NHKの数土文夫経営委員長が24日、委員長と経営委員の職を辞する意向を示した。突然の辞任表明である。
数土氏は、実質国有化される東京電力の社外取締役に6月に就任する予定で、NHKとの兼職人事が問題視されていた。
数土氏は記者会見で、「東電の経営が国難だという思いは高まった。東電の再スタートへの協力を優先した」と述べた。
2日前の会見では、「東電との兼職は問題ない」と強調していただけに、唐突感は否めない。
経営委員は、国会同意人事の重要なポストである。あっさりと現職を投げ出すという判断は、不可解な印象を残した。
辞任劇の発端は、NHKの重要な取材対象である東電の経営陣にNHK経営委員長が加われば、報道の中立性が損なわれる――との不信感が広がったことだ。
一部の市民グループやNHK労組などが反発を強め、視聴者からもNHKに批判が寄せられた。
確かに経営委員会は、会長の任免権や重要事項の議決権を持つNHKの最高意思決定機関だ。
だが、放送法の規定では、経営委員が個別の番組内容に介入することはできない。
放送法は、NHKと利害関係が生じる恐れのある企業役員と経営委員の兼職を禁じているものの、電力会社は対象外だ。東電役員との兼務は可能である。
放送業界、原子力行政をそれぞれ所管する川端総務相と枝野経済産業相が「問題なし」と述べていたのは、こうした理由による。
自民党内では、政府の原子力政策に関連し、数土氏の兼職問題を国会で追及しようとする動きが出ていた。数土氏の辞任は、エネルギー政策などを巡る政争に巻き込まれた面もあろう。
昨年10月に決定した2012年度からの経営計画には、内部の反対を押し切り、数土氏主導で受信料の引き下げが盛り込まれた。NHK経営を巡るこうした執行部との軋轢を指摘する声もある。
東電新会長に就任する下河辺和彦氏が数土氏に社外取締役を要請したのは、経営者としての手腕を見込んだからだ。JFEホールディングス相談役の数土氏は旧川崎製鉄と旧NKKの合併を実現し、大胆な経営改革を手がけた。
東電は、原発事故の収束、巨額の損害賠償、失墜した信頼の回復といった課題を抱えている。
産業界代表の社外取締役として経営にどう関与するのか。東電を選んだ数土氏の責任は重い。
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