プーチン大統領 「東京宣言」から逃げるな

朝日新聞 2012年05月11日

プーチン氏 開かれた国の実現を

ロシアは世界でも最大級の石油と天然ガスを生産する。米国と並ぶ核兵器大国で、国連安保理の常任理事国でもある。

欧州から太平洋にまで連なる広大な領土の周辺には、多くの紛争地がある。本来なら、世界の経済や安全保障の問題で大きな役割を果たせる存在だ。

なのに、そうなっていない。

そのロシアで12年にわたって実権を握ってきたプーチン氏が、大統領に復帰した。

だが、氏の政治手法は明らかに限界を迎えている。ロシアを発展させるには、就任式で述べたように「開かれ、世界で信頼される国」をめざすほかない。

ソ連崩壊後の10年間、この国は経済と社会の混乱の対応に追われた。21世紀に入り、石油と天然ガスの高値で経済が急成長したものの、資源に大きく依存するもろさを抱えた。

社会の混乱は、野党、メディアを統制する強権で収めた。半面、健全な市民社会はできず、経済成長で生まれた中間層の不満が政治をゆさぶる。

プーチン氏も理解しているようだ。就任式で「民主主義、権利と自由の強化」「国家統治への市民参加拡大」をとなえた。

しかし、これらを常に優先課題に掲げながら、実現できずにきた。言葉にとどまる限り、これから6年間の統治は、きびしいものになる。

対外政策も、これまでのように国益ばかりをいいたて、米欧への対抗を続けるだけなら、影響力を失うばかりだ。

北朝鮮やイランの核開発をはじめ、国際社会には深刻な問題がある。その解決で建設的に動き、協力関係を築かなくてはならない。それでこそ、外国からの技術や資本の導入が進み、産業の競争力も高められる。

同じことは、最優先課題の一つに置くアジア・太平洋の重視にもあてはまる。9月には極東のウラジオストクで、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開かれる。

先にプーチン氏は、北方領土問題の解決に意欲を示した。これを実現しないと、極東・シベリア開発に日本の進んだ技術と資本を生かす完全な協力関係をつくることは難しい。

日本も、北東アジアに安全保障やエネルギーで大きな構想を掲げ、積極的に取り組んでゆくべきだ。ロシアから日本へ天然ガス・パイプラインを引く構想が浮かんでいる。さらに両国から韓国、中国を結ぶ送電網の整備も考えてもよい。

この協調は、脱原発と代替エネルギーの確保という日本の重要な問題の解決にも資する。

毎日新聞 2012年05月11日

プーチン新体制 関係深めて突破口探れ

ロシアでプーチン前首相が4年ぶりに大統領に復帰し、メドベージェフ前大統領はその下で内政を取り仕切る首相に就任した。2人が役どころをかえた形だが、これまで憲法上は「ナンバー2」だったプーチン氏が名実ともに国家指導者の座に返り咲き、ロシアの一層の国力強化に向けて強い主導権を発揮していくことになるだろう。

だが、00~08年に続く「第2次プーチン政権」の船出は波乱含みだ。大統領就任式を前に6日、プーチン氏の復帰に反対するモスクワの抗議デモに2万人以上が集まり、一部が警官隊と衝突して400人以上が拘束された。新体制の船出としては異例の事態といえる。

昨年12月の下院選後、今年3月の大統領選をはさんで続いてきた政権への大規模な抗議行動は、これまで大きな混乱はなかった。今回はデモ隊の一部が既定のコースを外れ、当局が力で抑え込みにかかった。国民の不満をくみ上げる政治システムに欠ける強権的な政権の体質が変わらなければ、こうした混乱が今後も頻発するのは確実だ。プーチン氏は、就任あいさつで約束した「ロシアの民主主義の強化」に真剣に取り組むつもりなのか。国際社会に懸念があることを自覚してもらいたい。

