東電OL殺害再審 新証拠吟味し真相解明を

毎日新聞 2012年06月08日

マイナリ元被告 早期の再審決着目指せ

97年に起きた東京電力女性社員殺害事件が新展開を見せた。無期懲役が確定したゴビンダ・プラサド・マイナリ受刑者が求めた再審請求を東京高裁が認める決定をしたのだ。

昨年、弁護団の要請で実施したDNA型鑑定の結果、被害女性の体内の精液やコートの血痕からマイナリ元被告と異なる第三者のDNA型が検出され、殺害現場の部屋に落ちていた体毛の型とも一致した。

こうした鑑定結果について、決定は「(マイナリ元被告以外が現場の部屋にいた可能性を否定した)確定判決の有罪認定に合理的な疑いを抱かせる」と結論づけた。最新の科学技術の成果を踏まえた新証拠との判断であり、妥当な結論である。

さらに決定は踏み込んでいる。

現場の状況や被害者のけがの状態も考慮した上で「第三者の男が被害女性と性的関係を持った後に殺害した疑いがある」と、マイナリ元被告の冤罪(えんざい)の可能性を指摘したのだ。コートの血痕は、男が被害者を殴って出血させた際に付着したと見るのが自然だと主張する。

現場である東京都渋谷区のアパートの部屋のトイレに残されていた精液のDNA型がマイナリ元被告と一致したことや、部屋の鍵を持っていたことなどの状況証拠が逮捕・起訴の決め手になった。

だが、決定の指摘を踏まえれば、初動捜査での容疑者の絞り込みが適切だったのか疑問が残る。警察は捜査の経緯を再点検すべきだ。

また、検察側の対応にも問題を残した。事件当時、被害女性の胸などから、マイナリ元被告とは異なる血液型の唾液などを検出しながら、弁護側に証拠開示しなかった。

昨年、検察がこれらの証拠の存在を明らかにして追加でDNA型鑑定を実施したところ、第三者の男に由来するDNA型が検出された。

マイナリ元被告以外が被害者と接触した可能性を示すこういった重要な証拠が公判時に開示されていれば、公判の行方に影響を与えていた可能性は否定できない。05年の再審請求から6年以上たっての開示も遅すぎる。全面的な証拠開示の仕組みがやはり必要だ。

被害女性の体内に残っていた精液などのDNA型鑑定がやっと昨年になって実現したことにも疑問が残る。なぜ、もっと早くできなかったのか。近年、鑑定の技術や精度が飛躍的に向上しているだけに、捜査側にとって都合のいい試料だけを鑑定するようなことがあってはなるまい。

1審で無罪が言い渡された事件でもある。裁判をやり直すか否かで時間をかけるべきではなく、検察の異議申し立ては疑問だ。裁判所は早期の再審での決着を目指してほしい。

産経新聞 2012年06月08日

東電OL殺害再審 新証拠吟味し真相解明を

東京都渋谷区のアパートで平成9年、東京電力の女性社員が殺害された事件で無期懲役が確定したネパール人の元被告について、東京高裁は再審開始を決定した。

刑の執行も停止され、元被告は釈放された。再審請求審で開示された証拠のDNA型鑑定から、殺害現場に第三者の存在が強く疑われる以上、再審開始の決定は妥当だろう。

東京高検の異議申し立てを受けて、高裁の別の裁判官が再審開始の可否を審理することになる。だが1、2審で争われなかった重大な新証拠がある以上、検察側は再審の場で主張を展開すべきだ。

再審請求審の鑑定で、被害者の体内に残された体液から第三者のDNA型が検出され、殺害現場に残された体毛と一致した。被害者のコートについた血痕からも同型のものが検出された。第三者の犯行を疑うのは自然な判断だ。

検察側はなお、さまざまな状況証拠から「確定判決は揺るがない」としている。そうであるならば、新証拠を踏まえたうえで、第三者の犯行があり得ないことを、再審の場で論理的に証明する必要がある。

被害者の体内から検出された体液については、捜査時の鑑定は行われなかった。コートの血痕の鑑定などは、1、2審の公判段階では証拠開示されていなかった。再審の行方とは別に、警察、検察には事件対応を検証することも強く求められる。

再審開始の決定を導いたのは、証拠開示の流れと科学の進歩だったといえる。

司法改革の一環で公判前整理手続きが導入され、証拠の開示も義務づけられた。再審請求審には証拠開示の規定はないが、高裁は検察側に、積極的に証拠を開示するよう促した。新証拠はこの過程で明らかになったものだ。

捜査当局は、否定的材料も含めたすべての証拠について検証を尽くすことが必要になる。

DNA型鑑定の進歩はめざましい。現在では約4兆7千億人に1人の確率で個人識別を行うことが可能だという。すでに殺人などの凶悪事件から窃盗事件まで、検挙に効果をあげている。

欧米に比べて立ち遅れているとされるDNA型データベースの拡充も急ぎたい。事件解決のためだけでなく、冤罪(えんざい)防止にも役に立つはずだ。

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