電力小売りの全面自由化がもたらす効果と副作用を、慎重に見極める必要がある。
経済産業省の専門家委員会が、家庭向けを含め電力小売りを全面的に自由化する方向で大筋一致した。
電力事業への新規参入を促して競争原理を働かせ、電気料金を下げるのが狙いだろう。電力会社の人件費や燃料費に一定の利益を上乗せして電気料金を決める「総括原価方式」も撤廃する。
政府は、来年の通常国会に電気事業法改正案を提出し、2015年度にも実現したい考えだ。
背景には、「地域独占」に甘えて企業努力を怠ってきた電力会社への不信がある。東京電力の値上げ問題では、「値上げは権利だ」とする経営陣の無神経な発言が強い批判も招いた。
厳しい世論が自由化への動きを後押ししていることを、電力各社は自覚すべきだ。
ただし、全面自由化の効果は不透明だ。国内電力市場では2000年から、大口契約の小売り自由化が始まった。自由化対象は中小工場など契約電力50キロ・ワット以上の利用者まで広がった。
発電事業者を自由に選べて、料金も交渉できる建前だが、実際には新規参入組の発電量は全体の3%台に過ぎない。既存の電力会社が資本や設備で圧倒的な存在である状況に変わりはない。
実質的な競争のないまま電力小売りが全面自由化されれば、強大な電力会社が「規制なき独占」で野放しとなり、かえって値上げをしやすくなりはしないか。
多様な事業者が競う健全な電力市場を実現するのは、容易なことではない。新規参入を促すため、電力会社による発電・送電の一貫体制を改め、送電部門だけを担う独立機関を作る構想もある。
だが、発送電分離は、電力需要に応じたきめ細かな供給を難しくするマイナス面も指摘される。
実際に欧米や韓国では、発送電分離が一因とされる大停電が起きた。海外事例を十分検証し、導入の是非を判断すべきだ。
東京電力福島第一原子力発電所の事故後、全国の原発は再稼働できず、電力不足に陥っている。供給不足の中で自由化すれば、電気料金は上がる可能性が高い。自由化よりも、電力安定供給の回復を優先させなければならない。
送電コストの高い離島や過疎地への電力供給打ち切りや料金高騰も懸念される。一時のムードで全面自由化に走らず、冷静に議論することが求められよう。
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