すでに崖っぷちである。
社会保障と税の一体改革の実質的な審議がきのう、衆院の特別委員会で始まった。
3月末の法案提出から2カ月近くが過ぎている。6月21日の会期末まで、あと1カ月ほどしかない。国民に負担を課し、社会保障制度と財政を立て直す重要法案なのに、ここまで押し詰まってようやく審議に入った。この国会運営は異常である。
国民を巻き込んだ議論を喚起できるのか。そして、この国会で採決にたどりつけるのか。
のろのろ国会の最大の責任者は野田首相である。一体改革に政治生命をかけると言いながら、ちっとも実行が伴わない。
法案の中身は改めて検証し、評価していくが、審議入りに際して、まずは首相に三つの提案をする。
第一は、問責決議を受けた2人の閣僚を更迭することだ。問責を理由に審議を拒む野党の戦術は非難に値するが、2閣僚に問題があるのは明らかだ。
そのうえ、法案の成立に自民党の賛成が不可欠なのは自明の理だ。輿石東幹事長ら民主党内の反発を恐れるかのように、2人を守っていても仕方ない。党執行部との関係が悪化しても、法案成立を優先させるべきだ。
第二に、なりふり構わず、謝ることである。
消費増税を決めるだけで、実施はまだ先だから、マニフェスト違反にはあたらない――。
こんな説明で、国民のわだかまりを解けると思っているとしたら甘すぎる。
自民党が憤るのも、民主党のこんな態度への反発が大きい。増税の必要はないといって政権を奪ったのを忘れたのかといった怨念が消えないのだ。
首相はもっとはっきりと、増税への方針転換を率直に謝罪すべきである。
最低保障年金のような政策も制度設計のずさんさを認めたうえで、いったんは撤回するしかない。
第三に、衆院解散も辞さない覚悟を示すことだ。
自民党の求めに応じる、というばかりではない。違憲状態の「一票の格差」を放置して、みずからの解散権を縛っているかのような現状では、民主党内への抑えすら利くまい。
私たちは、小選挙区の「0増5減」の先行実施を繰り返し求めてきた。選挙制度や定数の抜本改革は、有識者による審議会で時間をかけて議論するしかないと考えるからだ。
謝罪しつつ、解散する力を手にしておく。こうした条件を整えないと首相は前へ進めない。
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