「政治生命を懸けるといった言葉に掛け値はない」――。野田首相がこう明言する社会保障と税の一体改革関連法案の審議が始まった。
与野党は大胆に歩み寄り、早期の成立を目指すべきだ。
衆院本会議の質疑で自民党の大島理森副総裁は「衆参ねじれ」による政治の停滞に関連し、「政党間協議のルールを確立し、新たな政策決定プロセスを構築することこそが求められる」と述べた。
大島氏は、民主党の対応によっては与野党協議に応じても良い、との意向も明らかにした。
一体改革に向けて、話し合いの機運がようやく出てきたことは評価できよう。
ねじれ国会で、政府が法案を成立させるには自民党など野党の協力が不可欠だ。野田首相は指導力を発揮し、野党の協力を得るための環境を整える必要がある。
自民党は、最低保障年金を柱とする新年金制度案と、後期高齢者医療制度の廃止方針の撤回を求めた。ともに民主党の政権公約(マニフェスト)の看板政策だ。
首相は党内の検討に委ねる考えを示したが、与野党協議の実現に向けて撤回するしかあるまい。
首相は逆に、自民党に「建設的な対案」の提示を求めた。
自民党の社会保障の対案は、政府案と大きく違うことはないだろう。政府が提出している厚生、共済両年金の一元化法案は、自公政権が2007年に提出した法案とほとんど同じ内容である。
自民党が対案を出せば、与野党の合意形成にそう時間はかからないのではないか。
自民党は、消費税率引き上げでも対案をまとめるべきだ。低所得者対策が一つの焦点となる。
低所得者への現金給付を軸とする政府案は、給付額が膨らむ恐れがある。新たなバラマキとなれば増税の効果は損なわれよう。
付加価値税の歴史が長い欧州では、食料品など生活必需品や、新聞・書籍などに対する軽減税率が定着している。
自民党が軽減税率を検討しているのは、欧州を参考に現実的な案と判断しているからだろう。政府も前向きに考えてはどうか。
今後、一体改革法案の審議を進める上で懸念材料もある。自民党は、参院で問責された前田国土交通相と田中防衛相を辞めさせることを特別委員会での審議に応じる条件としている。
だが、両氏とも社会保障・税とは無関係だ。辞任要求と、法案の審議は切り離すべきである。
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