NHKの経営委員長を務める数土(すど)文夫氏(JFEホールディングス相談役)が東京電力の社外取締役に内定した。
この人事がNHK内外で波紋を広げている。東電をめぐるNHKの報道が色眼鏡で見られかねないとの懸念だ。兼職せず、どちらかに専念してはどうか。
実質国有化が決まった東電は報道機関にとって、いま最大の取材対象のひとつである。
一方、NHKの経営委員会はNHK会長の任命権を持つ。会長が任命する副会長と理事も経営委の同意を必要とする。経営委員長の幹部人事への影響力は否定できない。
数土氏が経営委員長と東電の取締役を兼務すると、東電の動向をNHKが中立の立場で伝えても、「数土氏に配慮し東電寄りに報じているのでは、と視聴者から勘ぐられかねない」とNHK幹部は心配する。
放送法の規定では、経営委員は国家公務員やテレビメーカーの役員などとの兼職を禁じているだけで、電力会社の役員になるのは可能だ。
報道の現場が萎縮しないかという質問に、数土氏は「マスメディアとしての見識がNHKにあるかどうかの問題だ」と答えている。経営委員が個別の番組内容に介入することも放送法で禁じられている。
しかし、公正さと不偏不党が求められる公共放送の経営トップが、実質国有化する企業の経営に携わるのは政府との距離にも疑念を抱かせかねない。メディアの基本に立ち返れば、「李下(りか)に冠を正さず」の姿勢が求められよう。
04年から相次いだNHK不祥事を受け、08年に施行された放送法改正では、経営委による執行部に対する監督機能が強化された。お飾りともいわれた時代と異なり、経営委員長の職責は重くなった。
数土氏は昨年4月、委員長に就任し、経営委が昨年10月に議決した今年度から3カ年の経営計画では、初の受信料値下げも盛り込んだ。
かたや、東電取締役への起用は、旧川崎製鉄の出身である数土氏が旧NKKとの経営統合をまとめあげ、JFEホールディングスの設立に導いた実績などが買われたとみられる。
数土氏は経営委員長となった直後、「放送の質を高め、合理化を進める」と意欲を語っていた。初志を貫くのか、「国難だと思って引き受けた」という東電に転身するのか。
二兎(にと)を追えば混乱を起こしかねない。身の振り方を早く決めて、表明すべきだ。
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