一体改革法案 与野党協議へ「建設的対案」を

朝日新聞 2012年05月12日

一体改革審議 いったい何が違うのか

社会保障と税の一体改革に関する7法案の趣旨説明と質疑が、きのうまでの衆院本会議で一巡した。

その国会論戦を見て、しっかり確認できた。野田政権の法案と自民党の主張に根本的な違いなどない。政権はすでに、自民党の考え方をほぼ丸のみしているといっていい。

たとえば、自民党の鴨下一郎氏は、年金改革案について「いろいろ考えた末に、我々の主張と同じになったということじゃないか」とただした。

会社員が入る厚生年金と、公務員らの共済年金を一元化する法案は、自公政権が07年に提出した法案にそっくりなのだ。

子育てもそうだ。

幼稚園と保育所を一体化する「総合こども園」について、自民党の馳浩氏は、自公政権時代の検討会報告書をなぞる内容だと指摘した。すると、野田首相は子育て支援策全体が「自公政権以来の議論を尊重」したものだと認めた。

少子化や高齢化が進む。働き方も変わっている。そんな時代にふさわしい社会保障制度を築く狙いは各党に共通する。おまけに自公政権で制度設計をした与謝野馨氏を、民主党も起用したのだから似るのは当然だ。

振り返れば、民主党は政権交代前、大見えを切っていた。自公政権の政策に対し、民主党ならもっと大胆に踏み出せるぞ、と責め立てた。子ども第一で予算配分を見直すことや、最低保障年金を設ける新年金制度を主張したのが典型例だ。

だが結局、野田政権の一体改革の法案は、自公政権の考え方ときわめて近くなった。

「ならばなぜ、以前の自公案に反対したのか」と自民党などが腹を立てるのはもっともだ。野田首相は率直にわびるべきだ。来年の法案提出をめざす新年金制度は諦め、一体改革の実現に集中したほうがいい。

一方で、自民党は消費増税の方針だけでなく、違いを強調したい社会保障の分野でも、政権との近さが鮮明だ。速やかに社会保障の対案を出し、合意に向けた協議に入るべきだ。

自民党はいま、民主党の「子どもは社会で育てる」という方針に対し、「子どもは家庭で育てる」と反論している。

だが、家庭の子育てを社会全体で支える考えに違いはないはずだ。自民党も05年の衆院選公約で「子どもは社会で育てる」と書いていたではないか。

今後の衆院委員会の審議で、政府・民主党と自民党が、お互いに大人の対応をすれば、合意できる点は多いに違いない。

読売新聞 2012年05月09日

一体改革法案 与野党協議へ「建設的対案」を

「政治生命を懸けるといった言葉に掛け値はない」――。野田首相がこう明言する社会保障と税の一体改革関連法案の審議が始まった。

与野党は大胆に歩み寄り、早期の成立を目指すべきだ。

衆院本会議の質疑で自民党の大島理森副総裁は「衆参ねじれ」による政治の停滞に関連し、「政党間協議のルールを確立し、新たな政策決定プロセスを構築することこそが求められる」と述べた。

大島氏は、民主党の対応によっては与野党協議に応じても良い、との意向も明らかにした。

一体改革に向けて、話し合いの機運がようやく出てきたことは評価できよう。

ねじれ国会で、政府が法案を成立させるには自民党など野党の協力が不可欠だ。野田首相は指導力を発揮し、野党の協力を得るための環境を整える必要がある。

自民党は、最低保障年金を柱とする新年金制度案と、後期高齢者医療制度の廃止方針の撤回を求めた。ともに民主党の政権公約(マニフェスト)の看板政策だ。

首相は党内の検討に委ねる考えを示したが、与野党協議の実現に向けて撤回するしかあるまい。

首相は逆に、自民党に「建設的な対案」の提示を求めた。

自民党の社会保障の対案は、政府案と大きく違うことはないだろう。政府が提出している厚生、共済両年金の一元化法案は、自公政権が2007年に提出した法案とほとんど同じ内容である。

自民党が対案を出せば、与野党の合意形成にそう時間はかからないのではないか。

自民党は、消費税率引き上げでも対案をまとめるべきだ。低所得者対策が一つの焦点となる。

低所得者への現金給付を軸とする政府案は、給付額が膨らむ恐れがある。新たなバラマキとなれば増税の効果は損なわれよう。

付加価値税の歴史が長い欧州では、食料品など生活必需品や、新聞・書籍などに対する軽減税率が定着している。

自民党が軽減税率を検討しているのは、欧州を参考に現実的な案と判断しているからだろう。政府も前向きに考えてはどうか。

今後、一体改革法案の審議を進める上で懸念材料もある。自民党は、参院で問責された前田国土交通相と田中防衛相を辞めさせることを特別委員会での審議に応じる条件としている。

だが、両氏とも社会保障・税とは無関係だ。辞任要求と、法案の審議は切り離すべきである。

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