沖縄県の尖閣諸島を巡り、膨張する軍事力と経済力を背景に中国の強硬姿勢が目立ってきた。
北京で行われた日中首脳会談で温家宝首相は、分離独立運動が続く新疆ウイグル自治区とともに尖閣諸島に言及し、「中国の核心的利益と重大な関心事項を尊重するということが大事だ」と強調した。
「核心的利益」とは中国が絶対に譲歩できない国家主権や領土保全などに用いる言葉だ。これまで台湾やチベット、ウイグルなどに使ってきたが、近年は南シナ海にも使用しているとされる。
中国政府は、この表現を尖閣諸島に公式に使った例はない。だが、今年1月、共産党機関紙「人民日報」が、初めて使用した。
温首相の今回の発言は、「核心的利益」と「重大な関心事項」をひとくくりにすることで、尖閣諸島が「核心的利益」とも読み取れるように意図したものだろう。
尖閣諸島に関し、東京都の石原慎太郎知事の買い取り構想や日本政府による無人島命名に、中国国内で反発が広がった。そのことが念頭にあるようだ。
海洋権益の拡大を図る中国政府が、従来以上に領有権を主張する方針を鮮明にしたと言える。
中国の監視船は毎月のように尖閣諸島周辺で示威行動に出ている。日本は離島と領海の監視体制を一段と強化する必要がある。
野田首相が温首相に、尖閣諸島が日本固有の領土であると主張し、「中国の活動の活発化が日本国民の感情を刺激している」と、自制を求めたのは当然である。
中国側の意向で、胡錦濤国家主席と野田首相との個別会談が見送られたのも問題だ。尖閣に加え、東京での国際会議に出席する亡命ウイグル人にビザを発給したことへの不満の表明とみられる。
国交正常化40周年を迎えた日中間に懸案は山積している。東シナ海のガス田開発に関する交渉は一昨年の尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件以来、日本の再三の要請にもかかわらず、開かれていない。
北朝鮮の核問題でも、中国の対応には疑問が残った。日中韓首脳会談に合わせ発表される予定だった共同宣言は、1日遅れの発表となり、肝心の北朝鮮については一切言及しなかった。
北朝鮮を刺激したくない中国が、核実験などの自制を促す内容を盛り込むことに反対する姿勢を崩さなかったのが原因だ。
これでは、中国に北朝鮮の核実験を阻止する意思があるのかと疑われても仕方あるまい。
この記事へのコメントはありません。