日本円と中国通貨・人民元を、ドルを介さずに直接交換できる意義は大きい。利便性の向上により、日中間の貿易や投資に弾みをつけたい。
日中両国政府が合意し、円と元の直接取引が、1日から東京と上海の市場で始まった。元との直接交換が認められた主要通貨は、米ドルに次いで円が2番目だ。
初日の東京外国為替市場は、1元=12円32銭前後で取引を終えた。3メガバンクなどが取引に参加したようだ。上海市場もほぼ同水準で取引が行われた。
取引量はまだ多くなく、静かなスタートだが、今後、市場の成長が期待される。
輸出と輸入を合わせた日中の貿易額は年間27・5兆円に上り、10年前の約3倍に膨らんでいる。
直接取引をテコに、2国間の貿易や投資が拡大していくに連れ、円と元の存在感が高まるだろう。米ドルを基軸にした世界の通貨体制に、アジアの2大通貨が一石を投じる意味がある。
円と元の交換はこれまで、流通量が多いドルを仲立ちにした間接取引が中心となっている。
金融機関が円を元に交換したり、企業に元を受け渡したりする場合、いったん円をドルに替えた後、元に替えるという手続きが必要で、手数料も2度かかる。
直接取引を利用すれば、こうした二重の手続きと手数料が不要になり、金融機関や輸出入を行う企業はコストを削減できる。交換レートがドル相場の変動に左右されるリスクも低下するだろう。
日本政府は将来、元建て債券などの金融商品を取引する「オフショア市場」を東京に創設し、市場の活性化を図る考えだ。ロンドンやシンガポールも狙っている。早期実現を目指してほしい。
一方、中国は国際通貨として元の利用を拡大する「国際化」を進めようとしており、今回の措置もその一環と位置づけている。
中国の外貨準備高は3兆ドル以上に膨らみ、そのうちの大半がドル資産とされる。円と元の直接取引開始で日本企業からのドルの受け取りを抑え、過度なドル依存から脱却する狙いもうかがえる。
ただ、課題は少なくない。上海市場の元の対円相場については、中国当局が毎日提示する基準値の上下3%内に1日当たりの変動幅が制限されている。
中国が対ドルと対円でより柔軟な為替変動を容認し、国境を越えた金融・資本取引や国内の投資規制も緩和する。それが、元の一層の国際化には不可欠だ。
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