電力全面自由化 効果と副作用を冷静に考えよ

毎日新聞 2012年05月22日

電力完全自由化 健全な競争を目指せ

経済産業省の電力システム改革専門委員会が、家庭用も含めた電力小売りを全面的に自由化することで一致した。同省は数年間の準備期間を設け、実現を目指す方針だという。

大手電力会社の地域独占が崩れて競争が進めば、電気料金引き下げにつながる可能性がある。

一方で、電力安定供給の確保など解決すべき課題も多い。国民にとってメリットのある健全な競争市場を育てる制度設計を求めたい。

電力小売りの自由化は、00年から段階的に実施されたが、05年に契約電力50キロワット以上の事業所にまで対象が拡大された後は、大手電力の反対でストップした。家庭やコンビニなどの小規模店舗は、各地域の大手電力しか選べないままだ。

自由化された分野は、電力販売量の6割強を占め、特定規模電気事業者(PPS)が参入できる。しかし、そのシェアは3%程度にとどまっている。価格競争で大手にかなわないことが、大きな原因だ。

大手電力が、新規参入を阻めるほど自由化分野の料金を抑えられるのは、競争のない規制分野で十分な利益を得られるからだ。東京電力の経営を調べた第三者委員会によると、東電は販売量の4割弱しかない規制分野で利益の9割を稼いでいた。

小売りの完全自由化により、こうした構図は崩れるはずだ。公平な競争条件が整うことで、新規参入が増えることを期待する。

読売新聞 2012年05月22日

電力全面自由化 効果と副作用を冷静に考えよ

電力小売りの全面自由化がもたらす効果と副作用を、慎重に見極める必要がある。

経済産業省の専門家委員会が、家庭向けを含め電力小売りを全面的に自由化する方向で大筋一致した。

電力事業への新規参入を促して競争原理を働かせ、電気料金を下げるのが狙いだろう。電力会社の人件費や燃料費に一定の利益を上乗せして電気料金を決める「総括原価方式」も撤廃する。

政府は、来年の通常国会に電気事業法改正案を提出し、2015年度にも実現したい考えだ。

背景には、「地域独占」に甘えて企業努力を怠ってきた電力会社への不信がある。東京電力の値上げ問題では、「値上げは権利だ」とする経営陣の無神経な発言が強い批判も招いた。

厳しい世論が自由化への動きを後押ししていることを、電力各社は自覚すべきだ。

ただし、全面自由化の効果は不透明だ。国内電力市場では2000年から、大口契約の小売り自由化が始まった。自由化対象は中小工場など契約電力50キロ・ワット以上の利用者まで広がった。

発電事業者を自由に選べて、料金も交渉できる建前だが、実際には新規参入組の発電量は全体の3%台に過ぎない。既存の電力会社が資本や設備で圧倒的な存在である状況に変わりはない。

実質的な競争のないまま電力小売りが全面自由化されれば、強大な電力会社が「規制なき独占」で野放しとなり、かえって値上げをしやすくなりはしないか。

多様な事業者が競う健全な電力市場を実現するのは、容易なことではない。新規参入を促すため、電力会社による発電・送電の一貫体制を改め、送電部門だけを担う独立機関を作る構想もある。

だが、発送電分離は、電力需要に応じたきめ細かな供給を難しくするマイナス面も指摘される。

実際に欧米や韓国では、発送電分離が一因とされる大停電が起きた。海外事例を十分検証し、導入の是非を判断すべきだ。

東京電力福島第一原子力発電所の事故後、全国の原発は再稼働できず、電力不足に陥っている。供給不足の中で自由化すれば、電気料金は上がる可能性が高い。自由化よりも、電力安定供給の回復を優先させなければならない。

送電コストの高い離島や過疎地への電力供給打ち切りや料金高騰も懸念される。一時のムードで全面自由化に走らず、冷静に議論することが求められよう。

産経新聞 2012年05月24日

電力全面自由化 いまは安定供給が先決だ

電力市場の改革を検討する経済産業省の専門委員会が、家庭用を含めて電力販売を全面自由化する方針を示した。来年の通常国会に電気事業法改正案を提出し、数年かけて実施するという。

電力料金引き下げにつながる競争は重要だ。だが、それには、社会インフラである電力の安定供給体制の確立が大前提となる。

今のような電力不足下で自由化されると、売り手市場になって逆に値上げにつながらないか。当面は、電力不足の早期解消に全力を挙げるべきだろう。

電力市場は、大口需要家向けから段階的に自由化されてきた。現在、対象は契約電力50キロワット以上の中小工場にまで拡大され、電力会社以外の特定規模電気事業者(PPS)が参入している。

家庭用は自由化されていない。値上げには政府認可が必要だ。そうした規制を取り払い、幅広い料金引き下げにつなげる狙いだ。

ただし、健全な競争を促すには、電力会社を含めて多様な事業者が需要以上に供給を競い合うことが必要だ。需要家が自由に事業者を選べることが前提になる。

現在は、定期点検を終えても原発が再稼働せず、国内すべての原発が停止している。一部事業者の自家発電が足りず、PPSも、供給力が不足して新規の契約などは見合わせている状況である。

適正な競争原理を働かせる条件が整わない中で、政府の認可が不要となれば、かえって値上げを引き起こしかねない。全面自由化はあくまで、安定供給が実現された後の課題として慎重に制度設計されるべきだろう。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1047/