内閣改造へ 消費税修正協議の環境整うか

朝日新聞 2012年06月05日

一体改革協議 首相が陣頭指揮に立て

野田首相がきのう、2度目の内閣改造に踏み切った。

参院で問責決議を受けた2閣僚や、これから野党の追及を受けそうな閣僚を差し替えた。自民党などの更迭要求に応じることで、社会保障と税の一体改革関連法案の成立に向け、環境を整えようというのである。

野田首相の記者会見からは、一体改革にかける決意は伝わってきた。

いわく、6月21日の国会会期末までは、日本の将来を左右する決断の時だ。「21日」を見据えて、それまでに衆院で採決をめざす――。

期限を切り、文字どおり政治生命をかけて臨むということなのだろう。

ただし、この改造は、法案の修正協議を進めるにあたって、のどにささった「とげ」を抜いたにすぎない。民主党が患う「病」が治ったわけではない。

自民党の谷垣禎一総裁は、病の正体を、こうたとえている。

「民主党には頭がいくつあるのか。それぞれの頭が好きな方向に動き、政治生命をかけるという総理の意思が、党運営に通ってきていない」

たとえば輿石東幹事長は、2閣僚の更迭に反対してきた。自民党欠席のまま政府提出法案の審議を急ぎ、反発を誘うような国会運営もしている。

このため、氏の真意は一体改革の先送りにあるのではないかと疑われている。

小沢一郎元代表は、採決の際に反対する姿勢を明確にしている。党の方針に対する造反である。なのに輿石氏は、首相や小沢氏との会談後、「3人の中で、党を割ったり決裂したりしていいとは毛頭思ってはいないことを確認できた」と語った。

それでは、採決を先送りするほかなくなるではないか。

改造にあわせて党役員人事に踏み切る選択肢もあったのに、首相は避けた。ならば首相の意向に沿って動くよう、党のたがを締め直さなければなるまい。

まず修正協議の場づくりだ。

全党で協議するといっても、最初から立場が違う党と折り合うのは難しい。この局面では、首相が会見で語ったように、野党第1党の自民との協議を優先するしかあるまい。

修正協議の担当者の顔ぶれも重要だ。首相の意を体し、自民党との合意づくりに真剣にのぞむ人材を選ぶべきだ。

首相は、党役員に「毎日的確な情報を上げるように。必要な判断は私がする」と指示したという。その言葉通り、首相は退路を断って、みずから陣頭指揮をとるほかない。

毎日新聞 2012年06月05日

野田再改造内閣 修正合意への重い使命

野田再改造内閣が発足した。参院で問責決議を受けた2閣僚ら5閣僚が交代、民間人初の防衛相として森本敏拓大院教授が起用された。

野田佳彦首相は記者会見で「大きな決断の時」と語り消費増税法案成立へ決意を示したが、野党と合意する道筋は依然として描けていない。民主、自民両党は採決などの日程駆け引きを先行させず、一日も早く修正協議を軌道に乗せるべきだ。

自民への協調をアピールするにしては、遅きに失した改造であった。前田武志国土交通相は公選法違反疑惑を抱え、田中直紀防衛相の資質の不安は覆いようもなかった。交代した法相、農相も野党からの攻撃材料を抱えていた。

安全保障政策に精通した森本氏であれば前任者と違い、野党も「クイズ形式」で知識を試すような国会質問などするまい。だが、結局際立ったのは民主党の人材払底である。

増税に首相として取り組むことを「天命」とまで語る首相が本当に背水の陣を敷いたかも疑問が残る。

首相は党内融和を主張する輿石東幹事長をはじめ、党執行部を続投させた。首相は小沢一郎元代表と再び会談したが、大方の予想通り物別れに終わった。しかも小沢元代表は会談後、採決の際は造反し、離党する考えがないことも明言した。

改造人事に同調した輿石氏だが、本音は決着先送りとの見方は消えない。小沢元代表の発言を首相が黙認するようではどこまで執行部を御しきれるか、こころもとない。

それでも、改造を五里霧中の終盤国会を動かす転機としなければならない。自民党は消費増税法案の処理と衆院解散要求を連動させる基本戦略を崩していない。首相の覚悟をなお見極めようと、会期末の21日までに衆院で法案採決に踏み切る確約を民主党に求めている。

首相は会見で21日までの採決を目指しながら、あくまで自民党との修正協議の進展を見極め判断する考えも示した。審議が尽くされれば採決が行われることは当然だ。だが、民主、自民両党が社会保障の全体像、増税の負担軽減策などで接点を探ることがまずは先決であろう。

