ギリシャ再選挙へ ユーロ圏全体の試練だ

朝日新聞 2012年05月17日

ギリシャ危機 仏独が主導し新戦略を

混迷から抜け出すためには財政緊縮一辺倒の政策だけでは不十分だ。欧州連合(EU)はギリシャの人々が納得し、実行できる新しい提案を加え、6月の総選挙に向けたメッセージを発信する必要がある。

ギリシャは先の総選挙後、どの政党も組閣できなかった。再選挙をしても、安定につながる見込みは少ない。フランスのオランド新大統領は就任式の後、ドイツのメルケル首相と会談した。両首脳はギリシャのユーロ圏残留を望み、成長を促す措置を取ることで合意した。

不安が南欧諸国に広まれば債務危機の再燃は避けられない。ギリシャが旧通貨のドラクマに戻ってもユーロ時代の借金は残るし、国内は制御できないインフレに見舞われるだろう。半世紀にわたって進めた欧州統合の根幹が揺るぎかねない。

仏独両国は首脳会談での合意にそって、EUの新戦略を作り始めるべきだ。ギリシャ国民が結束できる道筋を示さなければ、結局は破局への道に進ませることになる。

ギリシャの有権者には、財政緊縮策への拒否感が強いことが先の総選挙ではっきりした。一方で、欧州諸国には、財政緊縮策を捨てるならば金融支援をやめるほかないとの声が強い。

ところがギリシャの多くの人は、ユーロ圏に居続けたいとも思っているという。厳しい状況のなかで、再選挙はEUやユーロに残るかどうかを問う、切ないものになるだろう。

対立を乗り越えるには、財政規律とともに、雇用を増やし、経済を活性化させる政策を作り出していくしかない。

ギリシャを震源とする経済危機が始まって2年余り。この間の財政緊縮の継続によって産業活動は縮小し、若者の失業率は5割を超える。これまでの政策の限界が見えつつある。

緊縮を主導してきたのは仏独両国だ。オランド大統領は自らの選挙で、EUの緊縮路線を変え、雇用増をもたらす成長戦略の必要を訴えて当選した。

財政の健全化を重くみてきたメルケル首相も、産業インフラ整備などを通じた景気刺激の必要を認め、今後、フランスの提案について協議する考えをオランド大統領に示した。

EU内にも見直し論議が浮かんでいる。政策金融機関である欧州投資銀行の増資や、EU構造基金の南欧諸国での活用といったアイデアだ。

歴代の仏独首脳は欧州統合のエンジン役を果たしてきた。仏独はEUの新戦略を主導する歴史的責任がある。

毎日新聞 2012年05月21日

G8サミット 原点回帰が問うもの

米国で開催された今年の主要8カ国首脳会議(G8サミット)は「原点回帰」が合言葉だった。ワシントン郊外の米大統領別荘で普段着姿の首脳が小さなテーブルを囲み、1泊2日の短い日程を終えた。史上まれな簡素なサミットだった。

主催国・米国は「ランブイエに戻ろう」と呼びかけていた。ショー化が進んだ近年のサミットとは一線を画し、1975年にフランスのランブイエで始まったサミットの精神に立ち戻ろうということだ。

豊かな先進民主主義国の首脳たちが、石油危機への対応を胸襟を開いて話し合うため集まったのがランブイエだった。派手な演出を避け、欧州債務危機など世界の経済を論じた今年のサミットは、確かに「原点回帰」の性格を帯びていた。

だが37年前に比べ、サミットを取り巻く国際環境は様変わりした。中国やインド、南アフリカを含む主要20カ国・地域(G20)が力を増し、G8だけでは世界経済の課題を解決できないことがわかってきた。G8の相対的な力は低下し、政治の統治能力衰退も各国で顕著だ。

