

消費税は低所得者ほど相対的に負担が重くなる逆進性を抱える。軽減税率なしで、消費税率の引き上げを納税者が受け入れていくだろうか。今回の修正協議を好機に、軽減税率の導入を決断すべきだ。

欧州と日本の消費税制度の最大の違いは、欧州ではほとんどの国が標準税率と軽減税率の複数税率を採用していることだ。例えばドイツの例をみると、標準税率は19%だが、食料品、水道水、新聞・雑誌、書籍、旅客輸送などに軽減税率7%が適用されている。英国では軽減税率が5%と0%のふた通りあり、5%は家庭用燃料や電力、0%は食料品、水道水、新聞・書籍などである。

軽減税率は消費税の逆進性を緩和する非常に明快な方法である。欧州ではしばしば消費税率が引き上げられてきたが、国民の反対はさほど強くない。暮らしの基幹を支える食料品等に軽減税率が適用されていることが大きい。これなしで消費税が欧州の納税者の支持を得るのは難しかった、と考えられている。

また、増税されてもそれはいずれ年金や医療給付などの形で自分に戻ってくることを実感しているからであろう。福祉国家が軒を連ねる欧州らしい受け止め方である。「フランス人は増税は将来の収入とみなしている」などという人もいる。

国会にいま提案されている政府案では、消費税率はまず8%へ、さらに10%へと2段階で引き上げられる。だが、例えば15年度に社会保障4経費(年金、医療、介護、少子化対策の国・地方の経費)を消費税でまかなおうとすれば、税率は16%が必要である(大和総研試算)。

これが示すのは、社会保障を消費税で「安定したもの」にするには、今後ともかなりの引き上げが必要、ということだ。今回の与野党協議で軽減税率を導入し、制度の安定性を確保しておくのが、先見的であるばかりでなく現実的である。

政府は(1)何を軽減税率の対象とするか線引きが難しい(2)軽減税率を導入すると税収が所期の額に達せず、「目減り」する、と難色を示している。だが、欧州はそうした問題とも折りあいを付けている。それもまた事実である。

欧州の軽減税率に共通するものを取り出せば「食料品、水」「新聞、雑誌、書籍」だ(不動産取引や金融・保険、医療、教育、福祉は非課税。日本もほぼ同様である)。

「目減り」は英国で目立つ。それはゼロ税率をかなり広く適用しているためで、ゼロ税率の採用をしていないドイツやフランスの目減りはずっと少ない。軽減税率の導入に際して、その適用を抑制的にする必要があるのは確かだ。

欧州の軽減税率のもうひとつの特徴は「知識課税」は避ける、という思想だ。新聞や出版物などは伝統的に民主主義のインフラとみなされ、「所得にかかわらず国民等しく情報に接する機会を確保すべきだ」という考え方である。

フランスでは業界と行政機関の専門家による委員会で、どの活字メディアを軽減税率の対象にするかを審査している。わが国なら日本新聞協会の新聞倫理綱領を掲げるものとするのも一法である。そのほか媒体の実情を踏まえたルールを設ければ、おのずと範囲は定まるだろう。

軽減税率の理念とその範囲を確定することは政治そのものである。国柄に関わると言っても過言であるまい。政治はむしろ、それを積極的に引き受けるべきである。

また、複数税率には「仕入れ税額控除のためのインボイスが必要になる」という反対論がある。しかし、今日ではパソコンで帳簿をつけている事業者がほとんどであり、電子帳簿で対応できるという見方もある。

政府は消費税の逆進性対策として「給付付き税額控除」の創設を打ち出しているが、問題が多い。前提として所得や資産状況を把握し、高所得層・大資産家への還付がないようにしなければ、逆進性対策の趣旨に反する。そこで「社会保障・税に関わる共通番号制」を創設するというのだが、これによって所得や資産が把握できるわけではない。

さらに、税還付の前提として、すべての人が確定申告する必要があるが、税務当局の人員をそれができるほど増強するのは無理だ。実情がそうである以上、この制度には不正受給がついて回る。それを回避しようとすれば、バラマキになる。