衆院で与党単独で採決しても、国会が大混乱しては元も子もない。会期はまだ2週間以上ある。すみやかに修正協議を進めれば合意が不可能な日程とは言えまい。

毎日新聞の世論調査では次期衆院選比例代表で大阪維新の会を投票先にあげた人は28%で、民自両党を圧倒した。

会期末の攻防で国会の緊迫は避けられまい。だが、「決められない政治」からの脱却を自覚しなければ、既存政党は自沈である。

読売新聞 2012年06月05日

野田再改造内閣 日本の命運かかる6月政局

◆首相は一体改革へ陣頭指揮を

消費税率引き上げを柱とする社会保障・税一体改革関連法案の成立を最優先にする布陣であることは明らかだ。

国会の会期末が21日に迫る中、野田再改造内閣が4日発足した。一体改革を前進させるための環境整備であり、国会審議を円滑にする「守り」重視の改造人事にほかならない。

法案を成立させるには、民主党執行部が、自民党など野党との法案修正協議から採決に至る具体策を講じることが欠かせない。

◆修正協議への環境整備

財政危機のギリシャを震源地に、欧州の信用不安が再燃している。日本にとって、対岸の火事ではない。財政再建や社会保障改革は、もはや不可避の課題である。与野党が党利党略で争っている場合ではなかろう。

改造人事の眼目は、参院で問責決議が可決された田中防衛相と前田国土交通相を更迭し、野党と修正協議に臨む点にある。

野田首相は、後任の防衛相に拓殖大の森本敏教授を起用し、「安全保障分野の我が国の第一人者の一人」と期待を示した。

防衛相は、一川保夫氏、田中直紀氏と2代続けて「素人」と野党から批判を浴び、首相の人事能力にも疑問符がついていた。

それだけに見識、説明能力ともに難のない「玄人」を充てたのだろう。森本氏は自衛官出身で外務官僚などを経て、麻生政権で防衛相補佐官を務めた実績もある。

ただ、1954年の防衛庁発足以来、防衛閣僚の民間人起用は初めてだ。自民党などから「国防上の問題で責任を取れるのは、選挙で選ばれた政治家しかない」との批判も出ている。民主党の人材不足を証明したとの見方もある。

米軍普天間飛行場の移設問題や在沖縄海兵隊の海外移転、中国の海洋進出、北朝鮮のミサイル・核開発など直面する課題は多い。森本氏には、専門家としての力量を発揮することが求められよう。

公職選挙法に抵触する疑いが生じた前田国交相のほか、農産物の対中輸出促進事業に関与した中国人外交官との関係が取り沙汰される鹿野農相、国会で競馬サイトを見ていた小川法相が交代した。

農相に就いた郡司彰・元農水副大臣は、環太平洋経済連携協定(TPP)参加に否定的な民主党内のグループの幹部だ。首相が今後、正式参加を決断する際にブレーキをかける存在とならないようにしてもらいたい。

自民党は、問責2閣僚の交代が実現した以上、審議拒否戦術をやめ、“開店休業”の参院を中心に国会審議を動かすべきだ。

◆輿石氏も腹をくくれ

今回の改造では、民主党執行部の役員人事は手つかずだった。問題は、輿石幹事長らが首相と同様に腹をくくり、自民党との協力関係を構築できるかどうかだ。

輿石氏は、小沢一郎元代表グループら反対派が造反する恐れがあるとし、法案の採決先送りを狙っているように見える。

だが、それでは自民党の信頼は得られまい。民主党執行部は、15日という事実上の衆院採決目標を示して修正協議入りを急ぐべきである。小沢氏らの反対の意向は固い。翻意は難しいことを前提に採決に備える必要がある。

野田首相は4日の記者会見で、民主党幹部に毎日、的確な情報を上げるよう指示したことを明らかにし、「必要な判断は私がする」と明言した。陣頭指揮をとる覚悟なのだろう。

自民党の谷垣総裁との党首会談によって、困難な局面を打開することも有力な選択肢だ。

民主党は、修正協議で成果を得るため、政権公約(マニフェスト)に掲げた最低保障年金を柱とする新年金制度創設や、後期高齢者医療制度廃止という看板政策を棚上げしなければならない。

◆大胆な妥協が必要だ

自民党が強く反発しているからだけではなく、内容にも問題が多い。自民党の提案する「社会保障制度改革国民会議」を受け入れて、有識者も交えてじっくり議論するのが現実的だ。

