菊地容疑者逮捕 オウムの闇に迫りたい

毎日新聞 2012年06月05日

菊地容疑者逮捕 オウムの闇に迫りたい

17年間の逃亡生活にあっけなく終止符が打たれた。

地下鉄サリン事件などで警察庁から特別手配されていたオウム真理教元信者の菊地直子容疑者が警視庁に殺人と殺人未遂容疑で逮捕された。

地下鉄サリン事件では、首謀者とされる教団元代表の松本智津夫死刑囚を含め10人の死刑が既に確定した。だが、松本死刑囚が公判でほとんど何も語らなかったように、刑事裁判を通じて事件の背景や全体像が十分明らかになったとは言えない。

菊地容疑者は「サリン生成に関わったが、当時何を作っているのか知らない状態だった」と供述しているとされる。製造の補佐役だとすれば、どういった罪名で起訴するかを含め難しい捜査を迫られるだろう。

だが、大都市の地下鉄にサリンがまかれ多数の死傷者を出し、世界に衝撃を与えた事件だ。

菊地容疑者の逮捕により、新たな角度で事件の闇に光が当てられる可能性が出てきたとも言える。事件の真相に迫るよう警視庁は捜査を尽くしてもらいたい。

菊地容疑者は96年、最後に残った特別手配者である高橋克也容疑者らと埼玉県所沢市に潜伏していたのを最後に足取りが途絶えていた。

犯人蔵匿容疑で逮捕された同居男性の紹介で、最近は介護施設で働いていたとされる。現在はやせこけているというが、逃亡している間、生活資金はどうしたのか。協力者はいたのか。足取りについてもしっかり解明する必要がある。

情報提供が逮捕のきっかけになった。昨年末に同じく特別手配されていた平田信被告が出頭したのを契機に、警察庁は今年2月、菊地容疑者らについて有力な情報提供者に支払う懸賞金の額を1000万円に引き上げていた。そういったことが今回、功を奏した可能性もあるだろう。

ただし、警察が第三者の情報提供を十分生かし切れていたのか疑問も出ている。神奈川県警に以前連絡したのに取り合ってもらえなかったという声が住民にあるのだ。県警は署員から聞き取り調査をするという。

平田被告の出頭時、いたずらと判断して門前払いした警視庁機動隊員の緊張感に欠けた対応が批判された。近隣との人間関係が薄い都市部などでは近年、聞き込みなどで情報が得にくくなっていると言われる。提供情報をどう生かすのか。その観点の検証もしっかりしてほしい。

オウム事件は終わっていない。菊地容疑者の逮捕で、改めて突きつけられた。集団によるテロ行為がなぜ引き起こされたのか。刑事裁判の場はもちろん、メディアを含めた検証の積み重ねが必要だ。そして、後世に語り継がねばならない。

読売新聞 2012年06月06日

菊地容疑者逮捕 「オウム」実態解明につなげよ

オウム真理教による地下鉄サリン事件で、特別手配されていた菊地直子容疑者が逮捕された。

なぜ17年も逃亡できたのか。この間、教団の支援はなかったのか。警視庁には徹底捜査を求めたい。

菊地容疑者の逮捕容疑は殺人と殺人未遂だ。地下鉄サリン事件で使われたサリンの製造について、「手伝ったのは間違いないが、何を作っているか知らなかった」と供述している。

都庁郵便爆弾事件、地下鉄新宿駅トイレの青酸ガス殺人未遂事件に関与した疑いもある。

教団を巡っては、警察庁長官狙撃事件との関連など、未解明の部分が多い。菊地容疑者の逮捕を教団の実態解明につなげたい。

重要なのは、同じく特別手配された高橋克也容疑者の捜査に有力な手がかりを得たことである。

オウム事件で逮捕状が出た中で、逃亡を続けている最後の容疑者だ。地下鉄サリン事件で、実行犯を車で目的地に送る運転手役だったとされる。

教団に強制捜査が入った1995年以降、菊地容疑者と高橋容疑者は一緒に逃げていたことが新たに判明した。6年ほど前まで川崎市内のマンションに同居し、少なくとも2年前まで接触していた可能性があるという。

これまで、足取りがほとんど不明だったことを考えれば、大きな前進である。一刻も早く所在を突き止めてもらいたい。

昨年末、やはり特別手配されていた平田信被告が出頭し、逮捕された。これにより、オウム事件への関心が再び高まった。逮捕に結び付く情報への懸賞金の額も、菊地、高橋両容疑者については、1000万円に倍増された。

こうしたことで、警察への情報提供の件数が増えた。今回、菊地容疑者を逮捕する端緒となったのも、「似た女性がいる」という情報だった。

一方で、警察は特別手配しながら、菊地容疑者らの長期逃亡を許した。捜査に問題はなかったのか、検証が必要だ。

教団は現在も「アレフ」と「ひかりの輪」に名前を変えて存続し、約1500人の信者を抱えている。教祖だった松本智津夫死刑囚の肖像を掲げる施設もある。周辺住民との軋轢(あつれき)は絶えない。

公安審査委員会は1月、団体規制法に基づく観察処分を3年間、延長することを決めた。「松本死刑囚に帰依する性質に変化はない」との理由からだ。教団の監視を怠ってはならない。

産経新聞 2012年06月06日

菊地容疑者逮捕 テロ教団の監視緩めるな

地下鉄サリン事件などで特別手配されていたオウム真理教の元幹部、菊地直子容疑者が逮捕された。逃亡生活は実に17年に及んだ。

逮捕直後の調べに「ほっとしている」と述べたというが、地下鉄サリン事件では13人が亡くなり、6300人が負傷した。この重大な結果を知ったうえでの逃亡生活に、いっさい同情すべき余地はない。

菊地容疑者にはまず、事件への反省とともに、知ることのすべてを語ってもらわなくてはならない。捜査機関は逃亡の経緯を徹底的に解明し、オウムの後継団体への監視を強めるべきだ。

菊地容疑者は偽名でヘルパー2級の資格も取得しており、福祉施設で働いていた。男性と生活していた相模原市の住宅からは、偽名のキャッシュカードや携帯電話7台がみつかった。手配犯が安易に偽名で生活できる社会が健全とはいえない。テロの温床ともなりかねず、不正取得を許さない仕組みを作ることも急務だ。

菊地容疑者は接見の弁護士に、教祖の麻原彰晃(本名・松本智津夫)死刑囚について「もう信じていない」と語ったという。だが、逃亡中の偽名「櫻井千鶴子」は麻原死刑囚の本名を連想させる。いまも教義の影響下にあるとの疑いを簡単に捨てるべきではない。

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