夏の電力対策 節電頼みでは綱渡りが続く

朝日新聞 2012年05月22日

関西15%節電 自治体が先頭になって

関西電力大飯原発の再稼働なしを想定して、夏の節電目標を「2010年度比で15%以上」とする。関西の2府5県と大阪市など政令指定都市でつくる関西広域連合が、この政府決定を受け入れた。

野田首相は近く再稼働について最終判断する見通しだ。広域連合は安全性に強い疑問を抱いている。もっともなことだ。原発なしで夏を乗り切るため、関西の自治体は実現可能な節電量のとりまとめを急ぐべきだ。

大阪府と大阪市は専門家らによるエネルギー戦略会議で、需給対策の検討に入っている。

電力消費が高まる午後1~4時に休憩時間をとるよう、企業などに促す案も出ている。家庭のエアコン使用を減らすため、割引・無料化で公共施設に多くの人に集まってもらう計画なども検討中だ。

滋賀県は中小企業が社内の照明などを消費電力の少ないものに切り替えた場合、200万円を上限に経費を助成する。兵庫県は昨年に続きサマータイムを検討している。

産業界では、間引き運転を検討する鉄道会社や、生産の前倒し、生産拠点の移管に動き出した大手企業もある。

関西での節電要請は昨夏、今冬に続いて3度目だ。この夏の需給予想はこれまで以上に厳しく、他電力からの融通にも頼らざるをえない。

関西広域連合に求められるのはまず、実行可能な自主的節電量を積み上げ、目標達成の見通しを立てることだ。

そのうえで、どうしても需給に開きが残るとすれば、強制力のある措置で消費を抑えることも検討すべきである。

19日の関西広域連合と細野豪志原発相らとの会合では、大飯原発の再稼働について、首長たちと政府の間の溝の深さが改めて浮き彫りになった。

山田啓二・京都府知事や橋下徹大阪市長らは、国の原子力安全委員会ではなく政治家の判断に頼ることに疑念を表明した。

広域連合は最高水準の安全基準、大事故時の防災計画など6項目を政府に申し入れた。野田政権がきちんと答えていないことにも不信感を募らせている。

朝日新聞の世論調査でも、大飯原発の再稼働に54%の回答者が「反対」とこたえている。

広域連合は近く、大飯原発の再稼働の安全性に対する懸念を政府に文書で正式に伝える。

こうした中で再稼働を強行するのは無理だ。野田首相はむしろ、節電支援の力点を関西におくなど、広域連合との協力に積極的に動くべきだ。

毎日新聞 2012年05月19日

夏の節電対策 脱原発社会への一歩へ

政府が、この夏の電力需給対策を決めた。国内の原発50基が、まったく稼働しないことを前提に、沖縄県を除く全国で節電を求める。

電力不足は、国民生活や経済活動に制約を課す。原発再稼働にこだわり、後手に回った政府の責任は重い。地域独占の恩恵を受けながら、供給責任を全うできない電力会社にも反省を求めたい。

もっとも、省エネ・節電は、原発依存からの脱却を進めるためにも欠かせない。官民が本腰を入れてこの夏を乗り切り、将来の「脱原発社会」につなげる必要がある。

政府は、供給余力が比較的大きい東北、東京を除く7電力の管内には節電の数値目標も設定した。中でも需給が厳しい関西、九州、北海道、四国の4社は計画停電も準備する。

東電福島第1原発の事故から1年2カ月がたった。この間、国内の全原発が止まり、電力不足が起きる事態は、想定されていた。ところが政府は、ぎりぎりまで需給関係をつかみ切れず、結局、国民に我慢を強いることになった。

電力会社は原発事故後も「オール電化」を推進するなど、原発再稼働ありきの発想を転換できず、節電を促す努力を怠ってきた。

この夏の電力不足は、そうした怠慢のツケともいえるが、「原発ゼロ」に向けた取り組みの出発点として前向きに考えたい。

昨夏は、東電管内で計画停電が実施され、家庭や企業を混乱させた。その反省を踏まえ、まず、停電回避に努める必要がある。

読売新聞 2012年05月16日

夏の電力対策 節電頼みでは綱渡りが続く

これで夏の電力危機を防げるのか。綱渡りの毎日が続きそうだ。

政府が今夏の節電対策案を発表した。内容を詰めた上で、近く最終決定するという。

対策案は、定期検査を終えた原子力発電所が再稼働せず、全50基が停止したまま猛暑となったケースを想定したものだ。

関西電力に15%、九州電力は10%など7社管内に5~15%の数値目標を設けて節電を要請する。

関西、九州、北海道、四国の4電力には計画停電の準備を求める。電力不足が最も深刻な関電管内は今後、大規模な工場などに節電を義務づける電力使用制限令の発動も検討するという内容だ。