一体改革関連法案の修正協議と並行して、衆院の選挙制度改革も喫緊の課題である。

「1票の格差」を是正するための「0増5減」を選挙制度の抜本改正とは切り離し、先行処理するしかない。「違憲状態」の現状を速やかに改めることが肝要だ。

与野党は、この6月の判断と行動が日本の命運を握ることを肝に銘じるべきだ。会期延長は避けられない。首相の政権運営にも大きく影響する。政治の前進のためには大胆な妥協が必要となろう。

産経新聞 2012年06月05日

第2次改造内閣 首相自ら難局打開せよ 与野党で成長戦略の再構築を

「国のためにやるべきことをやる」。野田佳彦首相は第2次改造内閣を発表した席上、こう決意を表明した。

今月21日の会期末を控え、首相は政治生命を懸けると宣言した社会保障と税の一体改革関連法案の成立に向け、与野党の協調路線に舵(かじ)を大きく切った。

前途は厳しく険しいものの、首相自らが難局をひとつひとつ切り開く覚悟を見せていることは評価したい。

与野党とも、少子高齢化に伴う社会保障財源の安定的確保には、消費税増税が避けられないことでは一致している。

≪自民党も歩み寄りを≫

それをさらに進め、与野党協議で成長戦略をテコにデフレを脱却し、よりよい社会保障と税の一体改革を実現することが求められる。自民党も歩み寄るべきだ。

与野党が一体改革で取り上げるべきテーマは、増税により日本経済が一段と悪化しないための経済成長の施策である。

日本は10年以上にわたり名目成長が実質成長を下回るデフレ経済に悩まされてきた。

政府の一体改革案には「デフレ脱却と経済活性化に向けた施策を講じる」とあるが、その具体像は示されていない。既存の政策の寄せ集めのような成長戦略では、アリバイにすぎない。

朝日新聞 2012年06月04日

内閣改造へ 修正協議進める好機だ

遅きに失した感は否めない。

それでも、社会保障と税の一体改革関連法案の成立に向け、野田首相がようやく自民党との協調にカジを切る覚悟を鮮明にしたことを歓迎したい。

首相はきのう小沢一郎元代表と2度目の会談に臨んだ。

首相は一体改革への協力をあらためて求めた。これに対し、小沢氏は会談後、法案の採決では反対すると記者団に語り、造反する姿勢を明確にした。

首相にすれば、代表経験者に礼を尽くす形をとるためにも2度の会談を重ねたのだろう。だが、会談が事実上決裂したのを受けて、首相はいよいよ野党、とりわけ第1党の自民党との修正協議を急がねばならない。

そのための環境整備の一環として、首相はきょう内閣改造に踏み切り、参院で問責決議を受けた2閣僚を交代させる。

田中防衛相は安全保障の基礎知識すらおぼつかない。前田国土交通相は地方選挙で特定候補への支援を求める違法な文書を出した。首相はもっと早く2閣僚を更迭すべきだった。

そもそも参院での採決を考えれば、小沢グループの動向はともかく自民党の賛成がないと否決される。その意味でも、首相には2閣僚を交代させないという選択肢はありえなかった。

それなのに、首相が更迭を渋ったツケは甚大だった。一体改革法案の審議がここまでずれ込んだことだけではない。

問責を決議した参院では、1カ月以上も本会議が開かれていない。予算執行の裏付けとなる赤字国債発行法案をはじめ、多くの法案・条約の審議も立ち往生したままだ。

会期末まで3週間足らず。首相がG20出席のため日本を離れる16日までに衆院で採決するなら、実質2週間もない。

ここで、あらためて2大政党に求めたい。

「動かない、決められない」政治の惨状をただす。2大政党が協力して、具体的な果実を生む政治文化を築く。今回の内閣改造を、それを促す大きなチャンスととらえるのだ。

首相の側から譲るべきを譲れば、自民党も強硬姿勢ばかりでは国民に愛想を尽かされよう。

互いに譲り合って、まずは一体改革法案の修正協議を急ぐ。合意できた法案は粛々と採決する。合意できないものは自民党が提案する「国民会議」でさらに話し合う。一体改革以外の法案・条約の審議も加速する。

残された時間は短いが、この機会を逃してはならない。国会の党首討論や党首会談で事態の打開をはかる手もある。

読売新聞 2012年06月04日

内閣改造へ 消費税修正協議の環境整うか

消費税率引き上げ関連法案の成立に向けて、野田政権は、体制を立て直し、自民党などとの協議を急ぐべきだ。

野田首相が小沢一郎民主党元代表と再会談し、消費増税法案への理解を改めて求めた。

小沢氏が前回の会談で「増税前にやるべきこと」に挙げた行政改革や経済再生について、首相は「しっかりやり抜く」と強調した。だが、小沢氏は法案への反対姿勢を変えず、物別れに終わった。

