カルザイ氏再選 「民族融和」が最優先だ

朝日新聞 2009年11月05日

カルザイ氏再選 挙国一致はできるのか

アフガニスタンの大統領選挙でカルザイ現大統領の再選が決まった。決選投票の中止という異常な決着である。

カルザイ氏は第1回投票での得票の実に3分の1が不正と見なされた。決選投票も「公正さが期待できない」として2位のアブドラ前外相が参加を取りやめた。

今後、5年間にわたってアフガン再建のかじ取りを担うカルザイ氏の正統性は、出だしから損なわれた。

9・11テロ後のアフガン戦争でイスラム原理主義のタリバーン政権が崩壊した後、米欧の後押しで登場したカルザイ氏の統治は8年近い。この間、憲法制定などの成果はあったものの、汚職や非効率な行政、タリバーンの資金源でもある麻薬の広がりなどは改善どころか悪化が進んだ。

それが復興の進展を妨げ、タリバーンの勢力回復と攻勢激化の土壌となった。カルザイ氏への内外からの信任はすでに大きく落ち込んでいた。

治安維持にあたる国際部隊と対テロ掃討作戦を進める米軍には約1500人の犠牲者が出ている。民生分野の支援も日本だけで約2千億円にのぼる。いっこうにあがらぬ成果に、国際社会の不満は高まる一方である。

2期目の最重要課題にカルザイ氏も政権の汚職体質の一掃を掲げる。「挙国一致の政権を目指す」とし、タリバーンに憲法を受け入れて和平に応じるよう呼びかけている。

しかし、実際の行動を見ると疑念がつのる。たとえば、選挙でカルザイ氏は、腐敗に深くからんでいる軍閥の指導者に強く支援を仰いだ。その中にはタリバーン兵士の大量虐殺の責任を追及されている人物も含まれる。こうした勢力との関係を保ちつつタリバーンと和平を進めることは極めて困難だ。

まず必要なのは、政権やカルザイ氏の周辺から汚職や腐敗に関係した人物を一掃し、能力本位の人事を進めて統治能力を高めることだ。

民族が複雑に入り組む実情を考え、部族長らが集まって重要な問題を解決する伝統的なロヤ・ジルガを開くことも考えるべきだ。アブドラ氏を含め幅広い政治勢力を政権に取り込み、国の亀裂を修復する努力が必要だろう。

アフガンへの兵力の追加増派を検討しているオバマ米大統領は、カルザイ氏の再選決定を受けて欧州連合(EU)などと、包括的な支援を話し合う国際会議を開く準備に動き始めた。日本の鳩山政権も新たな支援策の策定を進めている。

しかし、オバマ氏が汚職撲滅などに真剣に取り組むようカルザイ氏に厳しく求めたように、アフガンの政権自身が最低限の統治能力を示せなければ、効果的な支援の実施は不可能だ。カルザイ氏は自らへの不信を肝に銘じ、課題の解決に全力を挙げねばならない。

毎日新聞 2009年11月05日

カルザイ氏再選 「民族融和」が最優先だ

どうも釈然としない決着である。アフガニスタン大統領選は7日に予定されていた決選投票が中止され、カルザイ大統領の再選が決まった。

しかし、1回目の選挙ではカルザイ支持票を中心に大がかりな不正投票が発覚した。2位になったアブドラ元外相は、たとえ決選投票を実施しても「多くの不正行為が予想される」としてボイコットを決めたが、最初からあきらめることはない。公正な選挙をめざして再度、民意を問う機会が失われたのは残念だ。

アフガンの旧支配勢力タリバンは決選投票の妨害を予告し、同国や隣国パキスタンではテロも含めて不穏な動きが続いていた。それを思えば、決選投票の中止で新たな流血が回避されたと言えないこともない。

だが、対立が解消されたわけではないのだ。カルザイ氏は国内のパシュトゥン人を、アブドラ氏はタジク人を支持母体とする。こうしたアフガン特有の民族的葛藤(かっとう)は残り、相変わらずタリバンや国際テロ組織アルカイダによるテロも予想される。

危機は先送りされただけで、むしろ決選投票の中止がカルザイ氏の求心力や正統性をかげらせ、政権基盤がさらに弱まりはしないかという心配がある。手放しに再選を祝福しにくいのは確かだ。

しかし、種々の懸念はあろうと同国の選択は尊重しなければならない。カルザイ氏はタリバン穏健派を新政権に取り込んだり、民族融和の「ロヤ・ジルガ(国民大会議)」を開くことも検討しているようだ。

民族融和はアフガン安定につながる最重要課題の一つだ。一口にタリバンと呼ばれる人々をどう選別するかという問題もあるが、国民的和解を図る取り組みを支持したい。

「汚職・腐敗」の追放も重要課題だ。1回目の投票でカルザイ氏への不正投票が目立ったのは、権力と結びついて不当なうまみを得る構造と無縁ではあるまい。それでは日本を含む国際的な支援が生かされない。

カルザイ政権の後ろ盾たる米国にも注文したい。米軍がアフガン攻撃を始めて8年。政権の座から転げ落ちたタリバンが盛り返し、勢力圏を広げる構図には、歴史的な既視感がある。79年にアフガンに侵攻したソ連軍も、イスラム勢力の抵抗で10年後に撤退を余儀なくされたからだ。