欧州の制度にも問題はある。しかし、実際に円滑に機能し福祉国家を支えている。消費税制度の整備を考えるなら「現実」に学ぶべきだ。

読売新聞 2012年06月16日

一体改革合意 首相は民主党内説得に全力を

長年の懸案である社会保障と税の一体改革の実現に向けて、大きな前進と、歓迎したい。

民主、自民、公明3党が、一体改革関連法案の修正協議で合意した。当初の予定通り、今国会会期末の21日までの法案の衆院通過を目指す。

社会保障分野に関する各党の主張に隔たりがあり、交渉は難航したが、各党が譲り合い、合意を形成したことは高く評価できる。これを「決められる政治」に転じる貴重な一歩としてもらいたい。

野田首相は、自民党の対案を基本に合意をまとめるよう民主党の交渉当事者に指示し、年金制度や子育て支援策で大幅に野党に歩み寄る決断をした。

自民党も、これに呼応し、自民案の「丸のみ」という要求を取り下げて譲歩した。野党ながら、自民党が果たした役割は大きい。

焦点だった最低保障年金の創設と後期高齢者医療制度の廃止については、民主党の政権公約(マニフェスト)の撤回にこだわらず、一時棚上げして、「社会保障制度改革国民会議」で結論を出すことで折り合った。

自民党が撤回に固執すれば、民主党の増税反対派に加え、中間派も反発して党分裂含みになり、採決が困難になる恐れがあった。

民主党の公約撤回に強くこだわっていた公明党も、3党合意に自党の主張が一定程度反映されたことを評価し、最終的に合意に加わった。この意義は大きい。

一体改革は、どの党が政権を取っても取り組まざるを得ない中長期的な重要課題である。できるだけ多くの党が賛成して、法案を成立させることが望ましい。

社会保障改革の結論が先送りされたことを、単純に「増税先行」と批判するのは間違いである。

増税の実施は再来年4月だ。1週間の修正協議で強引に結論を出すのと比べて、1年間かけて国民会議で議論し、より良い政策をまとめることは悪くない。

今後は、民主党が今回の合意内容を了承して採決に臨めるかどうかが、最大の焦点となる。

小沢一郎元代表らは、「増税より前にやるべきことがある」との相変わらず無責任な論法で、増税反対勢力の多数派工作を展開し、野田首相を揺さぶっている。

民自公3党が合意したのに、政権党の足並みが乱れ、採決ができないような事態は許されない。

一体改革の成否がかかる正念場だ。首相は、党内の反対を最小限に抑えるため、まさに政治生命を懸けて党内を説得すべきだ。

産経新聞 2012年06月16日

3党合意 社会保障抑制は不十分だ 「決められぬ政治」回避したが

消費税増税関連法案の修正をめぐる民主、自民、公明3党の協議が決着した。社会保障の安定財源確保のために避けられない消費税増税などが、与野党の合意で実現される見通しとなった。

野田佳彦首相が期限とした15日までの修正合意に何とかこぎつけ、「決められない」政治を繰り返す事態が回避できたことは評価したい。

指導者が決断しない政治から脱却しなければ閉塞(へいそく)感は増し、日本の危機は克服できないからだ。財政健全化の取り組みを国内外に示すこともできた。

問題は、修正合意で社会保障制度改革の多くが先送りされた結果、伸び続ける社会保障費の抑制に道筋をつける内容とは程遠いものにとどまったことである。

≪高齢者にも負担求めよ≫

平成26年4月に8%、27年10月に10%と消費税率を2段階で引き上げることは民主、自民両党間で早々に合意された。

だが、社会保障分野の改革が置き去りにされたままなら、社会保障と税の一体改革ではなく「増税先行」でしかなくなる。

日本は高齢者が激増する一方で勤労世代の負担が限界に近付きつつある。高齢者を含め、支払い能力に応じて負担する仕組みに改めない限り、社会保障制度そのものが維持できない。直ちに現実的な改革案をまとめ直すべきだ。

