日中韓首脳会談 3カ国の連携に利あり

朝日新聞 2012年05月14日

日中韓FTA TPPがカギを握る

日中韓3カ国の首脳が会談し、自由貿易協定(FTA)交渉を年内に始めると発表した。

交渉参加に向けて米国などと事前協議中の環太平洋経済連携協定(TPP)、交渉への準備段階にある欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)などとあわせ、主な経済連携のメニューが出そろった。

低迷する日本経済の活性化には、貿易・投資の自由化で世界の成長をいかすことが欠かせない。まずTPPで思い切った姿勢を示し、日中韓など他の交渉を後押しする。そんな相乗効果を狙った戦略が重要だ。

日本経済にとって中韓両国の重要性は言うまでもない。輸出額では中国向けが米国向けを抜いてトップとなり、韓国向けも米、EUに続く4位だ。対中輸出の7割、対韓国の6割で関税が残るだけに、自由化が進めば恩恵は大きい。

ただ、韓国は構造的な対日赤字を抱え、交渉には消極的だ。中国も自国の権益へのこだわりは強い。今回結んだ日中韓投資協定では、投資後の資産保護の強化には応じたが、投資段階の自由化は拒んだ。

こうした中で何とか交渉の開始に道筋をつけられたのは、TPPの影響が大きい。日本が事前協議の開始を発表すると、中国が日韓とのFTAに積極的になった。米国中心のTPPに対抗し、日本を引き込みたいとの思惑があるようだ。

複数の経済連携交渉を同時に進めれば、こんな牽制(けんせい)が効く。

中韓はひと足早く、2国間でFTA交渉を始める。EU、米国とのFTAが発効した韓国は残る巨大市場である中国とのFTAに前向きだ。

このままでは、日本は再び韓国に後れをとりかねない。3カ国での交渉を早く始めるには、中国を動かすことだ。そのカギとなるのがTPPである。

TPPは対象分野が幅広く、目指す自由化の度合いが大きい半面、農業をはじめ国内の業界からの反対も強い。一方、日中韓のFTA交渉については「お互いの事情に配慮しあえる」と受け入れる声が多い。

日本が東南アジア諸国連合(ASEAN)など12カ国1地域と結んできたEPAでは、コメなど一部農産物の高関税を維持したため、強い反対はなかった。だが、結果的に相手国の自由化も限られ、日本にとってのメリットは小さいままだ。

自ら門戸を開き、相手国から譲歩を引き出す。影響を受ける業界には必要な対策を講じる。

その原則を貫いてこそ、経済連携は実のあるものになる。

毎日新聞 2012年05月14日

日中韓首脳会談 3カ国の連携に利あり

たとえ回り道であっても、首脳同士が何度も会って意見交換を重ねていくことが、将来の東アジアの安定につながる。日本、中国、韓国の首脳は、そうした強い確信を持って関係を深化させてほしい。

北京で開かれた日中韓3カ国の首脳会談は、自由貿易協定(FTA)の年内交渉開始や、北朝鮮の挑発行為に連携して対応することなどを確認した。何が合意でき、何が合意できなかったかも大事だが、日中韓のこの枠組みは、地域の中長期的な平和を支える基軸として、大きな役割を果たすことができるはずだ。その協調の芽を大きくしていく努力こそが、何より求められる。

地理的・歴史的・文化的にこれほど近い間柄でありながら、日中韓首脳会談の開催は、今年でまだ5回目にすぎない。08年の日本から始まって、1年交代で各国が議長を務めている。昨年からは韓国に事務局を置くなど、東アジアにおける国際機関としての体制づくりがやっと軌道に乗ったばかりだ。過去の歴史や各国間のさまざまな摩擦などもあり、日中韓の協調や連携は口で言うほどたやすいものではない。今回の首脳会談でも、思惑の微妙な違いが顔をのぞかせる場面があった。

