在日中国大使館の1等書記官が外国人登録証を不正使用し、ウィーン条約で禁じられた個人利得目的の商業活動をしていた疑惑が浮上した。
農林水産省高官や防衛産業関係者との接触も明るみに出ている。日本の国益に関わる機密情報の漏出はなかったのか。徹底解明が必要だ。
書記官は2007年7月、「経済担当」として大使館に赴任した。だが、本来の帰属は中国屈指の情報機関とされる人民解放軍・総参謀部第2部だったという。
書記官は、中国進出をめざす日本の企業から顧問料を受け取る“ビジネス”を手がけていた。
顧問料の振込先となる口座を開設する際、外交官の身分を隠し、以前在籍した東京大学の研究員だとする外登証を不正に更新して使用した疑いが持たれている。書記官は31日、外国人登録法違反などの容疑で書類送検された。
この間、警視庁は外務省を通して出頭を要請したが、中国大使館は応じず、書記官は帰国した。捜査当局は引き続き真相究明に努めるべきだ。
この事件は政官界に大きな波紋を広げる可能性がある。農水省の筒井信隆副大臣が主導する中国への農産物輸出事業に、書記官が深く関わっていた。
筒井氏は農業団体や食品会社に広く呼びかけ、11年7月、中国進出を手助けする一般社団法人を発足させた。事業の構想段階から、書記官は副大臣室に出入りしたり、中国国有企業を紹介したりしていたという。
筒井氏や関係者とどのような接触があったのか、調査チームを設けた農水省は、実態を詳しく国民に明らかにしてもらいたい。
この時期は、政府が環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加問題で判断を迫られていた。
中国は米国主導のTPPの動きと日本の対応を警戒していた。そんな時に、中国の諜報員が農水高官と会っていた事実には、驚かざるを得ない。
過去には重要な国家機密が外国の諜報員に流出した事件もあった。00年の海上自衛隊3佐による露大使館員への機密漏えい事件では、3佐が自衛隊法違反で実刑判決を受けている。
今回の事件でも、書記官が接触した防衛関連企業の一部社員が中国大使館を訪れていた。
スパイ天国と言われる日本で、官民組織の脇の甘さが突かれた。関係者は身辺に忍び寄る諜報員への警戒を怠ってはならない。
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