年金、医療、介護費用の抑制方法を決めなければならないのに、現在、国会に提出されている政府の法案は、国民に痛みを求める改革項目をことごとく外し、むしろ社会保障費の膨張を加速させる内容となっている。

これに切り込んで現実的な案へと転換させるためには、70~74歳の医療費窓口負担の2割への引き上げやデフレ下で年金額を下げる自動調整の仕組みの導入、年金の支給開始年齢の引き上げなど、政府案が先送りした負担増や給付削減項目を盛り込むことが不可避だったはずだ。

ところが、修正協議では最低保障年金や後期高齢者医療制度の廃止といった民主党マニフェスト(政権公約)の見直しに議論が集中した結果、個別の社会保障改革は政府の関連法案に沿った形で決着してしまった。

結局、最大の焦点だった最低保障年金や後期高齢者医療制度廃止は撤回されず、協議を決裂させないための妥協として、新たに設ける「社会保障制度改革国民会議」での議論に棚上げされた。

だが、莫大(ばくだい)な費用を要するなど非現実的な制度である以上、民主党は撤回するしかない。3党は、すぐに導入できる他の短期的課題についても早急に検討し直さなければならない。

野党側も社会保障費の抑制を具体的に提起しなかった。それどころか、低所得の高齢者向け「給付金」という新たなバラマキ政策まで決まった。改革に逆行するものと指摘せざるを得ない。

≪経済成長こそ実現を≫

3党は現在の政府案を修正して今国会で成立させる考えだが、これでは少子高齢社会に耐えられる制度とは言えない。与野党ともに無責任との批判は免れない。

税制分野では、消費税の税率引き上げに向けた「名目3%、実質2%」という成長率の数値目標をめぐり、自民党が撤回を求めたのに対し、努力目標として残したのは当然だ。

だが、名目成長が実質成長を下回るデフレからの脱却を図るための具体策は示されていない。規制緩和による新規参入の促進など、与野党で日本経済の活性化につながる対策をさらに講じていかなければならない。

また、消費税率を8%に引き上げる際に、低所得者に現金を給付する措置も決まった。給付額などは今後の予算編成で詰めるが、給付先を広げると新たなバラマキになる恐れがある。

税率を10%にする際の低所得者対策は結論を先送りした。政府案は減税と現金給付を組み合わせた「給付付き税額控除」としたが、自民、公明両党は生活必需品などの税率を低く抑える「軽減税率」を主張している。

民主党内では小沢一郎元代表ら増税反対派が修正合意に反発し、法案採決で造反する構えを見せている。政権与党が分裂する事態も予想される中で、首相には修正合意の実現を成し遂げる指導力と覚悟を見せてもらいたい。

朝日新聞 2012年06月13日

一体改革協議 増税先行批判は筋違い

社会保障と税の一体改革をめぐる修正協議が、大詰めを迎えている。

国会に提出されている7法案について、歩み寄りの努力が重ねられていることは歓迎する。

だが、気になることがある。

民主党が公約に掲げる新年金制度の創設と、後期高齢者医療制度の廃止に議員らの関心が集まり、協議の成否を左右しかねない点である。

「撤回」を迫る自民・公明両党に、野田政権は歩み寄りを探る。これに対し、民主党内からは「撤回や棚上げには応じられない。それでは増税先行になる」という声が湧いている。

しかし、増税先行という批判は、筋違いだ。

あらためて一体改革の中身を確認しよう。

第1の柱は消費増税だ。財源の多くを借金に頼る社会保障費を、できるだけいまの世代で負担し、子や孫の世代へのつけ回しを避けるためである。

第2の柱は、社会保障の充実だ。増税分の一部を財源に子育て支援を拡充し、保育所の待機児童を減らす。非正社員も正社員と同じ年金や健康保険に入りやすくする、といった内容だ。