読売新聞 2012年05月14日

日中韓首脳会談 FTAと「北」で具体的成果を

日中韓3か国の幅広い協力を、自由貿易圏の形成や北朝鮮の核開発など重要課題における具体的な成果につなげたい。

野田首相が北京で中国の温家宝首相、韓国の李明博大統領と会談し、日中韓の自由貿易協定(FTA)交渉を年内に開始することで合意した。

3か国は、FTAの前提となる、知的財産権の保護などを定めた日中韓の投資協定に署名した。

韓国が当初、中韓2国間のFTAを優先する姿勢を見せ、3か国の交渉入りが危ぶまれていただけに、今回の合意を歓迎したい。

世界の国内総生産(GDP)の約2割を占める日中韓が自由貿易圏を作る意義は大きい。急速に経済を拡大させている中韓両国との貿易を活発化することは、日本の成長戦略にも欠かせない。

中国が日韓とのFTAに前向きになった背景には、米豪など9か国が交渉中の環太平洋経済連携協定(TPP)への参加に日本が本格的に動き始めたことがある。

だが、日本は国内調整の遅れから、TPP交渉参加を表明できないでいる。参加が遅れるほど、日本は国際貿易のルール作りに関与する余地が狭まってしまう。

米国主導のTPP交渉に早期に参加するとともに、国内農業の改革と競争力強化に積極的に取り組む必要がある。それが日中韓FTAにも良い影響を与えよう。

首脳会談では、北朝鮮の核問題について日中韓の連携を強化することで一致した。野田首相は「核実験を含む、さらなる挑発行為を防ぐことが重要だ」と語った。

肝心なのは、北朝鮮に厳しい日米韓などと、融和的な中国との足並みをそろえることだ。

先月中旬に弾道ミサイルを発射した北朝鮮に対し、国連安全保障理事会は今月2日、北朝鮮の貿易会社など3団体を資産凍結の対象に加える制裁を決定した。

日米韓などは約40団体の追加を提案したが、中国の反対で3団体にとどまった。国際社会の発射中止要求を無視した北朝鮮への懲罰として、十分とは言えない。

北朝鮮の核実験の阻止には、李大統領が「より効果的な方策を講じる時点に来ている」と指摘したように、北朝鮮に自制を促す圧力を強めることが重要だ。

食糧やエネルギー支援を通じて北朝鮮への一定の影響力を持つ中国の責任と役割は大きい。

とにかく北朝鮮を刺激しない、という従来の姿勢を中国が転換することが、日中韓協力をより実の伴うものに高めよう。

産経新聞 2012年05月14日

日中韓FTA TPPこそ待ったなしだ

日本、中国、韓国の3カ国が自由貿易協定(FTA)締結交渉の年内開始で合意した。

日本の輸出全体の中で中韓2カ国向けは3割に迫る。関税や、通商の障壁となっている規制の撤廃をめざすFTAの締結のメリットは大きい。国内総生産(GDP)を0・3%程度押し上げるとの試算もある。

それでも、今回の合意を手放しでは歓迎できない。野田佳彦首相が、米国主導で進む環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への交渉参加をいまだに決められずにいるからだ。

将来性の高いアジア太平洋地域の成長力を取り込むことは、人口減による内需縮小や主要輸出先である米欧の景気低迷を考えると、日本にとって不可避の課題だ。

その一方で、アジア太平洋地域の経済秩序構築をめぐる米国と中国の主導権争いは激しくなっている。中国はTPPの動きが活発化したのを見て、日中韓FTAに前向きになった。米国内には日中韓FTAを「米国外し」と懸念する声も多い。いずれも米中両国のせめぎ合いが背景にある。

さらに、中国が主導する自由貿易構想は、自らの国内事情が優先され、多くの例外規定を残した中途半端なものになりかねない。世界貿易機関(WTO)加盟後も中国は、知的財産権をはじめ自国に不利な改革には動きが鈍い。中国が、どこまでFTAの名にふさわしい痛みを伴った国内改革を実行するかは不透明だ。

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