円・人民元取引 アジア通貨の国際化へ

朝日新聞 2012年06月03日

円と人民元 アジアの金融安定へ

円と中国の人民元を直接取引する市場が、東京と上海でスタートした。

これまでは大半が米ドルを介した間接取引だった。それに比べ為替手数料が節約できたり、ドルの乱高下の影響を抑えられたりする効果が期待できる。

これを機に、中国の金融自由化を促しつつ、双方のメリットを広げ、アジア全体の金融安定にもつなげたい。

中国は日本にとって最大の貿易相手国で、日本は中国にとって米国に次ぐ。通貨の直接取引は、2万社を超す中国の日系企業はもちろん、広く両国の企業や旅行者らにプラスとなる。日本での元建ての金融商品・サービスも広がりそうだ。

市場創設は、昨年12月の日中首脳会談で合意していた。早期に実現した背景には、元の国際化に向けた中国側の積極姿勢がある。

08年のリーマン・ショックでドルの信認は大きく揺らいだ。これに懸念を強めたのが、巨額のドルを外貨準備として抱える中国である。外国に対して、貿易の支払いや外貨準備に元を採用するよう求める一方、元建て証券への海外からの投資枠の拡大などを進めてきた。

さらに欧州危機でユーロの価値も下落したことから、円とのパイプの強化にも踏み出した。主要通貨ではドルに続く2番目の直接取引となる。

ドル以外の独自通貨圏を警戒する米国も元の国際化を前向きに評価する。中国政府の統制が弱まり、元が対ドル相場で上昇し、対中貿易赤字の是正につながるとみられるからだ。

しかも、元の国際化は中国内に残る厳しい金融規制を緩める圧力となる。緩和が進めば、外国からの証券投資などに伴う為替取引の自由化や元の変動相場への移行も視野に入ってくると、米国はにらんでいる。

日本としては、香港やシンガポール市場との競争のなか、東京市場の活性化のため、元の取引をできるだけ引き込む必要がある。それは日本企業の資金調達にとって追い風になる。

同時に、円の地位を守り、元の信用力が高まることは国際的な危機対応にも貢献しうる。

先に日中韓と東南アジア諸国連合は、金融危機の際、各国が保有するドルを融通する安全網(チェンマイ・イニシアチブ)の融資枠を倍増することで合意した。これに、円や元という域内の主要国通貨も活用できれば効果は大きい。

アジアの金融安定に資するうえでも、日中の通貨連携をきちんと育てたい。

毎日新聞 2012年05月31日

円・人民元取引 アジア通貨の国際化へ

円と中国の通貨、人民元の直接取引が1日、東京と上海で始まり、従来のようにドルを介在させなくても交換できるようになる。経済交流の拡大に沿った当然の流れだ。2国間の貿易や投資をより活発化させるとともに、円と人民元の国際通貨としての地位向上につなげたい。

直接交換でまず期待できるのは、取引コストの低下だ。日中間の貿易額は、年間27兆円を超え、過去10年で2.5倍に膨らんだ。中国に進出した日本企業も2万2000社以上と、日中は互いに欠かせない経済パートナーになっている。ところが、通貨の交換は大半がドル経由だ。円をドルに替え、それを元に替えるといった手間を省けたら、手数料や為替変動のリスクを軽減できる。

ただし、恩恵を受けるには前提条件がある。直接、貿易に関わる業者だけでなく、多くの投資家が利用する厚みある市場の形成だ。円と元の為替市場に加え、元建ての債券が発行・売買される市場などを併せて東京に築いていく必要がある。それは日本にとって大きなビジネスチャンスでもある。

だが、手ごわいライバルがいる。成長が期待される人民元取引には各国の関心が高い。中国当局が、これまで強力に規制してきた元の国際取引を徐々に自由化させているからだ。まずは香港が自由化の受け皿市場になっているが、ロンドンやシンガポールもその地位を狙っている。

読売新聞 2012年06月02日

円と人民元 日中貿易を拡大する直接取引

日本円と中国通貨・人民元を、ドルを介さずに直接交換できる意義は大きい。利便性の向上により、日中間の貿易や投資に弾みをつけたい。

日中両国政府が合意し、円と元の直接取引が、1日から東京と上海の市場で始まった。元との直接交換が認められた主要通貨は、米ドルに次いで円が2番目だ。

初日の東京外国為替市場は、1元=12円32銭前後で取引を終えた。3メガバンクなどが取引に参加したようだ。上海市場もほぼ同水準で取引が行われた。

取引量はまだ多くなく、静かなスタートだが、今後、市場の成長が期待される。

輸出と輸入を合わせた日中の貿易額は年間27・5兆円に上り、10年前の約3倍に膨らんでいる。

直接取引をテコに、2国間の貿易や投資が拡大していくに連れ、円と元の存在感が高まるだろう。米ドルを基軸にした世界の通貨体制に、アジアの2大通貨が一石を投じる意味がある。

円と元の交換はこれまで、流通量が多いドルを仲立ちにした間接取引が中心となっている。

金融機関が円を元に交換したり、企業に元を受け渡したりする場合、いったん円をドルに替えた後、元に替えるという手続きが必要で、手数料も2度かかる。

直接取引を利用すれば、こうした二重の手続きと手数料が不要になり、金融機関や輸出入を行う企業はコストを削減できる。交換レートがドル相場の変動に左右されるリスクも低下するだろう。

日本政府は将来、元建て債券などの金融商品を取引する「オフショア市場」を東京に創設し、市場の活性化を図る考えだ。ロンドンやシンガポールも狙っている。早期実現を目指してほしい。

一方、中国は国際通貨として元の利用を拡大する「国際化」を進めようとしており、今回の措置もその一環と位置づけている。

中国の外貨準備高は3兆ドル以上に膨らみ、そのうちの大半がドル資産とされる。円と元の直接取引開始で日本企業からのドルの受け取りを抑え、過度なドル依存から脱却する狙いもうかがえる。

ただ、課題は少なくない。上海市場の元の対円相場については、中国当局が毎日提示する基準値の上下3%内に1日当たりの変動幅が制限されている。

中国が対ドルと対円でより柔軟な為替変動を容認し、国境を越えた金融・資本取引や国内の投資規制も緩和する。それが、元の一層の国際化には不可欠だ。

産経新聞 2012年06月01日

円と人民元 直接取引を自由化圧力に

円と中国・人民元の直接取引による交換が東京市場と上海市場で1日から始まる。

制度上はこれまでも貿易代金などの元建て決済が可能だったが、市場が整備されておらず、ほぼすべてドルを仲介させていた。このため、円とドル、ドルと元の2つの交換プロセスが必要で、それぞれ手数料がかかっていた。

この「二重手数料」が解消するだけでなく、ドルの変動リスクも軽減する。中国は日本にとって最大の輸出入相手国だけに、こうした実務面のメリットは大きい。

半面、注意すべき点やリスクもあることを忘れるべきでない。中国は元の変動幅を制限し、海外からの株式投資など国境を越えた金融・資本取引への規制も多い。

円・元の直接取引でも、東京市場では需給関係で自由に価格が決まるが、上海市場では毎朝、基準レートが公表され、変動幅はその上下3%に制限される。両市場の交換レートが異なる場合、企業は有利な市場を選ぶことになる。

こうした規制の中でも、元を中国政府が安く抑えていることへの各国の不満は大きい。中国は4月、元の対ドル変動幅を0・5%から1%に拡大したとはいえ、不十分だ。米共和党大統領候補となるロムニー氏などは「当選すれば中国を為替操作国に指定する」と明言したほどだ。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1057/