中国の諜報活動 書記官出頭重ねて求める

読売新聞 2012年06月01日

中国書記官疑惑 諜報活動への警戒を怠るな

在日中国大使館の1等書記官が外国人登録証を不正使用し、ウィーン条約で禁じられた個人利得目的の商業活動をしていた疑惑が浮上した。

農林水産省高官や防衛産業関係者との接触も明るみに出ている。日本の国益に関わる機密情報の漏出はなかったのか。徹底解明が必要だ。

書記官は2007年7月、「経済担当」として大使館に赴任した。だが、本来の帰属は中国屈指の情報機関とされる人民解放軍・総参謀部第2部だったという。

書記官は、中国進出をめざす日本の企業から顧問料を受け取る“ビジネス”を手がけていた。

顧問料の振込先となる口座を開設する際、外交官の身分を隠し、以前在籍した東京大学の研究員だとする外登証を不正に更新して使用した疑いが持たれている。書記官は31日、外国人登録法違反などの容疑で書類送検された。

この間、警視庁は外務省を通して出頭を要請したが、中国大使館は応じず、書記官は帰国した。捜査当局は引き続き真相究明に努めるべきだ。

この事件は政官界に大きな波紋を広げる可能性がある。農水省の筒井信隆副大臣が主導する中国への農産物輸出事業に、書記官が深く関わっていた。

筒井氏は農業団体や食品会社に広く呼びかけ、11年7月、中国進出を手助けする一般社団法人を発足させた。事業の構想段階から、書記官は副大臣室に出入りしたり、中国国有企業を紹介したりしていたという。

筒井氏や関係者とどのような接触があったのか、調査チームを設けた農水省は、実態を詳しく国民に明らかにしてもらいたい。

この時期は、政府が環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加問題で判断を迫られていた。

中国は米国主導のTPPの動きと日本の対応を警戒していた。そんな時に、中国の諜報(ちょうほう)員が農水高官と会っていた事実には、驚かざるを得ない。

過去には重要な国家機密が外国の諜報員に流出した事件もあった。00年の海上自衛隊3佐による露大使館員への機密漏えい事件では、3佐が自衛隊法違反で実刑判決を受けている。

今回の事件でも、書記官が接触した防衛関連企業の一部社員が中国大使館を訪れていた。

スパイ天国と言われる日本で、官民組織の脇の甘さが突かれた。関係者は身辺に忍び寄る諜報員への警戒を怠ってはならない。

産経新聞 2012年06月02日

中国スパイ疑惑 国会は農水相ら追及せよ

日本でスパイ活動を行った疑惑が持たれている在日中国大使館の李春光・元1等書記官が、外国人登録法違反(虚偽申請)などの容疑で警視庁から書類送検された。

一時帰国した元書記官は再三の出頭要請にも応じず、不起訴になる公算が大きい。玄葉光一郎外相は中国に抗議したことを明らかにした。当然である。

今回の事件で、鹿野道彦農林水産相や筒井信隆農水副大臣らが進めていた日本の農産物の対中輸出事業に、元書記官が深く関与していた疑惑も浮上した。元書記官は鹿野氏らとしばしば接触し、副大臣室にも出入りしていた。

事業が起こされる過程での不可解な人事も問題になっている。鹿野グループに所属する衆院議員の公設秘書が、いきなり農水省顧問に任命され、8カ月後の23年7月に設立された社団法人「農林水産物等中国輸出促進協議会」の代表理事に就いている。

焦点の一つは、元書記官が鹿野氏らと接触しながら機密を入手したかどうか、その場合、それは何かである。筒井氏は元書記官に文書を渡したことは認めている。

衆参両院の予算委員会や農水委員会で、元書記官がどう近づいてきて事業にどう関与したかを、鹿野、筒井両氏は詳しく説明すべきだ。鹿野氏は、国会議員の公設秘書を農水省顧問に任命した経緯も改めて説明する必要がある。

農水省では、岩本司副大臣を中心とする調査チームが週明けにも中間報告を発表する。身内による調査は否めないだけに、第三者による調査がさらに必要だ。

元書記官が防衛機密や外交機密の入手を図っていたとしたら、問題はより深刻だ。防衛、外務両省などは、元書記官の接触の有無などを改めて点検すべきである。

今回の事件を元書記官の「個人的な利得活動」「蓄財」などとする見方もあるが、それは楽観的に過ぎると言わざるを得ない。

元書記官が関与していた中国への投資話に日本企業約10社から約2千万円が集まり、その使途が不明である。元書記官が中国人民解放軍の情報部門出身とみられることから、軍の諜報活動のための資金に充てられた疑いがある。

中国情報機関による組織的なスパイ活動の一端だったとの懸念もある。そうした動きを厳しく取り締まるスパイ防止法の導入に向けた議論も、国会に求めたい。

産経新聞 2012年05月30日

中国の諜報活動 書記官出頭重ねて求める

在日中国大使館の1等書記官が不正に銀行口座を開設し、ウィーン条約が禁じた商業活動を行っていたことが明るみに出た。警視庁が外務省を通じて出頭要請したが、大使館側が拒否し、書記官は一時帰国した。

書記官は外交官の身分を隠して銀行口座を開設するため、虚偽の住所などを記した申請書を東京都内の区役所に出していた。以前に使っていた外国人登録証を不正に更新した外国人登録法違反(虚偽申告)などの疑いが持たれている。一般の外国人なら強制捜査の対象になる事件だ。

外交特権を持つ書記官を逮捕することはできないが、書記官が外交官の地位を利用してスパイ活動を行っていた疑いが極めて強い。日本政府は中国当局に対し、書記官を警視庁に出頭させるよう重ねて要請すべきである。

書記官は中国人民解放軍総参謀部の情報部門出身とみられ、外交官になる前から、何度も日本に入国し、東大や福島大などに籍を置いていた。多くの政治家を輩出した松下政経塾の特別塾生になったこともあり、学界や政財界に人脈を築いていた。要注意人物だ。

今回の事件を受け、藤村修官房長官は「個別の捜査の案件なので答えは控える」と話し、松下政経塾出身の玄葉光一郎外相は「今朝(省内の)関係者から聞いた。背景、事実関係はまだ承知していない」と述べるにとどめた。

警視庁が捜査している事件とはいえ、国益が絡み、単なる犯罪ではない。人ごとのような対応では済まされない。

警視庁も、書記官と接触した政治家、財界人、学者らの周辺捜査を徹底して進めてほしい。

これまで、中国人民解放軍が絡んだとみられる事件として、平成18年に発覚した、ヤマハ発動機が生物化学兵器などの散布に転用できる無人ヘリコプターを無許可輸出しようとしたケースがある。同社は外為法違反容疑で静岡、福岡両県警の捜索を受け、翌年、執行役員ら3人が逮捕された。

中国の諜報活動は自然な形で近づき、技術や情報を入手するケースが多い。産業界だけでなく、政治家や官僚も用心が必要だ。

日本でスパイ活動に適用される法律は外国人登録法、出入国管理法などしかない。いずれも微罪である。スパイから国益と主権を守るための法整備も急がれる。

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