その意味で「原点回帰」とは、それぞれ国内基盤の弱い首脳が、踏み込んだ政策合意ができない現実を覆い隠すためのスローガンにすぎないと皮肉ることもできよう。

読売新聞 2012年05月21日

G8首脳宣言 ギリシャのユーロ離脱に懸念

米国で開かれた日米など主要8か国(G8)首脳会議(サミット)は、首脳宣言を採択した。

G8宣言が、最大の焦点となった欧州債務危機の克服に向け、「強くまとまりのあるユーロ圏が重要」と指摘し、震源地のギリシャにユーロへの残留を促した意義は大きい。

政局が混迷するギリシャは、来月17日に再選挙を実施する。その結果によっては、経済再建に行き詰まり、ユーロからの離脱を余儀なくされる恐れがある。

そうなると、危機拡大でユーロが急落し、世界の市場の混乱に一段と拍車がかかりかねない。

宣言が、「世界経済は強い向かい風である」と危機感を示し、ギリシャと、独仏など欧州に自助努力を求めたのは当然だ。

ギリシャ国民が再選挙で、賢明な選択をするよう期待したい。

とはいえ、ギリシャでは、財政再建に向けた緊縮策への反発が根強い。仏大統領選でも、緊縮財政見直しを掲げたオランド氏が当選し、今回のG8に初参加した。

宣言が「成長と雇用の促進が必要不可欠だ」と明記し、経済成長と財政健全化を両立させる方針を打ち出したのは、これまでの緊縮策一辺倒への反省と言える。

各国が財政規律を守るだけでなく、景気回復を実現する成長戦略を重視することは大事だ。だが、そのバランスは難しい。

欧州の対応がまず焦点になる。緊縮策を重視するドイツと、軌道修正に動いたフランスが協調し、欧州再生の道筋を描くべきだ。

日本も対岸の火事ではない。消費税率引き上げ関連法案を早期に成立させ、財政再建と景気拡大をともに目指さねばならない。

世界経済の懸念材料である原油高騰に備え、宣言が、国際的な連携の姿勢を示したのも妥当だ。

一方、G8は北朝鮮問題について、核実験に踏み切れば国連安全保障理事会に「行動」を取るよう求めることで一致した。野田首相が「国際社会として北朝鮮の悪行に対価を与えない」と、強い姿勢で論議を主導した。

核実験の阻止には、北朝鮮に自制を促す中国の役割が欠かせない。G8は引き続き、中国に強力に働きかけるべきだ。

依然として緊迫するシリア情勢についてもG8が憂慮し、必要に応じ国連による措置を検討する、としたのは適切である。

混乱が続くアフガニスタンの自立も急務だ。7月に支援会議を開く日本は、国際的な体制作りに積極的な役割を果たすべきだ。

産経新聞 2012年05月21日

サミット閉幕 G8復権させ中国牽制を

主要国(G8)首脳会議(サミット)は欧州債務危機で「財政健全化と経済成長の両立」の追求とギリシャのユーロ残留を促し、北朝鮮の挑発的行動に警告する首脳宣言を採択して閉幕した。

ドイツを中心とする財政再建派と米、仏など経済成長派の足並みがそろわぬ中で、G8が危機再燃阻止へ明確なメッセージを示したことを評価したい。

G8には独、仏、伊、英の欧州主要国に欧州連合(EU)も顔をそろえる。首脳宣言の方向性がEU政策に反映され、危機打開につながれば、主要20カ国・地域(G20)首脳会議に押されて「形骸化」も指摘されていたG8が存在感を復活させる契機となる。

逆に実効性が伴わず、「健全化と成長の両立」を各国が都合よく解釈して迷走するようでは混乱に拍車がかかる。G8は復活どころか存在理由を問われよう。

宣言の内容をみて、市場にはギリシャなどが緊縮路線を放棄する恐れがあるとの警戒感が強い。あくまでも財政再建路線を維持した上での成長戦略であることを各国は忘れてはなるまい。

今回、議長国・米国は「基本への回帰」を唱えた。サミット創設時のように率直な意見交換の場として機能させたいとの狙いだ。

G20は参加国が多すぎ、実のある議論がほとんどできない現状を踏まえたものだ。今回、経済問題が予定より時間をかけて議論され合意に達したのをみると、一定の成功を収めたといえる。

G8はまた、中国が正式メンバーでない数少ない首脳会議であることも忘れるべきでない。

毎日新聞 2012年05月17日

ギリシャ再選挙へ ユーロ圏全体の試練だ

ついに世界が案じていた事態となった。6日に総選挙を実施したばかりのギリシャが、新政権樹立に失敗し、再び選挙を行う。欧州連合(EU)と約束した財政緊縮策の破棄を求める勢力が勝てば、EUによる追加支援の取り消し、ギリシャのユーロ離脱という、世界がさらに案じる事態に大きく近づきそうだ。

民主主義国家の国民が選挙で示した意思は当然、尊重されねばならない。先の総選挙では投票者の6割超が緊縮策に反対する政党を選んだ。

これまでの緊縮策により、多数の国民が困窮にあえいでいる現状を思えば、それも理解できる。生活苦や展望のなさから自ら命を絶つ人の数も増えているという厳しさなのだ。

しかし、ギリシャに突きつけられた選択肢を有権者が冷静に評価し、納得した上での意思表示だったかといえば、恐らく違う。世論調査によると、大半の国民が緊縮策を否定しながらユーロ圏残留も望んでいる。緊縮策拒否なら、EUなどからの支援が止まり、債務不履行、ユーロ離脱につながる、と国外の人たちが考えているのとは大きな開きがある。