電力需要の急増に供給が追いつかず、突発的な大停電が起きれば経済や生活が大混乱する。場合によっては人命にもかかわろう。

企業も家庭も節電に励み、最悪の事態を回避したい。

しかし、政府の対応策が、供給力に少し余裕のある中部、中国、北陸、四国の4電力管内にも5%などの節電を求め、関電管内に電力を融通する仕組みを前提にしていることは疑問である。

融通側の4電力も、老朽化した火力発電所をフル稼働するなどギリギリで、発電所が故障で止まる可能性は通常より高いはずだ。融通分をあらかじめ関電の供給力に上乗せするリスクは大きい。

4社の融通を計算に入れないと関電の節電目標は15%から20%に上がる。その場合も想定し、対策を練り直す必要がある。

大幅な節電は、経済や生活にダメージを与える。

昨夏、電力制限が実施された東京電力と東北電力の管内では、企業が工場の操業を土日に移すなどの工夫をしたが、従業員への負担は大きかった。生産体制の縮小や、停電を懸念した海外移転の加速など様々な問題も顕在化した。

猛暑になれば、エアコンを我慢した高齢者の熱中症など、無理な節電の健康被害も心配だ。節電はあくまで「窮余の策」である。

福井県の大飯原発2基を再稼働すれば、関電管内の電力不足はほぼ解消する。

ところが、関電の大株主でもある大阪市の橋下徹市長は、再稼働反対の立場から「電力使用制限令を認識、経験するのも必要かな」などと述べた。電力不足の悪影響をあまりにも軽視している。

地元のおおい町議会が再稼働に同意するなど、打開への動きもある。政府は夏までの再稼働実現に向け、全力を挙げるべきだ。

産経新聞 2012年05月19日

夏の電力対策 節電頼みでは国が傾く 「大飯」再稼働を最優先せよ

これで本当に夏が乗り切れるのか。政府がまとめた今夏の電力需給対策はあまりに不安要素が多く責任ある対応策とは言い難い。

特に関西電力管内では原発の再稼働なしに猛暑を迎えた場合、14・9%の電力不足に陥る。これを15%以上の自主的な節電と他電力からの融通で乗り切り、強制使用制限の発動は見送るという。

関電管内の供給不足は昨年夏、電気事業法の電力使用制限令を発動した東日本地域を上回る厳しい水準だ。それなのに「自主節電頼み」で危機を回避できるのか。安定した電力供給を確保するための努力は不十分だ。

≪首相は説得の先頭に≫

何よりも電力不足の解消と安定供給の確保には、停止中の原発の再稼働が不可欠だ。政府は福井県の大飯原発3、4号機の再稼働への同意を地元に要請し、野田佳彦首相は17日、「最後は私のリーダーシップで意思決定する。判断の時期は近い」と断言した。

その言葉通り、野田首相は原発の安全性などに全責任を持ち、早期運転再開を主導しなければならない。それが今夏の電力危機を乗り切る最低条件だ。

首相は自ら説得に現地入りするなど、先頭に立つ覚悟を示してもらいたい。

国内の全原発が停止した中で、とりわけ原発利用度が高かった関電の供給力は大きく低下した。八木誠社長は「需給ギャップが全国で最も厳しい」とし、「猛暑の場合、広域的な停電を回避できない可能性もある」と指摘した。

政府対策では、中部、北陸、中国の隣接電力会社に融通を求めるが、それでも賄い切れず、15%節電で需給を均衡させる計画だ。3電力管内の利用者も5%以上の節電を強いられる。こうした人々の理解と協力を得るためにも関電管内での徹底した節電が必要だ。

政府は強制力を伴う使用制限令発動も検討したが、「関西の産業界に対する影響が大きい」として見送ったという。

しかし、福島原発事故を受けた昨年夏、東日本で大口需要家に15%の使用制限を義務づけたのは、東京電力管内で10%の電力不足が想定されたためだ。今回、関電管内ではこれより厳しい逼迫(ひっぱく)が予想されるのに、なぜ使用制限令を発動しないで乗り切れるのかの説明はあいまいだ。

