「核心的利益」発言 中国の意図は尖閣奪取だ

読売新聞 2012年05月16日

温首相尖閣発言 「核心的利益」は穏やかでない

沖縄県の尖閣諸島を巡り、膨張する軍事力と経済力を背景に中国の強硬姿勢が目立ってきた。

北京で行われた日中首脳会談で温家宝首相は、分離独立運動が続く新疆ウイグル自治区とともに尖閣諸島に言及し、「中国の核心的利益と重大な関心事項を尊重するということが大事だ」と強調した。

「核心的利益」とは中国が絶対に譲歩できない国家主権や領土保全などに用いる言葉だ。これまで台湾やチベット、ウイグルなどに使ってきたが、近年は南シナ海にも使用しているとされる。

中国政府は、この表現を尖閣諸島に公式に使った例はない。だが、今年1月、共産党機関紙「人民日報」が、初めて使用した。

温首相の今回の発言は、「核心的利益」と「重大な関心事項」をひとくくりにすることで、尖閣諸島が「核心的利益」とも読み取れるように意図したものだろう。

尖閣諸島に関し、東京都の石原慎太郎知事の買い取り構想や日本政府による無人島命名に、中国国内で反発が広がった。そのことが念頭にあるようだ。

海洋権益の拡大を図る中国政府が、従来以上に領有権を主張する方針を鮮明にしたと言える。

中国の監視船は毎月のように尖閣諸島周辺で示威行動に出ている。日本は離島と領海の監視体制を一段と強化する必要がある。

野田首相が温首相に、尖閣諸島が日本固有の領土であると主張し、「中国の活動の活発化が日本国民の感情を刺激している」と、自制を求めたのは当然である。

中国側の意向で、胡錦濤国家主席と野田首相との個別会談が見送られたのも問題だ。尖閣に加え、東京での国際会議に出席する亡命ウイグル人にビザを発給したことへの不満の表明とみられる。

国交正常化40周年を迎えた日中間に懸案は山積している。東シナ海のガス田開発に関する交渉は一昨年の尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件以来、日本の再三の要請にもかかわらず、開かれていない。

北朝鮮の核問題でも、中国の対応には疑問が残った。日中韓首脳会談に合わせ発表される予定だった共同宣言は、1日遅れの発表となり、肝心の北朝鮮については一切言及しなかった。

北朝鮮を刺激したくない中国が、核実験などの自制を促す内容を盛り込むことに反対する姿勢を崩さなかったのが原因だ。

これでは、中国に北朝鮮の核実験を阻止する意思があるのかと疑われても仕方あるまい。

産経新聞 2012年05月15日

「核心的利益」発言 中国の意図は尖閣奪取だ

北京での日中韓首脳会議(サミット)に合わせて設定された野田佳彦首相と中国の温家宝首相との個別会談で沖縄・尖閣諸島をめぐって応酬があり、温首相が「(中国の)核心的利益と重大な関心事を尊重することが大事だ」と発言した。

「核心的利益」とは、中国にとって安全保障上譲ることができない国家利益をさす。尖閣問題と関連付けながら、中国首脳が、これを口にしたことは初めてであり、きわめて重大である。

≪野田首相の反論は当然≫

温首相は「釣魚島(尖閣諸島の中国名)は中国領土だ」と改めて強調している。中国公船による尖閣周辺の領海侵犯が常態化している状況下、温首相の発言は海洋権益の拡大を狙う中国が尖閣奪取の意図を明確にしたと受け止められる。尖閣問題が新たな局面に入ったとの危機認識が必要だ。

温首相の発言に対し、野田首相が「尖閣諸島が日本固有の領土であることは歴史的にも国際法上も明らか」と反論し、さらに、「中国の海洋活動の活発化が日本国民の感情を刺激している」と指摘したのは当然だ。首脳レベルでは尖閣問題にふれないようにしてきたこれまでの民主党政権の方針を転換したことは意味がある。

ただ、両首相は「日中関係の大局に影響を与えることは好ましくないとの認識で一致した」という。問題を棚上げにしても解決にはつながらない。

今回の「核心的利益」発言の背景には、中国側の思惑が見え隠れしている。

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