野田・小沢会談 ああ、この仰々しさ

朝日新聞 2012年05月24日

野田・小沢会談 ああ、この仰々しさ

民主党の小沢一郎元代表が、野田首相との会談に来週にも応じる――。そんなニュースが、朝日新聞をはじめ各メディアをにぎわせている。

会談には、仲介した輿石東幹事長も同席する予定という。

首相はきのうの国会で「(消費増税が)党の方針として固まっていることは理解いただき、どうしても成立させなければならないとご説明したい」と意気込みを語った。

首相の熱意もわからないではない。法案成立に「政治生命をかける」という首相と、それに「反対」だという小沢氏が話しあう意義も認める。

だが、なぜ、会談のために、いちいち和平交渉の特使よろしく、幹事長の仲介を経なければならないのか。

いったい、この仰々しさは何なのだ。こんな田舎芝居じみたやり方が、国民の政治へのうんざり感をいっそう強めていることに、国会議員たちは気づくべきだ。

小沢氏は、いまはひとりの民主党員である。党代表を務めたこともあり、政治経験の豊富な政治家だが、みずから常々「一兵卒の身」と語ってきた。

そうであるなら、党の代表でもある野田首相とは、例えていえば「民主党」という同じ町内に住むお隣さんのような間柄ではないか。

実際、小沢氏の個人事務所から首相官邸までは、歩いて5分もかからない。

重要なテーマであればなおさら、「来週にも」などという必要はない。いつでも、どこででも、何度でも会うべきだ。

それに会談前から「決裂なら党分裂か」「輿石氏のメンツはつぶせない」といった観測が乱れ飛ぶ「永田町文化」も、国民と政治との距離を広げていく。

小沢氏はみずからのグループの議員たちとは昼夜を問わず会合を重ねている。しかし、首相と直接会うのは野田政権の発足以来、9カ月近くで初めてだという。

なかなか会わない。それによって会談自体の希少価値を最大限、高めようとする。それが小沢流なのだろう。

何とも時代がかった政治手法である。即断即決で動く市場経済のようなスピードまでは求めないが、もう少しさらりと行動できないものか。

欧米のメディアでは、一党員が党首に「来週にも会う」という記事は、まず目にしない。それを報じている日本のメディアの一員として、みずからの記事の奇妙さを自省しつつ考える。

2人はさっさと会えばいい。

毎日新聞 2012年05月31日

元代表と平行線 首相、早く見切りを

もはや時間稼ぎなど許されない。消費増税法案をめぐり野田佳彦首相と民主党の小沢一郎元代表が会談した。首相の増税法案への協力要請を元代表は拒み、物別れに終わった。

元代表は首相から再会談の要請があれば応じる考えを示したが、接点を見いだすことは難しい。首相は再会談について「もう一回反すうしながら考えたい」と述べ、歯切れが悪かった。成算なき党内融和に見切りをつけ、自民党との協議に専念すべき時だ。

「乾坤一擲(けんこんいってき)、一期一会のつもりで説明したい」。首相はこんな大見えをきって、元代表との会談にのぞんだ。その言葉は重いはずだ。

増税法案は民主党で長時間議論した末に了承された。にもかかわらず決定後も公然と反対論が出ることを首相は事実上、黙認してきた。党内融和重視の輿石東幹事長の路線を尊重したためだろう。

役職を持たぬ元代表との会談をわざわざ輿石氏が仲介し大仰に行うこと自体、おかしな話だ。それでも元代表は党内で多くの議員に影響力を持ち、その動向は終盤国会を左右し得るのが現実だ。首相が会談に動いたことをいちがいに否定はしない。

だが、行革の徹底や経済情勢など「そもそも論」を展開し「今は賛成できない」と説く元代表と、増税を「待ったなし」とする首相の隔たりはやはり明白だ。

読売新聞 2012年06月02日

野田・輿石会談 首相はぶれずに「採決」へ進め

消費税率引き上げ関連法案などの衆院採決を巡って、与野党の攻防が激しさを増してきた。

国会会期末まで20日足らずだ。駆け引きにかまけている場合ではない。民主、自民両党は歩み寄り、法案の修正協議に臨むべきだ。

野田首相は1日、民主党の輿石幹事長と約1時間会談した。

会期内の法案採決を目指す首相が、輿石氏と2人きりで語り合ったのは、党執行部の動きに不安を覚えるからだろう。

自民党は、修正協議の前提条件として「会期末までの法案採決日程の提示」などを求めている。

だが、輿石氏は、「修正協議がいつ終わるのかを見ずに『この日採決する』と言う方がおかしい」と拒んでいる。国家公務員制度改革関連法案も、自民党の反対を押し切って審議入りさせた。