6日の選挙で第2党に躍り出た急進左派連合など国民の不満の受け皿となった党は、緊縮策拒否がもたらす結末を正直に語っていない。

読売新聞 2012年05月17日

混迷ギリシャ 独仏は協調し危機封じ込めを

ギリシャで、総選挙後の連立交渉が失敗して再選挙が決まり、混迷が深まっている。

危機再燃を防ぐため、改めて欧州の結束が問われよう。

6月中旬に実施されるギリシャ再選挙では、急進左派連合など財政緊縮策に反対する勢力が大きく伸長する可能性がある。欧州連合(EU)などから支援を受ける前提となる歳出削減策の取りまとめが、頓挫しかねない事態だ。

欧米、日本など世界の株式市場の株価が全面安となり、ユーロが急落した。ギリシャのユーロ圏離脱が現実味を増したと市場が危機感を強めた影響と言える。

ギリシャ危機が、財政再建途上のスペインやイタリアなどに再び飛び火すれば、欧州経済は揺らぎ、危機が拡大する。

欧州を最大の市場とする中国など新興国の輸出も鈍化し、世界経済に大打撃を与えるだろう。

フランスのオランド新大統領が就任直後にベルリンへ飛び、メルケル独首相と会談した。独仏主導で危機対応に取り組む姿勢を改めてアピールし、市場の不安を打ち消す狙いがあったと見られる。

両首脳は、「ギリシャがユーロ圏にとどまることを望む」と強調した。焦点の成長戦略について、メルケル首相は、6月下旬のEU首脳会議までに独仏共同の具体案をまとめる方針を表明した。

独仏両首脳が、欧州は財政緊縮一本やりでなく、新たな成長戦略を必要としている、との認識で一致した意義は大きい。危機封じ込めに全力を挙げてもらいたい。

問題は、両首脳の考えに根本的な部分で隔たりがあることだ。

オランド大統領は、サルコジ前大統領が推進した財政規律強化のためのEU新条約について、成長に関する項目を盛り込むよう再交渉を主張してきた。国内では、6万人の教員採用など、財政出動を伴う公約を打ち出している。

メルケル首相は、財政規律を重視する立場だ。英国とチェコを除くEU25か国が署名済みの新条約を、再交渉することはできないという姿勢を崩していない。

財政規律を維持しつつ、成長戦略にどう目配りするのか。独仏は成長戦略の具体化や新条約の扱いを巡り合意形成を急ぐべきだ。

今週末、米国で開かれる主要8か国(G8)首脳会議は、欧州危機が主要議題となる。

野田首相は、欧州に、危機の早期収束を重ねて求めるべきだ。本格的な景気回復が遅れている日本としては、欧州の混乱に伴う超円高の定着を防がねばならない。

産経新聞 2012年05月17日

ギリシャ再選挙 ユーロ離脱の危機考えよ

ギリシャ総選挙後の連立交渉が決裂し、来月に再選挙が実施されることになった。

先の総選挙では、欧州連合(EU)の支援と引き換えに財政再建を進めてきた連立与党が敗北を喫した。世論調査によると、反緊縮財政を唱えて第二党に躍進した急進左派連合が、次の選挙でさらに票を伸ばしそうだ。

しかし、再選挙で問われるのは、もはやギリシャ一国の経済政策の是非ではない。「ユーロ圏に残るか否か」という究極の選択なのである。

急進左派連合中心の「反緊縮政権」が成立し、彼らの訴え通り、緊縮財政路線が放棄された場合、EUや国際通貨基金(IMF)などを通じた支援策の履行は困難になる。ユーロ離脱は一気に現実味を帯びてくる。ギリシャ国民にその危機感はあるのだろうか。

ユーロ離脱はギリシャ国内に混乱をもたらす。ユーロに代わる新通貨の暴落は避けられない。輸入物価が急騰し、インフレを招く恐れもある。離脱が濃厚になった段階で、すでに始まっている海外への資金流出は加速するだろう。

さらに、市場はスペインなど巨額の財政赤字を抱える国を次の離脱候補とみて攻勢をかけるはずだ。ユーロ全体の危機であり、世界経済は再び混乱に陥る。

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