日米防衛協力 このなし崩しは危うい

朝日新聞 2012年05月02日

日米防衛協力 このなし崩しは危うい

「日米同盟は新たな高みに達した」

野田首相はきのう、オバマ米大統領との共同記者会見でこう語った。同時に発表した日米共同声明で、アジア太平洋地域での日米の防衛協力強化をうたったのを指してのことだ。

だが、ことは日本の防衛政策の根幹にかかわる問題だ。国内で十分な議論もしないまま、首脳同士で勝手に「高み」に達してもらっては困る。

今回の防衛協力強化には、米国の軍事費の実質的な肩代わりという懸念以上の問題点がある。私たちは専守防衛の自衛隊の定義から逸脱しかねない事態を招くことを危惧する。

防衛協力の事例は、首脳会談の前にまとめた米軍再編見直しの中間報告に盛られている。

まず、グアムや北マリアナ諸島で日米がそれぞれ費用を出しあって訓練場をつくり、共同訓練をする。

次に、日本の途上国援助(ODA)を使ってフィリピンなどに巡視船を供与する。巡視船は武器扱いされるが、平和貢献・国際協力目的で武器輸出三原則の例外とする。昨年の三原則緩和で、事務的手続きのみで輸出できるようになった。

一昨年の新しい防衛計画の大綱で打ち出した「動的防衛力」への転換と、南西諸島の防衛力強化の流れに沿う。ふだんの活動量を増やすことで抑止効果を高めるという動的防衛力が、いよいよ具体化に向かう。

アジア太平洋地域での米国との共同訓練や、周辺国への巡視船の供与には、この海域で活動を活発化させる中国海軍に、にらみをきかせる狙いがある。

こうした日米協力は、米国の対中戦略には合致するだろう。だが、日本にはどうか。

日本がグアム近海で抑止効果を狙った訓練をすることで、どんな利点があるのか。抑止力ではなく、むしろ混乱要因にならないか。そもそも、この訓練をどう生かすつもりなのか。

巡視船の供与は、軍事目的を避けるというODA大綱の理念に背かないか。06年にインドネシアに提供した際には、マラッカ海峡の海賊対策という名目があったが、今回は何のためか。

こうした疑問に対し、野田首相や外務、防衛両相らに、国会での明確な説明を求める。

野田政権は、沖縄の米軍普天間飛行場の移設をめぐって混乱した日米関係の修復を急ぐあまり、防衛協力に前のめりになりすぎている。

日本の防衛にはどんな政策が最適か。それを示さなければ、国民の理解は得られない。

毎日新聞 2012年05月02日

日米同盟 元のもくあみにするな

09年の麻生太郎首相以来ほぼ3年ぶり、民主党政権では3人目の野田佳彦首相でやっと実現した公式訪米である。日米首脳の対話が正常な軌道に戻ったこと自体は喜ばしいが、今回の訪米は、これまでのマイナスをゼロに戻したにすぎない。

今回の共同声明では日米同盟がアジア太平洋の礎であることを再確認し、中国の海洋進出をにらんだ「動的防衛協力」の推進をうたった。その一方、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉参加については結論を先送りするなど、個別の懸案では十分な進展があったとは言いがたい。日米関係をマイナスからゼロに戻すだけでなく、さらにプラスに転じさせる外交努力が必要だ。

首脳会談に先立ち、両政府は米軍再編見直しに関する共同文書を発表した。米軍普天間飛行場の沖縄県名護市辺野古への移設について「唯一の有効な解決策」という当初の表現の前に「これまでに特定された」と付け加えた。辺野古案以外の検討に含みを残したとの見方もある。

辺野古案は現実的でないと主張する米議会の反発を受けた措置だ。国防予算の権限を持つ議会の意向を無視できないことを明らかにした今回の経緯は、同案の実現が一層、難しくなったことを意味している。

「県外移設」を求める沖縄県の硬い姿勢を考えれば、辺野古移設が実現困難な情勢に変わりない。こうした事情を無視して辺野古案に固執する両政府の主張は普天間の固定化という最悪の事態を招くものだ。

読売新聞 2012年05月02日

日米首脳会談 同盟深化へ戦略的行動重ねよ

◆対中国・北朝鮮で緊密な連携を

民主党政権の下で混乱・停滞していた日米関係が、ようやく改善の軌道に乗ったと言えよう。

野田首相がワシントンでオバマ米大統領と会談し、日米共同声明「未来に向けた共通のビジョン」を発表した。

日米両首脳による共同文書は、2006年6月に小泉首相とブッシュ大統領が「世界の中の日米同盟」を打ち出して以来だ。

09年の政権交代後、鳩山元首相が米軍普天間飛行場の移設問題を迷走させ、日米関係を危機的状況に陥れた。菅前首相の時期も足踏みが続いた。両氏の罪は深い。

◆6年ぶりの共同文書

その逆境の下で野田首相が日米同盟の再建に地道に取り組み、成果を上げたことを評価したい。

声明は、日米同盟を「アジア太平洋地域における平和、安全保障、安定の礎」と位置づけた。日米両国が「アジアと世界の平和、繁栄、安全保障」に向けて「あらゆる能力を駆使」し、その「役割と責任を果たす」と宣言している。