こうした充実策は、よりよい方法を探りながら、必ず合意を見いだしてもらわなければならない。それなしの「増税先行」は、私たちも願い下げだ。

一方、民主党が公約とする二つの政策は、そもそも一体改革とは別の問題だ。

月に7万円以上の年金を受け取れるという新年金制度の実現には、今回とは別の、更なる増税が要る。再増税を説く覚悟なしに、公約だから守れというのでは無責任だ。

しかも民主党は、政権交代から3年近くたっても法案をまとめることさえできない。

それにしても、「別問題」の政策が焦点になるのはなぜか。

多くの自民党議員は、こう考えている。

民主党は政権交代前、だれでも7万円以上の年金を受け取れる新制度が、すぐにでもできるかのような宣伝ぶりだった。後期高齢者医療制度を「うば捨て山だ」と攻撃した。それで政権を奪ったのはけしからん――。

恨みつらみがあるから「とにかく撤回せよ」となる。民主党議員は、撤回するとメンツ丸つぶれだから、譲るなという。

そんな「遺恨試合」のような争いを演じている暇はない。

公約関連の政策は切り離し、落ち着いて協議できる別の場を設けるしかあるまい。いまは実のある次世代支援の実現に、力を集中すべきである。

毎日新聞 2012年06月09日

修正協議への提言/社会保障 危機克服に向け合意を

税と社会保障の一体改革の与野党修正協議が始まった。まず社会保障改革について民主・自民・公明の3党が実務者協議を開き、15日までに修正合意を目指す。世界一の高齢化なのに国民負担は最低水準で、ほころびが各所に広がっているのが日本の社会保障の現状である。毎年10兆円もの借金をしてつじつまを合わせてきたが、とうに限界を超えた。意地やメンツの張り合いをやめ、なんとか合意につなげてほしい。

対立しているのは、民主党の最低保障年金を核とする年金抜本改革案、低年金者への補填(ほてん)、後期高齢者医療制度に代わる新制度、子ども・子育て新システム、などである。

世の中の移り変わりとともに増築や改築を繰り返し、年金制度は現在の姿になった。見た目は良いとは言えず、管理の怠慢もあって雨漏りやすきま風(低年金、年金記録問題、第3号被保険者の切り替え漏れなど)が絶えず、常に改修を迫られている。せっせと保険料を払っても自分たちが入るころには制度がなくなっているのではないかと若者は不安を感じている。それならいっそ豪華で頑丈な制度に建て替えてしまえ、というのが民主党の抜本改革案だ。

だが、誰もが安心できる立派な家(年金制度)を新築するには莫大(ばくだい)な金がかかる。しかも、今の家は雨漏りやすきま風だけでなく、地盤沈下(少子化や雇用危機)で大きく傾き始めている。金をかけて頑丈な家にするほどその重みで土台は悲鳴を上げ、地盤を強化する金も回ってこなくなる。さらに、抜本改革案の試算では貧困層の支給額は増える一方、中間層は負担増となることが明らかになった。野田佳彦首相は就任時の会見で「中間層の厚みがより増していくような社会を築きたい」と語ったが、抜本改革案は逆に細らせるのではないか。

そもそも民主党の年金抜本改革は消費税5%増の中で実現できるものではなく、菅直人内閣時代に棚上げしたのを野田内閣に代わってから慌てて復活させたのだ。ここはスタートラインに戻って、民主党が譲歩するのが筋ではないか。現在議論されている一体改革には、基礎年金国庫負担の3分の1から2分の1への引き上げ、被用者年金の一元化、パートへの厚生年金適用拡大など先送りされてきた課題が並ぶ。まずは目の前の重要課題を片づけるべきだ。

経済が右肩上がりの時代ならいざ知らず、身の丈に合わない改革を焦っては身を滅ぼしかねない。地盤沈下で家(年金制度)が傾いているのであれば、まずは地盤の強化だ。少子化による人口減少と若年層の失業率や貧困率の高さが地盤沈下の原因である。少子化対策などは先進各国に比べれば無策に等しく、それだけ政策によって改善できる余地が大きいとも言える。