読売新聞 2012年05月10日

プーチン大統領 見定めたいアジア重視戦略

ロシアでプーチン氏が4年ぶりに大統領に復帰した。多くの難題を抱えた新体制発足である。

就任式で、プーチン氏は、「我々は国を強くし、偉大な国民の誇りを取り戻した」と述べ、今後も強いロシアを追求する姿勢を示した。

具体的な目標として、世界5位以内の経済大国入りを掲げていることが注目される。

それには、何よりも、資源依存体質を変え、国際競争力を持つ製造業など国内産業を育成しなければならない。先端技術の導入は不可欠である。

公正な市場の形成に取り組み、外国の投資を呼び込むための環境を整備しなければ、国内外から信頼は得られない。

ロシア社会にはびこる汚職を一掃し、法治を確立することが急務だ。プーチン氏が2000年に初めて大統領になった時以来の宿題だが、依然改善できずにいる。

就任式前日、多くの市民が参加して反プーチン集会が開かれたのは、不満の大きさの表れだ。

変革を求める中間層からも支持を得られるように、政治・行政の大胆な見直しを進めてこそ、経済発展も可能となろう。

プーチン氏は、就任後最初の大統領令で、アジア太平洋との連携を強化する方針を示した。

中国、インドなどとの関係を深める一方、日本、韓国、オーストラリアなどとも互恵協力関係の構築を図りたいとしている。

経済大国化を目指す以上、世界の成長拠点であるアジア太平洋に着目したのは当然だ。

9月にウラジオストクで開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議を、連携強化の足掛かりにする狙いがあろう。

日本にとって、火力発電所の主力燃料となる液化天然ガス(LNG)をロシアから輸入することは、重要性を増している。エネルギー分野で経済協力を拡大することは日露両国に有益だろう。

しかし、北方領土問題を忘れてはならない。メドベージェフ前大統領のもとで、日露関係は険悪化した。ロシア側は、日露両国による北方4島での共同経済活動には期待感を示すものの、領土交渉を動かす考えはなかった。

大統領として3期目に入ったプーチン氏は、内政で足元が揺れているだけに、対外的には強い姿勢を崩すまい。交渉進展に大きな期待を抱くのは禁物である。

日本政府は、プーチン氏の外交方針を十分見極めて、対露戦略を再構築しなければならない。

産経新聞 2012年05月09日

プーチン大統領 「東京宣言」から逃げるな

4年ぶりにロシア大統領(任期6年)に返り咲いたプーチン氏は就任当日の大統領令で、日本や韓国、オーストラリアなどの国名を挙げ、アジア太平洋諸国と「互恵的協力の発展」を目指すと強調した。

だが、ロシアとの間で北方領土問題を抱える日本は、これを額面通りには受け取れない。

プーチン氏は就任演説で、「民主主義や、憲法に基づく権利と自由の強化」も目標に掲げた。

国内では昨年末の下院選を機に体制への不満が噴き出し、就任式直前にもモスクワで抗議行動が吹き荒れた。プーチン氏にとり、この任期は、強権統治を改める最後の機会となる。

こうした国内支持の弱体化は、半面、国民の反発を買う領土問題での譲歩の余地を狭めかねない。日本政府は北方4島返還に向け、プーチン体制の内実を直視した戦略を練り上げるべきだ。

プーチン氏は前回大統領時の2001年、時の森喜朗首相と「イルクーツク声明」を発表した。声明は平和条約締結後に4島のうち歯舞、色丹両島を日本側に引き渡すと記した「日ソ共同宣言」(1956年)を、交渉の「基本的な法的文書」と位置づけている。

就任前の会見で、プーチン氏は2島返還で幕引きを図る意向に変わりがないことを示唆した。しかし、前記声明には「法と正義の原則」を基礎に4島の帰属問題解決を目指すとした「東京宣言」(93年)に基づく交渉も明記されていることを忘れてはならない。

プーチン氏は、この声明に自ら謳(うた)った通り、4島の帰属問題に関する協議を誠実に行うべきだ。

プーチン大統領就任を目前にした5日、玄葉光一郎外相が外遊先で、歯舞、色丹両島の返還時期などを先行して協議する「2島先行協議案」に含みを持たせる発言をしたとの報道も一部で流れた。

藤村修官房長官は報道を打ち消したが、4島返還という日本の原則の足並みを乱すような発言は、厳に慎んでもらいたい。

18、19両日に米国で開かれる主要国(G8)首脳会議の際には日露首脳会談が予定され、政府は事前に、プーチン氏と関係が深い森元首相をロシアに派遣することも検討している。

「4島返還」に揺るぎがないことを、復帰早々のプーチン氏に伝える好機だろう。

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