東電値上げ申請 丁寧な説明で理解を求めよ

朝日新聞 2012年05月12日

東電値上げ 脱原発につなげてこそ

東京電力が、家庭などの電気料金値上げを経済産業省に申請した。

簡単には納得できない。だが今後、脱原発を進めるうえで、必要なコストは負担していかざるをえないのも事実だ。

値上げ申請は、原発停止で火力発電の比率が8割を超え、燃料費負担をリストラだけではまかなえないことによる。

算定の元になる原価から寄付金や宣伝費を除外するなど、これまで指摘されてきた問題点は改善した。人件費や減価償却費も見直している。

実質国有化が決まった直後というタイミングでの申請には、「革袋が変わったので」という思惑がありそうだ。

しかし、企業向け料金の値上げをめぐる対応のひどさは記憶に新しく、消費者の東電不信は根強い。

家庭向けは東電の独占で、値上げが嫌だからといって消費者はほかの電力会社を選ぶことができない。東電が電力販売量で4割しかない家庭向けで利益の9割を上げていることに納得できない消費者も多いだろう。

そもそも値上げを急ぐのは、東電を温存して収益力を回復させ、賠償資金を政府に返済させるいまの枠組みのせいだ。

原価の算定には、新潟県・柏崎刈羽原発の再稼働が織り込まれる半面、脱原発政策の具体的な姿は不透明なまま。そんななかで値上げを先行させることには、相当の無理がある。

一方、原発を減らしていく過程では当面、火力の増強が不可欠になる。

原発には電気料金以外に多額の税金もつぎこまれており、決して安い電源ではない。ただ、いったん建設した原発を途中で閉め、別の電源に代えるとなれば、どうしても追加負担が生じる。燃料費はその典型だ。

エネルギー政策の変更に伴って生じるコストを、誰がどう負担するか。それは、原発をどのように減らしていくかという問題そのものだ。「値上げ反対」というだけでは、脱原発も電力改革も進まない恐れがある。

必要なのは、電力会社と国の徹底した情報公開だ。

家庭向け料金は、政府の審査を経る。東電はさまざまな疑問やデータの要求に、誠実に応えていく義務がある。枝野経済産業相は、専門委員会の設置や公聴会の充実を掲げた。厳しく審議してほしい。

同時に、野田政権は脱原発に向けて、原発関連の予算を全面的に見直したうえで、どんなコストがかかるのか、全体像を早く示さなければならない。

読売新聞 2012年05月12日

東電値上げ申請 丁寧な説明で理解を求めよ

東京電力が安定供給を果たすには、一定の値上げはやむを得まい。

ただし、必要性や根拠を丁寧に説明し、理解を求める責任がある。

東京電力が11日、家庭や個人商店など小口契約の電気料金について、平均10%の値上げを経済産業省に申請した。

使用量が少ないほど値上げ額を小幅とし、標準家庭で7%、月480円の負担増という内容だ。

値上げは3年間の期間限定で、東電の再生を目指す総合特別事業計画の前提となっている。

東電は福島第一原子力発電所事故の影響で原発を再稼働できず、経費を削っても火力発電所の追加燃料費などで年7000億円の収支不足に陥る。今後、損害賠償や廃炉のコストも膨らんでくる。

値上げで増収を図り、赤字を穴埋めするのが狙いだ。

しかし、デフレで収入の増えない家計にとって痛手となる。東電は、利用者の声に誠実に対応しなければならない。

東電が経営合理化を進め、値上げの幅と期間をできるだけ圧縮するよう努めるのは当然だ。

新潟県の柏崎刈羽原発を1基再稼働すると、東電の収支は約800億円改善する。値上げを3年で終えるには、7基ある原子炉を来年度から順次、再稼働する必要がある。現状では実現への道筋は描けていない。

東電は7月から値上げしたい考えだが、新たに有識者委員会による査定が追加された。枝野経済産業相が認可するタイミングは、遅れる可能性が強まっている。

枝野氏は「予断を持たず、厳格に査定していく」としている。申請内容をチェックし、妥当な値上げ幅を精査することは重要だが、いたずらに手続きを煩雑にするのは避けるべきだ。

枝野氏が自ら、値上げ案を明記した事業計画を認定したことを、忘れてはならない。

4月からの企業向け料金値上げは、東電の説明不足が原因で対象企業の3割が値上げに応じていない。協力した企業が損をするような状況では、一般家庭も値上げに納得がいかないだろう。東電は問題解決を急がねばならない。

値上げで利用者が負担するお金は、液化天然ガス(LNG)など火力燃料の輸入に充てられ、国外流出する。震災後、日本の貿易収支は過去最大の赤字に転落した。経済力の低下は食い止めたい。

火力への依存を減らすことが急務だ。政府は原発再稼働への取り組みを加速させるべきである。

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