1人の女性が生涯に産む子どもの数を表す「合計特殊出生率」は、昨年1・39で回復傾向に陰りが出てきた。子ども・子育て新システムに関して自民党は「制度が複雑になる」「保育の質が落ちる」などと批判する。だが、市町村に税源がなく、既存の幼稚園や保育園が新規参入を拒んできたことが深刻な保育所不足を招いたのではなかったのか。

家族や地域社会の支えが薄くなっているのに親だけに責任を求めると、ますます子どもを産み育てられない人が増える。自治体は安上がりな無認可保育所に頼るようになり、経済的に余裕のない人は相変わらず保育サービスが使えないという絶望的な状況は変わらないだろう。子育て新システムは7000億円の財源を投入し、認可制から指定制にして多様な事業体の参入を促すものだ。高齢者福祉や障害者福祉でも企業やNPOが参入したことで地域の実情に合った多様なサービスが増えてきた。方向性は与野党ともそう変わらないはずだ。修正協議の中で妥協点を見いだしてほしい。

消費税5%増といっても、これまで借金でしのいできた分を差し引いて社会保障強化に使えるのは1%に過ぎない。今回は見送られたが検討されるべき社会保障改革は専業主婦の第3号被保険者問題、デフレ下でのマクロ経済スライドの機能について、高齢者雇用改革と年金支給開始年齢の引き上げ−−など山積している。生活困窮者対策も火急の課題だ。孤立死に象徴される超高齢社会のセーフティーネットのほころびを改善するためには地域医療や介護の拡充と役割分担が必要だ。これらを進めるためには現在論議されている消費税5%増ではまったく足りない。

その次の社会保障改革と財源を論議する場として、自民党が提唱している社会保障制度改革国民会議の設置は検討に値する。民主党の年金抜本改革案と後期高齢者医療の新制度案はそこでの論議にこそふさわしい。生活保護や最低賃金、住宅政策を絡めて困窮者対策の中で無年金・低年金問題は考えるべきだ。

「消費税5%増との一体改革」と「次の抜本改革」に分けて議論すればゴールは見えてくるはずだ。

読売新聞 2012年06月13日

一体改革協議 修正合意へもう一段歩み寄れ

民主、自民、公明3党による社会保障・税一体改革関連法案の修正協議が大きく動き始めた。

結論を出す期限が15日に迫っている。3党ともさらに歩み寄って、修正合意をまとめてもらいたい。

消費税率については、自民党が政府案通り、2段階で10%へ引き上げることを受け入れた。

低所得者対策は、民主党が現金給付で対応するとしたのに対し、自公両党は、食料品などの軽減税率も必要だと主張してきた。

今のところ、8%に引き上げる段階で現金給付を行い、10%で軽減税率を検討する方向だ。

だが、生活必需品の税率を軽減することは、最も分かりやすく、効果的な対策となる。

読売新聞の世論調査でも、75%の人が軽減税率を導入すべきだとしている。導入を先送りするのは大いに疑問だ。今から段取りをつけておくべきではないか。

社会保障政策では、民主党が政権公約(マニフェスト)に掲げた「新年金制度の創設」と「後期高齢者医療制度の廃止」の取り扱いが焦点になっている。

いずれも、有識者らによる「社会保障制度改革国民会議」を設置して議論を委ねる案が有力だ。現実的な政策でないことは明らかだが、民主党が撤回を拒む以上、まず合意することを優先し、一時棚上げするのは妥当である。

政府が法案として提出している子育て支援策と現行年金制度の改善策には、乗り越えられないほどの対立点はない。

子育て支援策は、政府・民主党が、幼稚園と保育所を一体化する「総合こども園」構想を取り下げて、自公政権でスタートした「認定こども園」制度を拡充していくことで折り合えよう。

3党は、パートへの厚生年金適用拡大や厚生・共済年金の一元化などでも、ほぼ一致している。

対立が残るのは、低年金・無年金者の救済策だ。民主党は、所得の低い高齢者への年金加算を主張し、自民党は生活保護で対応すべきだとしている。公明党は民主党の考え方に近い。

