◆対中国・北朝鮮で緊密な連携を
民主党政権の下で混乱・停滞していた日米関係が、ようやく改善の軌道に乗ったと言えよう。
野田首相がワシントンでオバマ米大統領と会談し、日米共同声明「未来に向けた共通のビジョン」を発表した。
日米両首脳による共同文書は、2006年6月に小泉首相とブッシュ大統領が「世界の中の日米同盟」を打ち出して以来だ。
09年の政権交代後、鳩山元首相が米軍普天間飛行場の移設問題を迷走させ、日米関係を危機的状況に陥れた。菅前首相の時期も足踏みが続いた。両氏の罪は深い。
◆6年ぶりの共同文書
その逆境の下で野田首相が日米同盟の再建に地道に取り組み、成果を上げたことを評価したい。
声明は、日米同盟を「アジア太平洋地域における平和、安全保障、安定の礎」と位置づけた。日米両国が「アジアと世界の平和、繁栄、安全保障」に向けて「あらゆる能力を駆使」し、その「役割と責任を果たす」と宣言している。
日米共通の中長期的な政策目標を掲げ、国際社会に発信したものと受け止められる。
日本は、日米同盟を基軸としつつ、中韓などアジア各国との関係を強化するのが基本方針だ。オバマ政権も、軍事、経済両面で「アジア重視」を鮮明にしている。日米の足並みはそろっている。
今後は、合意内容を具体化するため、日米両国が、あらゆるレベルで緊密に連携し、戦略的な行動を起こすことが肝心である。
首相が日米同盟を「美しい花を咲かせるには日々の土作りや水やりが欠かせない」とガーデニングに例えたように、同盟関係の維持には、具体的行動を通じた双方の不断の努力が求められる。
◆防衛協力強化が急務だ
声明は、東アジア首脳会議(EAS)やアジア太平洋経済協力会議(APEC)を通じた国際的なルール作りの重要性を強調したうえ、「地域の全てのパートナー」に積極的な貢献を促した。
名指しを避けながらも、軍事、経済両面で台頭する中国を最も念頭に置いているのは明らかだ。
北朝鮮の核・ミサイル、拉致問題への対応だけでなく、海洋・宇宙・サイバーの安全保障、自由貿易などの分野で国際ルールを順守し、建設的な役割を果たす方向に中国を誘導することが肝要だ。
そのためには、日米両国が協調しつつ、中国に粘り強く働きかけねばならない。日米中の戦略対話構想の実現も目指したい。
会談では、北朝鮮の更なる挑発行為を防ぐ重要性を確認した。
北朝鮮の核実験を阻止するには国際社会が結束し、強いメッセージを発することが大切だ。日米韓は、中露両国に融和的な姿勢を改めるよう求める必要がある。
米軍再編見直しでは、在沖縄海兵隊の海外移転の日米合意を着実に実施することで一致した。
自衛隊と米軍の協力を強化するとともに、沖縄の米軍施設の早期返還を具体化せねばならない。米軍基地負担を軽減する中で、沖縄との信頼関係を再構築し、普天間問題の打開につなげたい。
環太平洋経済連携協定(TPP)について野田首相は、日本の正式な参加表明を見送り、参加の前提となる日米協議の継続を確認するにとどまった。オバマ大統領は、自動車、保険、牛肉の3分野における日本の市場開放への関心を表明した。
今回は、昨年11月の「交渉参加に向けて関係国と協議する」という段階から、一歩踏み込むことが本来は期待されていた。だが、TPP参加反対派を抱える民主党内の調整が進まなかった。
野田政権が消費税率引き上げ法案の成立を優先し、TPPに手が回らなかったという事情は理解できる。だが、既に交渉中の9か国がいつまでも日本の参加を待ってくれるわけではない。
◆TPP参加を決断せよ
TPP交渉は今秋にも合意する可能性がある。TPPのルール作りに自らの主張を反映させ、有利な内容とするため、日本は早期に交渉参加を決断すべきだ。
エネルギー分野では、原子力発電の安全に関する日米協力を拡充することで一致した。
原油価格が高騰する中、代替エネルギーの開発を加速するとともに、東京電力福島第一原発の事故の教訓を踏まえて、原発の安全性を向上させることは、日米共通の利益である。
特に日本は、原発の輸出を成長戦略の柱に位置づけている。12月には福島県で原子力安全の国際会議を開催する予定だ。日米協力の具体的な成果を上げてほしい。
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