「疲れていた」「居眠りしていた」。関越自動車道で46人が死傷する事故を起こした高速ツアーバスの運転手が、警察にそう話しているという。
原因の究明は捜査を待たねばならない。けれど、今すぐ始めるべきことがある。
高速バスの安全基準をもっと厳しいものに見直すことだ。
国土交通省の今の基準では、ツアーバスなどの貸し切りバスは1日に9時間、670キロを1人の運転手に運転させていい。東京―岡山にあたる距離だ。しかも、休憩なしで連続4時間走らせていい。いくらプロでも、これは過酷だ。
総務省の調査によると、運転手の9割が、運転中に居眠りや睡魔を経験している。そして、長距離運転や夜間運行、休み不足を原因にあげている。
また、運転手の勤務時間は、働く人の平均より3割も長い。
いまの基準は甘すぎる。調査結果は、そう物語っている。
長距離の夜行バスに交代要員の運転手を必ず乗せる。もっとこまめに休憩させる。夜間は昼より基準を厳しくする。
少なくとも、この3点の改善は必要だ。
国交省は総務省から2年前に改善を求められたが、「基準を守らない業者への対応が先」と動きが鈍かった。
もう、放置は許されない。
バスやタクシーは10年ほど前に規制緩和が行われた。新規参入を促し、競争でサービスを高め、価格を下げる。それが改革の狙いだった。
確かに便利にはなった。
ただ、競争のしわ寄せで運転手が過重な労働を強いられ、安全に影響するのではないか。初めからそう心配されていた。
それを象徴するのが高速ツアーバスだ。安さ、便利さで急成長する一方で、事故や法令違反の多さが指摘されてきた。
ツアーバスは旅行会社が乗客を募り、バス会社に運行をゆだねる形で運営されている。旅行会社はバス会社に無理を言い、バス会社は運転手に無理を言う悪循環に陥りやすい。国交省が旅行会社の責任を重くする方針を示したのは、うなずける。
新規参入しやすいようにハードルを下げる代わりに、開業後は安全の質を厳しく定期的に点検する。本来、それが規制緩和の発想である。規制を緩めればこそ、安全面のチェックは厳しくすべきなのだ。
運輸業界は全体に過労死が多い。運転手に無理を強いれば、被害は利用者に及ぶ。タクシーやトラックも含めて、総点検しよう。
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