これも、年金制度と生活保護の両者の性格を兼ね備えた新政策とする方向で知恵を出し合えば、一致できるはずだ。

民自公3党が信頼関係を深め、修正協議で一体改革を実現できれば、意義は大きい。今回先送りした課題のほか、様々な懸案で合意形成することも可能になろう。

それが「決められない政治」から脱却する道である。

産経新聞 2012年06月14日

与野党協議 共同提案へ合意広げたい

社会保障と税の一体改革で、野田佳彦首相が自民党との共同提案によって関連法案の成立を目指す姿勢を明確にした。

自民、公明両党は民主党との法案修正協議を、期限とした15日で打ち切る構えだ。時間はほとんどない。協議を加速するため、首相が大幅修正に応じる判断をしたのは妥当である。

問題は、修正への反対論が強く、協議の行方を不透明にしている民主党だ。執行部は党内の理解を得るため、公約撤回にあたらない形での修正を探っているが、非現実的な案にこだわっている状況ではないだろう。

首相は執行部に大幅修正への作業を急がせ、自民党の合意を取り付けるしかない。

焦点の社会保障分野では、自民党が政府の消費税増税関連法案への対案となる「社会保障制度改革基本法案」の骨子を示した。

民主党がマニフェスト(政権公約)に掲げた最低保障年金の創設や後期高齢者医療制度の廃止について撤回を求める内容だ。

対案は有識者による「社会保障制度改革国民会議」の設置も盛り込んでおり、1年かけて年金制度などの具体的な改革案を検討するという。こうした枠組みを作ることで、最低保障年金を柱とする民主党の年金案などを事実上、棚上げするねらいがある。

民主党にとっても、国民会議での議論が続けば「公約撤回にはならない」と言い訳ができるメリットがあるのだろう。

首相は13日の参院予算委員会で、自民党の対案について「法案成立を期すための大きな覚悟を持った提案だ」と評価し、執行部に「自民党案に民主党の主張を取り込んで15日までにまとめてほしい」と指示した。

だが、民主党内では「社会保障を棚上げすれば、存在意義を失う」などと、増税反対派に加え、社会保障の先送りは容認できないとする中間派からも強い異論が出されている。

13日夜の3党協議でも、民主党は最低保障年金などマニフェスト撤回に応じられない姿勢を示した。果たして首相の指示通りの行動なのだろうか。

首相は13日の答弁で改めて衆院解散に言及し、「480人の国会議員の身分を失わせる」と解散権の重みを強調した。その覚悟で共同提案を実現してほしい。

朝日新聞 2012年06月07日

一体改革、修正協議へ 次世代支援が最優先だ

社会保障と税の一体改革をめぐる修正協議がようやく始まる。自民党がきのう、民主党と協議に入ることを決めた。

なんとか実らせてほしい。

だが、その前に、なぜいま一体改革なのか。原点に戻って考えてみよう。

それは、減っていく現役世代が、増えていく高齢者を支え続けられるかどうか、その持続可能性が危ぶまれているからだ。

だから改革の核心は、第一に高齢者も含めて幅広く負担を分かち合うこと。第二にこれからの世代に「支える力」をつけてもらうこと。

前者が消費増税、後者が子育てや非正社員の若者らを対象とする次世代支援だ。

たくましい次世代を育むことは、時間はかかるが、経済を根本から立て直す道でもある。

これらの実現を、なにより優先すべきである。ほかの点は、大胆に妥協すればいい。

民主党が譲るべきは、新年金制度の創設と、後期高齢者医療制度の廃止である。

民主党の公約には、新年金制度について「全ての人が7万円以上の年金を受け取れるようにする」とある。だが、新制度への移行には40年以上の年月と、さらなる巨額の増税を要する。