ソ連がアフガン情勢を「血の滴る生傷」(ゴルバチョフ元大統領)と呼んだのは、米オバマ政権にとって人ごとではあるまい。米国内には「ベトナム化」への懸念もある。

テロと戦うことに異存はないが、肝心なのは「どう戦うか」である。陣頭に立つ米国には、アフガンでの賢明な戦い方と出口戦略を早く示すよう改めて求めたい。

読売新聞 2009年11月05日

カルザイ再選 民族融和でテロとの戦いを

アフガニスタンを再びテロの巣に戻さぬよう、再選されたカルザイ大統領は今後、国内融和を進め、テロ勢力の一掃に注力せねばなるまい。

アフガン大統領選は、2か月半の迷走の末、現職のカルザイ大統領の再選で決着した。

今年8月の投票ではカルザイ氏が過半数を制したかに見えたが、審査の結果、票の組織的な捏造(ねつぞう)などが判明し、3分の1近くが無効とされた。

このため、今月7日に決選投票が設定された。しかし、対抗馬のアブドラ前外相が「公正な選挙は期待できない」と不参加を表明した。これを受け、選挙管理委員会は投票の中止を決め、「カルザイ当選」を宣言した。

アフガンでは先月末、イスラム原理主義勢力のタリバンが国連の宿泊施設を襲撃し、さらなる選挙妨害を宣言していた。

多数の犠牲者を出してまで事実上の信任投票を実施する必要はあるまい。中止は妥当な判断だったと言えよう。オバマ米政権も中止を歓迎、カルザイ氏の当選をとりあえず祝福した。

だが、公正な選挙で正統性ある政権を樹立するという当初の目的は、達成できなかった。

アフガンで多数の犠牲者を出しながらテロと戦う欧米諸国は、派兵継続に疑問を強める国内世論に対し、アフガン民主化という成果を示す必要があった。それだけに、残念な結果と受け止めているのではないか。

オバマ大統領が、再選されたカルザイ氏に腐敗追放に努力するよう求めたのも当然だ。

多数派民族のパシュトゥン人を代表するカルザイ大統領には、まずアブドラ前外相を支援したタジク人勢力との融和を求めたい。

ただ、民族融和を隠れみのに、かつてタリバンと戦闘を繰り広げた軍閥を政権に引き込めば、さらなる混乱が予想される。閣僚の人選には慎重さが必要だ。

腐敗政権への支援が泥沼のベトナム戦争につながった経験から、アフガンが「オバマのベトナム」になると危惧(きぐ)する声がある。

だが、テロとの戦いを決意した以上、欧米諸国はカルザイ政権との協調を放棄するわけにはいくまい。放棄すれば、タリバン支配の再来を招きかねないからだ。

日本政府はインド洋上での給油に代わるアフガン支援策として、来年度から巨額の民生支援を実施する方向だ。その資金が支援先に確実に届くよう、監視・検証が必要なことは言うまでもない。

産経新聞 2009年11月04日

アフガン新政権 復興へ総力挙げ支えたい

アフガニスタンの選挙管理委員会が、7日に予定されていた大統領選・決選投票の中止を決め、8月の第1回投票で1位となっていた現職であるカルザイ大統領の再選を宣言した。

2位だったアブドラ元外相の不参加表明をうけた例外的な決定だ。イスラム原理主義勢力タリバンの大がかりな選挙妨害テロが予想されることも背景にある。

新政権の正統性を明示する意味で決選投票中止は残念だが、米政府は「支援継続」を表明した。現地を訪問中の潘基文国連事務総長も「速やかな新政府発足が必要」と強調した。今は国際社会が総力を結集し、アフガンの国家再建を支えるべきだ。

米軍は、2001年の9・11米中枢同時テロを引き起こした国際組織アルカーイダをかくまうタリバン政権を崩壊させた。しかしタリバン勢力は徐々に勢いを取り戻し、テロ犠牲者はここ数カ月、過去最悪ペースで増加している。

治安悪化が各国の支援による復興を妨げる。悪循環を断ち切るためには、やはり根源のタリバン勢力を一掃するしかない。

オバマ米大統領は新政権の発足に合わせ、年内に6万8千人にまで増やすとした駐留米軍のさらなる増派計画を発表する。しかし、治安を担う主体は現在の米軍主導から北大西洋条約機構(NATO)を軸とする国際治安支援部隊(ISAF)へ、さらにはアフガン国軍へと引き継がれるのが筋だろう。

カルザイ大統領再選の決定を聞いたオバマ大統領は、これまでのカルザイ政権の腐敗体質にあえて言及し、「汚職根絶へのより真剣な努力と、治安部隊の訓練強化に向けた共同の努力」を求めた。当然の注文だ。

治安回復の次は国民生活の安定だ。米韓同盟強化を掲げる韓国の李明博政権は、アフガンの「地方復興チーム」(PRT)の民間要員を警護する警備兵力約300人の再派兵を決めた。来年1月のインド洋補給支援打ち切りを打ち出した鳩山政権とは対照的だ。鳩山由紀夫首相はアフガンでの民生支援を強調する一方、自衛隊を派遣しないとも語っている。それでは実効的な支援はできまい。

カルザイ大統領は「挙国一致の政権を目指す」と言明した。だが、アフガンに求められるのは言葉ではない。国際社会の支援と期待に応える統治能力である。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/105/