長妻昭・元厚生労働相が座長の民主党厚労部門会議は、政権公約(マニフェスト)に基づく「後期高齢者医療制度廃止法案」の素案をあえてこの時期に決定した。

野党に対し、消費増税法案の修正協議を働きかけ、協力を要請する一方で、その神経を逆なでするような動きに出るのは理解しがたい。自民党の谷垣総裁が「与党がどっちを向いているのか分からない」と言うのは、もっともだ。

消費増税法案の採決では民主党の小沢一郎元代表グループらの造反が予想される。党分裂を恐れる輿石氏は、大幅な会期延長による採決の先送りか、次国会への継続審議を狙っていると言われる。

だが、それでは「決められない政治」が延々と続くことになる。日本の財政悪化に対する市場の見方は、ますます厳しくなろう。民主党政権は、これ以上、国政を停滞させてはならない。

首相は、国会対応を輿石氏任せにせず、消費増税法案の今国会成立へ陣頭指揮をとるべきだ。

自民党の賛成を得るためであれば、参院で問責決議を受けた田中防衛相、前田国土交通相の交代も考慮せざるを得まい。

自民党が発表した次期衆院選公約案には消費税10%が明記され、年金など社会保障政策も、マニフェスト関連の政策以外は政府・民主党の案とほぼ同じ内容だ。

しかも、自民党は、「社会保障制度改革国民会議」を設け、対立する政策を時間をかけて議論しようと呼びかけてもいる。

民主、自民両党は、消費増税で社会保障制度改革を実現するという基本線は一致している。千載一遇の機会を逃してはならない。

産経新聞 2012年05月31日

野田首相 公約撤回なぜ打ち出さぬ

消費税増税をめぐる野田佳彦首相と小沢一郎元民主党代表との会談は、首相からの関連法案成立への協力要請を小沢氏が「大増税の前にやることがある」と拒み、物別れに終わった。

大方の予想通りの展開だ。首相は「かなり率直な天下国家の議論ができた」などと意義も強調したが、危機感が足りないというしかない。

よりよい社会保障と税の一体改革を実現するには、首相は自民党との法案修正協議の進展に全力を挙げるほかない。前提となるのは、民主党マニフェスト(政権公約)の抜本的な見直しだ。

その点、会談で首相の姿勢は曖昧だった。政策転換を明確に打ち出して協議への道を切り開くしかないのに、「乾坤一擲(けんこんいってき)」の必死さはうかがえなかった。

小沢氏は消費税増税に反対する理由として、行政改革や地方分権、社会保障制度改革への取り組みが不十分だと指摘した。デフレ脱却なども挙げたが、根本にはマニフェストが一向に実現しないことへの不満があるのだろう。

だが、行政の仕組みを変えて無駄をなくし16・8兆円の財源を生み出すとの主張は、小沢氏が幹事長を務めた鳩山由紀夫政権の時点で破綻した。その後も、ばらまき政策を全面的に見直さなかったことが大混乱につながっている。

読売新聞 2012年05月31日

野田・小沢会談 「もう一度」は時間の浪費だ

議論は、予想通り平行線だった。野田首相は増税反対派に妥協せず、社会保障と税の一体改革を着実に進めるべきだ。

首相が民主党の小沢一郎元代表と会談し、消費税率引き上げ関連法案の成立への協力を要請した。「社会保障と財政の状況を踏まえれば、一体改革は待ったなしだ」と迫った。

小沢氏は、「増税前にやるべきことがある」と従来の姿勢を崩さず、法案に賛成できないと明言した。さらに、「行政改革による無駄の排除」「社会保障の理念の後退」「デフレ脱却が途上」の3点を主張したという。