日米共通の中長期的な政策目標を掲げ、国際社会に発信したものと受け止められる。

日本は、日米同盟を基軸としつつ、中韓などアジア各国との関係を強化するのが基本方針だ。オバマ政権も、軍事、経済両面で「アジア重視」を鮮明にしている。日米の足並みはそろっている。

今後は、合意内容を具体化するため、日米両国が、あらゆるレベルで緊密に連携し、戦略的な行動を起こすことが肝心である。

首相が日米同盟を「美しい花を咲かせるには日々の土作りや水やりが欠かせない」とガーデニングに例えたように、同盟関係の維持には、具体的行動を通じた双方の不断の努力が求められる。

◆防衛協力強化が急務だ

声明は、東アジア首脳会議(EAS)やアジア太平洋経済協力会議(APEC)を通じた国際的なルール作りの重要性を強調したうえ、「地域の全てのパートナー」に積極的な貢献を促した。

名指しを避けながらも、軍事、経済両面で台頭する中国を最も念頭に置いているのは明らかだ。

北朝鮮の核・ミサイル、拉致問題への対応だけでなく、海洋・宇宙・サイバーの安全保障、自由貿易などの分野で国際ルールを順守し、建設的な役割を果たす方向に中国を誘導することが肝要だ。

そのためには、日米両国が協調しつつ、中国に粘り強く働きかけねばならない。日米中の戦略対話構想の実現も目指したい。

会談では、北朝鮮の更なる挑発行為を防ぐ重要性を確認した。

北朝鮮の核実験を阻止するには国際社会が結束し、強いメッセージを発することが大切だ。日米韓は、中露両国に融和的な姿勢を改めるよう求める必要がある。

米軍再編見直しでは、在沖縄海兵隊の海外移転の日米合意を着実に実施することで一致した。

自衛隊と米軍の協力を強化するとともに、沖縄の米軍施設の早期返還を具体化せねばならない。米軍基地負担を軽減する中で、沖縄との信頼関係を再構築し、普天間問題の打開につなげたい。

環太平洋経済連携協定(TPP)について野田首相は、日本の正式な参加表明を見送り、参加の前提となる日米協議の継続を確認するにとどまった。オバマ大統領は、自動車、保険、牛肉の3分野における日本の市場開放への関心を表明した。

今回は、昨年11月の「交渉参加に向けて関係国と協議する」という段階から、一歩踏み込むことが本来は期待されていた。だが、TPP参加反対派を抱える民主党内の調整が進まなかった。

野田政権が消費税率引き上げ法案の成立を優先し、TPPに手が回らなかったという事情は理解できる。だが、既に交渉中の9か国がいつまでも日本の参加を待ってくれるわけではない。

◆TPP参加を決断せよ

TPP交渉は今秋にも合意する可能性がある。TPPのルール作りに自らの主張を反映させ、有利な内容とするため、日本は早期に交渉参加を決断すべきだ。

エネルギー分野では、原子力発電の安全に関する日米協力を拡充することで一致した。

原油価格が高騰する中、代替エネルギーの開発を加速するとともに、東京電力福島第一原発の事故の教訓を踏まえて、原発の安全性を向上させることは、日米共通の利益である。

特に日本は、原発の輸出を成長戦略の柱に位置づけている。12月には福島県で原子力安全の国際会議を開催する予定だ。日米協力の具体的な成果を上げてほしい。

産経新聞 2012年05月02日

日米首脳会談 対中抑止の実が問われる

訪米した野田佳彦首相はオバマ大統領との首脳会談で日米同盟を「アジア太平洋の平和と安全、安定に必要不可欠」と位置づけ、「あらゆる能力を駆使して役割と責任を果たす」とする首脳共同声明を発表した。

声明は中国の急速な台頭を念頭に、在日米軍再編や共同対処能力の強化などを軸とし、日米が主体となってアジア太平洋で中国を抑止する決意を示したといえる。

民主党政権下で繰り返された同盟関係の迷走を正し、あるべき方向へ引き戻す再出発点として、訪米を評価したい。ただ、今後は何よりも課題をいかに迅速に履行するかが問われる。首相には果断な指導力と具体的行動で同盟強化の実を挙げてもらいたい。

共同声明の特徴は「日本は動的防衛力を構築し、米国はアジア太平洋重視戦略を進める」と新たな防衛・安保協力強化を柱としたことだ。外務・防衛閣僚級の日米安全保障協議委員会(2プラス2)による先の米軍再編見直し報告の履行も付属文書に明記された。

海洋、宇宙、サイバー空間の3分野で「規範に基づく利用」を強調するなど、名指しは避けたが中国によるルール無視の対外行動を「新たな安全保障上の脅威」と明示したのは当然だ。

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