◆首相は一体改革へ陣頭指揮を
消費税率引き上げを柱とする社会保障・税一体改革関連法案の成立を最優先にする布陣であることは明らかだ。
国会の会期末が21日に迫る中、野田再改造内閣が4日発足した。一体改革を前進させるための環境整備であり、国会審議を円滑にする「守り」重視の改造人事にほかならない。
法案を成立させるには、民主党執行部が、自民党など野党との法案修正協議から採決に至る具体策を講じることが欠かせない。
◆修正協議への環境整備
財政危機のギリシャを震源地に、欧州の信用不安が再燃している。日本にとって、対岸の火事ではない。財政再建や社会保障改革は、もはや不可避の課題である。与野党が党利党略で争っている場合ではなかろう。
改造人事の眼目は、参院で問責決議が可決された田中防衛相と前田国土交通相を更迭し、野党と修正協議に臨む点にある。
野田首相は、後任の防衛相に拓殖大の森本敏教授を起用し、「安全保障分野の我が国の第一人者の一人」と期待を示した。
防衛相は、一川保夫氏、田中直紀氏と2代続けて「素人」と野党から批判を浴び、首相の人事能力にも疑問符がついていた。
それだけに見識、説明能力ともに難のない「玄人」を充てたのだろう。森本氏は自衛官出身で外務官僚などを経て、麻生政権で防衛相補佐官を務めた実績もある。
ただ、1954年の防衛庁発足以来、防衛閣僚の民間人起用は初めてだ。自民党などから「国防上の問題で責任を取れるのは、選挙で選ばれた政治家しかない」との批判も出ている。民主党の人材不足を証明したとの見方もある。
米軍普天間飛行場の移設問題や在沖縄海兵隊の海外移転、中国の海洋進出、北朝鮮のミサイル・核開発など直面する課題は多い。森本氏には、専門家としての力量を発揮することが求められよう。
公職選挙法に抵触する疑いが生じた前田国交相のほか、農産物の対中輸出促進事業に関与した中国人外交官との関係が取り沙汰される鹿野農相、国会で競馬サイトを見ていた小川法相が交代した。
農相に就いた郡司彰・元農水副大臣は、環太平洋経済連携協定(TPP)参加に否定的な民主党内のグループの幹部だ。首相が今後、正式参加を決断する際にブレーキをかける存在とならないようにしてもらいたい。
自民党は、問責2閣僚の交代が実現した以上、審議拒否戦術をやめ、“開店休業”の参院を中心に国会審議を動かすべきだ。
◆輿石氏も腹をくくれ
今回の改造では、民主党執行部の役員人事は手つかずだった。問題は、輿石幹事長らが首相と同様に腹をくくり、自民党との協力関係を構築できるかどうかだ。
輿石氏は、小沢一郎元代表グループら反対派が造反する恐れがあるとし、法案の採決先送りを狙っているように見える。
だが、それでは自民党の信頼は得られまい。民主党執行部は、15日という事実上の衆院採決目標を示して修正協議入りを急ぐべきである。小沢氏らの反対の意向は固い。翻意は難しいことを前提に採決に備える必要がある。
野田首相は4日の記者会見で、民主党幹部に毎日、的確な情報を上げるよう指示したことを明らかにし、「必要な判断は私がする」と明言した。陣頭指揮をとる覚悟なのだろう。
自民党の谷垣総裁との党首会談によって、困難な局面を打開することも有力な選択肢だ。
民主党は、修正協議で成果を得るため、政権公約(マニフェスト)に掲げた最低保障年金を柱とする新年金制度創設や、後期高齢者医療制度廃止という看板政策を棚上げしなければならない。
◆大胆な妥協が必要だ
自民党が強く反発しているからだけではなく、内容にも問題が多い。自民党の提案する「社会保障制度改革国民会議」を受け入れて、有識者も交えてじっくり議論するのが現実的だ。
一体改革関連法案の修正協議と並行して、衆院の選挙制度改革も喫緊の課題である。
「1票の格差」を是正するための「0増5減」を選挙制度の抜本改正とは切り離し、先行処理するしかない。「違憲状態」の現状を速やかに改めることが肝要だ。
与野党は、この6月の判断と行動が日本の命運を握ることを肝に銘じるべきだ。会期延長は避けられない。首相の政権運営にも大きく影響する。政治の前進のためには大胆な妥協が必要となろう。
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