これで本当に夏が乗り切れるのか。政府がまとめた今夏の電力需給対策はあまりに不安要素が多く責任ある対応策とは言い難い。
特に関西電力管内では原発の再稼働なしに猛暑を迎えた場合、14・9%の電力不足に陥る。これを15%以上の自主的な節電と他電力からの融通で乗り切り、強制使用制限の発動は見送るという。
関電管内の供給不足は昨年夏、電気事業法の電力使用制限令を発動した東日本地域を上回る厳しい水準だ。それなのに「自主節電頼み」で危機を回避できるのか。安定した電力供給を確保するための努力は不十分だ。
≪首相は説得の先頭に≫
何よりも電力不足の解消と安定供給の確保には、停止中の原発の再稼働が不可欠だ。政府は福井県の大飯原発3、4号機の再稼働への同意を地元に要請し、野田佳彦首相は17日、「最後は私のリーダーシップで意思決定する。判断の時期は近い」と断言した。
その言葉通り、野田首相は原発の安全性などに全責任を持ち、早期運転再開を主導しなければならない。それが今夏の電力危機を乗り切る最低条件だ。
首相は自ら説得に現地入りするなど、先頭に立つ覚悟を示してもらいたい。
国内の全原発が停止した中で、とりわけ原発利用度が高かった関電の供給力は大きく低下した。八木誠社長は「需給ギャップが全国で最も厳しい」とし、「猛暑の場合、広域的な停電を回避できない可能性もある」と指摘した。
政府対策では、中部、北陸、中国の隣接電力会社に融通を求めるが、それでも賄い切れず、15%節電で需給を均衡させる計画だ。3電力管内の利用者も5%以上の節電を強いられる。こうした人々の理解と協力を得るためにも関電管内での徹底した節電が必要だ。
政府は強制力を伴う使用制限令発動も検討したが、「関西の産業界に対する影響が大きい」として見送ったという。
しかし、福島原発事故を受けた昨年夏、東日本で大口需要家に15%の使用制限を義務づけたのは、東京電力管内で10%の電力不足が想定されたためだ。今回、関電管内ではこれより厳しい逼迫(ひっぱく)が予想されるのに、なぜ使用制限令を発動しないで乗り切れるのかの説明はあいまいだ。
使用制限令は故意に使用を超過した利用者に罰則を科す。法により政府の責任で厳しい節電を義務づける措置だ。これを発動しないのは、関電を含む電力会社のみに需給調整の責任を押しつけることにならないか。政府の責務を回避するような姿勢は許されまい。
需給対策では、突発的な大規模停電を回避するため、関電に加え北海道、九州、四国の4電力に1日2時間程度の計画停電も準備させる。使用制限も含むあらゆる手段を講じた上で、最悪の事態に備えるのが筋というものだろう。
≪安定した電力供給を≫
こうなったのは、対策が原発再稼働を確かな前提に据えていないからだ。大飯3、4号機が再稼働すれば関電管内の電力不足はほぼ解消され、政府も「再稼働した場合には需給計画を修正する」とした。それならば、安全性を確保した上で、早期再稼働の実現を最優先課題に掲げるべきだ。
政府は既にストレステスト(耐性検査)などを経て同原発の安全性を確認した。再稼働へ同意を要請された立地自治体の福井県とおおい町のうち、おおい町議会は再稼働容認を決議した。長年、原発と向き合ってきた地元の協力姿勢を無にしてはならない。
それでも再稼働へのハードルは高い。県議会や西川一誠知事らの理解が必要だが、西川知事が「政府がぐらつくことのない姿勢を見せてほしい」と確かな保証を求めていることに応えるべきだ。
大阪市や滋賀県、京都府など大飯原発周辺自治体の首長は、逆に再稼働に慎重だ。西川知事がこうした電力消費地の理解も取り付けるよう政府に求めていることをきちんと受け止める必要がある。
仮に原発再稼働なしに夏を乗り切れても、節電頼みの慢性的な電力不足が続くことを忘れてはならない。安価で安定した電力供給体制は再構築できず、産業空洞化は一層加速する。東電以外の電力料金引き上げも避けられまい。
電力不足は国力の疲弊という負の連鎖を招き、国の土台を傾ける。政府は肝に銘じるべきだ。
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