一体改革国会論戦 歩み寄れるはずだ

朝日新聞 2012年05月18日

一体改革審議 首相の覚悟が見えない

すでに崖っぷちである。

社会保障と税の一体改革の実質的な審議がきのう、衆院の特別委員会で始まった。

3月末の法案提出から2カ月近くが過ぎている。6月21日の会期末まで、あと1カ月ほどしかない。国民に負担を課し、社会保障制度と財政を立て直す重要法案なのに、ここまで押し詰まってようやく審議に入った。この国会運営は異常である。

国民を巻き込んだ議論を喚起できるのか。そして、この国会で採決にたどりつけるのか。

のろのろ国会の最大の責任者は野田首相である。一体改革に政治生命をかけると言いながら、ちっとも実行が伴わない。

法案の中身は改めて検証し、評価していくが、審議入りに際して、まずは首相に三つの提案をする。

第一は、問責決議を受けた2人の閣僚を更迭することだ。問責を理由に審議を拒む野党の戦術は非難に値するが、2閣僚に問題があるのは明らかだ。

そのうえ、法案の成立に自民党の賛成が不可欠なのは自明の理だ。輿石東幹事長ら民主党内の反発を恐れるかのように、2人を守っていても仕方ない。党執行部との関係が悪化しても、法案成立を優先させるべきだ。

第二に、なりふり構わず、謝ることである。

消費増税を決めるだけで、実施はまだ先だから、マニフェスト違反にはあたらない――。

こんな説明で、国民のわだかまりを解けると思っているとしたら甘すぎる。

自民党が憤るのも、民主党のこんな態度への反発が大きい。増税の必要はないといって政権を奪ったのを忘れたのかといった怨念が消えないのだ。

首相はもっとはっきりと、増税への方針転換を率直に謝罪すべきである。

最低保障年金のような政策も制度設計のずさんさを認めたうえで、いったんは撤回するしかない。

第三に、衆院解散も辞さない覚悟を示すことだ。

自民党の求めに応じる、というばかりではない。違憲状態の「一票の格差」を放置して、みずからの解散権を縛っているかのような現状では、民主党内への抑えすら利くまい。

私たちは、小選挙区の「0増5減」の先行実施を繰り返し求めてきた。選挙制度や定数の抜本改革は、有識者による審議会で時間をかけて議論するしかないと考えるからだ。

謝罪しつつ、解散する力を手にしておく。こうした条件を整えないと首相は前へ進めない。

毎日新聞 2012年05月18日

一体改革国会論戦 歩み寄れるはずだ

ようやく税と社会保障の一体改革関連法案の審議が衆院特別委員会で始まった。成否のカギを握る自民党は社会保障分野の対案をまとめた。政府・民主党案と方向性は同じだ。もともと政府案は自公政権が進めていた路線に乗ってまとめてきたからである。過去のわだかまりやメンツやそれぞれの党内事情を超えて国民のために歩み寄るべき時だ。

焦点になりそうなのはやはり民主党の新年金制度案だ。政権交代を果たした総選挙での看板政策であり、最低保障年金の創設、被用者年金と国民年金の一元化を柱とする。自民党は「非現実的」と批判し、現行制度を基本に被用者年金の一元化などを対案に盛り込んでいる。

新制度案は菅政権時にまとめた「素案」では棚上げされていたが、野田政権になっていつの間にか復活したものだ。相変わらず財源は示されず、消費税5%増で行う今回の改革には含まれていないという。次期選挙で再びアピールするために温存したと見られても仕方がない。ただ、民主党が示した試算では理想的な制度にすると新たに消費税7%以上が必要になり、財源規模を小さくすると中間所得層の負担が重くなって受給水準も下がることがわかった。自民党は徹底議論して問題点をあぶり出した上で改めて撤回を求めてもいいのではないか。

読売新聞 2012年05月22日

一体改革審議 「揺るぎない覚悟」の具体化を

野田首相は、野党との接点を広げ、与野党が歩み寄れる環境を整えなければならない。

今国会の最重要課題である社会保障・税一体改革関連法案を巡り、野党との質疑が衆院特別委員会で始まった。

首相は、消費税率引き上げ関連法案について「この国会で成立をさせるという思いは揺るぎない」と改めて明言した。「野党第1党の自民党の提起をしっかり受け止め、成案を得たい」と述べ、自民党に譲歩する姿勢も示した。

問題は、それを具体的に示せるかどうかである。

民主党の2009年衆院選政権公約(マニフェスト)に関し、首相は財源確保の見通しの甘さを認め、「消費税をどうするかきちんとしていなかった。おわびをしなければならない」と陳謝した。

一方で、自民党の「法案賛成の条件」である、最低保障年金を柱とする新年金制度創設や後期高齢者医療制度の廃止方針を撤回することには「関係者と調整している」などとするにとどめた。

民主党内では「マニフェストに記載された政策をこれ以上撤回すべきではない」とする主張が根強いからだろう。

だが、首相が守りの答弁に固執していては野党の協力を得られない。首相自らが撤回へカジを切る決断をすべきだ。

マニフェスト関連の政策を除けば、政府と自民党は具体論でほとんど一致できるはずだ。

事実、この日の質疑でも自民党が提出を検討している社会保障の対案の基本的方向性について、首相は「見解が違うとは思わない」と述べた。自民党の対案がまとまれば、実務的な修正協議に速やかに入る必要がある。

国会は、6月21日の会期末まで1か月を切った。首相に対し、自民党の石原幹事長は会期中に衆院を通過させる覚悟を求め、「このまま何も決めないで会期末を迎えることがないよう、知恵を出し合おう」と呼び掛けた。

さらに「大幅延長となれば協力を惜しまない。足を引っ張るつもりは毛頭ない」とも強調した。

自民党が、条件付きながらも、「法案成立」への協力を口にし、会期延長にも前向きな意向を示し始めた。消費増税は自民党の公約でもある。今国会で決着をつけたいという姿勢は評価したい。

首相は、これに応える責務がある。民主党内に広がる法案の採決先送り論を退け、自らが掲げている「決断する政治」を実践しなければならない。

産経新聞 2012年05月20日

一体改革と首相 どっちつかずでは危うい

社会保障と税の一体改革法案は、週明けから衆院の特別委員会で政府と野党との本格的な論戦が始まる。

政府が提出した法案は、急速に進む少子高齢化にどう対応するかの道筋が明確でなく、現実と乖離(かいり)している問題点が少なくない。よりよい改革を実現するため、与野党が知恵を出し合い、修正を図ることが不可欠である。

自民党は一部の対案骨子はまとめたものの、基本的な考え方にとどまっている。早急に具体的な対案を提示すべきだ。

対案骨子で自民党は、社会保障に関して「自助、自立を第一」とし、「家族力の強化」の必要性を打ち出した。勤労世代が減っていく日本社会の実情を踏まえた妥当な内容といえる。

だが、現行制度のどこをどう改めるのか、具体的な姿は見えてこない。政府・民主党が年金制度改革案の柱にしようとしている最低保障年金の創設、後期高齢者医療制度の廃止といった非現実的な政策の撤回を求めているが、それだけでは十分でない。

年金、医療、介護など制度ごとに財政試算も含め、具体的な制度の姿をまとめて国民に説明しなければならない。消費税増税でも、引き上げ時期や低所得者対策を対案として示すべきだ。

修正協議の進展は、政府側がマニフェスト(政権公約)の撤回にどこまで応じるかにかかっている。だが、莫大(ばくだい)な費用を要する最低保障年金について、野田佳彦首相が「来年出す法案の話」と繰り返すのは問題のすり替えだ。

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