実現しても、公約で描いたバラ色のものとはほど遠い。「誇大広告」だったと認め、棚上げや撤回に応ずるべきだ。

高齢者医療も、廃止後の新制度で、財政の責任を負わされることを警戒する都道府県の理解を得るめどが立たない。これでは現行制度を廃止できない。

消費増税に加えて社会保障でも譲っては、公約総崩れでメンツが立たない――。民主党議員にはそんな戸惑いがある。だが公共事業から社会保障や教育に力点を移す「コンクリートから人へ」も、次世代支援を重視する方針も、民主党の公約だ。その実現にこだわればいい。

自民党も、主張をごり押しするばかりではいけない。

たとえば自民党は、民主党の社会保障政策を「バラマキだ」と批判しながら、自身は国土強靱(きょうじん)化基本法案を国会に提出している。道路や港湾の整備、建物の耐震化などに、まず3年で15兆円、1年あたり消費税換算で2%分を追加で投じる構想だ。

人口減少時代に道路を張り巡らせても益は少なく、後々まで維持管理費がのしかかる。増税のかたわら公共事業を膨らませるのは、とてものめない。

民主党の新年金制度と同じように、現実味の乏しい「誇大広告」と言わざるをえない。取り下げるべきだ。

読売新聞 2012年06月09日

消費税修正協議 日本再建の大局を忘れるな

民主、自民、公明の3党は、日本の社会保障と税制を再建するという大局を忘れずに、互いに譲り合い、合意形成を図ることが肝要だ。

民自公3党の実務者による社会保障・税一体改革関連法案の修正協議が始まった。15日までに修正内容に合意するよう最大限努力することで一致した。

野田首相が目指す今国会会期末の21日までの法案の衆院採決に向けて、一定の前進と言える。

少子高齢化に伴って(ひず)みの目立つ社会保障制度を持続可能なものにする。約1000兆円もの借金を抱える国家財政を健全化する。一体改革は、日本の将来を大きく左右する重要課題である。

社会保障の分科会は、日曜も議論するというが、わずか1週間ですべての修正内容に合意するのは、決して簡単ではない。

3党は、足並みがそろってきた今の機運を大切にして、積極的に接点を探ってもらいたい。

社会保障分野では、民主、自民両党の対立点が多い。民主党の主張する最低保障年金制度の創設や後期高齢者医療制度の廃止、低所得者への年金加算、子育て支援策などに自民党が反対している。

8日の分科会の議論は、平行線だった。早期に合意を得るには、民主党がまず、自民党に大胆に譲歩することが欠かせない。

自民党も、「民主党は政権公約(マニフェスト)を撤回し、自民党案を丸のみせよ」という強硬姿勢一辺倒ではいけない。民主党のマニフェストに問題が多いのは事実だが、今の局面は、批判だけでなく、歩み寄りが求められる。

仮に3党が法案修正で合意しても、法案採決に至るには、各党が修正を了承する手続きが要る。

特に、民主党内には、増税への反対・慎重勢力が多い。民主党だけが一方的に譲る修正内容では、了承が得られず、結果的に法案が成立しない恐れがある。

最低保障年金や後期高齢者医療制度の部分は、自民党の提案する国民会議の議論に委ねるなどの妥協を図るのが現実的である。

税制分野は、自民党が、消費税率を2段階で10%に引き上げる政府案を容認するなど、民自両党の主張の違いは大きくない。焦点は、低所得者対策だろう。

民主党は、給付つき税額控除などを提案しているが、現金支給が膨らめば、新たなバラマキ政策に陥ることが懸念される。むしろ、野党が提起する食料品などの軽減税率の導入について、より真剣に議論を深めてはどうか。

産経新聞 2012年06月12日

与野党協議 首相が公約撤回の主導を

いま必要なのは、野田佳彦首相が民主党のマニフェスト(政権公約)撤回を決断することではないのか。

首相は10日の講演で、消費税増税関連法案の修正に関する民主・自民・公明3党の与野党協議について「旗を降ろせとか理念を降ろせとか言うと、議論は進まない」と語った。これは、民主党が公約に掲げた最低保障年金などは簡単に撤回することはできないと、野党を牽制(けんせい)したものだ。