双方の主張を吟味すれば、明らかに大義は野田首相にある。

消費税率引き上げは昨秋以降、党代表選や一体改革関連法案の了承などの党内手続きをきちんと経ている。少子高齢化に伴って社会保障費が増大する中、増税先送りは財政を一段と悪化させよう。

小沢氏の「増税前にやるべきことがある」との主張は、改革先送りのための常套(じょうとう)句に過ぎない。行革やデフレ脱却の重要性は、党内論議で何度も確認されている。

小沢氏は、「政権公約(マニフェスト)の原点を忘れるな」とも言う。だが、小沢氏が主導したマニフェストは、予算組み替えによる年16・8兆円の財源捻出など非現実的で、民主党政権に「負の遺産」を背負わせたのが実態だ。

衆参ねじれ国会の下、野党の協力が不可欠な中で、あえて実現不可能な公約を持ち出すのは、「反対のための反対」である。

首相と小沢氏の会談を仲介し、同席もした輿石幹事長は、「党内融和」を優先しており、再会談の可能性を否定していない。

しかし、合意する見込みがないのに、何度も同様の会談を繰り返すことには意味があるまい。

関連法案の成立には、自民、公明など野党との法案の修正協議が欠かせない。自民党は「小沢氏との決別」を協力の条件の一つに掲げている。再会談が与野党協議の妨げとなるのなら、いずれ会談打ち切りを決断する必要がある。

野田首相は、関連法案採決時の党内からの造反について「党として対応する」と語り、処分を辞さない構えだ。一体改革に「政治生命を懸ける」と言明している以上、今国会での法案成立を最優先すべきで、安易な妥協は禁物だ。

自民党が社会保障制度改革基本法案の骨子をまとめるなど、一体改革をめぐる与野党協議の機運は徐々に高まってきている。この機を逃してはならない。

産経新聞 2012年05月30日

野田・小沢会談 首相は「本気度」を見せよ

野田佳彦首相が今国会で消費税増税関連法案を成立させる「本気度」を示す好機を迎える。30日の小沢一郎元民主党代表との会談である。

しかし、消費税増税について小沢氏は、「国民との約束を忘れては、政権交代の意味がない」と反対姿勢を鮮明にしている。首相も翻意が望めないことは分かっているはずだ。

6月21日の国会会期末まで1カ月を切り、法案成立は事実上困難になっている。首相には先行きが見えない小沢氏との会談に時間をかけている余裕はあるのか。首相が取り組むべきは、自民党との修正協議に向けた環境整備だ。

まず、参院で問責決議を受けた前田武志国土交通相と田中直紀防衛相の2閣僚の問題がある。閣僚の地位利用など公職選挙法に抵触する疑いが持たれた前田氏と、安全保障担当には不適格とされる田中氏の更迭が求められている。

さらに民主党がマニフェスト(政権公約)に掲げ、年金改革案の柱と位置づけている最低保障年金の撤回なども必要だろう。

最大のポイントは、社会保障と税の一体改革を、よりよい内容にすることだ。デフレ脱却を実現する具体策などを与野党でまとめるべきだ。社会保障も高齢者優遇を是正しない限り、持続可能な制度とはいえない。

自民党の茂木敏充政調会長は、医療、年金、介護など社会保障政策全般を有識者が協議する「国民会議」を設置することを、衆院一体改革特別委員会の審議の中で政府側に提案し、この創設を柱とする社会保障制度改革基本法案の骨子もまとめた。

政府・与党の出方を見て法案提出時期を探る駆け引きの面もあるが、野田首相が提案に対し「国民会議のようなものは必要だ。そういう協議はどんどんやりたい」と語ったように、与野党協議に入る好機到来である。

首相は小沢氏との会談について「乾坤一擲(けんこんいってき)だ」「一期一会のつもり」などと語った。両氏の会談について、党内に亀裂が生じるのを避けたい輿石東幹事長は「タイムリミットはない」と再会談も想定しているようだが、成果は望めないだろう。

そもそも、小沢氏との会談の意味もよくわからない。党内融和を重視しているようでは、「政治生命を懸ける」という首相の覚悟はどこにも見えない。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1054/