小沢氏の主張する政権公約(マニフェスト)の順守や行革、デフレ脱却などの論点は、党内で議論を尽くし、既に結論が出ている。消費増税法案には、行革や景気回復の要素も盛り込まれている。

既に法案審議が進み、与野党協議を始める直前になって、一連の経緯を平然と無視し、論議を再び蒸し返すのは、小沢氏の(おご)りであり、全く筋が通らない。

政治資金規正法違反事件で「党員資格停止処分中だった」との言い訳は通用しない。その原因は、元秘書3人の有罪判決を含め、小沢氏側にあるからだ。

野田首相は、小沢氏との会談継続に見切りをつける時である。

首相は会談で、4日に内閣改造を断行する意向を表明した。参院で問責決議を受けた田中防衛相、前田国土交通相の2人らを交代させ、野党との法案修正協議の環境整備を図る契機だろう。

法的拘束力のない問責決議の効力を事実上追認するかのような閣僚交代は本来、避けるべきだが、消費増税法案の成立を優先するためには、やむを得まい。

会談に同席した輿石幹事長は、問責2閣僚交代への反対を取り下げ、内閣改造に同意した。

首相は今回の会談で、小沢氏よりも、輿石氏の翻意を促すことに重点を置いたようにも見える。

「党内融和」を旨とする輿石氏は従来、党分裂の引き金となりかねない法案採決に一貫して消極的な姿勢を示してきた。

輿石氏ら執行部は、法案成立を最優先する首相の意を体する方針で腹をくくる必要がある。与野党協議で早期に成案を得るよう全力を挙げてもらいたい。

首相は、法案の衆院採決に向け、正念場を迎えつつある。改造人事では、もう失敗は許されない。

1月の内閣改造の際、田中防衛相の起用には当初から疑問の声が出た。実際、国会答弁などで田中氏の資質が問題視され、野田首相の任命責任が問われた。

首相は今度こそ、「適材適所」の布陣で臨まねばならない。

産経新聞 2012年06月04日

内閣改造表明 「機能強化」布陣をみせよ

野田佳彦首相が内閣改造を4日に行う意向を表明し、参院で問責決議を受けた前田武志国土交通相と田中直紀防衛相の交代にようやく踏み切ることになった。

遅きに失したが、社会保障と税の一体改革をよりよきものにするため、与野党が協力できる環境を整える決断を下した意味は小さくない。

決められない政治を返上する大きな一歩といえる。首相はさらに民主党マニフェスト(政権公約)の撤回を含む政策転換を断行し、具体的な協議の進展につなげなければならない。

首相と小沢一郎元代表の再会談で、「現時点で増税には反対」とする小沢氏の主張は変わらなかった。小沢氏の協力が得られなくても、首相は自民党との協議を経て社会保障と税の一体改革を実現する姿勢を示したものといえる。

2閣僚を更迭せず、小沢氏とぎりぎりまで協調を模索する首相の「党内融和」姿勢が自民党の不信感を招いた。内閣改造を機会に、首相が与野党協議を主導して、よりよき中身を実現していくことが問われる。

その意味で首相は輿石東幹事長に引き続き党運営を委ねるべきかを熟慮すべきだ。輿石氏は、これまで「2閣僚更迭は不要」と主張し、消費税増税関連法案を今国会では継続審議にする意向とみられたほか、自民党が求める最低保障年金の撤回や後期高齢者医療制度の維持を拒否しているからだ。

自民党の谷垣禎一総裁は3日のNHK番組で「社会保障では相当大きな考えの違いがある」と改めて民主党の政策転換を求めた。

民主党内にはマニフェスト堅持の意見が根強いが、現実離れした政策を見直すのは当然だ。首相と執行部との食い違いを放置してはなるまい。

問題は改造人事だ。公職選挙法違反の疑いを持たれた前田氏と安全保障担当には不適格とされた田中氏の問責決議後、1カ月以上もかばってきた。田中防衛相は国会答弁でしどろもどろになる場面を繰り返すなど、防衛の責任者として職責を果たせなかった。前任の一川保夫参院幹事長も安保担当として適格性を問われた。

国の守りを軽視したとしか思えない2代にわたる防衛相人事は、首相に重い責任がある。「内閣の機能強化」の言葉にふさわしい人選による立て直しが急務だ。

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