H2Aロケット 世界市場へ課題克服を

朝日新聞 2012年05月19日

ロケット成功 未来につなぐ絵を描け

これからの宇宙開発をどう進めるか。国民に開かれた議論で目標を定め、未来を開きたい。

日本の主力ロケットH2Aが、韓国の人工衛星の打ち上げに成功した。メーカーの三菱重工が初めて獲得した海外の顧客である。記念すべき一歩といっていい。

だが、日本の宇宙開発には現在、肝心なことが欠けている。この一歩を手がかりにロケットをどう育て、それを使って何をするという大きなビジョンだ。

宇宙開発の司令塔として、内閣府に宇宙戦略室が置かれる予定だ。将来像を描く中心的役割を果たすことになる。

ロケット事業の独り立ちの道はきわめて厳しい。

世界の静止衛星の打ち上げ需要は年に20機程度で、それを欧州を中心に米国やロシア、中国が奪い合う。安価な米国のベンチャーも参入し、割高な日本製は苦戦している。

それでも、H2Aは15回連続の成功となり、成功率95%にこぎつけた。日本の強みである信頼性をさらに向上させ、コストダウンにも努め、海外市場を開いていってほしい。

当面は、政府や宇宙航空研究開発機構(JAXA)の衛星の打ち上げによって、安定運用に必要という年4機程度の大半をまかなうしかない。だが、いつまでも官需頼みでは困る。

宇宙開発は、転機を迎えている。2008年にできた宇宙基本法は、宇宙技術の利用に重点を移すことを掲げ、安全保障目的の利用も認めた。専門調査会で、宇宙基本計画や政府の体制作りが議論されてきた。

新しい宇宙戦略室は、政府全体の政策の調整機能を担い、民間委員からなる宇宙政策委員会とともに戦略をつくる。

気がかりなのは、これまでの専門調査会での議論も民間の委員によるものとはいえ、非公開で透明性を欠いたことだ。

そして、有人活動をどうするか、長期的に何をめざすかといった根本的な議論はないまま、全地球測位システム(GPS)の日本版をめざす準天頂衛星を中心とする計画作りが進んだ。

新しい組織は透明性を持たせて、幅広い議論を巻き起こす必要がある。

世界に目を転じれば、日本も参加する国際宇宙ステーションの運用が2020年に終わる。次の計画に向けての国際的な議論が始まる一方、新興国の宇宙への参入の動きも続いている。

私たちの安全や暮らしの向上に役立ち、宇宙の探査や地球観測などで国際貢献も果たす。そういう宇宙開発の姿が必要だ。

毎日新聞 2012年05月19日

H2Aロケット 世界市場へ課題克服を

H2Aロケット21号機が、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の水循環変動観測衛星「しずく」と韓国航空宇宙研究院の多目的観測衛星「コンプサット3」の打ち上げに成功した。H2Aの海外衛星打ち上げは初めてで、日本勢が世界市場へ進出する弾みとなるだろう。コスト高などの課題を克服し、国内外からの打ち上げ受注拡大を目指してほしい。

H2A打ち上げは07年、JAXAから三菱重工業に民間移管された。以後、100件以上の引き合いがあったが、韓国以外はまだ受注に結びついていない。H2Aの失敗は1回だけで、成功率は世界水準の95%を超えた。問題なのは、信頼性よりも費用と打ち上げ能力の方だ。

三菱重工はH2Aの製造・打ち上げ費用を公表していないが、約100億円と推定される。円高もあって衛星打ち上げ市場の大半を握る欧州や米露勢にコスト面で負けている。韓国の衛星は「しずく」との相乗りでコストが下げられた。

欧州のアリアンロケットは赤道直下に発射場を持ち、赤道上空を回る静止衛星の打ち上げ効率が良い。日本は種子島からの打ち上げで、緯度が高い分、打ち上げ効率も落ちる。静止衛星は大型化しているが、H2Aの能力ではその需要をカバーできていないのだ。

読売新聞 2012年05月19日

H2A成功 宇宙産業の地歩を築く一歩に

初めて海外から受注した韓国の衛星など4基を載せたH2Aロケット21号機が、打ち上げに成功した。

いずれの衛星も予定軌道に乗った。

すべてスケジュール通りで、極めて順調だった。

注目された衛星は、韓国航空宇宙研究院の「アリラン3号」だ。高解像度のカメラを搭載し、地上を精密撮影できる。

日本の宇宙関係者が悲願としてきた、海外衛星の打ち上げビジネスへの参入に一歩をしるした。成功を商機拡大につなげたい。

H2Aの打ち上げも、2003年の6号機失敗後、15回続けての成功となった。成功率95・2%は世界のトップクラスだ。

ただし、打ち上げ回数では、日本の強力なライバルである欧州のロケット「アリアン」が約200回に達している。成功率も約95%だ。21回のH2Aは、世界水準には、まだまだ遠い。

それだけに、日本の打ち上げビジネスの前途は険しい。

H2Aを製造している三菱重工業は、07年ごろから打ち上げ契約獲得を目指してきた。打診は100件を超えるが、成約に至ったのは、今回の衛星以外にない。

打ち上げ費用を低減する取り組みを強化するなど、さらなる営業努力が必要だろう。

韓国側は、打ち上げにH2Aを選択した理由として、費用の「安さ」を挙げている。

H2Aの打ち上げには、通常100億円前後かかるが、韓国の衛星は、地球の水環境を詳細に観測する日本の宇宙航空研究開発機構の衛星「しずく」と相乗りのため料金が軽減されたという。

ロケット製造コストの一層の削減も必要だ。三菱重工業も部品調達の見直しなどで、将来の費用半減を目標に掲げている。

政府も、産業界の取り組みを積極的に後押しすべきだろう。

地球観測や通信など様々な政府の衛星を、今後もH2Aで切れ目なく打ち上げることで、実績作りにも貢献する必要がある。

H2Aの次の国産ロケット開発についても、本格的に検討を始めるべきではないか。新規の研究開発がなければ、優秀な技術者はいなくなる。H2Aに携わった技術陣はすでに引退し始めた。

米国では、民間企業主導で、打ち上げ費用がH2Aの半額程度という安価なロケットも登場している。実績はまだ少ないが、新たなライバルになろう。

国産ロケット技術の維持、強化へ産官学の協力が重要だ。

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