一方、首相は11日の衆院社会保障・税一体改革特別委員会では「与野党協議の進展をみながら対応を考える」と修正について柔軟な姿勢を示した。

首相の真意はよく分からないが、首相自ら「旗を降ろす」方針を決めなければ協議は宙に浮きかねない。

民主党が主張する月額7万円の最低保障年金の導入や後期高齢者医療制度の廃止は、莫大(ばくだい)な費用を要し、社会保障費の無原則な増大につながる。実現困難な案を掲げ続けるのは無責任でしかない。

岡田克也副総理も11日の特別委で、与野党協議の結果によっては最低保障年金や後期高齢者医療制度廃止の関連法案の提出を見送る考えを示した。

問題は、執行部も含めてマニフェスト堅持の意見が根強い中で、修正方針通りに党内をまとめられるかどうかである。

民主党の輿石東幹事長は、修正協議の内容は党内でよく協議するとの姿勢を強調している。党内の抵抗を首相が座視している限り、会期末の21日までの衆院採決など実現できない。首相は「決断する時期は迫っている」と衆院解散を示唆したが、こうした覚悟を協議で示すべきだ。

11日には税制分野の協議も始まったが、とくに重視すべきは、デフレ脱却への姿勢は緩めないという基本認識を民主、自民両党が共有しておくことだ。

自民党は増税にあたり、政府案が経済成長率で名目3%、実質2%とした目標の削除を求めた。だが、デフレ脱却を実現しなければ増税により期待する税収の確保も不透明になる。

消費税率を8%と10%の2段階で引き上げる点で民主、自民両党は一致した。低所得者対策としての現金給付は平行線をたどったが、新たなバラマキにつながらないか検証すべきだ。

朝日新聞 2012年06月07日

一体改革、修正協議へ 自民の時代認識に疑問

一体改革法案の修正協議で、自民党は協力の見返りに、自分たちの政策を野田政権に丸のみさせようと鼻息が荒い。

だが、その中身を見ると、時代の変化についていけているのか心配になる。自助・自立や家族の役割を強調する社会保障政策は、単なる「先祖返り」にしか見えないのだ。

国会審議で自民党が示した「社会保障に関する基本的考え方」で、最初に来るのが、「額に汗して働き、税金や保険料などをまじめに納める人々が報われること」である。

私たちも異論はない。だが、いま問われているのは「どこで汗して働くのか」である。

グローバル化のなかで、安定した製造業の仕事は海外に流出している。一方、サービス産業などで、自民党政権の時代から増え続けたのは低賃金の非正規雇用だ。「税や保険料を納めようにも給料が少なすぎる」ところが問題ではないのか。

自民党はまた、「家族による『自助』、自発的な意思に基づく『共助』を大事にする」ともうたっている。

しかし、安定した仕事を持つ夫の収入で、家族全体の生活が保障される自助のモデルは崩れつつある。

不安定雇用で収入が少なく、将来への展望が描けない若者にとっては、結婚して家族を持つことさえ難しい。家族がいれば助けは期待できるが、家族単位という前提自体が成り立たなくなっている。

だからこそ、社会保険に代表される共助や税金による公助の機能を強化せざるをえない。自民党が言う「自発的な意思に基づく共助」が何を指すのか、具体策が見えない。

少子化対策でも、自民党は政府の子育て支援法案に否定的だ。株式会社などの新規参入に警戒感が強く、「現行の幼稚園、保育所等の制度を基本」にするという。

国会審議でも、既存の幼稚園や保育所に配慮して、今の枠組みでもっとカネを注ぎ込めという主張ばかりが目立つ。

これまで少子化を克服できなかった反省に立って、家族や地域の変容に正面から向き合う謙虚な姿勢が必要だ。

3年前、なぜ政権を失ったのか。民主党への失望感がこれだけ広がっても、自民党への期待が高まらないのはなぜか。

民主党の施策を「バラマキ」と批判したいがために、家族重視の保守回帰にとどまるだけなら、自民党は時代認識に欠けた「野党ぼけ」のそしりを免れないだろう。

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