原子力委員会 この反省のなさは何だ

朝日新聞 2012年05月25日

原子力委員会 この反省のなさは何だ

「原子力ムラ」は3・11後も何の反省もしていない。憤りと同時に、「やっぱり」との思いがつのる。

原子力委員会の事務局(内閣府)が、電力会社など原発推進の側だけを集めた非公式な会合を20回以上も重ね、核燃料サイクル政策の見直しを議論する小委員会の審議前に情報を流していた。

会合に小委員会から出席していたのは座長だけ。報告書案も事業者に有利になるよう書き換えられていた。

原子力委員会への信用を根本から揺さぶる事態である。偏向したやり方が発覚した以上、組織は白紙から見直すべきだ。これまでの議論も不正な点がないか検証する必要がある。

原子力委員会は、国の原子力政策の基本を決める役割を担ってきた。親委員会のもとに、いくつかの小委員会や専門部会が置かれている。原子力を推進する最高機関である。

原発事故を受けて、原子力安全・保安院や原子力安全委員会など規制機関については改組が決まったが、原子力委員会は手つかずだ。

今回の不祥事をみる限り、「原子力ムラ」の巣窟になっているとしか思えない。

例えば、事務局には以前から電力会社や原子炉メーカーの出向社員が複数、常駐しているという。おかしな話だ。

原子力に批判的な識者からは「意見が反映されない」との不満もあがっていた。

別の委員会に属する浅岡美恵弁護士は、審議が事務局に誘導されたり、実際の議論と事務局がまとめる内容に隔たりがあったりすることを詳細な資料にして提出している。

非公式会合はこうした中で明らかになった。浮かび上がるのは、事務局を通じて利害関係者が情報を入手し、委員を差し置いて政策を取り仕切ろうとする「ムラ」そのものの図式だ。

原子力委員会は原子力政策大綱の改定も審議している。核燃サイクル問題とあわせて政府のエネルギー・環境会議に複数の改定案を示し、政府は他のエネルギー政策とともに「国民的議論」を経て決める段取りだ。

だが、こんな行為が繰り返された末にできた「案」を、どうやって信用しろというのか。

野田首相、細野原子力担当相は事態を深刻に受け止めるべきだ。実態の解明を急ぐ。委員長らの進退を含め、組織のあり方を抜本的に改める。

そこからやり直さないまま、原子力政策を議論しても、誰も信用しない。

毎日新聞 2012年05月25日

核燃「秘密会議」 透明性の徹底図れ

内閣府原子力委員会が核燃料サイクルの推進側だけを集めて非公開の「勉強会」を開き、サイクルの今後のあり方を検討していた同委・小委員会の報告書原案への意見を聞いていたことがわかった。

中立・公正であるべき政策決定が秘密会議の議論に影響されることがあってはならない。まして、原子力政策は利害関係者によってゆがめられてきたとの疑念がクローズアップされているところだ。新たに政策を選択していくに当たり、透明性の確保は最重要課題といっていい。

原子力委は経緯を明らかにし、姿勢を正さねばならない。

「勉強会」には、経済産業省・資源エネルギー庁、電気事業連合会、青森県六ケ所村の再処理工場を経営する日本原燃、高速増殖原型炉「もんじゅ」を運営する日本原子力研究開発機構などから幹部が出席していた。いずれも、核燃料サイクルを維持したい利害関係者だ。小委の座長と事務局も出席していた。

小委では、使用済み核燃料の扱いについて、「全量再処理」「全量直接処分」「再処理・直接処分併用」の三つの選択肢が検討されていた。「勉強会」には選択肢の総合的評価の原案が示され、再処理の当事者である日本原燃が再処理工場の存続を要請したという。

結果的に小委の場に提出された評価案では、再処理をしない「全量直接処分」を選択した場合の難点の記述が原案に比べ増えていた。再処理を維持する「併用」については利点の記述が増加していた。

読売新聞 2012年05月27日

核燃「勉強会」 原子力委の情報収集は必要だ

内閣府の原子力委員会が、経済産業省や電力の関係者を集めた勉強会を昨年11月から23回開いていたことに、原子力発電推進に偏った姿勢だ、とする批判が出ている。

原子力委は、有識者による小委員会を設けて、原子力発電所から出る使用済み核燃料の処理方法を巡る核燃料サイクル政策について検討してきた。

勉強会の目的は、この小委員会の会議資料の準備である。必要なデータの提出依頼や確認を行い、資料内容の技術的な正確性を点検することにあったという。

正確なデータに基づく資料を会議の事務局が作成するのは当然のことであり、何ら問題はない。

小委では、核燃料サイクル政策を変更した場合のコストが焦点となっている。使用済み核燃料の量や経費見積もりなど、事業者にしか分からない数字を抜きにしては小委での議論は成り立たない。

勉強会の開催を色眼鏡で見るのは間違っている。

批判する側は、この勉強会の場で、作成途上の小委の報告書の素案が配布されたことを、特に疑問視している。

勉強会での原発推進側の意見を踏まえ、報告書案が事業者に有利になるよう書き換えられた、という主張である。それが事実なら確かに問題であろう。

これに対し、原子力委は、「事業者の意見を反映して書き換えた事実はない」と反論している。

実際、小委がまとめた報告書は、推進側に有利な内容とは、とても思えない。

推進側が後押しする現行の政策を変更した方がコスト安、との試算が明記されている。核燃料サイクルを放棄し、使用済み核燃料から取り出したプルトニウムの利用をやめた方が核拡散防止に寄与する、との見通しも載せられた。

報告書の素案は、推進側だけでなく、小委に所属する脱原発派の委員に対しても事務局が事前に提示し、意見を聞いている。

小委の会合でも、全ての委員の意見を踏まえて修正を加え、最終報告書としている。

手続きはまっとうと言える。

細野原発相は、原子力委事務局に事業者からの出向者が職員としていることも中立性に問題があるとして、出向者を出身組織に戻す方針を示している。

だが、原子力に関する一定の知識がない職員で置き換えれば、事務局の作業は遅れ、手間取るのではないか。細野氏には、慎重な判断を求めたい。

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