使用制限令は故意に使用を超過した利用者に罰則を科す。法により政府の責任で厳しい節電を義務づける措置だ。これを発動しないのは、関電を含む電力会社のみに需給調整の責任を押しつけることにならないか。政府の責務を回避するような姿勢は許されまい。

需給対策では、突発的な大規模停電を回避するため、関電に加え北海道、九州、四国の4電力に1日2時間程度の計画停電も準備させる。使用制限も含むあらゆる手段を講じた上で、最悪の事態に備えるのが筋というものだろう。

≪安定した電力供給を≫

こうなったのは、対策が原発再稼働を確かな前提に据えていないからだ。大飯3、4号機が再稼働すれば関電管内の電力不足はほぼ解消され、政府も「再稼働した場合には需給計画を修正する」とした。それならば、安全性を確保した上で、早期再稼働の実現を最優先課題に掲げるべきだ。

政府は既にストレステスト(耐性検査)などを経て同原発の安全性を確認した。再稼働へ同意を要請された立地自治体の福井県とおおい町のうち、おおい町議会は再稼働容認を決議した。長年、原発と向き合ってきた地元の協力姿勢を無にしてはならない。

それでも再稼働へのハードルは高い。県議会や西川一誠知事らの理解が必要だが、西川知事が「政府がぐらつくことのない姿勢を見せてほしい」と確かな保証を求めていることに応えるべきだ。

大阪市や滋賀県、京都府など大飯原発周辺自治体の首長は、逆に再稼働に慎重だ。西川知事がこうした電力消費地の理解も取り付けるよう政府に求めていることをきちんと受け止める必要がある。

仮に原発再稼働なしに夏を乗り切れても、節電頼みの慢性的な電力不足が続くことを忘れてはならない。安価で安定した電力供給体制は再構築できず、産業空洞化は一層加速する。東電以外の電力料金引き上げも避けられまい。

電力不足は国力の疲弊という負の連鎖を招き、国の土台を傾ける。政府は肝に銘じるべきだ。

朝日新聞 2012年05月18日

電力融通 節電は人のためならず

政府が、この夏の電力会社ごとの節電目標を示した。

最大のポイントは、電力の広域的な融通だ。脱原発をにらんで、政府や電力各社、需要家ともども、「賢い電気の使い方」に向けた取り組みを本格化する機会ととらえたい。

政府は今夏、供給余力が3%以上ある中国、北陸、中部の各電力会社の管内にも5%程度の需要抑制を求める。余った電気を関西電力に送り、関電管内の無理な節電をできるだけ避けようという狙いだ。

「なぜ自分たちまで」と不満に思う人もいるだろう。ただ、5%カットは猛暑だった10年夏と比べての話だ。オフィスビルなどで照明や空調を調整していけば、十分に達成できる。

むしろ、節電や電力融通の実績を積む意義を考えよう。

これまで、電力各社は地域独占のもと、自前で供給力を増やし、非常時以外はほとんど電力を融通してこなかった。発電所をつくる費用は電気料金に反映して元がとれたためだ。

だが、もともと電気を融通しあえば無駄は少ない。

日本列島は南北に長い。地域によって天候が違い、電力使用量がまちまちになることが少なくない。新電力の参入を進め、自然エネルギーを増やすためにも、送電網を一体運用して、広域的に需給を調整するほうが効率的だ。

実際の融通には、電力会社ごとの需給を把握し、うまく電気を流す技術がいる。日常的な広域運用となれば、連絡体制を密にしなければならない。監視機能を含め、全体を統括する司令塔役も検討する必要がある。

需要家が節電量を電力会社に売却できるネガワット取引も、全国的に実施すべきだ。取引対象も各電力会社の自社管内に限定せず、他の地域のオフィスビルや事業所にも広げる。需要家は各社の提示価格を比べ、より高いほうに売ればいい。

電力会社の中には「他社のための節電」を渋る声がある。電力融通への取り組みが風穴となって地域独占が崩れることを警戒しているのだろう。

しかし、火力発電にかかる燃料費負担が急増し、各社とも「電気が使われるほど赤字が増える」傾向が強まっている。効率的な需要抑制はいまや、電力会社の経営にとっても喫緊の課題のはずだ。

今回の節電対策の決定は、電力使用制限令の適用を決めた昨年より遅い。政府は対応が後手に回ったことを反省し、電力の広域融通について電力各社を厳しく監視しなければならない。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1044/